== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
セイバーは、考えていた。
自分の人生に、ここまで踏み込んでくれた者はいただろうかと。
時代が違う?
そうかもしれない……。
価値観が違う?
そうかもしれない……。
身分がないから?
そうかもしれない……そんな事はないだろう。
ここの連中は、そんなものがなくても、きっと、平気で踏み込んで来るに違いない。
先ほどは、少女の生き方と言ったが、それは間違いだと気付かされる。
もっと、純粋な何か……そう、友と呼ぶのがしっくりくる。
これも自分の望んだ一つに違いない。
(世界も、味な事をする。)
この時、シロウとセイバーに世界に対する認識のズレが発生する。
セイバーは、シロウ達と引き合わせた世界に感謝し、シロウは、セイバーを騙した世界に不快感を感じていたためである。
第61話 幕間Ⅰ③
夕飯時。
シロウとアーチャーが揃って姿を現す。
あまり見られない異様な組み合わせである。
視線は、男二人組に集まる。
「妙な組み合わせね。」
「寧ろ、男と女に別れているのだから、
はっきりしてないか?」
「いや、あんた達って相容れないイメージがあるから。」
「否定はしない。
しかし、小僧と二人組を想像するとぴったり合うのは、
極僅かだと思うが?」
凛は、一同を見回しセイバーとイリヤを見て止まった後、『そうね。』と付け加えた。
「なんか馬鹿にされた気がするわ。」
「同感です、イリヤスフィール。」
アーチャーは、当然のように台所に向かい夕飯の準備を始める。
(アーチャーも意外と好き勝手する性格だよな。)
シロウは、溜息を吐きながら席に着く。
「夕飯出来るまで、少し話していいか?」
「おふざけ意外ならね。」
凛が、釘を刺す。
「今後の方針についてだ。」
士郎の言葉で、皆が、真剣さを取り戻す。
「まず、俺達のほとんどが目的達成に至って、
今後、どうしようかと考えていると思う。
一概に言えるのは、無事に聖杯戦争を乗り切る事。
その先に続く結果を残す事こそ、本当の勝利だろう。」
(本当に真面目な話のようですね。)
「残る敵は、三人。
ランサー、キャスター、アサシンだ。
うち、情報があるのはランサーだけだ。
敵を知る上でも、ランサー以外の情報を知っている人は、
情報を提供して欲しい。」
ライダーが手をあげる。
「キャスターとアサシンについては少し情報があります。
慎二と調べました。」
「へ~、アイツも真面目に調査してたんだ。」
「慎二は、家で、あぐらをかいていたので
調査したのは、ほぼ私ですが。」
「前言撤回。」
「士郎以外に思わぬ伏兵が居ましたね。」
「それで、分かった事は?」
「拠点と真名です。
アサシンについては、真名まで把握出来ませんでした。」
「それだけでも、上出来じゃない。」
「拠点は、柳洞寺。
キャスターは、そこに結界を張っています。
そして、結界を張っていない唯一の山門にアサシンを配置しています。」
「待って、それってキャスターがアサシンを呼び出したって事?」
「はい。」
「その可能性を忘れていたわ。」
「柳洞寺に魔術師が居るのか?」
「そんなはずないんだけど……。」
「凛、ちゃんと冬木を管理してるの?」
「やってるわよ!
でも、思い当たらないわ。
柳洞寺に居るって事は、
今回のためにやって来た魔術師って訳じゃなさそうだし……。」
「リン。
マスターは、魔術師ではないのかもしれません。」
「どういう事?」
「気になりませんか?
一向に収まらないガス漏れ事故。」
「まさか……。」
「そう考えるのが無難でしょうね。
キャスターは、魔力供給出来ないマスターの代わりに
人を襲って現界している。」
「なるほど。
キャスターもセイバーと同じように勝手に召還された口か。」
「違うと思います。」
「じゃあ、どうやって出て来たんだ?」
「士郎、キャスターの行いと真名が、これで結びつくのです。
裏切りの魔女メディア……彼女は、自らのマスターを殺して、
柳洞寺のマスターと再契約しました。」
(まずいな……危険人物だ。
話し合いなんて出来るのか?)
「なんで、裏切りの魔女なんだ?」
「あなたは、メディアを知らないのですか?」
「士郎は、そういう人よ。
ヘラクレスすら、知らないんだから。」
「困りものですね。」
「いいや、ネットで調べる。」
士郎は、携帯のネットに繋ぎコルキスの王女の逸話を確認する。
(騙されただけで悪い奴じゃなさそうだ。
気になるのは、洗脳によって行為がエスカレートしたのか、
元々の性格が直情径行なのかって事だ。)
「感想は?」
「ちょっと、同情するかな?
自分の意思のない人生って、ぞっとするからな。」
「そちらに目が行きますか。
彼女の非道な行いには、何も感じないのですか?」
「やり過ぎぐらいかな?」
「…………。」
「変か?」
「肉親を殺しているのですよ?」
「そうか……。
お前らは、毒されているな。」
「「「「「は?」」」」」
「仕方ない。
俺が、少し捻った見方の話をしてやろう。」
※ここから、士郎の過大解釈と捏造が反映されます。
「まだ、幼い王女メディアは、神々の計略に嵌り、
好きでもない男のために精神誠意つくさなければならなかった。
男は、茶髪にロン毛。
脂性で体臭のきつい怠け者で、
世間からは、男に仕えるならイボ蛙と結婚した方が百倍いいと言われるほどだった。
しかし、メディアは、男に尽くした。
気に入らない事があったからと蹴られようと殴られようと男に尽くし続けた。
彼女は、それが偽りの愛だとも知らずに……。
やがて、ニートの男は盗みを働き、メディアの弟を人質に彼女と船で逃げ出す。
しかし、追っ手の船が、ニートの男に近づくとニートの男はメディアに命令する。
弟をバラバラに切り刻めと……。
弟に触れるメディアの手が震える。
最愛の弟を、どうして殺せるだろうかと。
ニートの男は、メディアを蹴り飛ばした。
自分では、人を殺す覚悟もなければ勇気もないくせに……。
メディアは、泣きながら耐えるしかなかった。
神々の呪いと弟への愛で身動きが取れず、震える手にナイフを持ったまま泣くしか出来なかった。
そんな姉を不憫に思ったのは、弟だった。
弟も姉を愛していたのだ。
弟が進んで前に出る。
『姉さん、もういいんだ。』
弟は、姉の手を優しく包み、自らにナイフを突き立てる。
姉の中の呪いが膨れ上がり、メディアの意識を奪っていく。
感情とは、裏腹に動き続ける手。
手は、弟をバラバラにして投げ捨てるまで動き続けた。
その様子を見てニートの男は、滑稽だと笑い続ける。
メディアの呪いが、一瞬だけ解ける。
メディアの目には、赤く染まった手ともう姿を見る事の出来ない弟の居た空間だけが残る。
誰を恨めばいい?
何を哀れに思えばいい?
回答のない自問自答と後悔の念だけが彼女を押し潰した。
そして、自分を乗せて走り去る船からは、弟の亡骸を拾おうとする父が見える。
『もう、帰れない……。』
メディアが故郷に別れを告げる……。
それが、最後の光景だった。
数年後、メディアは二児の母になっていた。
母親と呼ぶには、若過ぎる外見。
呪いにより、好きでもない男に偽りの愛を感じ、あまつさえ体まで許した。
そんな中で得た子供達は、掛け替えのない宝だった。
偽りの愛の中にある本物の母と子の愛。
未熟な母親と認識しながら、メディアは、一心に愛を注ぎ続けた。
子供達もそんな母親に信頼を寄せ、この数年は、本当に幸せだった。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
ニートの男が、今度は、結婚詐欺を働いたのだ。
ニートの男は言う。
俺と別れろと。
そして、お前も同意しろと。
神々の呪いは、歪んだ愛でメディアを蝕んでいく。
愛した男を奪われるな。
その男こそお前の全てだと。
メディアの心が、また、壊れていく。
愛は、嫉妬に変わり、やがて、男への憎しみに変わる。
長年、犯され続けたメディアの心は、ボロボロだった。
ようやく手に入れた幸せは、また、悪戯に砕かれる。
数日後に開かれた結婚の席で、ニートの男の結婚相手と
ニートの男の関係者全てをメディアは、魔術により灰に変える。
そして、無様に這いつくばったニートの男の前で最後の関係者である子供達を殺害する。
狂った愛は、男から全てを奪った事で完成した。
ニートの男は逃げ出し、港に向かい走り出す。
その港で落ちて来たマストの下敷きになり、ニートの男は死んだ。
そして、ニートの男の死により、呪いが解ける。
メディアの目には、涙が浮かんだ。
正気に戻った彼女は、泣くしか出来なかった。
再び手に掛けてしまった肉親。
愛してなどいなかったニートの男への愛。
ただ、打ちひしがれる。
手に残るのは、愛した人達を殺した感触だけ。
ただの一度も愛せず、ただの一度も愛して貰えなかった。
メディアは、泣き続けた。
そして、泣き続け涙も枯れると、ふらりと立ち上がり、どこかへと消えて行った。
・
・
どうだ? 悪い奴ではないだろ?」
居間の空気は、ズーンと重いものになる。
「シロウ……。
正直、今の話を聞いて、
とてつもなくキャスターと戦いづらくなったのですが。」
「私もです。」
「あんた、戦う前に味方の士気を落として、どうするのよ!?」
「こんなはずでは……。」
「まったく!」
イリヤが付け加える。
「これでキャスターが相手のマスターと恋仲になってたら、
セイバーとライダーは、使いものにならないわね。」
「はは……。
まさか? この程度のヨタ話で。」
「…………。」
セイバーとライダーは、イリヤの言葉からメディアのIFを想像して視線を斜め下に背けた。
「目を逸らすな。」
「シロウが、悪いのですよ!」
「そうです!」
「心配しなくても大丈夫よ。
メディアなら高貴な魔術師でしょ?
魔術師でもないマスターなんかに恋なんてしないわよ。」
「それもそうですね。」
セイバーが、胸を撫でおろす。
「まあ、話が逸れたが、キャスターについては分かった。」
「話を逸らしたのは、あんただし、
一体キャスターの何が分かったのよ!」
「どことなくいい奴っぽい。」
「全然、分かってないじゃない!
戦力は!? 結界の種類は!?」
「さあ?」
凛のグーが、士郎に炸裂する。
溜息混じりにイリヤが、凛にフォローを入れる。
「凛、相手がメディアなら、神代の魔術師になるわ。
だけど、こっちにはセイバーが居る。
対魔力の強いセイバーなら問題ないはずよ。」
「そうだったわね。」
凛が落ち着きを取り戻す横で、桜は思う。
(やっぱり、衛宮先輩が居ると纏まりません。
途中までは、いい話なんですけど……。)
そして、凛が主導権を奪う。
「ライダー、結界の種類は分かる?」
「サーヴァントの能力を下げるものです。」
「と、いう事は、マスターである私達には無効なのね。」
「はい。」
「凛、山門に結界がないのは、なぜかしら?
結界なんて普通の人間には分からないんだし、
一部だけ開いて置くなんて変よ。」
「そうね。
柳洞寺を拠点にするのも分からないし。」
「それには、理由があります。
あそこは、落ちた霊脈なのです。」
「何で、セイバーがそんな事を知って……。
待って。
霊脈なら、その流れに乗せて人々から奪った生気を……。」
「ええ、運べるわ。
だから、山門に結界がない。」
全て繋がると一様にキャスターの策を感心する。
「流石と誉めるべきかしら?
どちらにしても、山門からの突入しかないわね。
・
・
それで?
戦力を分析してから、どうするつもりだったのよ?」
「あらためて、今後の話だ。」
「じゃあ、続けなさい。
本当におふざけなしよ!」
「さっきも、ふざけたつもりはないんだけど。」
「いいから続けなさい!」
「え~とだな。」
(なんか締まらないな。)
「冬木から聖杯戦争を取り除こうと思う。」
「は!?
おふざけはなしだって言ったわよね!?」
「こっちは、大マジで話してる。
簡単に言えば根源への道が開けば、
もう、冬木で聖杯戦争をする必要はないんだろ?」
「そ、それは、そうだけど。」
「考えてもみろよ。
四十年に一度とはいえ、毎回、遠坂が大暴れするんだぞ?」
凛のグーが、士郎に炸裂する。
「わたしは、大怪獣か災害か!」
「ヒューマノイドタイフーンそのものじゃないか……赤いし。」
「訳の分からない例えを出すんじゃないわよ!」
「まあ、兎に角、宝具ぶっ放すには、人が増え過ぎてんだ。
で、二百年前に御三家が力を合わせたように
現代の御三家で根源への道を開いてしまおうって訳だ。」
「そんな簡単にはいかないわよ。」
「当然だ。
だが、昔と今で違う事がある。
解き明かさた古文書と魔術の進歩、そして、サーヴァントだ。」
「前者の2つは、分かるわ。
最後のサーヴァントって、何よ?」
「順を追って説明する。
まず、古文書。
俺は、マキリとアインツベルンの古文書を解読して、
詳細をイリヤに確認して貰っている。
その結果、魔力さえ貯めれば、道は開きそうなんだ。」
「あの古文書って、そういう類のものだったの?」
「しかし、古文書通りだとエネルギーが莫大過ぎて見積もり六百年らしい。
そこで、古文書が作られてから現代までに作られた魔術を利用して使用する魔力の削減を行う。
そのためには、遠坂達の協力がいる。」
「なるほどね。」
「桜を助けたとはいえ、当然、根源への道には興味あるんだろ?」
「それは……ある。」
「だが、根源を分け合うのは難しい。
だからこそ、聖杯戦争で勝者の独り占めになっている。
よって、根源への道が開いたらバイパスを作る。
俺は、これを遠坂やイリヤの祖先への課題としてしまおうと考えた。」
「何で、余所様の先祖の課題をあんたが決めるのよ……。」
「イリヤにもツッコまれた。」
「当然よ。
イリヤは、納得したわけ?」
「イリヤは、俺に絶対服従だ。」
「外道……。」
「で、どうする?」
「どうするって……。
少し考えさせて。」
凛は、試行錯誤を頭の中で繰り返す。
確かに士郎の言っている事は、筋が通っている。
この二百年で冬木の土地は人が増え、戦いに向いているとは言えないものになっている。
魔術の秘匿を尊重するなら、聖杯戦争などするべきではない。
実際、サーヴァントが人を襲う行為や結界発動による大量の被害者を出した事実に、冬木の管理人として黙っている訳にはいかない。
そして、何よりも魔術師の最終目標に届くかもしれないという甘い誘惑を断る理由があるだろうか?
(ないわね。)
「その話に乗るわ。」
凛の承諾に士郎は、予想通りと邪悪な笑みを浮かべる。
「じゃあ、最後のサーヴァントについてだ。
サーヴァントは、皆、桁違いの神聖さや知識を持っている。
そして、聖杯戦争の創造主達が出来なかったのが、サーヴァントとの接触だ。
しかし、現在、ここにはサーヴァントが現界している。
彼らの知識を借りて新たな理論を構築する。」
「あんた……凄い事考えるわね。」
「話を聞いているとセイバー達の時代の方が、
魔術に関する知識が豊富な気がしてな。
宝具なんかも沢山あったようだし。」
「確かに今の魔術の知識と過去の……特に神代の知識を
掛け合わせるのは、面白い発想だわ。」
「だから、キャスターの捕獲が次の方針の最重要課題になる。」
士郎の話が一区切りつくと肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出し、各々緊張を解く。
「あの……衛宮先輩って、
本当に魔術の知識ないんですか?」
「最近になって……といっても、
ここ3、4日で得た知識で予想を話してるだけだな。」
「そうなんですか。」
桜は、素直に驚いている。
ここでアーチャーが、おかずを並べ始める。
「話も一区切りついたようだ。
そろそろお腹を満たしては、どうかね?」
一同は、お腹の減り具合を思い出す。
「もう、そんな時間なのね。
いただきましょう。
アーチャー、手伝うわ。
運べばいいのかしら?」
「わたしも手伝います。」
「では、お願いしよう。」
衛宮邸の食卓に次々と料理が並ぶ。
まるで高級料理店のフルコースの様に。
夕食は、誰もが文句のつける事の出来ない味だった。
だからこそ、皆の頭にはアーチャーという英霊が、一体、何を成して英雄となったかという素朴な疑問が過ぎるのであった。
…
夕食の片付けと食器洗いを男二人、並んで行う。
「世界との契約は、話さんのか?」
「多分だが……俺の言った事は、
キャスターを取り込まないと実現しない。」
「ほう、根拠は?」
「一回で使える魔力量が気になってる。
宝具に使用される魔力量は、桁外れに強大だ。
そして、マスターが、サーヴァントに太刀打ち出来ない理由の一つがこれだ。
仮にマスターが、同じ量の魔力を制御出来れば、
強力な魔術を使えるんじゃないか?
でも、使わない……何故か?
使わないじゃなく使えないからだ。
元々の魔力量やそれに耐えうる媒体……宝具を持っていない事なんかが理由だ。」
「ふむ。」
「で、根源への道を繋ぐ時、聖杯という媒体を使わないで魔術を制御するなら、
人間以上の存在……つまり、キャスターが必要なんだ。」
「なるほどな。
・
・
いつ、聖杯が媒体と気付いた?」
「イリヤの古文書を解いた時、
起動装置みたいなものが記されていた。」
「大したものだ。」
「全部受け売りの知識なんだけどな。
RPGをやり込むと割りかしら思い浮かぶぞ。」
「そうだろうか?」
「例えばさ。
水属性と雷属性の相性が悪いのは、
魔術も同じなんじゃないか?」
「ああ。」
「それと同じでゲームの属性なんかも同じなんだよ。
だから、RPGをやり込むと自然と似通ったところには目が行くし、
応用を思い付くんだよ。」
「納得はいった。
・
・
しかし、貴様の発想は、全部自分の都合から得た知識だな。」
「そんなもんだろ? 誰だって。」
「義務教育から学んだ知識を応用したりすると思うのだが。」
洗いものが終わり、手を拭く。
「さて、キャスター捕獲の話し合いだ。」
士郎達が、気合いを入れて振り返ると電子音が聞こえる。
「今度は、ファミコンか……。」
テレビ画面では、マリオが軽快に走る。
しかし、直ぐに失敗した時のお馴染みの音が聞こえる。
「シロウ、いいところに。
ここが、どうしてもクリア出来ないのです。」
(俺は、キャスターの話をしたいんだが……。
なんで、コイツら聖杯戦争とかけ離れた事してんだ?)
「シロウ、あと1機しかないのです!」
(必死だな……セイバー。)
「俺は、このゲーム得意じゃないんだ。」
「持ち主の貴方が得意でない訳がない。」
「結論付けるな。」
(確かに嘘だが。
あと1機か……。
ゲームオーバーになれば、キャスターの話出来るかな?)
士郎は、コントローラーを受け取るとマリオをジャンプさせ、踏む直前でクリボーにブッチュクラッシュさせる。
画面には、ゲームオーバーの英字が浮かぶ。
(これでキャスターの話が出来るな。)
士郎の容赦ない行いにセイバーが声をあげる。
「シロウ。
貴方には、がっかりです。」
「まったくです。」
(なぜ、ライダーまで?)
「リンやサクラ、そして、イリヤスフィールが下手なのは許しましょう。
しかし、ライダーと私の努力の結晶を打ち砕いたのは許せません。」
(お前が、やらせたんだろうが……。
聖杯戦争は、どうなった?)
「士郎、私もセイバーに同意見です。」
(そして、ライダー……お前まで、なぜ、ハマっている?)
「セイバー、話したい事があるんだけど。」
「そのようなものは、後にして頂きたい。」
(最重要課題だと思うのだが。)
「じゃあ、どうしろと?」
「勝負をしましょう。」
「は?」
「前回は、不覚にも敗れましたが、それは情報不足だったためです。
しかし、今回は、シロウの実力は分かりました。
叩きのめせます。」
「セイバー……汚くないか。」
「そして……。
敗者には、当然、罰を受けて貰います。」
「やりたくないんだけど……。」
「貴方に選択の余地はありません。」
「なんでさ?」
「しかし、私も鬼ではありません。」
(十分な悪鬼です。あなたは。)
「チーム戦にしてあげましょう。
せいぜい、ライダーを引き当てるように努力する事です。」
(運を努力でなんとかしろと……。
そんな事が出来るなら、俺は、毎回、宝くじで一等当選だ。)
「では、グーとパーで別れましょう。」
「どこで覚えた?」
士郎とセイバーが右へ、凛、桜、イリヤ、ライダーが左へ移動する。
アーチャーは、被害回避のため審判を買って出た。
結果は、セイバー、凛、ライダーのチームと士郎、イリヤ、桜のチームになった。
セイバーのチームは余裕があり、士郎のチームは沈んでいる。
「止めないか?」
「止めません。」
「仕方ない……ルールは?」
「2プレイで1機ずつ交代し、
進んだ面により、勝敗を決します。」
「分かった。」
「こちらは、一番手に凛を出します。」
凛は、嫌そうな顔をしてコントローラーを握るとマリオを進める。
そして、クリボーが近づいた瞬間にマリオは加速し、クリボーに突っ込む。
「有り得ないぐらい下手だ……。」
「仕方ないでしょ!
何処押せば、跳ねるか分からないんだから!」
「ボタン二つしかないじゃん。」
「まあ、計算通りです。」
セイバーは、余裕を持って答える。
「こっちは、姉妹対決という事で桜にしよう。」
今度は、桜がコントローラーを握る。
ルイージが歩く。
歩いてクリボーにぶつかった。
ゴンッと士郎は、テーブルに頭を強打する。
「この姉妹……酷い。」
続いて、ライダーがコントローラーを握る。
ライダーの操作でマリオは、軽快に走り出す。
キノコを取り、フラワーを取る。
しかし、スピードが落ちない。
常にBダッシュで駆け抜ける。
(すげぇよ…止まらない…ノンブレーキだ……。
ライダーというクラス故か?)
マリオは、軽快に走るが止まる事なく穴にダイブする。
「やはり、マリオの能力では、ここまでですか。」
(お前は、ノンストップでマリオに何をさせたいんだ。)
続いて、イリヤがコントローラーを握る。
ルイージは、クリボーを踏みつけ土管を越える。
そして、二匹並んだクリボーを踏み潰そうと、ちょうど二匹の真ん中にジャンプしてルイージは死んだ。
「ああ! また!
どうやれば、二匹一辺に殺せるのよ!」
(そうか……イリヤは、全部やっつけないと気が済まないのか……。
性格があらわれるな。)
続いて、セイバーがコントローラーを握る。
マリオは、軽やかに動き次々と面をクリアしていく。
(上手いな。
でも、律儀に一つ一つクリアしていくだけで、
先に進める土管は、見向きもしない。
セイバーらしい。
だが、これだけじゃ……。)
セイバーは、ちょっとの操作ミスで穴に落ちる。
「くっ!
焦り過ぎました! 不覚です!」
「でも、大丈夫よ!
士郎達は、まだ、スタート地点よ!」
「はい、我々は、5-3です。
先ほどの腕では、士郎には期待出来ません。」
(酷い言われようだ。)
「イリヤさん……わたし達は、何をさせられるんでしょう?」
「あの面子を見ると、体力的な事をさせられそうね。
腕立てとか腹筋とか……。」
「その程度ですか。」
「立てなくなるまでね。」
「え!?」
イリヤは、渋い顔をして汗を一筋流し、桜は、怯え始めた。
「やっていいか?」
「諦めが悪いですね。
好きなだけ、どうぞ。」
「じゃあ、好きなだけ。」
士郎は、ルイージを巧みに操り、隠しコインや1UPキノコを取りノーミスで進んで行く。
途中、土管のワープを利用して、4面にワープする。
更に4面から、8面にワープする。
「これで、お前らの罰ゲームは決まりだ。
どうする? まだ、やるか?」
「士郎!」
「衛宮先輩!」
イリヤと桜の表情が一変する。
状況が逆転する。
セイバー達が、ズーンとダークな空気を背負う。
「シロウ……謀りましたね。」
「勝負事にしたのは、セイバーのはずだが?」
「こうなる事を読んでいたのでしょう?」
「ライダー……お前まで。」
「わたしの努力が……。」
「遠坂、お前は、なんの役にも立っていないだろう。」
「さて、罰ゲームの時間よ。」
「嬉しそうだな、イリヤ。」
「ええ。」
(いい笑顔だ。)
「桜、何にしようかしら?」
「わ、わたしは別に……。」
「いい子ぶるなよ、桜。」
「そうそう。」
「で、でも……。」
「試しに言ってみ?」
「じゃ、じゃあ……腕立て10回で。」
「「却下!」」
「甘いわ!」
「ライダー戦で使った蜂蜜よりも!」
「悪乗りしてるわね。」
「ええ、手が付けられません。」
「何とか桜に罰を決めさせなくては、被害が大きくなるだけです。」
「では、どんなのがいいんでしょうか?」
「仕方ないわね。
士郎! 例題!」
「了解です! 軍曹!
例えば『鼻からスパゲティを食べる』なんて、どうでしょう?」
「さすがだわ。
士郎2等兵。」
「拙いわよ。
悪化していくわ。」
「セイバー、何とかなりませんか?」
「気を逸らしましょう。
・
・
シロウ、話があったのではないのですか?」
「そんなものは、後だ。」
「失敗しました。」
「~~~っ! 役立たず!」
「イリヤ軍曹! 私にも例題を示してください!」
「よろしい!
バーサーカーとプロレスごっこ!」
「……イリヤ、それ死んじゃう。」
「ダメ?」
「「「ダメ!」」」
「じゃあ、スパゲティ?」
「食べ物を粗末にするのは、よくないと思います。」
(偉い! 桜!)
「仕方ない。
痛くないヤツで済まそう。」
「本当ですか、シロウ?」
「また~?
士郎、甘いわよ。」
「発表します!
・
・
もしも、アーチャーが恋人だったらという設定で
アーチャーに告白してみてください!」
「何だと!?」
思わぬ被害が飛び火し、アーチャーが声を上げる。
「そうね~。
その時は、アーチャーの首に手を回すのよ。」
「「「出来るか!」」」
「どう思いますか? イリヤ姉さん?」
「がっかりです。
自分から罰ゲームを求めて……。
あれもダメ、これもダメ。
あの人達って、本当に英霊?」
「まさか、ここまで凶悪なものに変わるとは……。」
「正に悪魔の化学反応ですね。」
「どうするのよ?
まるっきり、手に負えないじゃない。」
「桜3等兵、あなたに、もう一度チャンスを与えます。
あなたの意見次第で、彼女達の命運が決まります。
生かさず殺さずの罰をどうぞ。」
セイバー達は、桜に期待の目を寄せる。
(せ、責任重大です!)
桜は、思案する。
士郎とイリヤを満足させつつ、セイバー達への被害を最小限にする。
(これ……わたしへの罰ゲームじゃないでしょうか?)
桜は、更に思案する。
「う、歌を一曲歌うというのは、どうでしょう?」
セイバー達の視線が士郎とイリヤに移る。
「いいんじゃないか?」
「そうね。」
(いやに、あっさりしてるわね。
まあ、歌ぐらいならいいけど。)
「「ただし!」」
(やはり、そう来ましたか。)
(何が付加されるのでしょうか?)
(この二人歪んでるわ。)
「振り付けも入れて貰いましょう!」
「選曲は、わたしがします!」
「どうしますか?」
「ここが最低ラインでしょう。」
「諦めるか……。」
「士郎、なんの歌がいいかな?」
「やっぱり、長い方がいいだろう?」
「でも、あの3人の中で壊滅的な音痴が居たら、
ダメージを受けるのは、わたし達よ?」
「それは、痛いな。」
「何か失礼極まりない事を言っているわね。」
「しかし、人前で演説をした事はあっても、歌った事はありません。」
「私は、演説すらした事がありません。」
「わたしだって……何だろ?
何か思い出しちゃいけない感覚があるわ。」
「そうだ!
園児が歌う童謡を『真顔で』『感情移入して』『拳をきかせて』歌うんだ。」
「最悪の発想だわ。」
「『森のくまさん』とか……ですか?」
「桜のリクエストが来たわ。」
「違います!」
「いじられてますね……。」
「認識したわ。
士郎とイリヤは、くっつけちゃいけない……。」
「でも、士郎。
童謡だと振り付け分かんないよ。
テレビ見ながらって訳にはいかないもの。」
「う~ん……そうだな。」
「教育テレビなら、流れているんじゃないですか?」
「「それだ!」」
「ついに、桜まで毒されてしまいました。」
「凛が、桜を太らせようとしたから、機嫌を害したのでは?」
「わたしのせい!?」
「振り付けは、オリジナルにして貰った方が痛さ倍増だな。」
「なんで?」
「例えば、一見クールなライダーが、
オリジナリティ溢れるくまさんを
真顔で可愛いらしく表現するのを想像してみろ。」
「…………。」
「いいわ!
セラに頼んで映像に残さないと!」
「事態が、どんどん悪化して来てる。」
「止まる事のない暴走機関車です。」
「3人一編の方がいいか?」
「一人ずつの方がいいんじゃない?」
「「「3人でやらせてください!」」」
「更に思い付いた!」
(あんたの発想力は底なしか!)
「敵を攪乱するためにキャスターの前で歌って貰おう。」
「「「出来るか!」」」
「歌ってる間に殺されるわよ!」
「いや、絶対に呆れて動きが止まるって。
その時、セイバーが振り付けして歌いながら斬り込む!」
「士郎、それじゃあ、斬り殺しちゃうよ?」
「どちらにしてもやりません!」
「敗者に選択肢はない!
家畜に神は居ないのだ!」
「誰か止めて……。」
「いい加減にしないか。
小僧、悪ふざけもそこまでだ。」
「そうだな。
笑い転げた後に作戦会議は出来ないからな。」
「え~! やらないの~!」
「大丈夫。
今度、商店街に行った時にやって貰うから。」
「ハードルが、また、上がった……。」
こうして作戦会議に移る事になった。
…
「さて、気を取り直して作戦会議をするか。」
しかし、ほとんどの者が気を取り直せなかった。
それでも、士郎は気にしない。
「まず、キャスターの居る柳洞寺だが、全員で出向こうと思う。」
(((((何で、平然と進められるんだろう?)))))
「理由は、ランサーを警戒するためだ。
あの槍の力をマスターに使われたら防げないと思う。
だが、槍を使われる前に戦闘行為に持っていければ、
宝具の発動は出来ないだろう。」
「そうなるとライダーにランサーの相手をして貰うのがいいわ。
クラスのスピードと遠距離でも速攻で影響を及ぼす魔眼は打ってつけだわ。」
「じゃあ、ライダーは、マスターを守る突撃兵だな。」
ライダーが頷く。
「次に山門でのアサシンだが……。
イリヤ、バーサーカーで頼めるか?」
「キャスターを相手にしなくていいの?」
「バーサーカーと戦って分かった事がある。
バーサーカーは、手加減するのに向いてない。
狂化して強くしているのに手加減しろの命令は、
バーサーカー自体が混乱していた。
理性が抑制されているから加減の調整も難しい。
だが、アサシン相手なら遠慮はいらない。
マスター暗殺の危険を回避するためにも全力で頼む。」
「分かったわ。」
(こういう時の士郎って、カッコイイな。)
「さて。
残り二人は、大体分かってるかな?」
「はい。
私が、キャスターの魔術をキャンセルし追い詰めます。」
「そして、私が捕らえるのだな。」
士郎は頷く。
「問題は、捕らえ方なんだが任せていいのか?」
「そうだな。
マスターを人質に出来ればいいが、前のマスターを殺すほどの相手だ。
いざとなればマスターを見捨てて逃げる可能性も高い。
矢により縫い付けるしかあるまい。」
「しかし、協力を得るのに傷つけるのは、どうでしょうか?」
凛が、士郎の肩を叩く。
「あんたの役目よ。説得しなさい。」
「凛……。
それは、リスクが大きいのでは?」
「いきなり賭けに出る事もあるまい。」
「そうですよ、姉さん。」
「みんな、酷いわね……。」
「…………。」
「大丈夫よ。
わたし達さえ覚悟してれば。」
「遠坂……俺の味方は、お前だけだ。」
「そう。
覚悟して脱力に耐えさえすればいいのよ。」
「「「「「ああ……。」」」」」
「もう、誰も信じられん。」
「では、私は、キャスターの魔術のキャンセルのみに専念します。」
「私は、逃走しないように威嚇しよう。」
「いい?
間違っても士郎の説得で脱力して油断しちやダメよ。」
士郎以外の全員の心が一つになる。
(好きにすればいいさ。)
決戦は、明日。