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No.7779の一覧
[0] 【ネタ完結】Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~[熊雑草](2009/05/16 02:23)
[1] 第1話 月光の下の出会い①[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[2] 第2話 月光の下の出会い②[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[3] 第3話 月光の下の出会い③[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[4] 第4話 月光の下の出会い④[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[5] 第5話 土下座祭り①[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[6] 第6話 土下座祭り②[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[7] 第7話 赤い主従との遭遇①[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[8] 第8話 赤い主従との遭遇②[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[9] 第9話 赤い主従との遭遇③[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[10] 第10話 後藤君の昼休みの物語[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[11] 第11話 赤い主従との会話①[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[12] 第12話 赤い主従との会話②[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[13] 第13話 素人の聖杯戦争考察[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[14] 第14話 後藤君の放課後の物語①[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[15] 第15話 後藤君の放課後の物語②[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[16] 第16話 後藤君の放課後の物語③[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[17] 第17話 天地神明の理[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[18] 第18話 サーヴァントとアルバイト①[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[19] 第19話 サーヴァントとアルバイト②[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[20] 第20話 サーヴァントとアルバイト③[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[21] 第21話 帰宅後の閑談①[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[22] 第22話 帰宅後の閑談②[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[23] 第23話 帰宅後の閑談③[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[24] 第24話 帰宅後の閑談④[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[25] 第25話 深夜の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[26] 第26話 深夜の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[27] 第27話 アインツベルンとの協定①[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[28] 第28話 アインツベルンとの協定②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[29] 第29話 アインツベルンとの協定③[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[30] 第30話 結界対策会議①[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[31] 第31話 結界対策会議②[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[32] 第32話 結界対策会議③[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[33] 第33話 結界対策会議④[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[34] 第34話 学校の戦い・前夜[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[35] 第35話 学校の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[36] 第36話 学校の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[37] 第37話 学校の戦い③[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[38] 第38話 学校の戦い④[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[39] 第39話 学校の戦い⑤[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[40] 第40話 ライダーの願い[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[41] 第41話 ライダーの戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[42] 第42話 ライダーの戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[43] 第43話 奪取、マキリの書物[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[44] 第44話 姉と妹①[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[45] 第45話 姉と妹②[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[46] 第46話 サーヴァントとの検討会議[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[47] 第47話 イリヤ誘拐[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[48] 第48話 衛宮邸の団欒①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[49] 第49話 衛宮邸の団欒②[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[50] 第50話 間桐の遺産①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[51] 第51話 間桐の遺産②[熊雑草](2010/08/27 00:31)
[52] 第52話 間桐の遺産③[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[53] 第53話 間桐の遺産~番外編①~[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[54] 第54話 間桐の遺産~番外編②~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[55] 第55話 間桐の遺産~番外編③~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[56] 第56話 間桐の遺産④[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[57] 第57話 間桐の遺産⑤[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[58] 第58話 間桐の遺産⑥[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[59] 第59話 幕間Ⅰ①[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[60] 第60話 幕間Ⅰ②[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[61] 第61話 幕間Ⅰ③[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[62] 第62話 キャスター勧誘[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[63] 第63話 新たな可能性[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[64] 第64話 女同士の内緒話[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[65] 第65話 教会という名の魔城①[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[66] 第66話 教会という名の魔城②[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[67] 第67話 教会という名の魔城③[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[68] 第68話 幕間Ⅱ①[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[69] 第69話 幕間Ⅱ②[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[70] 第70話 聖杯戦争終了[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[71] 第71話 その後①[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[72] 第72話 その後②[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[73] 第73話 その後③[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[74] 第74話 その後④[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[75] 第75話 その後⑤[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[76] 第76話 その後⑥[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[77] あとがき・懺悔・本当の気持ち[熊雑草](2009/05/16 02:22)
[78] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話[熊雑草](2010/08/27 00:42)
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[7779] 第62話 キャスター勧誘
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/27 00:36
 == Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==



 士郎は、考えていた。


 (なんか俺……。
  進んで聖杯戦争してないか?
  死にたくないんだけどな……。
  まあ、仲間が増えたから死ぬ確立は減ったけどさ。
  ・
  ・
  何、やってんのかな~。
  作戦まで立案しちゃって……。
  ・
  ・
  いや、待てよ?
  成り行きとはいえ、俺が、アイツらを仲間に引き入れてんだよな。
  そりゃあ、アイツらに作戦立案する権限はないよ。
  ・
  ・
  俺が策立てるしかないじゃん。
  もしかして……墓穴掘った?)


 士郎は、頭を抱えて、今の状況に幻滅した。



  第62話 キャスター勧誘



 夜中、体重計の前で凛の悲鳴が響く以外、静かな夜が終わり朝を迎える。
 士郎は、いつも通りの時間に目を覚まし、道場へと向かう。
 そこには、先客が静かに目を閉じ、背筋を伸ばし正座をしていた。


 「おはよう、セイバー。」

 「おはようございます、シロウ。
  待っていました。」

 「なんでさ?」

 「昨日の続きです。」

 「え?」

 「シロウの攻撃面を補います。」

 「しかし、だな。」

 「キャスターとの戦いは、今日なのですよ。」

 (ここで『俺、戦わないし』って言ったら、
  昨日みたいに気絶させられるまで、やられるんだろうな。)

 「少し考えました。」

 「ん?」

 「攻撃する時に相手を気遣うのではなく……。
  からかうつもりで攻撃するのです。」


 セイバーは、『名案でしょう』という顔をし、士郎は、がっくりと肩を落とす。


 「お前な……俺をなんだと思っているんだ?」

 「遊び人です。」

 「…………。」

 「ドラクエⅢの。」

 「…………。」

 (確かに戦闘中にふざけたりするけどさ。
  ドラクエⅢまで、やってたのか?)

 「では、そういう事ですので。」

 「待った。」

 「往生際が悪いですよ。」

 「遊び人らしくいく。」


 士郎は、天地天命の理の先にマジックと布を巻き付ける。


 「これなら、セイバーを傷つけないし。
  俺も、やる気が出る。」

 (やはり、遊び人ではないですか。)

 「まあ、いいです。
  始めましょう!」


 そして、朝食まで稽古は続けられた。


 …


 朝食時、士郎とセイバーを除く全員が席に着いていた。


 「遅いわね。
  何をやってるのよ?
  アイツ、まだ、寝てるの!?」

 「いや、小僧なら起きている筈だ。」

 「じゃあ、どっかで遊んでるわけ?」

 「昨日も、この会話をしなかったか?」


 その時、居間の障子が開く。
 セイバーに抱えられた状態で士郎が現れる。
 セイバーは、面倒臭そうに士郎を投げ捨てる。


 「まったく、根性のない。」


 屍の様に動かない士郎を目撃して、凛達の頬に一筋の汗が流れる。


 「何これ?」

 「シロウと剣の鍛錬をしていたのですが、
  途中でへばって、この有り様です。」

 「…………。」


 ライダーが、一同を代表して質問をする。


 「昨日の焼き回しですか?」

 「いいえ、違います。
  私の顔を見てください。」


 居間に爆笑が起こる。
 セイバの鼻は黒く染まり、頬に猫のような髭が書かれている。
 凛が、笑いながらセイバーに話し掛ける。


 「とっても可愛いわよ。」

 「可愛い? シロウは、一体何の落書きをしたのですか?」

 「セイバーは、見てないの?」

 「ええ、笑われるようなものではないと思って。」

 「はい、わたしのコンパクト貸してあげる。」

 「すいません。」


 セイバーは、自分の顔を確認する。


 「ライオンでしたか。」

 「違うと思うわ……。」

 「兎に角、顔を洗って来ます。」


 セイバーは、洗面所へと向かう。


 「それにしても、セイバーの顔に、
  どうして落書きがあったのかしら?」

 「士郎が気絶しているという事は、
  昨日同様に剣の稽古だと思っていたのですが。」

 「それは間違いないと思うわ。
  この腕の痣は、木刀でしょ?」

 「相変わらず、容赦がないわね。」


 イリヤは、士郎の痣を見て溜息を吐く。
 そこへセイバーが戻って来る。


 「一体、どんな稽古をしたら、
  セイバーの顔に落書きが出来るの?」

 「それですか……。
  順序立てて説明します。
  まず、アドバイスをしたのです。
  シロウが、攻撃を躊躇するので、
  『攻撃ではなく、からかうつもりで』と。」

 「気持ちを切り返させたわけ?」

 「はい。
  そうしたら、シロウは、雰囲気作りと言って、
  自分の刀の切先にマジックを付けたのです。」

 「なるほど。それで顔に。」

 「はい。
  そして、剣の稽古が悪戯に変わった途端、
  シロウの動きは、見違えるようによくなりまして。」

 「しかし、それでもセイバーから、
  一本取れるとは思えませんが?」

 「ええ、シロウは、一本取る気など、
  その時点では、もう頭にありません。
  実行したのは、玉砕覚悟の相打ちです。」

 「相打ち?」

 「普通、剣で斬られると死にますよね?」

 「当たり前じゃない。」

 「でも、木刀では痛いだけです。
  それをいい事に私が打ち込んだ後に、
  顔に落書きしていくのです。」

 「本当に稽古でも何でもなくなってるわね……。」

 「流石の私も頭に来て、
  シロウをその場に座らせて、お説教したのです。」

 「この時点では、気絶してないのね?」

 「事件は、この後に起きます。
  お説教をしている私に対して、
  シロウは、私の鼻を黒く塗り潰したのです。」

 「そして、『完成だ』と。」

 「はい。
  そう言ったのです。
  そこで私の堪忍袋の緒が切れました。
  その後は、シロウの意識がなくなるまで滅多打ちに……。」


 居間の全員は、『はぁ……』と溜息をつき脱力する。


 「やっぱり、セイバーはSだな。」

 「違います!
  ・
  ・
  ……気付かれたのですか。」

 「ああ。
  これからキャスターのところに行くのに、
  先に自分のマスター殺して、どうするんだよ?」

 「貴方がいけないのでしょう!」

 「え~。
  俺は、セイバー先生のアドバイスに従っただけなのに~。」

 「ほほう……。
  まだ、言いますか……。
  もう1回、死にたいようですね。」

 「やはり、殺す気で木刀振ってやがったな。」

 「絶妙な力加減で意識だけを奪ったまでです。」

 「その辺でやめる!
  あなた達、本当にキャスターと会う気あるの?」

 「……すいません。」

 「別に急ぎじゃないから。」


 凛とセイバーのグーが、士郎にクロスで炸裂する。
 士郎にグーが綺麗に入ったところで、朝食は開始された。


 「ところでさ。
  キャスターんところに行くのって、昼間でもいいのかな?」

 「やっぱり、いつも通り、夜がいいんじゃない?
  人目もあるし……。」

 「そこ。
  俺達はさ。
  話し合いに行くんだから、昼間の方がよくないか?
  キャスターも大手を振って攻撃出来ないだろうし。」

 「なるほど。
  こっちも手出し出来ないけど、向こうも手出し出来ない訳か。」

 「そう。」

 「あれ? そうなると……。
  昨日決めた作戦は、どうなるのよ?」

 「昼間でも、キャスターが襲って来た時のみだな。
  俺も、今、話してて思い付いた方針だから。」

 「適当ね。」

 「そうでもないぞ。
  期末試験で諦め悩んだ末に斜め向かいの奴を見たら、
  答えの埋まった答案が見えたようなものだ。」

 「カンニングじゃない!」

 「世間一般的には、そういう例えをする輩も居るらしいが、
  不幸な偶然が重なった不慮の事故だ。
  それに俺も時間がない時だけしか、斜め向かいは見ないようにしている。」

 「確信犯じゃない!」

 「ある意味、正々堂々の告白で清々しいだろ?」

 「もう、いい。」


 朝食の終わりは、溜息で締めくくられ、各々用意があるので一時間後に柳洞寺に向かう事になった。


 …


 柳洞寺の長い階段を上がって行く。
 セイバーと二人で、これが最後だと。
 これから向かう最後の試練に、額には汗が浮かぶ。


 「本当にやるのか?」

 「はい。
  シロウは、精神面を鍛える必要があるのを痛感しました。」


 そう、士郎は、文字通りセイバーを背負い柳洞寺に階段を上がる事を強要させられていた。


 「戦う前に疲れちゃうんだけど。」

 「貴方は、本日、戦う予定はありません。」


 朝の稽古で鬼軍曹となったセイバーの指揮の基、士郎は、セイバーを背負って階段を上って行く。
 それを軍隊の合宿でも見るように、残りの面々は溜息をつきながら見守る。


 (((((セイバーは、怒らせてはいけない。)))))


 これが、その場に居る全員の共通認識だった。


 …


 山門の少し前で士郎は、セイバーを下ろし息を切らしている。
 小柄とはいえ、セイバーは重い。


 (あのヤロウ……。
  甲冑着やがって。)


 士郎は、息を整え終わると背中を伸ばす。


 「シロウ、ここからです。
  山門に近づけば、アサシンが現れるはずです。」

 「準備は、出来ているか?」


 全員が無言で頷く。
 戦闘に入る事を予想し、バーサーカーも現界している。
 辺りには、平日のためか参拝客も見えない。
 山門を潜れば、寺の僧達が居るのは間違いない。
 士郎が先頭で歩き出す。
 その横にセイバーが、アサシンの攻撃に備え歩幅を合わす。
 山門を前に士郎が立ち止まる。
 山門にアサシン現界の気配はない。
 士郎が大きく息を吸う。


 「キャスター君! 遊ぼう!」


 全員が肩透かしを食らった瞬間だった。


 「何ですか! 今のは!」

 「作戦だ。」

 「ふふ……興味ある言葉ね。
  納得いかなかったら張り倒すわ。」


 凛が、バキバキと手の骨を鳴らす。


 「俺達は、戦いに来たんじゃない。
  それにここで俺が声をあげた事で、
  寺の僧は、俺達に否応なしに気付く。
  気付かれた以上、相手も俺達も聖杯戦争……。
  いや、魔術師として戦う事は出来ない。
  これは、こちらとあちらを平等にするための布石なんだ。」

 「尤もらしい事言ってるけど、本当でしょうね?」

 「本当だ。」

 「じゃあ、何なのよ? あの叫び声は?」

 「なんだって良かったんだけどさ。
  『キャスター』って言えば、外人を連想するだろ?
  僧達の中で連想が伝播するはずだ。
  しかも、ここは治安のいい日本。
  いきなり訪ねたら、『知り合いか?』って思うだけのはずだ。」

 「ムカつくわね。
  本当に作戦だったんじゃない。」

 「残念だったな。」


 士郎は、何もない空間に話し掛ける。


 「そういう訳なんで通っていいかな?
  こちらもキャスターと話し合いをするのが目的なんだ。」


 長身の侍が現界し、笑いを堪え切れないといった感じで気さくに話し掛ける。


 「珍妙な客だ。
  待つがよい。
  今、ラインを通して確認しよう。」

 「あれ?
  思ったより、すんなり通ったな。」

 「まあ、向こうからお断りされるかもしれないけど。」

 「通ってよいぞ。
  坊主の作戦勝ちのようだ。
  あの女も寺の僧の目が気になるそうだ。」

 「ありがとう。
  ずっと、ここに居るのか?」

 「ああ、キャスターに呼ばれた時から山門と供にある。
  昼間でなければ、誰かを戦いの相手として置いて行って貰いたいところだ。」

 「キャスターと話がついたら、夜来る事もあるかもな。」

 「それは楽しみだ。
  陰ながら応援しよう。」


 侍は、再び姿を消した。


 「う~ん、煌びやか?
  いや、雅とか言う言葉が似合いそうな奴だったな。」

 「しかし、達人のようですね。
  あの足運び……。
  アサシンにして置くのは勿体ない。」

 「侍である以上、魔術のコントロールとか、
  魔力量は、期待出来ないんじゃないか?
  その辺が繁栄されたんだと思う。」

 「あんた、本当に聖杯戦争の知識をつけたわね。」

 「ああ、最近、どっぷり浸かってる自分に引き気味だ。」

 「凛、いい傾向じゃない。
  わたし達の説明する手間が省けたんだから。」

 「それもそうね。」

 (間桐の本とか古文書解いてから、
  どうも、その辺の知識が、頭の片隅に居座るんだよな。
  忘れようと思っても忘れられない感じ……。
  解いた奴に、そういった呪いでも掛かるようになってたのか?)


 士郎達は、一つの被害を出す事なく山門を潜る事に成功した。


 …


 本堂へと向かう道。
 その途中で体格の大きな僧が話し掛ける。


 「士郎くん、久しぶりだ。」

 「お久しぶりです、零観さん。」

 「はっはっは、君は、元気そうだね。
  うちの一成は、ガス漏れ事故で入院したというのに。」

 「鍛えてますから。」

 (((答えになっているのかしら?)))

 「しかし、三代目も倒れたと聞くが?」

 「倒れました。」

 「遂に士郎くんのデタラメさも三代目を越えたな!」

 (喜ぶべきなのか?
  デタラメで繋がった姉弟か……。)

 「今日は、何の用かね?」

 「え~っと、キャスターさんって知ってます?」

 「キャスター? はて?
  ・
  ・
  ああ。
  そういえば、そのような名前であったな、彼女は。
  決して物覚えの悪い方ではないのだが、何故か忘れていた。」

 「そのキャスターさんに、会いに来ました。」

 「何故、君のような学生が?」

 「俺ではなく彼女達です。」


 突然、振られたセイバーとライダーとイリヤは、慌てて頭を下げる。


 「おお、外国のお友達ですか?
  士郎くんも隅に置けない。」

 「親父の既知の方です。」

 「そうですか。
  では、本堂で待っていてください。
  拙僧が、呼んでまいりましょう。」


 零観は、笑いながら去って行く。


 「士郎! いきなり振らないでよ!」

 「まあまあ、俺が知り合いって言うよりも、
  イリヤ達みたいな外国人の方が説得力があるんだよ。」

 「それよりも、零観さんって言ったかしら?
  明らかに記憶を操作されていたわ。」

 「なぜに?」

 「キャスターを覚えていなかったわ。」

 「なるほど。
  じゃあ、手出しが出せないのは俺達だな。
  寺の僧、全員が人質だ。」

 「その通りだ。
  戦闘になった時は、逃げる事を第一に考えるんだ。」


 話は、トントン拍子に進む。
 しかし、今の会話で誰もがキャスターのテリトリー内である事を認識して、気を引き締め直した。


 …


 本堂に通され、各々が座って待つ。
 大人数に気を遣って零観さんが本堂を勧めてくれたに違いない。
 キャスターが姿を現す前に零観さんが、お茶とお茶菓子を持って来てくれた。


 「遅いですね。」

 「警戒してるんだろ?」

 「警戒? 何故です?
  人質が居るなら、キャスターの方が有利でしょう?」

 「セイバーは、本当に正々堂々としている。
  騎士の見本みたいだな。」

 「ええ、それを私も誇りに思っています。」

 「キャスターは、こちらの情勢や心理などを全く知らない。
  人質取ったぐらいで安心しないんだよ。
  セイバーは、兎も角、俺が人質を無視してキャスターを襲うかもしれない。」

 「そんな事はしません!」

 「もちろん、しないよ。
  だけど、そういう警戒をしているんだ。」

 「だから、山門を通ってから、ずっと、使い魔で様子を見ている。」

 「「「「「!!」」」」」

 「驚いたわ。
  一番魔術師にほど遠い人物が、
  サーヴァントを出し抜いて、私の使い魔を見破るなんて。」


 全員の視線が、深い紫のフードに身を包んだ女性に注がれる。


 「坊や。
  いつ気付いたのかしら?」

 「気付いたのは、キャスターの気配だけだ。
  今、言ったのは、嘘だ。
  サーヴァントより、先に気付く訳ないだろ。
  なんせ俺は、魔力の感知すら出来ない。」

 「変わった坊やね。
  切れ者なんだか、ただの馬鹿なんだか?」

 「後者だ。」

 「馬鹿の方ね。」

 「馬鹿よ。」

 「馬鹿ですね。」

 「間違いなく。」

 「皆さんの意見を尊重します。」

 「…………。」

 「どういう状況なのよ?」

 「気にしないでくれ。」


 キャスターは、首を傾げる。


 「それで、一体何の用で来たのかしら?
  戦うなら構わないわよ。
  話の流れから、この寺には貴方の知人も居るようだし。
  貴方自身、人殺しが出来ないようだから人質は有効なようだわ。」

 「キャスターなら、人質関係なしで簡単に人を殺せると?」

 「当然よ。」


 場の空気が張り詰める。


 (あ~あ~。
  キャスターは、全然こっちを気遣ってくれないんだ。
  これじゃあ、一触即発しそうだ。
  仕方ない……こっちのやる気を削ぐか。)

 「強がらないで欲しいな。」

 「強がる? 私が?」

 「俺は、お前の逸話を知っている。
  キャスターが辛い生き方を強いられたのも。」


 キャスターは、何ともないという顔をしているが、セイバーとライダーの動きが硬直する。


 「だから?」

 「お前が悪い奴じゃないという事も知っている。」


 セイバーとライダーは、完全に士郎の話を思い出した。
 顔を俯かせ必死に何かに耐えている。
 キャスター以外は、士気が落ちた事に気付いた。


 「それが?」

 「悪い。
  なんでもない。」

 「は?」

 (これで、大丈夫だな……さて。)

 「本題を話していいか?」

 (この子……。
  一体、今のは、何だったのかしら?
  こちらの神経を逆撫でする気?
  いや、それならば、もっと気に障る事を……。
  ・
  ・
  それに代表して話しているのが、何で、魔術師でもないただの人間なの?
  だんだん、分からなくなって来たわ。)

 「本題の前に少し話をしたいんだけど?」

 「いいよ。」

 「貴方に少し興味が湧いたわ。」

 「俺? 魔術師の遠坂やイリヤを差し置いて?」

 「ええ。
  あの二人が優秀なのも分かるし、
  あっちの子が素質を、まだ、開花していないのも分かるわ。」


 凛、イリヤ、桜をキャスターは、視線で指す。


 (そっか。
  桜は、魔術の性質が戻ったばかりか。
  そんなのも分かるんだ。)

 「それで、なんの取り得もない俺に、
  なんの興味があるんだ?」

 「何の取り得もないから気になるのよ。
  何で、あんな優秀な魔術師を、
  魔術師でもない貴方が従えているのかしら?
  ・
  ・
  あら、でも最近使った形跡があるわね。」

 「…………。」

 「本当に知りたいのか?」

 「ええ。」


 キャスターの要求にセイバーが口を挟む。


 「少し……いいでしょうか?」

 「何かしら、セイバー?」

 「話を聞くなら、覚悟をした方がいいです。」

 「へえ。
  それほど、凶悪な何かをこの坊やは持っているのね。」

 「ええ、気をつけるべきです。
  我々は、シロウの話が終わるまで耳を塞ぎます。」

 「は? 何で、そうなるのよ!?」


 セイバー達は、耳を塞ぐ。


 「貴方、何か呪言の類でも使えるの?」

 「さっきも言ったが、魔術師じゃないんだけど。」

 「まあ、いいわ。
  理由……聞かせて貰うわ。」


 士郎は、セイバー召喚、イリヤの勧誘、凛と桜の勧誘を話す。
 キャスターは、話を聞くうちに脱力していく。
 精神的ダメージが、徐々に蓄積していくのが分かる。
 セイバー達は、やっぱりという顔をする。


  ・
  ・
  という訳だ。」

 「さ、最悪だわ……。
  こんな強力な呪い級の話を聞いたのは初めてだわ。」

 (終わったようですね。)


 セイバーは、皆に合図をすると耳を塞ぐのを皆がやめる。


 「どうでしたか……シロウの話は?
  後悔したでしょう?」

 「ええ、忠告は聞くもんだわ。
  まさか、坊や以外が全員被害者とは……。」

 「俺が、一番の被害者だという話だったんだが。」

 「ますます、分からなくなって来たわ。
  目的が見えないんだけど……。」

 「だって、その話に俺の目的は入ってないし。」

 「普通、ここまで話の流れを聞けば、
  少しは分かるものなんだけど。」

 「まあ、話で俺以外の奴は、
  目的を果たしたのが分かっただろ?」

 「ええ、それだけは。」

 「じゃあ、本題に入る。
  まず、当初の目的は、俺が絶対に死なない事。
  これは仲間が増えた事で解決。
  そして、欲が出た。
  これだけ増えたんだから、なんとかなるんじゃないかと。
  俺は、続いて冬木から聖杯戦争をなくす事を考えた。
  ・
  ・
  以上。」

 「聖杯戦争を……なくす?
  ・
  ・
  クク……フ。
  アハハハハハ。
  坊や、私を笑い殺す気?」

 「本気なんだけど。」

 「いいわ、聞いてあげるわよ。
  何を思い付いて、その結果に行き着いたか。」


 …


 セイバーは、奥歯を噛み締めてキャスターを睨む。


 「許せません!
  シロウが、どのような気持ちで思い立ったかも知らずに!」

 「まあ、真っ当な理由じゃないのは確かね。」

 「リン!」

 「安心しなさい、セイバー。
  わたしは、士郎に賛成しているわ。
  それに……士郎のペースよ。
  ここから、わたし達は、いつもやられているんだから。」


 凛の言葉にセイバーは、落ち着きを取り戻すと状況を見守る事にした。


 …


 士郎は、動揺を見せずに話し続ける。


 「まず、聖杯戦争のシステムは、大まかだが解き明かしてる。」

 「何ですって?」

 「これには、理由がある。
  さっき、話した時に出た魔術書と古文書。
  一つは、聖杯戦争を作り上げた御三家の間桐。
  もう一つは、アインツベルンのものなんだ。
  これを解読して、大まかな事は分かっている。」

 「本当に解き明かしたの?」

 「間違いない。」

 「…………。」

 「それによると聖杯戦争をしなくても、
  根源への道を作れるらしいんだ。」

 (この坊や、まさか……。)

 「しかし、そのまま実働させると莫大な魔力が必要になるから六百年掛かる。
  使用する魔力を削減して発動期限の短縮をしなければいけない。
  基本となる古文書と魔術書は揃っている。
  後は、聖杯戦争のシステムを改造するだけでいいんだ。
  無事、開発出来たなら、冬木の聖杯戦争のシステムを破壊する。」

 (間違いない。
  この坊やも知っているんだわ。)

 「それで、私に何を頼みたいの?」

 「聖杯戦争のシステムを組み上げた先人達が出来なかった事。
  キャスターという魔術のスペシャリストとの接触による
  現代の魔術知識と過去の魔術知識の融合によるシステムの改造だ。」

 「凄い事を考えるわね。
  でも、残念ね。
  私は、一人で大丈夫よ。」

 「条件を飲まないなら戦う。
  セイバーとバーサーカーの対魔力は、
  キャスターの攻撃を受け付けないレベルだからな。」

 「脅すつもり?」

 「いや、まだ、粘り強く交渉するつもり。
  今のは、こっちの方が有利である事を示して、
  俺の方が、条件を緩和しているとアピールするためだ。」

 「正直なのね。」

 「あんたには、冗談は通じないと思っている。」

 「いいわ、続けなさい。」


 …


 凛達は、会話を聞いて驚いている。


 「わたしさ。
  士郎が魔術師じゃないのに
  ここまで言い切れるのが信じられない。」

 「ええ、交渉相手は、神代の魔術師。
  考えただけでも震えるわ。
  戦うだけなら、バーサーカーに任せればいいけど、
  交渉するからには、成果を出さなければならない。」

 「わたしは、最初のキャスターさんの言葉で、
  もう、何もしゃべれないと思います。」

 「簡単に言うと場慣れしているのでしょう。」

 「きっと、大河関係です。」

 「間違いないだろうな。」


 …


 「『一人で大丈夫』って言う事は、
  キャスターも別システムを開発したのか?」

 「どういう事かしら?」

 「簡単だ。
  キャスターじゃ、聖杯戦争は勝てない。
  なら、自分の知識を利用して根源への道を開けると考えればいい。」

 「私が勝てない理由は?」

 「この聖杯戦争は、御三家が勝てるように細工されているから。
  つまり、キャスターじゃなくても、
  御三家に呼び出されていないサーヴァントには、
  勝ち目が薄くなる仕組みになっている。」

 「フフ……。
  ここまで言い切られると清々しいわね。
  坊やの言う通りよ。」

 「そっか。
  もう、キャスターは、作業を開始していたのか。
  じゃあ、今更、持ち掛けても手遅れかな?」

 「いいえ、ギリギリセーフよ。
  二つの意味で。」

 「二つ?」

 「ええ、一つは、貴方達にも手伝って貰いたいという事。
  簡単に言うと私の開発しているシステムは、
  聖杯戦争のシステムを模倣して作った劣化版というところだからよ。
  オリジナルの書物と現代の知識を得られるなら、
  こちらも願ったり叶ったりだわ。
  もう一つは、私が、このまま作業を進めていたら、
  冬木から、人が全員居なくなっていたという事。」

 「一つ目は、分かった。
  二つ目の方は?」

 「劣化版も魔力を莫大に消費するのよ。
  その魔力を人間の魂で補うつもりだったから。」

 「ああ、なるほど。
  六百年分のエネルギーを換算するとそうなる訳か。」

 「ええ。」


 …


 凛達は、冷や汗を流す。


 「なんて、危ない会話なの。」

 「手段を選んでいませんね。」

 「わたし……衛宮先輩が、
  その話を聞いて平然としているのが怖いです。」

 「見習うべきかも知れないわ。
  魔術師の心構えとしては、動揺を見せない士郎の交渉は凄いわ。」

 「ええ。
  ただ、キャスターが譲歩の可能性を見せて来たわ。
  ここからが交渉の正念場よ。」


 …


 「それにしても、なんで、一気に人を消すような事をするんだ?」

 「あら、正義を振りかざす気?」

 「いや、そうじゃなくてさ。
  俺達が必死になって解き明かした古文書がなくても、
  劣化版とはいえ、聖杯戦争の模倣品を作れるんだから、
  自分で、もっと改良したの作ればいいじゃないか。」

 「時間がないのよ。
  聖杯戦争が、いつ終わるか分からないし。」

 「聖杯戦争が終わる?
  ちょっと、待ってくれ。
  俺は、聖杯戦争は、
  最後のマスターになるまで終わらないと聞いているぞ。」

 「そういえば、貴方も御三家のマスターじゃないんですものね。
  知らなくて当然だわ。」

 「教えて貰っていいか?」

 「いいわよ。
  ・
  ・
  聖杯戦争はね、聖杯となる器にサーヴァントの魂を溜め込むの。
  つまり、エネルギーさえ溜められればいいのよ。
  根源への道が開かれるぐらいのね。
  ・
  ・
  今回は、サーヴァントの質が高いから、
  少ない数のサーヴァントで道が開きそうだったのよ。
  そんな質の高いサーヴァント同士が戦うんですもの。
  あっ、という間に聖杯の器を満たすわ。」

 「アインツベルンが用意する器の事か?」

 「ええ、この近くにあるわよ。」

 (イリヤが持っているのか?)

 「なるほど。
  それで時間がないという事か。」

 「でも、急ぐ必要はなかったわね。
  サーヴァントが、皆つるんでいるなら、
  聖杯の器には、一向にエネルギーが溜まらないのだから。」


 …


 「なるほど。
  そういう仕組みで、サーヴァントが必要なのですか。」

 「これは、侮辱ですね。」

 「士郎とセイバーには、話したつもりだけど。」

 「イリヤスフィール。
  確かに聞きました。
  しかし、士郎もその扱いについては、我々の誇りを汚すと言っています。」


 喧嘩になりそうな雰囲気を凛が制す。


 「サーヴァントも願いがある以上、覚悟はあるはずよ。
  今更、揉めないで。
  士郎は、それを含めて気に入らないから、
  キャスターと交渉しているんでしょ。」

 「リン……すいません。
  一度、納得したつもりでしたのに。」

 「いいわ。」


 セイバー達は、再び、士郎とキャスターの話に耳を傾ける。


 …


 「そうか。
  それで、今もシステムを開発するために
  街の人を襲っているのか。」

 「そんなところよ。」


 士郎は、セイバー達に振り返る。


 「やっぱり、キャスターはいい奴だ。
  協力して貰おう。」


 士郎の言葉にセイバー達のみならず、キャスターも唖然とする。


 「あんた、街の人を襲っていると平然と宣言している奴に、
  何で、いい奴って言えるわけ!?」

 「私も、リンの言葉に同意します。」

 「わたしもです。」

 「ええ、私も。」


 イリヤとアーチャーを覗くメンバーは、士郎の意見に異を唱える。


 「本当に面白い坊やだわ。
  悪人の私に協力しようなんて。」


 アーチャーは、キャスターの話を聞きながら、イリヤに話し掛ける。


 「君は、反対しないのかね?」

 「なんか引っ掛かる。
  士郎の意見もそうだけど、士郎の言葉を聞いてから、
  キャスターが少しおかしいわ。
  ・
  ・
  あなたこそ反対しないの?」

 「私も同様に、会話に違和感を感じるのでね。」


 士郎は、キャスターを見る。


 「嘘がある。」

 (嘘?
  何を言っているのですか、シロウ?)

 「キャスターの行為は、矛盾している。
  もし、キャスターが人間をなんとも思っていないなら、
  ガス漏れ事故を装って死人を出さないのはおかしい。」

 「何を言って……。」

 「あれは、魔力の補給もあったかもしれないが、
  実験だったんじゃないか?」

 「…………。」

 「システムを発動しても、
  死に至らしめない限界を見極めるための。」

 「…………。」

 「根拠は、二つある。
  まず、さっき言った通り死人を出していない事。
  もう一つは、聖杯戦争である以上、位置を知られないため。」

 「士郎、どういう事?」

 「街全体から採取すると魔力の流れが、全部、柳洞寺に向いてしまう。
  これでは、居場所が直ぐにバレる。
  だが、ガス漏れ事故の現場のように単一的なら直ぐに特定される事はない。
  現場に辿り着く頃には、魔力の痕跡が消える。
  しかし、1箇所で集める魔力では微量だ。
  多く摂取するためには、ギリギリまで取らなくてはならない。」

 「では、キャスターは……。」

 「システムを発動しても、人の命を取る気はない。」

 「……坊や。
  人の気持ちを、何故、断言出来るの?」

 「簡単だ。
  俺の言っている事は予想でしかないし、
  自分の都合のいいように過大解釈をしているからだ。」


 その場の全員が言葉を失う。
 士郎の耐性が強いセイバーが、一足先に我に帰る。


 「根拠はないのですか!?」

 「ない!
  だから、断言ではない。
  ただ、堂々と自分の予想を言っているだけだ。」

 「やっぱり、馬鹿だわ……。」

 「そうすると私達が納得した話のいくつかは、
  シロウの予想だったという事ですか?」

 「危ないわ……。
  士郎に任せる事は、車の運転を知らない人に
  運転させるようなものだわ。」

 「つまり、たまたま車が動いていただけという事か。」

 「でも、わたし達に選択の余地はないんですよね?」

 「ええ、これからも、この危ない運転手の車に乗り続けるしかないのよ。
  予防策にヘルメットとシートベルトをしてね。」


 他の皆に混じって、キャスターも感想を漏らす。


 「最悪だわ……。
  何か、戦う以前にこの坊やに対する共通認識を持たされたわ。
  仲間的な……。」

 「予想通りだな。
  脱力させる事でセイバー達との仲間意識を芽生えさせる。
  キャスター、これで手を貸し易くなっただろ?」

 「ええ、貴方以外とは……。」

 「まあ、話の流れからするとキャスターも
  人手が欲しかったところだし。
  7人中6人のサーヴァントが徒党を組めば、
  聖杯戦争も直ぐに終わらず新たなシステムを作れる。
  万々歳の一件落着だな。」

 「シロウ、落着していません。
  システムを作るのに魔力が必要なら、
  今後もガス漏れ事故が起きます。」

 「じゃあさ。
  狭く深くじゃなくて広く浅く取ろう。
  キャスター、そういう魔術に替えてくれないか?」

 「まだ、仲間になると返事を返していないんだけど……。」

 「シロウ!
  何の罪のない人々から魔力を奪うなど!」

 「いいんだよ。
  人間、無駄なエネルギーを残しているんだから、
  必要ない消費出来ないエネルギーを奪う分には
  余計なカロリー消費して、逆に喜ばれるって。」

 (いいわね……それ。)

 (姉さん……羨ましそうな顔をしないでください。)

 「貴方、何で、私より悪どいのよ?」

 「セイバーも納得したし、頼まれてくれないか?」

 「納得してません!」


 セイバーのツッコミを面倒臭そうに受け流しながら、答えを中々返さないキャスターに士郎は、急かしに掛かる。


 「あんまり、我が侭言うとマスター襲っちゃうぞ?」

 「キャスターを脅さないでください!」

 「宗一郎様には、指一本触れさせないわ!」

 「「ん?」」
  ・
  ・
  宗一郎様?」


 セイバー達が固まる。


 「な、何よ?」

 「ま、ま、まさか……。
  キャスター、貴方は、自分のマスターに
  恋愛感情を抱いているという事はないですよね?」


 キャスターが、無言で赤くなる。


 「嘘!? イリヤの予想通り!?」

 (しまったな……。
  これで、本当にセイバーとライダーは使い物にならん。
  交渉の切り札が減った。)

 「いけない!?
  マスターに恋をしちゃいけないの!?」

 「いいえ、するべきです!」

 「え?」

 「そうです!
  あなたは、幸せにならなければいけない!」

 「は?」


 セイバーとライダーが、キャスターを力強く応援する。


 「シロウ!
  是が非にも、システムを完成させるのです!」

 (魔力供給の件は?)

 「安心してください、キャスター。
  士郎は、私達が説き伏せ協力させます!」

 「何これ?
  ・
  ・
  坊や、一体この二人に何を吹き込んだのよ?」

 「大した事は、言っていないんだけど……。
  ・
  ・
  かくかくしかじか。
  ・
  ・
  みたいな事を言ったら、無性にキャスターに同情してしまって。」

 (私の逸話をそういう形で捻じ曲げるのは珍しいわね……。
  ・
  ・
  しかし、面白い発想をする坊やだわ。
  常人の考えないような事を思い付いている。
  それに優秀な助手も手に入りそうだし……損はないわね。)


 キャスターは、軽く微笑むと士郎に話し掛ける。


 「いいわ、その話に乗ってあげる。」

 「ありがとう。」


 セイバーとライダーが納得の表情をする。
 士郎は、それを微妙な表情で見る。
 そして、再度、キャスターに向き直る。


 「ところで……。」

 「何かしら?」

 「そのフードの下が見たいんだけど?」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「この下の素顔を見ていいのは、宗一郎様だけよ!」


 本堂には、溜息が漏れる。
 しかし、これによりキャスターの協力を得られるようになった。


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