== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
深夜、山門を通り抜け、お寺の賽銭箱に腰を下ろして少女が空を仰ぐ。
何故、私の主は、私に対してだけ冷たいのかと。
「まったく、シロウは!」
今まで頭ごなしに馬鹿などと言われた事のないセイバーはお冠だった。
暫く、ぼうっと星を眺めていると月に照らされた境内を影が過ぎる。
長い髪が大きな影を作り、弥が上にも存在を主張させる。
「どうしたのです、ライダー?」
「あなたとお話がしたくて。
英霊同士、話し合える機会というのは稀ですので。」
「そうでしたね。
別れも近そうですし、偶には月を見ながら、
話に花を咲かせるのもいいでしょう。」
二人は、場所を境内に移し、話をする事にした。
第64話 女同士の内緒話
ライダーが、セイバーにお茶の缶を渡す。
冬の寒空の下、お茶は、体を軽く温めてくれる。
セイバーとライダーは、手の中の缶で、ほっと息をつく。
「温かいですね。」
「ええ。」
「それにしても、今回の聖杯戦争はおかしな事ばかりです。
召喚の時から常軌を逸していました。」
「フフ……。
何度、思い返しても笑ってしまいます。」
「ええ。
シロウとは、喧嘩する事からが始まりでした。
今思えば、あの召喚は、シロウのデタラメさのせいではないかと思います。」
「不思議な人です。
あれだけ好き勝手して、何故か今、サーヴァントが纏まっているのですから。」
「納得がいきません。」
セイバーは、お茶を少し啜る。
「しかし、シロウが、一番本質を分かっている気もします。」
「そうですね。
感情で動いているのでしょうが……それが羨ましい。
中々、出来ない事ですから。」
「しかし、尊敬と落胆の落差が大きくて、
毎回、崖から飛び降りているような気分にさせられる。」
「あれさえなければ……ですね。」
ライダーが、お茶を啜る。
「しかし、我々、サーヴァントに礼儀を持って接してくれているのも確かです。
不条理には怒り。
筋を通すところは通しています。
・
・
それ以外は、ふざけていますが。」
「ええ、ふざけてはいますが、
私の事に関しても怒ってくれた。
・
・
しかし、先ほどの事は納得出来ない。
私は、シロウに引き合わせてくれた世界に感謝をしているというのに。」
「…………。」
ライダーが、お茶を啜る。
「士郎の事です。
理由があるのかもしれませんよ。」
「理由……ですか?」
「はい。
彼は、無下にセイバーを傷つけるような事は言いません。
あの言い回しに覚えがあるのではないですか?」
セイバーは、出会って直ぐの喧嘩を思い出す。
あの時は、怒鳴り合い、挙句の果てには手まで出された。
しかし、あの時、士郎は答えを叫んでいた。
「今回は、何も言ってくれませんでした。」
「反省したのでしょう。
『女の子には手をあげてはいけない』と。」
「ただ、『根っこの部分が変わってない』と言われたのが胸に残るのです。
正直、私は、自分が変わったと思っていましたから。」
「それは、私もです。
地が出ていますから。」
「そうなのです。
生前では、有り得ない事です。」
セイバーとライダーが、お茶を啜る。
「士郎が不愉快に思った事は、何なのでしょうね。」
「それは……世界との契約でしょう。
何がいけないのか……。」
セイバーは、夜空を仰ぐ。
ライダーは、セイバーが純粋であるのが少し羨ましかった。
しかし、それ故、士郎の気持ちに気付けないのだとも悟った。
「キーワードは、出ていますね。
では、何故、契約したのかを考え直すといいかもしれません。」
「契約の切っ掛けですか?」
「ええ、分からない時は、最初に戻るのが捜査の基本です。」
「…………。」
「時間はあるようで短い。
システム完成までの時間しかありません。
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もう一度、考えてみてください。」
「そうします。」
「では、そろそろ戻りませんか?」
「はい。
お茶も丁度なくなりました。」
セイバーとライダーは、境内を後にした。