== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
教会の壁が砕け、ライダーとランサーが飛び出す。
ライダーとランサーは、教会近くの外人墓地へと移動する。
その数分後、礼拝堂が爆散する。
セイバーとアーチャーが、教会から飛び出して来る。
そして、巻き上がる埃が収まると黄金の騎士と言峰が姿を現した。
「本日、出番なし……か?」
士郎は、遠くからサーヴァント達の戦いを見守った。
第66話 教会という名の魔城②
ランサーは、ライダーの力に流されるまま場所を移動する。
ライダーは、依然と笑みが消えないのを不気味に思った。
「何処まで行くんだ?
俺は、何処で戦ってもいいんだぜ?」
「なら、もう少しお付き合いください。
この先の外人墓地まで……。」
「いいだろう。」
(ランサーは、マスターの心配をしていない。
やはり、切り札を持っているという事ですか。)
ライダーとランサーは、場所を外人墓地まで移した。
…
教会の前では、対峙が始まっていた。
黄金の騎士と言峰、セイバーとアーチャーが睨み合っている。
黄金の騎士を見たセイバーは、目を見開き驚いている。
一方の黄金の騎士は、笑いを浮かべている。
「久しいなセイバー。」
「何故、貴方が!?」
言峰も笑いを浮かべている。
その中でアーチャーが一人だけ、懐かしい感覚に包まれていた。
(記憶が戻って来ている……。
度重なる体験で、
今まで、はっきりしなかった事まで……。
・
・
また、彼女と戦う事が出来るとは。)
アーチャーは、前回の衛宮士郎だった頃の記憶を鮮明に思い出す。
二人で最後に上った柳洞寺の階段。
その先にあった自分達の過去との対決。
貫き通した彼女の生き様。
だからこそ貫き通した自分の夢。
そして、今ある現実と夢との摩擦。
目の前には、あの日の夢の続きが彼女と供にある。
(何が間違いで何が正しいかを計り直すには丁度いい……。
私は、再び、試されているのだ。
違うものは、研鑽前と研鑽後だけ。
力を手にして挑んだ時、それでも、私は、同じ気持ちでいられるのか?)
動揺の続くセイバーの肩にアーチャーの手が掛かる。
「少し楽にするといい。
やる事は、変わらない。」
「アーチャー?」
「説明も要らない。
事情も説明しなくていい。
・
・
私は、どちらを引き受ければいいのだね?」
自分を無視して話すアーチャーに黄金の騎士の怒りが蓄積されていく。
「雑種! その汚い手をどけろ!
それに触れていいのは、我だけだ!」
黄金の騎士にセイバーは不快感を表す。
「アーチャーは、神父を。
・
・
英雄王ギルガメッシュは、私が討ちます。」
「分かった。
君に任せよう。
最後に、これだけは言って置く。
この戦いは、死んだら負け、死ななければ勝ちだ。
忘れないでくれ。」
セイバーが頷くとアーチャーは、セイバーを残して言峰の元へと向かう。
「戦いに専念させたい。
場所を変えたいのだが?」
「構わん。
こっちに着いて来るがいい。」
言峰は、自らアーチャーを案内する。
アーチャーは、過去の決着を思い返しながらセイバーを見る。
そして、聖剣の鞘のない彼女の過去の結果を導き出した後、早期決着を意識した。
…
残されたセイバーとギルガメッシュの睨み合いは続く。
「嬉しいぞ、セイバー。
まさか、再び召喚されるとは思っていなかったからな。」
「貴方は、あの後も現界し続けたのか?」
「その通りだ。」
セイバーは、覇王剣を構える。
闘気を出していない覇王剣は、柄だけで刀身を現していない。
「何だ? その玩具は?
少し見ぬ間に気でも触れたか?」
「試してみる事です。」
ギルガメッシュの目が嘲笑いながら覇王剣に注がれる。
しかし、目が段々と険しいものになっていく。
「セイバー、その剣は何だ?」
「何を今更……。
貴方は、この剣の原典もご存知なのでしょう。」
「分からぬから聞いている。」
「分からない?」
(確かシロウは、漫画の中の剣だと言っていた……。
そして、アーチャーは、見た事もない金属だとも。
・
・
存在しないものを投影したから、原典がないのかもしれない。
シロウのデタラメさが、この男との戦いに勝機をもたらすかもしれない。
問題は……この覇王剣が、何処まで通用するかだ。
そして、温存した魔力を何処で使うか……。)
セイバーの沈黙にギルガメッシュは、苛立ちを募らせる。
「何故、答えぬ!」
「気になりますか?
しかし、敵に情報を与える訳にはいきません。」
「……ならば、我が財を持って解き明かすまで。」
ギルガメッシュの背面の空間が歪み、数々の武器が姿を現す。
「我は、優しくはないぞ。
気をつけて受け切れよ、セイバー!」
空間から歪み出た武器の数々は、セイバー目掛けて降り注いだ。
…
外人墓地での戦いも静かに始まろうとしていた。
ランサーとライダー……供に敏捷性の高いクラスの一騎打ち。
「昔から、化け物退治は得意でね。
オマエから漂う雰囲気に、さっきからピリピリしているんだ。」
「そうですか。
英雄というものは、人の忌み嫌う過去を暴きたがる。」
「本気を出した方がいいぜ。
油断していると首を落とす事になる。」
「そうさせて貰います。
尤も、本気で戦える日が来るとは思っていませんでしたが。」
ランサーは槍を深く構え、ライダーは肉食獣のような構えを取る。
「どういう事だ?」
「つい最近まで能力を制限させられていたという事です。」
「じゃあ、俺が仕入れた情報は忘れた方が良さそうだ。」
「ええ、そうしてください。
勢い余って首を落としてしまうかもしれませんから。」
二人の唇の端が吊り上がると同時に、両者は地面を蹴る。
すれ違い様に武器と武器とが甲高い音を立てる。
本来のマスターである桜の魔力供給を受け、ライダーは制限なしで武器を振るっている。
リーチの短い杭と槍とのぶつかり合いでも、ライダーは、押し負けていない。
駆け抜ける直後、ライダーは、ランサーに杭を投げつける。
ランサーは、死角からの攻撃を予想していたように躱す。
ランサーを通り過ぎた鎖付きの杭が墓石に突き刺さる。
墓石に突き刺さった杭をライダーは、力任せに引き抜いた。
「なんて力をしてやがる!」
ランサーは、墓石を槍で数回突く事で粉砕して回避する。
再び、ライダーとランサーの間に距離が開く。
ランサーは、ライダーが反転する前に攻撃を仕掛ける。
ライダーは、連続で突きつけられる槍を鎖と柔軟な運動神経で紙一重で躱す。
そして、ランサーが、深く突き入れた槍を躱すと同時に鎖を引き戻す。
杭が、一気にランサーの後頭部目掛けて飛んで来るのをランサーは、余裕を持って避ける。
「『矢避けの加護』は、投擲武器にも意味がありそうですね。」
「そういう事だ。」
(この武器では、ランサーを仕留めるのは無理ですね。
しかし、私の役目は時間稼ぎ……。
最初は、防御に徹しさせて貰いましょう。)
ライダーは、自分の役目を理解し、ランサーの攻撃に対して防御を主軸にした戦いへと変更し始めた。
…
教会裏、言峰の張った音声遮断の結界の中で戦いは始まっていた。
戦いは、研鑽された技と技とのぶつかり合いだった。
一人は、長年積み重ねた体術。
一人は、長年積み重ねた双剣術。
積み重ねた技同士が拮抗し続ける。
「私に合わせて戦う必要はないのだが?」
「生憎、英霊と言えど、私は、セイバー達とは違うタイプの英霊でな。
この戦い方しか出来ないのだ。」
「そのようだ。
生まれ持った才能とは、ほど遠い。」
アーチャーと言峰が、間合いを置いて臨戦態勢を解除する。
「少し話しをしないか?」
「英霊から語られる言葉か。
実に興味深い。」
「……私は、衛宮切嗣の意思を継ぐ者だ。」
アーチャーの言葉に言峰の顔が歪む。
狂気か歓喜か驚きか分からない表情。
「無論、彼の夢を引き継いでいる。」
言峰の顔が更に歪む。
「貴様は、衛宮切嗣の弟子か?」
「そのようなものだ。
故に、貴様が衛宮切嗣にした蛮行も、
衛宮切嗣が死に際に残した言葉も全て知っている。」
それは、言わなくてもいい言葉だった。
だが、アーチャーは、言峰を衛宮士郎だった頃の言峰に近づけるために言葉を紡ぐ。
「そうか……。
では、あの男がどれだけ
歪み切っていたかも知っているのだな!」
「知っている。」
(それを貫いたがために
彼女達にどれだけ迷惑を掛けたか……。)
「救ったと思った世界で、
勘違いして死んで逝った事も!」
「知っている。」
(そして、その時、俺に託した思いが、
今も、俺を縛り続ける事実を……。)
「知っていて、あの男のくだらぬ幻想を引き継いだのか!」
「その通りだ。」
(やっぱり、直に言われると分かる。
歪んでいると分かっていても、夢と現実の摩擦が発生しても、
この男に切嗣を馬鹿にされる事は許せない!
・
・
親父が、俺に植え付けた呪いとも思った。
だけど、それを原点に研鑽を重ね、月日を重ねて来た。
・
・
大事な人が止めても貫き通した意地。
俺は、まだ、それを貫き通して戦うのか?……戦えるのか?
・
・
あの日の思いが間違いなのか?
これからも貫き通すのが正しいのか?
その積み重ねた力で言峰と戦い、答えを出す!
・
・
セイバー……直ぐには助勢出来ないかもしれない。)
「言峰……。
今度は、お互い足りないものはない。」
「何を言っているか分からんな。
しかし、貴様が、あの男の意思を継いでいるなら、
この戦いは、私にとって意味を持つものになる。」
アーチャーと言峰が構えを取る。
両者は、再び、間合いを詰める。
今度の衝突は、今までの試し合いではない。
その証拠に言峰は、懐から三本の黒鍵を取り出し、指に挟み、同時に投げつける。
アーチャーは、1本を体の的から外し、二本を干将と莫耶で受け流す。
言峰は、防御をしない分だけ、攻撃にスピードを乗せた拳を放つ。
それをアーチャーは、干将と莫耶を交差して受け止める。
僅かに後ろに押し戻された直後、二人の戦いは、接近戦の乱打戦に切り替わる。
どちらも決定的な一撃が入らない。
いや、軽い一撃も腕や足で防御し合い、お互いの胴体に届かせない。
アーチャーは、少年の頃からの成長を実感しながら戦いを続ける。
あの時の神父は、戦いはしなかった。
戦ったのは、この世全ての悪だった。
しかし、努力を続けて鍛え上げた体と技術は嘘をつかない。
あの頃、自分を見下していた男と対等に戦って確信する。
言峰も研鑽を続けている男だと。
そして、それは予感していた。
聖杯戦争という戦いで時間を飛び越え、同じ条件で二人の男は戦い続けた。
…
降り注ぐ宝具の雨。
セイバーは、躱し切れない宝具のみ斬り落とす。
高まった闘気に呼応して吹き出す刀身は、飛んで来る宝具を叩き落すのではなく斬り落とす。
感触は変わらない。
手応えを伝えず、切り裂いていく。
予想外の手応えに、セイバーのみならずギルガメッシュすら驚きを隠せない。
「何なのだ、あの剣は!?
何故、我の宝具が悉く切り裂かれる!」
セイバーは、士郎が言っていた『在り得ない戦い方』の説明を思い出す。
士郎は、サーヴァントに対する戦いのため、『在り得ない戦い方』していると言っていた。
そして、今、自分に起きているのが『在り得ない戦い方』である。
しかし、意味は、正反対である。
士郎は、無理を押し通すため、自分の戦うスタイルを犠牲にして連続攻撃に備えた。
今、自分に起きているのは、打ち出された砲弾の衝撃を己に伝えずに叩き落すという様なもの。
本来、『在り得ない戦い方』である。
ぶつかる衝撃が発生しない以上、体勢は崩れない。
幾らでも連続攻撃に耐えられる。
セイバーは、今こそ英雄王を仕留めるチャンスと踏み出す。
「くっ!
仕方あるまい。
並みの宝具では太刀打ち出来ぬのなら、
我だけが持つ覇王の剣を使うしかあるまい。」
ギルガメッシュの後ろから、1本の剣が引き抜かれる。
セイバーは、引き抜かれた剣のプレッシャーに踏み込むのを抑える。
「あの剣は……。」
「乖離剣……我だけが持てる覇王の剣だ。」
(覇王……。
偶然でしょうか?
この剣も覇王剣というのは。)
「もう少し遊ぶつもりだったが、遊びは終わりだ!
セイバー、息があったら我のものにしてやる!」
乖離剣が回転を始め、光が吹き出す。
セイバーは、己が剣と換装する時間もなく覇王剣でギルガメッシュの攻撃に立ち向かう。
…
防御一辺倒に徹しているライダーにランサーは苛立っていた。
彼の望みは、生死を懸けたギリギリの鬩ぎ合い。
しかし、相手のライダーは、攻撃を仕掛けて来ない。
作戦とも考えられるが、スピード重視のクラスのぶつかり合いなら、手数こそ戦いの主軸だからだ。
「何考えてやがる!
ちょっとは、攻撃して来たらどうだ!」
「貴方を苛立たせるのも作戦のうちです。」
「そんな誤魔化しがいつまでも続くと思うな!
手加減された戦いに何の意味があるってんだ!」
ランサーは、槍でライダーを指して、怒りの抗議を始める。
(野生的な男だとばかり思っていましたが、
なかなかどうして、知性も高いようですね。)
ライダーは、シャンと鎖を手元に引き寄せ構えを解く。
「貴方の目的は、戦いそのものなのですか?」
「文句あるのか?」
「そうですか……。
なら、こちらが最高の舞台を用意すると言ったら、どうしますか?」
「あん?
何、訳の分からない事を言っている?」
「我々の戦闘の目的は、貴方の確保なのです。」
「ハッ!
何だそれは!」
「実は、手駒を集めて戦争を起こそうと思っていましてね。」
「徒党を組んで人間相手に戦争か?」
「まさか。」
「じゃあ、手強いサーヴァントでも居るってか?
オマエら、もう三人も居るじゃねえか。」
「ええ、まだ戦力が足りません。」
「一体、何と戦う気なんだ?」
「英霊です。
それこそ数万の。」
「何!?」
ランサーの目が驚きで見開かれる。
しかし、直後、面白いものを見付けたというような目つきに変わる。
「詳しく聞かせろ。
場合によっちゃあ、手を貸してやる。」
「戦いを挑むのは、世界の保有する英霊全てです。
何故かと言うと……。」
「乗った!」
「…………。」
「あの……まだ、説明をしていないのですが。」
「いい!
そんな面白い戦いなら乗ってやる!」
(士郎の思考に近いですね……。)
「くそっ!
今は、マスターが居るからな~。」
「神父の事ですか?
今、戦闘中のはずです。
我々は、貴方の確保が目的ですから、
神父を倒して貴方を奪うつもりです。」
「そうか!
願ったり叶ったりだな!
早く殺されてくんねーかな、言峰の奴。」
(酷い思考の持ち主ですね……。)
「まあ、いいや。
一応、アイツが、まだ、俺のマスターだ。
それまでは、戦わねばならん。
相手をしろよ。」
「この緩んだ空気で戦えと言いますか……。」
「オウ!」
「仕方ないですね。」
ライダーは、不意打ちに近い状態で眼帯を外す。
ランサーは、ルーン魔術で障壁を張る間もなく硬直する。
「き、汚ねーぞ!
・
・
う、動けねえ!」
「私に、もう戦う意思はないので。
まあ、戦闘が終わる間、お話だけには付き合います。」
「なんて卑怯なんだ!
オマエ、本当に英霊なのか!?」
「はあ、一代前のマスターの影響とでも言いましょうか。
不意打ちにも余り罪悪感を感じなくなりました。」
「どんなマスターに仕えていたんだ!?」
「聞きたいですか?
お暇なら、お聞かせしますが?」
「な、何で、そこで邪悪な笑みを浮かべる!?」
「いえ、聞かされるばかりでしたので、
偶には、聞かせる立場で士郎の気分を満喫しようかと。」
外人墓地の墓石に腰を下ろし、ライダーは、士郎の事を語り始める。
語る表情は、終始笑顔。
ランサーの表情は、話が終わるまで複雑なままだった。
…
言峰とアーチャーの戦いにも終わりが近づいていた。
僅かずつだが、アーチャーが押し始めている。
アーチャーの中で言峰の技術は、賞賛に値するものだった。
繰り出される拳も、蹴りも、一朝一夕で身につくものではない。
数ある敵と見えて来たが誰とも型が一致しないのは、言峰自身が独自に鍛え上げた結果に他ならない。
しかし、その拳は、それだけだった。
何かの思いが強く乗って繰り出されるものではないように感じられる。
少し前の自分も、そうだった。
しかし、再び、見えた義父の仇との会話で、自分の双剣には、あの頃の意思が宿っている。
言峰と打ち合う時に負けられないという意思が宿る。
アンリマユとの戦いを思い出し、それに耐え抜いた切嗣の思いが込み上げる。
そして、自分に託して死んだ穏やかな笑顔が蘇る。
何より責務を果たしに行った彼女の笑顔が忘れられない。
気持ちを込める度に双剣の攻撃は鋭さを増し、言峰を追い詰めていく。
戦いは、無言の打ち合いの中で執着を迎える。
言峰の両腕を斬り上げ、アーチャーは、あのアゾット剣を投影して突き刺す。
魔力も何も溜まっていないアゾット剣を斜めに斬り上げて言峰は絶命した。
「…………。」
絶命した言峰を見て考える。
「答えは出なかったな……。
だが、あの思いは、結局、忘れる事は出来ないようだ……。」
澄んだ青い空を見上げる。
「私は、変われないのだろうか……。」
再び、彼女を思い出す。
『愛している』と告げて消えた彼女を。
そして……。
『ダイナミック! エントリー!』と扉を蹴破った彼女を。
アーチャーの口から、苦笑いが漏れる。
「実に彼女らしくなく彼女らしい。
変わっていたんだな、セイバー。」
そして、『どちらも大事だ』と泣いた彼女を思い出す。
「ああ、大事なのだ……どちらも。
切っ掛けは、アイツか……。
私も地で生きてみるのもいいかもしれんな。」
アーチャーは、少しだけ晴れた気持ちでセイバーの元へと向かった。
…
乖離剣から放たれるエネルギーの奔流に覇王剣を叩きつける。
迷っては、ダメだと気合いを入れ、更に闘気を高める。
覇王剣は、セイバーに応える様に、更に刀身からエネルギーを吹き上げる。
「何……だと?
我が乖離剣のエネルギーが引き裂かれる!?」
セイバーは、乖離剣のエネルギーに対して、一歩ずつ歩みを進める。
ギルガメッシュが、魔力を幾ら注ぎ込もうとセイバーの歩みは止まらない。
「何だというのだ!?
何故、押し返せない!?」
切り裂いて進むものを押し返せないのは道理である。
覇王剣は、ただ、切り裂くだけ。
エネルギーの奔流は、セイバーを裂けて後ろに流れ進むのみである。
セイバーは、遂に剣の間合いへとギルガメッシュを捕らえる。
そして、この攻撃の主体である乖離剣と覇王剣が激突する。
ここに来て初めての刀身同士のぶつかり合い。
セイバーの覇王剣とギルガメッシュの乖離剣が火花を散らす。
やがて、一歩も引かない両者の剣は、ビシビシと亀裂を発生させ四散する。
同じ覇王の名を持った剣は、この瞬間になくなった。
「馬鹿な!?
相殺されただと!?」
驚愕しているギルガメッシュに対して、セイバーは、次の一手の準備に入る。
己自身の剣を取り出し魔力を込める。
黄金に輝く騎士剣を振り上げ、懇親の力で振り抜く。
満を持して放たれた必殺の漸撃に、英雄王は、血飛沫をあげる。
「分からぬ……。
何に……一体、何に我は負けたのだ?」
朦朧とする意識の中で……。
そして、戦いの中で驚愕しか表せなかったギルガメッシュは混乱している。
切り裂いたセイバーは、振り返り英雄王に告げる。
「納得出来ないのは、私も同じです。
何故なら、私も貴方同様に打ち負かされたのですから。」
「それは……。」
最後の質問も答えも聞けぬまま、英雄王ギルガメッシュは、霧となり消えていく。
「ええ、シロウのデタラメさに打ち負かされたのです。」
セイバーは、勝たせて貰ったという後味の悪い余韻を引き摺りながらも、勝利に息を吐く。
「しかし、覇王剣がなければ勝てなかったのも事実。
これは私とシロウの勝利という事にして置きましょう。」
振り返ると助勢に来てくれたアーチャーが見える。
セイバーは、アーチャーに合流すべく歩き出した。