== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
システム完成までの日常も、日々変化していく。
入院から復帰した虎の帰還、そして、咆哮。
改築され作られたイリヤの部屋の発覚、そして、咆哮。
当のイリヤの出現、そして、咆哮。
何故か集まるマスターとサーヴァント、そして、咆哮。
気の合うランサーと虎、そして、咆哮。
何を掛け合わせても、咆哮の発生する物体X。
珍事の上に開発された究極の人型兵器兼最終兵器。
藤村大河が復活してから、安息の日々は消えたと言っても過言ではなかった。
第69話 幕間Ⅱ②
変化は、他にも発生している。
学校の再開である。
遠坂邸を二人の少女が後にする。
一人は、遠坂凛。
一人は、間桐桜。
今までにない異質の組み合わせの登校は、全校を揺るがす事件に発展する。
遠坂凛は、優秀美麗、全校生徒の憧れの才女として、この学校では通っている。
間桐桜は、暗い、寡黙、虐めの対象として、この学校では通っている。
しかし、入院生活が終了し学校再開で登校してみれば、性格と立ち位置の正反対な二人が仲良く登校して来ているのである。
『一体、何が起きた?』
これが、全校生徒の統一した疑問である。
そして、この原因と思しき人物に全校生徒の勇者:美綴綾子が、質問を投げ掛けるのである。
「衛宮。
何で、遠坂と間桐が一緒に登校してるんだ?」
「俺は、美綴が俺に質問をする理由が分からない。」
「衛宮のせいなんだろ?」
「面白い発想だな。」
「納得出来ない現象の影には、衛宮がいつも居るだろ?」
「…………。」
「こういうデタラメな時は、衛宮に聞くのが鉄板じゃないか?」
「俺は、美綴がつくづく男だったらと思うよ。」
「期待に副えなくて悪かったな。」
「じゃあ。」
美綴綾子のグーが、士郎に炸裂する。
「逃げるな!」
「殴るな!」
「わたしの質問に答えろ!」
「遠坂にでも聞けばいいだろ?」
「それが出来たら苦労しないわよ!」
「なんでだよ?」
「人のプライバシーにズケズケと入り込めないでしょ!」
「それでも知りたいと?」
「うん。」
(正直な奴だ……。)
「それにさ。
ほら、間桐。
あの子も、あんな風に笑うんだなって。」
「あ~~~。」
(あの環境で一週間暮らしただけで、ああだもんな。
いや、寧ろ性格変えないと生きていけない魔境だったからな。
今後の桜の性格の変化も楽しみだ。
何より、早速、リアクションしてくれた美綴にMVPをあげたい。)
「何か知ってんだろ?」
「女の園の中の事を、何故に俺が知ってるんだ?
寧ろ、女同士の美綴の方が情報集めやすいんじゃないか?」
「…………。」
「それもそうね。」
「分かったら、手を放せ。」
「…………。」
「だから、手を放せって。」
「…………。」
「おーい。」
「…………。」
「どうしたんだ?」
「やっぱり、衛宮が事情知ってんだろ!
このパターンは、絶対にそうだ!」
(素晴らしい学習能力じゃないか、美綴。)
「率直な感じ、どうだ?」
「どうって?」
「遠坂と桜が一緒に登校していて嫌か?」
「そんな事はないわよ。」
「ふむ。」
「それより、何で、間桐の方は名前呼びなのよ?」
「慎二と区別するためだ。
間桐Aとか間桐Bって言いにくい。」
「あ、そう。」
「遠坂って変わったか?」
「パッと見、変わらないかな。
でも、少し笑顔が柔らかくなったような。」
「桜は?」
「大違い。
あの子、笑わないししゃべらないしで、いつも俯いてたもの。
それが顔上げて笑ってんだから。」
「いい傾向だろ?」
「まあな。」
(どうしようかな?
遠坂と打ち合わせしないで適当な事言ったら……。
そっちの方が面白いから、適当な事を言おう。
どうせ聖杯戦争の話なんて通じる訳ないんだし。)
「実はな。
あの二人って、病んでたんだよ。」
「病んでた?」
「そう、心が。」
「間桐は分かるけど、遠坂はそんな感じしないけど?」
「いや、アイツもアイツで病んでるんだ。
学校じゃ、少しよそよそしいだろ?」
「う~ん、そうか?」
「そうだ。
さっき、『笑顔が柔らかくなった』って言っただろ?」
「そういえば。」
「で、性格を変えるために治療を試みたんだ。」
「衛宮がやったのか?」
「そうだ。」
「どんな?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず。
虎と一緒に生活させた。」
美綴綾子が吹く。
「虎って……藤村先生!?」
「そう。
カルチャーショックを与えた。」
「衛宮、それ、やり過ぎだって!
下手したら、人格変わっちゃうって!」
「もう、遅い。
結果を見ただろ?」
「それで間桐が、ああなっちゃったの!?」
「大成功だ。」
「遠坂は!?」
「あまり変わってないみたいだな。」
(と、いうか、地の方が藤ねえとタメ張るぐらい強力だから変わらない。)
「大丈夫なのか!?
咆哮したりしないだろうな!」
(藤ねえの正しい見方をしているな。)
「多分、毒が末端に広がる前に取り出したから。」
美綴綾子は、踵を返すと校舎へと走り出した。
「種は蒔かれた。
後は、勝手に尾ひれがついて広がるだろう。
・
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放課後が楽しみだ。
蒔寺が居れば相乗効果で、もっと面白い事になったんだがな。
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・
お、第一村人発見!」
士郎は、蒔寺楓のところに情報を吹き込みに行く。
蒔かれた種は、放課後までに立派な幹と雄大な枝葉を生やし花を咲かせる。
休み時間置きに入る新着情報に、士郎は腹を抱える。
しかし、士郎は、この時知る由もなかった。
赤い悪魔による確実なデッド・エンドが近づいている事を。