== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
4月。
学年が一つ上がる頃。
第5次聖杯戦争を体験したマスターとサーヴァントに別れが訪れようとしていた。
場所は、柳洞寺近くの洞窟。
大聖杯のある場所である。
第70話 聖杯戦争終了
大聖杯。
(魔法陣で根源につながる門の雛形みたいなものらしい。)
キャスターと凛の親切ご丁寧な説明があっても意味が分からない。
士郎は、分からないものを深く考えず、それっぽい例えで頭に入れる事にした。
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・
説明は、以上で終わり。
これから、聖杯戦争が終わったと大聖杯に誤認させて、私達は座に還る。
後は、私達の勝利を祈ってて貰えるかしら。」
士郎が質問をする。
「成功したら、どうやって根源への道をコントロールするんだ?」
キャスターが、3つのアクセサリーを取り出す。
「これは?」
「制御装置のレプリカ。
成功したら、これの本物を坊やの部屋に転送するわ。」
「なぜ、俺の部屋?」
「さあ。
知らずと皆の意見が一致したわ。」
「まあ、いいや。
なんで、3つなんだ?」
「一つは、アインツベルン。
一つは、遠坂。
最後のは、私のものよ。」
「俺の部屋に転送するって事は、
キャスターは戻って来るんだな。」
「ええ。」
凛が、キャスターに話し掛ける。
「少し時間を貰えないかしら。
最後の別れをして置きたいわ。」
「ええ、急がないからいいわよ。」
凛は、アーチャーの元へ行く。
「あっちで話すわよ。」
「ああ、いいだろう。」
凛とアーチャーが離れて行く。
「桜、私達も。」
「はい……。」
桜とライダーが離れて行く。
「…………。」
イリヤが黙って離れる。
しかし、直ぐに泣き声が聞こえる。
ここはお構いなくとセラとリズが、イリヤのところへと向かう。
「あ~あ……。
オレは、マスター居ないからな。」
「拙者もな。」
ランサーとアサシンは、暇な時間を持て余し気味にしている。
「坊やは、いいの?」
「俺達は、皆と違って、ずっと家に居たからな。」
「そう。」
「シロウ……。
お話ししたい事があります。
私個人的な事です。」
「個人的?
なんかあったっけ?」
「シロウ、私は、貴方に話していない。
自分が誰なのか……。
何という英霊なのかを。」
キャスター、ランサー、アサシンが、驚いた顔をしている。
「坊や、自分のサーヴァントの真名を知らないの!?」
「知らないけど?」
「何で知らねぇんだよ!」
「奇怪な。」
「初めて会った時に、
魔術師じゃない俺に真名を教えるのは危険だって。」
「それにしたって、
随分前から戦闘なんてないだろ?」
「気にならないから忘れてた。」
「何で、気にならないんだよ?」
「なんかセイバーってのが、しっくりくるからさ。」
「ええ。
シロウは、それ以外にも私を『お前』扱いです。」
「ありえねー。」
「まあ、いいや。」
(((また、流した……。)))
「ここで話すか?」
「いえ、あちらで。」
「そうか。」
士郎とセイバーが離れて行く。
残されたサーヴァント達は呆れている。
「アイツ、大物だよな。」
「ただの阿呆かもしれんが?」
「どちらにしろ、普通忘れないわよ。
しかも、気にならないって、どういう神経してるのよ?」
「お主は、いいのか?」
「ええ。
私は、暫しの間、御暇するだけですもの。」
「愛しい宗一郎の下へ戻るのならば……。」
「アサシン、それ以上は言わない方がいいわよ。」
キャスターの凄味にアサシンのみならずランサーも黙ってしまった。
…
他の面々は、最後の別れの言葉を紡いでいる。
しかし、士郎とセイバーは、今になって真名を明かすという流れになっている。
「シロウ……。
この身は、アーサー王……アルトリア・ペンドラゴンと言います。」
「アーサー王……。」
(すまん……分からん。)
「分からないのでしょう?」
「……はい。」
セイバーは、分かり切った事と微笑んでいる。
「シロウが怒った理由を考えていました。
そして、ライダーからも助言を貰いました。」
(お節介だな。ライダーの奴。)
「理由は、何となくですが分かりました。」
「そうか。」
(考える時間は、多かったからな。)
「気持ちは変わりません。
世界にシロウと会えた事に感謝しています。」
「感謝出来るほどの出会いとも思えんが……。」
「本人には、自覚がないものです。
貴方も私の価値は分からないでしょう?」
「うん。」
即答する士郎に対して、セイバーの額に青筋が浮かぶ。
そして、深呼吸をして冷静さを取り戻す。
「ただ……契約は切ろうと思います。」
「なんで、また?」
「貴方に……リベンジをしたい。」
「リベンジ? 仕返しって事?」
「はい。
私も、貴方の様に自由であると見せつけたい。」
「…………。」
「いいんじゃないか?
世界は、たくさん英霊を抱えてんだろ?
7人ぐらい居なくなったって構わんだろう。」
「そう、貴方のそういう自由さが欲しいのです。」
「俺って偉大だな~。」
「そこで調子に乗らなければ、尚、いいのですが。」
セイバーは、微笑んでいる。
そして、右手を差し出す。
「シロウ、ありがとうございました。」
士郎も、右手を差し出す。
「ああ、こちらこそ。
ありがとう。
セイバーのお陰で聖杯戦争はなくなった。
・
・
いや、7割は、俺の手柄だな。」
「二人の手柄で、いいではありませんか。」
「そうだな。
最初から最後まで、二人で駆け抜けて来た。」
その後、力強く握り合った後、二人は、皆の元へと戻った。
…
大聖杯の魔法陣の前に、皆、集まっている。
凛は、気丈に自分のサーヴァントを見ている。
桜は、既に涙を堪えられなくなっている。
イリヤの涙は、もう崩壊している。
士郎は、変わらない。
「遅かったじゃない。」
「セイバーに真名聞いてたら遅くなった。」
「そう。
・
・
何で、今頃?」
「キャスター、話してないの?」
「何で、私が、貴方のメッセンジャーをしなきゃいけないのよ。」
「三人の中で、一番気が利くと思ったから。」
「「オイ!」」
「間違いじゃないけど。
そこまで親切でもないわ。」
(否定せんな、この女……。)
「もう、行くのか?」
「ええ、いつまでもダラダラしてても仕方ないわ。」
キャスターが、魔法陣の前に手を翳し振り返る。
「いいわね?」
サーヴァント達は、無言で頷く。
「では、宗一郎様。
暫くの間、留守にします。」
「ああ。
・
・
しっかり、終止符を打って来るといい。」
「はい、必ず。」
キャスターの手から光が溢れ、魔法陣の1/3程を侵食する。
魔法陣は、暫く点滅を繰り返すとやがて光を失った。
そして、マスターの前からサーヴァント達は、音もなく姿を消した。
「呆気ないものだな。」
「ライダー……。」
「バーサーカー!」
「アーチャー……。」
「そして、その他大勢。」
凛のグーが、士郎に炸裂する。
「信じらんない!
この状況で、まだ、ふざける気!」
「死んだ訳じゃないんだし。」
「失敗したら、死ぬのよ!」
「失敗しないだろ。」
「何で、言い切れるのよ?」
「勘だ。」
「それ……何の根拠になるのよ。」
「この勘で、最後まで勝ち残った。」
「…………。」
「一応、験担ぎという事にして置くわ。
・
・
ところで、セイバーは、何処の英雄だったの?」
「アーサー王とか言ってたけど。
俺は知らない。
大した事ないんじゃないか?」
凛のグーが、士郎に炸裂する。
「お馬鹿!
何で、知らないのよ!」
「アーサーなんて言われても、
随分前に破局した芸能人ぐらいしか知らん。」
「重症ね……。
士郎のせいで、バーサーカーとの別れの余韻が掻き消されたわ。」
「わたしも、ライダーとの感動の別れが……。」
「…………。」
士郎達は、ギャアギャア喚きながら大聖杯を後にする。
今度来る時は、聖杯戦争のシステムを破壊出来る事を祈って。
…
サーヴァントと別れ、それぞれの日常に戻っていく。
いや、戻っていない。
凛と桜は、一緒に暮らし始めている。
衛宮邸には、イリヤとアインツベルンのメイド二人が居る。
セイバー達の戦いが終わるまで、本国には帰れないとの事。
そして、根源への道の起動キーが、士郎の部屋に現れるならと衛宮邸に居ついてしまった。
何も変わらないのは、葛木だけだった。
彼も内面は変わっているのだろうか。
そして、月日は、4月から5月へと変わろうとしていた。