== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
遠坂邸の呼び鈴を押す者が居る。
大きなバッグを抱えて、とてもじゃないがセールスには見えない。
桜が、パタパタと玄関に向かい小走りする。
そして、扉を開ける。
「はい、どちら様ですか?」
「ご無沙汰しています。
桜、すっかり明るくなりましたね。」
桜の目に涙が浮かぶ。
久しぶりに見た優しい笑顔に桜は抱きつく。
「ライダー!」
久々の主従の再会であった。
第74話 その後④
桜は、ライダーの手を引いて、遠坂邸の居間に案内する。
「姉さん!」
「ん? 新聞の勧誘から商品でもぼったくったの?」
「違います!
ライダーです!」
「ライダー?
・
・
え! ライダー!?」
ライダーが、桜の後ろに遠慮がちに控えている。
「どうしたの!?
あ、え、そうじゃなくて……。
この時代に転生してたの!?」
「はい。」
「兎に角、座って。
今、お茶用意するから。」
「ありがとう、凛。」
紅茶を前にしてソファに腰掛け、姉妹は、ライダーを凝視していた。
「驚いたわ。
突然、訪ねて来るんですもの。」
「すいません。」
「今まで、どうして訪ねて来てくれなかったんですか?」
「私も、やりたい事が出来まして。」
「やりたい事?」
「はい。
貴女達、姉妹を見たら、私も最後まで姉妹を続けたいと思いまして。」
「最後まで……そうか。
ゴルゴン三姉妹の結末は、悲しいものですものね。
願いを叶えられるなら、最後まで一緒に居たいものね。」
「はい。」
「じゃあ、お姉さん達と暮らしてたの?」
「はい。
始めは良かったのですが……。」
「何で、歯切れが悪くなるのよ?」
「いえ、貴女達に感動を覚えて理想を高く持ち過ぎました。
実姉の性格をすっかり忘れていたのは、私の痛恨の極みです。」
「ライダー、仲悪いの?」
「いいえ、決してそのような事はありません。」
「?」
「テレビをつけてもいいですか?」
「ええ、構わないわよ。」
ライダーは、テレビをつけるとチャンネルを回す。
そして、双子のアイドルが画面に映るとリモコンを置く。
「彼女達を知っていますか?」
「ええ、知っているわよ。
可愛いんだけど、きつい性格してんのよね。」
「私の姉です。」
凛は、紅茶を吹き出しそうになり咳き込む。
「大丈夫ですか、姉さん。」
「コホ…コホ……姉!?」
凛は、ライダーとテレビの中のアイドルを見比べる。
「似てる……そういえば、似てる!」
「ええ……まあ、姉妹ですから。」
「そのお姉さんが、どうしたの?」
「凛が感じた通りに、性格に難があるのです。
凛、桜、申し訳ありませんが、私を住み込みで雇って貰えませんか?」
「雇うって……。
お姉さん達から逃げて来たの?」
「はい。」
「ライダー……。
何のために転生したのよ。」
「今は、もう、凛と桜のためという事にして貰えないでしょうか?」
「はは……。
凄い展開ですね……。
どうしますか?
わたしは、ライダーと一緒に居たいです。」
「反対する理由はないわね。
だって、メデューサが従者に居てくれるなんて、
魔術師としては、破格の条件ですもの。」
「私にサーヴァントの力が残っているのを
知っているのですか?」
「ええ、キャスターとセイバーに聞いたわ。」
「セイバー?
セイバーも、この街に戻っているのですか?」
「ええ、驚くわよ。
士郎と婚約してるんだから。」
「…………。」
「凛、もう一度いいですか?」
「セイバーは、士郎と婚約してるのよ。」
「な、何故、そんな事に!?」
「どうしてだと思う?」
「ま、まさか、セイバーが、士郎に惚れたのですか!?」
「違うわよ。
理由を聞いたら、また驚くわよ。」
ライダーが、目で桜に訴え掛ける。
「実は……日本に居座るために
外国人であるセイバーさんは、衛宮先輩と婚約したんです。」
「ぎ、偽装結婚ですか!?」
「そう。
アイツのデタラメさは、遂に日本を飛び越えたのよ。」
ライダーは、額に手を当て項垂れる。
「この脱力感も、何処か懐かしい……。」
「まあ、私達も少なからず、
ライダーに脱力させられたけどね。」
「それは言わないでください。」
桜が、ライダーに微笑む。
「ライダー、これからもよろしくね。」
「ええ、桜。
よろしくお願いします。」
「わたしからも、よろしく。」
「ええ、凛。
よろしくお願いします。」
また一人、冬木の街にサーヴァントが戻って来た。
遠坂邸の日常も、より一層騒がしくなる。