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No.7779の一覧
[0] 【ネタ完結】Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~[熊雑草](2009/05/16 02:23)
[1] 第1話 月光の下の出会い①[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[2] 第2話 月光の下の出会い②[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[3] 第3話 月光の下の出会い③[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[4] 第4話 月光の下の出会い④[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[5] 第5話 土下座祭り①[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[6] 第6話 土下座祭り②[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[7] 第7話 赤い主従との遭遇①[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[8] 第8話 赤い主従との遭遇②[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[9] 第9話 赤い主従との遭遇③[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[10] 第10話 後藤君の昼休みの物語[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[11] 第11話 赤い主従との会話①[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[12] 第12話 赤い主従との会話②[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[13] 第13話 素人の聖杯戦争考察[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[14] 第14話 後藤君の放課後の物語①[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[15] 第15話 後藤君の放課後の物語②[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[16] 第16話 後藤君の放課後の物語③[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[17] 第17話 天地神明の理[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[18] 第18話 サーヴァントとアルバイト①[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[19] 第19話 サーヴァントとアルバイト②[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[20] 第20話 サーヴァントとアルバイト③[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[21] 第21話 帰宅後の閑談①[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[22] 第22話 帰宅後の閑談②[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[23] 第23話 帰宅後の閑談③[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[24] 第24話 帰宅後の閑談④[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[25] 第25話 深夜の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[26] 第26話 深夜の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[27] 第27話 アインツベルンとの協定①[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[28] 第28話 アインツベルンとの協定②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[29] 第29話 アインツベルンとの協定③[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[30] 第30話 結界対策会議①[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[31] 第31話 結界対策会議②[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[32] 第32話 結界対策会議③[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[33] 第33話 結界対策会議④[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[34] 第34話 学校の戦い・前夜[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[35] 第35話 学校の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[36] 第36話 学校の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[37] 第37話 学校の戦い③[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[38] 第38話 学校の戦い④[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[39] 第39話 学校の戦い⑤[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[40] 第40話 ライダーの願い[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[41] 第41話 ライダーの戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[42] 第42話 ライダーの戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[43] 第43話 奪取、マキリの書物[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[44] 第44話 姉と妹①[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[45] 第45話 姉と妹②[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[46] 第46話 サーヴァントとの検討会議[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[47] 第47話 イリヤ誘拐[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[48] 第48話 衛宮邸の団欒①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[49] 第49話 衛宮邸の団欒②[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[50] 第50話 間桐の遺産①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[51] 第51話 間桐の遺産②[熊雑草](2010/08/27 00:31)
[52] 第52話 間桐の遺産③[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[53] 第53話 間桐の遺産~番外編①~[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[54] 第54話 間桐の遺産~番外編②~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[55] 第55話 間桐の遺産~番外編③~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[56] 第56話 間桐の遺産④[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[57] 第57話 間桐の遺産⑤[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[58] 第58話 間桐の遺産⑥[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[59] 第59話 幕間Ⅰ①[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[60] 第60話 幕間Ⅰ②[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[61] 第61話 幕間Ⅰ③[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[62] 第62話 キャスター勧誘[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[63] 第63話 新たな可能性[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[64] 第64話 女同士の内緒話[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[65] 第65話 教会という名の魔城①[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[66] 第66話 教会という名の魔城②[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[67] 第67話 教会という名の魔城③[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[68] 第68話 幕間Ⅱ①[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[69] 第69話 幕間Ⅱ②[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[70] 第70話 聖杯戦争終了[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[71] 第71話 その後①[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[72] 第72話 その後②[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[73] 第73話 その後③[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[74] 第74話 その後④[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[75] 第75話 その後⑤[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[76] 第76話 その後⑥[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[77] あとがき・懺悔・本当の気持ち[熊雑草](2009/05/16 02:22)
[78] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話[熊雑草](2010/08/27 00:42)
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[7779] 第75話 その後⑤
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/27 00:42
 == Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==



 冬木の街が騒がしい。
 藤村大河と蒔寺楓という魔獣2頭でも、この街は、十分騒がしかった。
 しかし、6月頃に現れた外国人により、更に騒がしい街へと変貌する。
 金髪の王様、紫髪の騎手、青髪の魔女。



  第75話 その後⑤



 事件に関しては、事欠かない。
 5人の内、誰かが必ずと言っていいほど、1日に1回は、騒ぎを起こす。
 特に猫を被っていたキャスターの限界点が決壊し、自己の本性をカミングアウトしたところから、手が付けられない。
 そして、この街には火種だけではなく、注ぐ油も存在している。
 衛宮士郎である。
 常に歩き回る5箇所の火種に油が遭遇すれば煙が上がる。
 火のあるところに煙が上がるのは諺通りである。
 そして、この油は、火種に火が灯っていなくても着火させるから始末が悪い。


 …


 「逃げられました!
  キャスター、貴女の方は?」

 「こっちにも居ないわ!
  あのガキ!」


 士郎を追っての追いかけっこが校内で続いている。
 地の利を有利に事を運ぶ士郎を二人の才女が追い回す。
 そこに凛が猫を被って現れる。


 「どうしたのですか?」

 「リン、良いところに。
  シロウが逃走しました。」

 「行き先に心辺りないかしら?」

 「さあ、分かりませんね。
  何故、彼を追っているのですか?」

 「委員会をエスケープしました。」

 「あのガキ、まだ、一度も出てないのよ!」

 「…………。」

 (二人とも真面目だから……。
  そもそも、士郎を選んだ時点で人選ミスだと思うんだけど……。)

 「少しでもいい加減な性格を直そうと思って
  委員会に入れたのですが……。
  これでは、何の意味もない!」

 「全くよ!
  委員長をしている私の信頼が疑われるわ!」

 (キャスター、委員長なんだ……。
  それにしても……。
  転向当時とは、エライ違いだわ……。
  ・
  ・
  それと士郎が委員会に出なくても信頼は下がらないわ。
  皆、知ってるから……。
  奴のダメさ加減は。)


 セイバーが、腕時計を確認する。


 「キャスター、時間です。
  仕方ありませんが戻りましょう。」

 「そうね。
  他の人を待たせる訳にはいかないわ。」

 (本当に優秀だわ。この二人。)


 セイバーとキャスターが引き上げて行く姿を見送りながら、凛もその場を後にする。


 …


 一方、士郎は、既に校内を脱出していた。


 「アホか、あの二人?
  真面目に委員会なんか出ていられるかってんだ。」


 士郎は、ふてくされながら帰路に着く。
 暫く歩くと士郎の前に2メートルを越す巨漢が現れる。
 黒いスーツを着こなし、髪をオールバックにして後ろで縛り上げている。
 そして、サングラスを掛けた顔が士郎を睨んでいる。


 「…………。」

 (なんだコイツは……。
  ターミネーターみたいな奴だな……。
  ・
  ・
  表現が古いな……。
  でも、あれ名作だし。)


 士郎が無視して通り過ぎようとすると、男は声を掛ける。


 「久しぶりだな、少年。」

 「久しぶり?」


 士郎が振り向いた瞬間、男の強烈なボディブローが士郎に突き刺さる。
 強烈な一撃は、一瞬にして士郎の意識を刈り取る。
 男は、士郎を担ぎ上げると衛宮邸に向かう。
 鍵を力任せに引きちぎり、家に侵入すると天地神明の理を掴む。
 そして、携帯電話で連絡を取ると衛宮邸の前に一台の車が止まった。

 冬木の街から士郎が姿を消したのは、雪の降り始めた初冬の頃だった。


 …


 耳障りな機械の音と妙な浮遊感に士郎は目を覚ます。
 目の前には、先ほどの男が座っている。
 そして、身動きが取り難い。


 「シートベルトしてるからか……。」


 士郎は、ぼんやりと周りを確認する。
 映画で見たような自家用ジェットを思い起こさせる。


 「気が付いたか?」

 「うん、気が付いた。
  ・
  ・
  ここ、どこだ?」

 「飛行機の中だ。」

 「ああ……やっぱり。」

 「…………。」

 「どこに行くんだ?」

 「着けば分かる。」

 「多分、分かんないと思うぞ。
  俺、地理に関しては、地元以外疎いから。」

 「情報通りだな。
  自分の事以外は、興味が薄い。」

 「俺の情報なんて、なんのレア価値もないだろ?」

 「そうでもない。
  実に奇天烈で面白いものだった。」

 「そういう見方もあるか。
  まあ、確かに他人の人生を第3者の立場で見るのは面白いかもな。」

 「…………。」

 「君は、平然と私と話しているが、
  状況を理解しているのか?」

 「してないよ。
  でもさ、連れて来たのあんただろ?
  だったら、俺が喚いても情報入らないじゃん。」

 「普通、慌てたり質問をしないか?」

 「そういうもんかな?」

 「そういうものだ。」

 「あ、そうだ。
  俺、質問したじゃん。
  どこに行くかって。」


 男は、溜息をつくと答える。


 「アインツベルンだ。」

 「アインツベルン?
  イリヤのところか!
  そーかそーか!」


 男は、額に手を当てる。


 「失敗だな。」

 「ん?」

 「お嬢様から驚かすよう託ったのに何のリアクションもない。
  わざわざ誘拐の真似までしたのに……。」

 「期待通りにいかなくて悪いな。」

 「いや、これも情報通りだ。
  我々の斜め上を歩く。」

 「どっから得た情報だよ……。
  で、なんの用で呼んだんだ?」

 「本当に動じない男だ。
  ・
  ・
  お嬢様が、お前に会いたがっている。」

 「随分と急だな。
  確かに外国に家あるから、
  パスポート用意したりして大変で時間が掛かるけど。
  ・
  ・
  ん? 俺、パスポートとか用意してない!」

 「安心していい。
  アインツベルンが安全に密入国させる。」

 「は!?
  密入国!?」

 「その方が手っ取り早い。」

 「そんな訳ないだろ?」

 「もう、手配も済んでいる。」


 男は、士郎にパスポートを渡す。


 「『ドイツ出身:24歳 男
   シロウ・エーミヤ・ヨコヅナ』
  ・
  ・
  誰?」

 「君の偽装パスポートだ。」

 「誰だ! この写真!
  しかも、なんだ……ヨコヅナって!」

 「安心しろ。
  外国人には日本人の顔は、皆同じに見える。」

 「いや、だったら出身日本にしようよ!
  微妙にヨコヅナなんて入れて日本をアピールしなくていいからさ!」

 「すまんな。
  作った者も外国人なので先入観があってな。」

 「それにパスポートなんていらないだろ!
  俺、密入国するんだから、必要なのは偽の戸籍だろ!」

 「何だ少年?
  やる気満々じゃないか。」

 「違うわ!」

 「今から手配する。」

 「名前からヨコヅナは外せよ!」


 士郎を乗せた飛行機は、アインツベルンのある近くの国の飛行場へと向かった。


 …


 飛行場に着き、車に乗り換える。
 途中の街で士郎は、男に話し掛ける。


 「ちょっと、いいか?
  お宅さ……バーサーカーかヘラクレスでいいんだよな?」

 「この図体だからな。
  いずれ気付かれると思っていた。」

 「いや、気絶させられたパンチの威力に覚えがある。」

 「すまんな。」

 「いいよ、イリヤの悪戯だと思うから。
  とりあえず、連絡入れないと。」

 「なら、藤村雷画に電話を入れるといい。」

 「またか……まさか、国際的なマフィアじゃないだろうな。」

 「安心しろ。
  雷画翁は、お嬢様をお気に入りにしているだけだ。」

 「そうだった。
  じゃあ、電話させてくれないか?
  ・
  ・
  そういえば、俺、国際電話掛けた事ないや。」

 「この携帯を使うといい。」


 バーサーカーが、携帯電話で国際電話を利用し電話を掛けてくれる。


 (携帯操作するの違和感あるな……。
  でも、ボディガードってのになるんだろうな。
  凄く合ってる気がする。)


 士郎は、携帯電話を受け取る。


 「ん? うわ!?
  これ、普通の受話器ぐらいの大きさだ!
  ・
  ・
  仕方ないか……。」


 士郎は、呼び出し音を聞きながら雷画が出るのを待つ。
 受話器に藤村組の若衆が出たので、取り次いで貰い雷画が出るのを再び待つ。


 「ん? 繋がった。」


 キーンという耳鳴り音から受話器を離す。
 電話には、藤ねえが出た。


 『士郎! どこに居るの!
  委員会を放り出して!
  セイバーちゃんとキャスターちゃんに迷惑掛けて!』

 (アイツら、藤ねえに泣きついたのか。
  無駄な事を……。
  俺、もう日本に居ないし。)

 『私とセイバーちゃんのご飯をどうするの!』

 (それは関係ないだろ……。)

 『それで、どこに居るの?』

 「え~と……XXXって国知ってるか?」

 『知らないわよ!』

 「その国のYYYって街を知ってるか?」

 『国自体知らないのに街なんか分からないわよ!』

 (いい加減、怒りを解いてくれないかな?)

 「そこにセイバーも居るんだろ?
  地図開かせて。」

 『分かった。
  ちょっと、待って。
  ・
  ・
  いいわよ。』

 「今、そこに居る。」

 『…………。』

 「…………。」

 『えーーーっ!?
  なんで!?
  どうして!?』

 「簡単に言うと、帰りにとっ捕まって連れて来られた。」

 『誘拐じゃない!』

 「そうとも言うな。」


 電話の向こうでバタバタしている。
 『大河! 替わってください!』とセイバーの声が聞こえる。


 『シロウ!』

 「あ、セイバー。」

 『何をしているのです!』

 「話すの面倒臭くなるから、
  スピーカーのスイッチ入れてくれないか?
  藤ねえも雷画爺さんも居るんだろ?」

 『分かりました。
  ・
  ・
  どうぞ。』

 「実はだな。
  セイバーとキャスターに追われて、
  外国まで逃走を図った次第だ。」

 『我々のせいですか!?
  そこまで委員会に出るのが嫌だったのですか!?』

 「俺、やる時は、思い切ってるから。」

 『士郎! 嘘つかない!
  さっき、誘拐って言ったでしょ!』

 「そうだった。
  セイバー、それ嘘。
  誘拐されたのが本当なんだ。」

 『事態が悪化したではありませんか!』

 「はっはっはっ。
  よくある事だ。」

 『ありません!
  ・
  ・
  それより、本題を話して頂けないでしょうか?』

 「え~とだな。
  誘拐というのは、俺の運搬手段なんだ。」

 『はい?』

 「犯人は、イリヤのSP。
  つまり、ボディガードだ。」

 『イリヤスフィールの仕業でしたか。』

 「安心したか?」

 『いえ、安心は出来ません!』

 「それでさ。
  ボディーガードって、誰だと思う?」

 『知り合いなのですか?
  セラには勤まらないような気がしますが。』

 「なんとバーサーカーだ。」

 『バーサーカー!?』


 向こうでは、藤ねえと雷画が、バーサーカーとは誰かと騒いでいる。
 しかし、士郎は、セイバーが何とかするだろうと無視して話す。


 「俺も、今、やっと連絡入れたところで事情はこれからなんだ。」

 『そうですか。』

 「外国に連れて来るぐらいだから、
  かなりの日数居る事になると思うんだ。」

 『何故です?』

 「まず、外国に行くなんて藤ねえが許さないだろ?」


 『当たり前よ!』という声が響く。


 「そして、俺に帰る手段はない。
  つまり、用件が終わるまで開放されない。」

 『なるほど。』

 「そこで、雷画さんにお願いだ。」

 『替わります。』

 『オウ! 士郎坊!
  楽しい事になってるじゃねぇか!』

 「やっぱり?」

 『遂に日本を飛び出したな。』

 「自分の意思じゃないけどね。」

 『で、俺への頼みって何だ?』

 「俺、このままだと学校卒業出来ないんだよ。
  日数も単位も。」

 『で?』

 「偽装工作してくれないかな?」

 『ああ、いいぜ。』

 『!!』


 電話からは、向こうのやり取りがダイレクトで聞こえて来る。
 かなりの音量らしい。


 『雷画さん!
  それはいけない!』

 『そうよ、お爺様!
  なんで、士郎にはそんなに甘いの!』

 『男には旅をさせるもんなんだよ!』

 『誘拐ではありませんか!』

 『それに偽装工作って!
  なんで、それを許しちゃうのよ!
  ちゃんと学校に出て卒業させるの!』

 『しつけーな。
  2/3以上出てんだから、いいじゃねぇか。』

 『~~~っ!
  士郎が、あんなになっちゃったのは、
  お爺様のせいなんだから!』

 『だとしたら、俺の育て方に間違いはない!』

 『雷画さん!』


 士郎は、無視して携帯電話のスイッチを切る。
 そして、バーサーカーに向かい親指を立てる。


 「バッチリだ!」

 「纏まった気がしないのだが……。」

 「誘拐までして、気に掛ける事じゃないだろ?」

 「お嬢様の見立ては正しい……。」


 バーサーカーは、苦笑いを浮かべると携帯電話を受け取り車を出す。
 向かう先は、イリヤの居るアインツベルン本拠地。


 …


 街中を離れ、車は郊外を進んで行く。
 鬱葱と茂る森は、冬木にあったイリヤの城を思い出す。
 まだ、随分先にあるに違いないのに冬の城の屋根が徐々に見え始める。


 「凄いな~。
  外国って土地余ってんのか?」

 「そういう訳ではない。
  歴史の長い一族だ。
  初めから所有していたと考えるべきだろう。」


 車は、一番大きな城を通り過ぎ、更に奥へと進む。


 「あれ? 通り過ぎちゃったぞ?」

 「…………。」


 車は、城の真裏の日当たりの悪い建物の前に止まる。
 その建物も一般の家と比べれば豪華な作りだが、日当たりの悪さと城を比べると一回りも二回りもみすぼらしく見える。


 「ここだ。」

 「ちょっと、安心した。
  イリヤは、一般庶民に近い暮らしをしてるみたいで。」

 「そういう捉え方も出来るな。
  しかし、お嬢様の功績を考えれば、
  この住まいは粗末過ぎる。」

 「…………。」


 士郎は、バーサーカーに案内され建物に入る。
 石造りの建物は、内装の所々が痛んでいる。
 そして、二階の奥の部屋に通される。


 「士郎……。」

 「ここ暖かいな。
  ・
  ・
  凄いな、本物の暖炉だ。」

 「どうしたの!?」

 「拉致された……。」


 イリヤは、ベッドの上で驚いている。
 昼間から寝ているイリヤに違和感を覚えつつも士郎は、イリヤに笑い掛ける。


 「そうだ、バーサーカー。
  セラにお茶の用意させてくれ。
  俺、緑茶がいい。
  イリヤは?」

 「わたしは……。」

 「やっぱりなし。
  お腹減ったから、イリヤとご飯にする。」

 「……君は、客人だよな?」

 「いいんだよ。
  セラには、貸しがあるんだから。
  それにイリヤは、俺に絶対服従だから、
  セラの一つや二つ提供したってバチは当たらないって。」

 「相変わらずですね、衛宮様。」

 「おお、セラ。
  小皺増えたか?」


 セラのグーが、士郎に炸裂する。


 「増えてません!」

 「まあ、いいや。
  セラ、ご飯。」

 「……お嬢様は、さっき、いただいたばっかりです。」

 「イリヤ、セラが虐めるんだ。
  俺は、お腹が減って死んでしまうよ。」

 「衛宮様!」


 イリヤは、クスクスと笑っている。


 「いいわ。
  仕方ないから、もう一度、食事をしてあげる。」

 「イリヤは、優しさに溢れてるな~。
  どこかの王様や魔女や虎や悪魔とは、大違いだ。」

 「なんなの? そのバラエティーに富んだ例えは?」

 「冬木の街は、大賑わいでな。
  食事しながら話してやるよ。」

 「楽しみにしているわ。」


 一階に場所を移して食事を始める。
 士郎の話でイリヤは、終始笑い続けている。
 セラとバーサーカーは、半ば呆れつつも苦笑いを浮かべている。
 そして、夕暮れ時、話し疲れたイリヤが、先に眠りに着いた。


 「相変わらず、トラブルを巻き起こしているようですね。」

 「自重しているつもりなんだが、
  周りが勝手に凄い事になる。
  ・
  ・
  アインツベルンの緑茶、美味しいな。」

 「いいものを取り寄せてますから。」

 「で、俺を呼んだ理由は?」

 「お嬢様が呼んだのですよ。」

 「嘘はいけないな。
  俺を呼んだのは、セラだろ?
  イリヤの驚いた顔を見れば分かるよ。」

 「…………。」

 「なんか話しづらい事でもあるのか?」

 「衛宮様……。
  ここに留まって貰えませんか。」

 「どのぐらい?」

 「お嬢様が亡くなるまでです。」

 「……さすがにそれはちょっと。」

 「そう長い間ではありません。」

 「やっぱり。
  なんかおかしいと思ったんだ。
  昼間なのに寝てたし、食事も進んでなかった。
  病気なのか?
  だったら、根源への道が開いたんだし、幾らでも治せるだろ?」

 「病気ではありません……寿命です。」

 「寿命?
  あんな若いのに?」

 「私達は、作られた命ですから。」

 「詳しく聞かせてくれるかな?」


 セラは、アインツベルンのホムンクルスの話を始める。
 作られた生命体。
 そして、聖杯戦争のために作られた魔術刻印で出来た命。
 士郎は、複雑な表情で話を聞く。


 「根源の力で、どうにかならないのか?」

 「出来ません。
  道が開いても、我々は、まだ使いこなせていないのです。
  そして、根源への道の鍵は、お嬢様しか開けない。
  ・
  ・
  だから……お嬢様が死ぬ前に、お嬢様に無理強いをしてでも
  道を開かせて成果を貪ろうとアインツベルンは考えています。」

 「イリヤは、それを承知で道を開き続けている!」


 バーサーカーが、手の中のカップを握り潰す。


 (なるほど。
  バーサーカーのやり残しは、イリヤに仕える事だったんだ。
  『お嬢様』から、『イリヤ』に切り替わるのはパパモードってところか?)

 「だから……せめて、お嬢様の近くには、貴方が居て欲しいのです。」

 「私からも頼む。」


 セラとバーサーカーが頭を下げる。
 士郎は、頬をポリポリと掻く。


 「多分だけど、もう、あらゆる手を尽くしたって感じかな?」

 「……はい。」

 「リズは?」

 「リズは、お嬢様と強く結びついています。
  だから、お嬢様が弱ればリズも弱ります。
  リズもまた、動けない身です。」

 「そうか。」

 「願いを聞き入れてくれないでしょうか?」

 「条件がある。」

 「出来る事なら、何でも。」

 「留まってもいいからさ。
  もう少し足掻かないか?」

 「?」

 「直ぐには、寿命は尽きないんだろ?」

 「ええ。」

 「だったらさ。
  足掻こう。
  俺の悪足掻きに付き合ってくれるなら、
  留まってもいい。」

 「……分かりました。
  しかし、私達は、一度、諦めています。
  だから……。」

 「いい。
  分かってる。
  アイデアが出ないんだろ?
  そこは、俺がなんとかする。」

 「少年、いい策でもあるのか?」

 「ある!
  キャスターに聞く。」

 「根本の解決にならないのでは?」

 「分かってる。
  一気に解決を図っても成功しないだろう。
  まず、俺達は、手持ちの情報が少な過ぎる。
  情報集めが必要だ。
  なら、その集め方のアドバイスを専門家に貰う方が間違いない。」

 「しかし……。」

 「セラ。
  俺とお前の違いが分かるか?
  お前は、人に頼るのに躊躇があるんだよ。
  俺は、躊躇しない。
  相手を信用しているからな。」

 「衛宮様……。」

 「それに相手に迷惑を掛けるのも気にしない。」

 「それは……。」

 「相手が被害を被ろうが関係ない。」

 「間違ってます!」

 「いいんだよ。
  俺は、そういう生き方して来たんだから。
  皆、許してくれる。
  士郎だから仕方ない!
  衛宮は、馬鹿だから仕方ないってな!」

 「決して威張る事ではないですよ……。」

 「まあ、そういう訳だ。」

 「さっぱり、分かりません!」

 「バーサーカー、携帯!」


 バーサーカーが、勢いに飲まれて携帯電話を渡す。
 士郎は、先ほど覚えた国際電話の掛け方で、キャスターの携帯へと電話する。


 『もしもし、どなたでしょうか?』

 「俺だ。」

 『坊や! 何で、委員会に出ないのよ!』

 (何で、『俺だ』で伝わるのでしょうか?)

 「俺の意思は、誰にも曲げられん。」

 『何の理屈よ!』

 「それより、聞きたい事があるんだ。」

 『嫌よ。
  そんな面倒な事。』

 「じゃあ、キャスターが卒業するまで、
  学校で問題を起こさない事を約束する。」

 『…………。』

 「…………。」

 『いいわ。
  でも、それだけじゃ信用出来ないわ。』

 「分かった。
  セイバーにお前の作った呪い付きの契約書に血判を押させる。
  破ったらセイバーを好きにしていい。
  お前の趣味の服を着せるのも構わない。」

 『乗ったわ。』


 セラが、士郎に耳打ちする。


 「いいのですか?
  そんな約束をして。」

 「構わない。
  学校で問題は起きない。
  俺は、キャスターが卒業してから日本に帰るから、
  問題は、絶対に起きない。」

 (詐欺じゃないですか……。)


 士郎が、再び電話での会話を再開する。


 『それで、聞きたい事って?』

 「少し長くなるぞ。」


 士郎は、アインツベルンでの事情をキャスターに話す。


 『何で、貴方は、いつもそういう事に巻き込まれるのよ?』

 「なんかの呪いだな。」

 『後、謀ったわね。
  貴方、私が在学中は、学校に居ないじゃない!』

 「俺は、勝てる条件でしか要求を呑まない。」

 『仕方ないわね……。
  聖杯戦争を戦ったよしみでアドバイスしてあげるわ。』

 「助かる。」

 『まず、時間を確保しなさい。
  イリヤスフィールに無理をさせない事。
  根源への道を開くなんて直ぐ止めさせなさい。』

 「俺も、そう思ってる。
  それでさ、鍵の所有者を移すのが手っ取り早いと思ってんだけど。」

 『は?
  根源への道を手放すの!?』

 「そう。
  悪い言い方だけど、アインツベルンは、
  それでイリヤに関心がなくなると思うんだ。
  つまり、呈のいい使い捨てだ。
  それをあえて、こっちから提案する。
  根源への道より、イリヤが大事だ。」

 『貴方、世界中の魔術師を敵に回す言い方よ。』

 「俺、魔術師じゃないからいい。
  それにそういう細工をしてんだろ?」

 『何で、知ってんのよ。』

 「なんとなくだよ。
  所有者を変更出来ないと子孫に受け継がせられないだろ?
  これを裏切りの防衛策にしてると思ったんだ。
  つまり、所有者変更は、キャスター、遠坂、アインツベルンの
  3者の同意がないと出来ないようにする。
  そうすれば、3者の間で争いは起きない。
  例えばアインツベルンが、キャスターに所有者変更を認めないと
  キャスターの鍵は、使用不可能になる。
  当然、キャスターは、次のアインツベルンの所有者変更を認めない。
  これでアインツベルンの鍵も消滅する。
  手紙には書いてなかったが、こういう事が出来るんじゃないか?」

 『正解。
  その細工をしてるわ。
  本当は、暫く様子を見てから話そうと思ったんだけど。』

 「裏切り行為を確認するために?」

 『ええ、遠坂姉妹は兎も角。
  アインツベルンは、裏切りそうだったから。』

 「結果、予想通りじゃないか。
  アインツベルンの考えは、そのままズバリになりそうだ。」

 『そうね。
  カードは、早めに切って置く方が良さそうだわ。
  その説明と一緒に所有者を変更してしまいなさい。』

 「分かった。」

 『後、もう一つ。
  ホムンクルスを作るなら設計図と過程を記した記録があるはずよ。
  それも提供させる事を忘れないで。
  情報がなければ、どうしようもないでしょう。』

 「そうだな。
  助かったよ。」

 『何かあれば、連絡しなさい。
  出来る限り手伝うわ。』

 「ありがとう。
  なんか優しいな、今日のキャスター。」

 『……使い捨てって言葉、好きじゃないのよね。』

 「同感だ。
  じゃあ、所有者変更の時に、また電話するよ。
  多分、明日か明後日。」

 『分かったわ。
  ・
  ・
  ストップ!
  バーサーカー、居るわよね?』

 「居るけど?」

 『替わって。』

 「?」


 士郎は、携帯電話をバーサーカーに返す。


 「キャスターか。
  替わったが?」

 『……素直に謝るわ。
  ごめんなさい。』

 「試してみないと分からない事だった。
  それにイリヤの体の事は、知らされていない事だった。」

 『理論と方法の確立は、間違っていなかったわ。
  ただ、座標を示す神殿とそれを繋ぐ鍵を安定させるのに
  あれだけ莫大な魔力が必要になるとは思わなかったの。』

 (遠坂が言ってた鍵の制御の難易度の話か?
  関係ないからって、話半分で聞くんじゃなかったな……。)

 「キャスターの力を持ってしても……か?」

 『ええ。
  私でも神殿の制御をするのは、3分が限界よ。
  普通の魔術師なら瞬間的に開くのがやっとね。』

 「そうか……。」

 『その3分を利用して徐々に神殿を改造するつもりだけど、
  今は、制御出来ない状態と思ってくれる?』

 「心得ている。
  安定して使えるのは、どれぐらい掛かりそうなのだ?」

 『4,5年って、ところかしら?』

 「……間に合わんな。」

 『…………。』

 「…………。」

 『アーチャーの言葉を覚えてる?』

 「ああ。」


 …


 (『鍵が出来るなら心配なかったか……。
   イリヤスフィールの事が心配だったのだが、
   私は、これで安心して旅立てる。』

  『何の事だ?』

  『老婆心と思ってくれ。
   バーサーカー、これから、どうするのだね?』

  『…………。』

  『もし、鍵を使用しても、どうしようもない状態に陥ったら、
   小僧を使うといい。』

  『?』

  『アイツは、あの世界のキーパーツらしい。
   何かを起こす存在だ。
   そのために力も与えた。
   本人は、嫌がっていたがな。』

  『よく分からないな。』

  『……実は、私も分からないのだ。』

  『?』

  『ただ、大事な人のアドバイスなので
   これ以上、関われない私は、身近な人に託そうと思ってな。
   それをキャスターとバーサーカーに託す事にした。』

  『何で、私まで!?』

  『あれは、一人では荷が重いだろう?』

  『…………。』)


 …


 『理由は分からないけど、
  アーチャーは、イリヤスフィールの事を危惧していたのね。』

 「……うむ。
  それで衛宮士郎を迎えに行った。
  ・
  ・
  結果、事態が動き出した気がする。
  キャスターに連絡が取れたのも必然という気がして来た。」

 『そう。』

 「何か分かれば頼らせて貰う。」

 『……ええ。』

 「では、失礼する。」


 バーサーカーが、携帯の電源を切る。


 「なんかアーチャーの名が出て来たけど?」

 「本人が居ない今では、頼れない事だ。」

 「「?」」


 士郎とセラは、疑問符を浮かべる。


 「まあ、いいや。
  イリヤのお爺様でいいのかな?
  面会を頼むよ。」

 「そうだな。
  イリヤに無理はさせられない。」

 「連絡は、入れて置きます。」

 「では、出来るとこからコツコツと。」


 事態は、少しだが動き出す。
 そして、士郎とアインツベルンの最高責任者との面会が明日に決まった。


 …


 翌日。
 イリヤの居る別邸から、本拠の城へと車で移動する。
 車には、士郎、イリヤ、セラ、バーサーカーが乗っている。
 直に車が止まり、士郎は天を突く様な城に感嘆の声をあげる。


 「でかいな……。」

 「衛宮様、こちらです。」


 セラを先頭に、城の中に入る。
 複雑に入り組む城をセラは、迷わずに歩いて行く。
 そして、大きな扉の前で、セラは、侍女に面会を申し入れる。
 昨日の段階で連絡が入っていたため、面会は直ぐに行われる事になった。
 格式高い部屋に足を踏み込むと、士郎は、場違いなところに来たのではと眩暈を覚える。
 そして、赤い絨毯を進むとアインツベルンの責任者であるイリヤの祖父と対面する。


 「ご機嫌如何でしょうか、お爺様。」

 「挨拶は、いい。
  用件を聞こう。」

 (なんかイリヤに冷たいな……。)


 イリヤの祖父は、イリヤを冷たくあしらうと用件を促す。


 「俺は、衛宮士郎と言います。」

 「切嗣の倅か。」

 「養子です。」

 「どっちでもいい。」

 「単刀直入に言います。
  イリヤに根源への道を開かせるのを辞めさせて貰えませんか?」


 イリヤが驚いた顔をして、士郎を見る。
 そして、直ぐに士郎へ反論する。


 「士郎! 余計な事はしないで!」

 「それの言う通りだ。
  我々は、限りある時間で成果を搾り取らねばならない。」

 「でも、このまま無理をすれば、
  イリヤは、死んでしまいます。」

 「そのために生まれたのだ。」

 「…………。」

 「イリヤには、もっと価値があります。」

 「私にはない。」

 (あくまで成果を優先する……。
  魔術師としては、当然か。
  それでも納得出来ないのが、ここに三人居るんだよね。)

 「では、イリヤにこれからも無理をさせると?」

 「当然だ。」

 「俺は、イリヤに生きていて欲しいです。」

 「貴様の意思など、どうでもいい。」


 士郎の意見は、一向に聞き入れられる気配はなかった。
 士郎は、キャスターと話した駆け引きをする事を決意する。


 「では、取り引きをしませんか?」

 「取り引き?
  取り引きとは、価値あるものを計りに掛けねばならんのだぞ。
  貴様如きに用意出来るのか?」

 「『鍵の所有者の変更』。
  それで、如何ですか?」

 「「!」」


 イリヤと祖父の顔が驚愕に変わる。
 イリヤは、恐怖に。
 祖父は、狂喜に。


 「出来るのか!?」

 「出来ます。」

 (やめて……士郎……。)

 「方法は!?」

 「言えません。
  まだ、取り引きは成立していませんから。」

 (それが……成立したら……。
  わたしは……わたしは……。)

 「いいだろう。
  取り引きに応じてやろう。」

 (……いらない…存在……に…なっちゃう……。)


 イリヤは、俯いたまま動かなくなってしまう。


 「分かりました。
  方法は……。
  ・
  ・

 (わたし……。
  いらない存在になっちゃった……。
  お爺様は、もう、わたしに興味がなくなっちゃった……。)
  ・
  ・

  今度は、こちらの条件です。
  まず、イリヤに無理をさせない事。
  ・
  ・

 (なんで?
  なんで、わたしからわたしの価値を取っちゃうの?
  士郎……なんで?)
  ・
  ・

  そして、イリヤには不自由なくさせる事。
  ・
  ・

 (そんなのいらない……。
  わたしは……わたしは……。
  自分の価値が欲しいの……。
  必要とされていたいの……。)
  ・
  ・

  最後にイリヤの出生の秘密と経過の記録をいただきたい。
  ・
  ・

 (……分からない。
  ……分からない。
  分からないよ! 士郎!)
  ・
  ・

  条件を飲んでいただけますか?」

 「容易い……。
  いいだろう。
  それは、用済みだ。」


 イリヤは、終始俯いたままだった。
 士郎は、直ぐ様、キャスターに連絡を入れる。
 キャスターは、凛に連絡を入れ所有者変更の準備を整える。
 そして、イリヤは、言われるがままアインツベルンの別のホムンクルスに所有権を譲渡した。


 「好きにするがいい。」


 感情の篭らない祖父の言葉に、イリヤは、呆然と反応し挨拶をする。
 イリヤ達が、部屋を後にするとイリヤの感情は決壊した。


 「なんで!?
  なんで、あんな事言うの!?」


 イリヤは、大粒の涙を流して士郎を叩く。


 「わたしは、まだ、やれた!
  頑張れたのに!」


 イリヤは、士郎を叩き続ける。


 「わたしは!
  わたしは!
  必要とされる存在で居たかったのに!
  ・
  ・
  これで、わたしは!
  わたしは……。」


 イリヤは、その先の言葉を続けられなかった。
 言葉にすると自他共に認めてしまうようだったために。


 「俺が必要としている。」


 士郎が、イリヤを抱きしめる。


 「俺は、イリヤが居ないとイヤだ。
  死んじゃイヤだ。
  生きていてくれ。」


 士郎の温かい体温がイリヤに伝わる。
 今度は、別の涙が目から溢れる。


 「…………。」

 「本当に……。
  わたしが必要?」

 「必要だ。」

 「なんの価値もないのに?」

 「居てくれるだけでいい。
  イリヤは、価値なんて言葉で表せない。」

 「長くは居られないよ……。」

 「それでもいい。
  俺が、なんとかする。」

 「どうするの?」

 「なんとかする。」

 「……答えになってないよ。」

 「…………。」

 「俺は、デタラメだからな。」

 「うん、そうだね。」


 そして、自分のために来てくれた少年に微笑み掛ける。


 「わたしの人生……。
  士郎に任せるわ。」

 「ああ、任された。」


 士郎とイリヤは、再び強く抱き合った。


 …


 別邸に戻るとイリヤは、また、眠りについてしまった。
 泣き疲れた事もあるだろうが、休養を欲しがる体の眠りのサイクルが短くなっているためだ。
 セラが、イリヤをベッドに寝かしつけると士郎とバーサーカーの居る一階に戻って来る。


 「お嬢様は、お休みになりました。」

 「そうか。
  辛かったもんな。
  もっと、優しい言い方をしてもいいだろうに。」

 「それが魔術師という生き方です。」

 「少年……いや、士郎と呼ばせて貰おう。
  よくイリヤを受け止めてくれた。」

 「俺、イリヤ好きだし。」

 「私も見直しました。」

 「気持ち悪いな、セラ。」


 セラのグーが、士郎に炸裂する。


 「褒めているのです!」


 バーサーカーは、やれやれと溜息を吐く。


 「さて、資料は?」

 「先ほど、頂いてまいりました。」


 セラは、ドアの近くに立て掛けてある旅行用の大きな鞄を指差す。


 「仕事が早いな。」

 「アインツベルンのメイドですので。」

 (どんな理屈だろう?)

 「これから、どうするのだ?」

 「この資料を読まなきゃ。」

 「そうですね。」


 旅行用の大きな鞄に詰め込まれた資料は、途方もない試練を予感させる。


 「あんまりやりたくないけど、
  俺も、遂に勉強する時が来たな。」

 「どういう事ですか?」

 「セラ、俺を魔術師にしてくれないか?」

 「は?」

 「だから、その資料を読めるようにして、
  魔術も使えるようにするんだよ。」

 「本気ですか?」

 「そうしなきゃ、イリヤは救えない。」

 「本気のようですね。
  ・
  ・
  お嬢様の命が懸かっています。
  手加減は出来ませんよ。」

 「……お手柔らかに。」


 そして、ポンとバーサーカーが、士郎の肩を叩く。


 「私は、武術を教えよう。」

 「え?
  ・
  ・
  関係ないじゃん?」

 「正義無き力に意味がないように力無き正義もまた無力。
  しっかり、鍛えてやるぞ。」

 「なんでさ?」


 その日から、士郎は、3日に一度のペースで死に掛ける事になる。
 とりあえずの初日、セラにより開かれた魔術回路のスイッチで、士郎は死に掛けた。


 …


 士郎が去った冬木に手紙が届く。
 宛先は、衛宮アルトリア様。
 実に3ヶ月ぶりである。

 セイバーは、衛宮邸の一人暮らしにも慣れ、学生生活を桜花して士郎の事などスッキリ忘れていた。
 いつも通り早起きして、掃除洗濯をこなす。
 朝食は、藤村組にあがり込む。
 その過程で、いつものように新聞受けを覗き込む。


 「おや、手紙ですね。
  誰からでしょう?
  ・
  ・
  衛宮士郎?
  ・
  ・
  シロウ!?」


 セイバーは、ガサガサと手紙を開き中身を取り出す。


 「うわ!」


 セイバーは、吃驚して手紙を放り投げる。
 そして、再び手紙を拾い上げる。


 「驚いた。
  何で、手紙に血がべったりと付いているのでしょうか?
  転生してからは、終ぞ拝んでいなかったので慌ててしまいました。
  え~、なになに……。
  ・
  ・
  何で、こんな依れてミミズが這い蹲ったような字に……。

  『魔術関係の事だから、手紙にする。
   藤ねえや雷画爺さんには黙っていて欲しい。
   俺は、今、死に掛けている。』

  相変わらず、奇を衒った書き方ですね。
  死に掛ける訳ないではありませんか。

  『なんの因果か、魔術師の修行を開始した。
   先生は、セラだ。』

  何故、セラ?

  『セラは、容赦という言葉を知らない。
   と、いうか、頭のネジが一本外れてるとしか思えないドSっぷりだ。
   言葉の説明より、体で覚え込ませる。
   魔力の生成量が少ない俺は、魔術回路を鍛えないと生成する魔力量が上がらんらしい。
   だから、死ぬ寸前まで魔力を行使し続け、
   魔力が切れたら天地神明の理で外から強引に魔力を注入して、
   再び、魔術を発動させるという荒業を行使させられている。
   この修行方法合っているのか?』

  間違っています。
  廃人になりかねないですよ。

  『最近は、使用する魔術回路を二分して、一日置きに焼き切れる寸前まで行使している。
   本当に合っているのか?』

  だから、間違いです!

  『魔術の修行が終わると武術の修行に入る。
   先生は、バーサーカーだ。』

  ほう、良い師を見つけましたね。

  『バーサーカーは、容赦という言葉を知らない。
   と、いうか、頭のネジが一本外れてるとしか思えないドSっぷりだ。
   言葉の説明より、体で覚え込ませる。
   手加減を知らないバーサーカーとの実戦が気絶するまで続けられる。
   だから、死ぬ寸前まで体力を行使し続け、
   体力が切れたら修行が終わるという荒業を行使させられている。
   この修行方法合っているのか?』

  何故、どちらも手加減がないのでしょうか?

  『夜は、セラとイリヤに魔術の知識を教わっている。
   俺は、初めて勉強で安息を覚えるという無我の境地を体験した。』

  ありえない状況ですね。
  本当に死ぬんじゃないですか?
  ここからですね。
  血がべっとりとついて読めません。
  吐血ですかね……。」


 セイバーは、胸で十字を切るとキャスターに見せるため、鞄に手紙を仕舞い込んだ。


 …


 修行とホムンクルスの資料の解析。
 これが同時に行われる。
 酷使し続けられる精神と肉体は、悲鳴を上げ続けている。
 それでも辞める事は出来ない。
 自分から言い出した事だし、イリヤとの約束だから。
 セイバーに手紙を出してから、6ヶ月が経とうとしている。
 季節は、夏になろうとしていた。


 「衛宮様、大したものです。
  もう、魔術書は全て読めますね。」

 「本当、士郎凄い!」

 「俺、罰ゲームが絡むと頑張るタイプなんだ。
  セラのテストを合格しないと翌日の修行が倍になる。」

 (はは……。
  士郎、倍になってもならなくても、
  死に掛けるまで、セラはやめないわ。
  わたしって、容赦されてたんだ……。)


 イリヤは、真実を知ってセラに少し恐怖を覚えていた。


 「魔力量も著しく増えています。」

 「いや、あれだけやって増えなかったら怒り狂うって。」

 「じゃあ、修行のやり方は合ってるんだね。」

 「はい。
  間違いありません。
  私が教えているのですから。」


 セラは胸を張るが、きっと間違っている。


 「俺の魔力量って、どれぐらいなんだ?」

 「さあ、ここにはホムンクルスしか居ませんから、
  比較のしようがありません。
  しかし、並みの魔術師よりはあると思いますよ。
  このまま、修行を続ければ、
  遠坂凛のような優秀な魔術師にも匹敵するでしょう。」

 「このままのペースで修行をする気か?
  俺は、イリヤの体を治せればいいんだぞ。
  それぐらいの魔術師で十分だ。
  ・
  ・
  さてと……そろそろ本格的に事を起こさんか?」

 「起こそうにも衛宮様は、投影しか出来ないではないですか。
  その投影も相変わらず魔術回路を酷使しますし。」

 「そうだな。
  前みたいに焼き切れる寸前ってとこまでならなくなったけど、
  連続で同じ回路は使えないな。」

 「アーチャーみたいに複製するなら、兎も角。
  士郎の投影は、空想したものから作るから、
  回路にとてつもない負担が掛かるのよ。」

 「しかし、投影魔術の精度とスピードは、
  見違えるほど良くなりました。」

 「よくなって貰わんとな。」

 「あ……。
  セラ、ごめん。」


 イリヤが、ふらりと倒れ掛け、士郎が慌てて支える。


 「大丈夫です。
  お休みになりましょう。」

 「イリヤ、おやすみ。」

 「うん、おやすみ。」


 イリヤは、眠りに着く。
 この数ヶ月で、起きている時間も大分短くなった。


 「そろそろ限界かもしれない。」


 バーサーカーが呟く。


 「過程や理論は、資料を目に通して理解した。
  もう一度、専門家の知識を聞いてみよう。
  今なら、キャスターと普通に話せる自信がある。」

 「そのキャスターに来て貰う事は出来ないか?」

 「多分、アインツベルンが許さない。
  ここに滞在して分かったけど、セキュリティが半端じゃない。
  キャスタークラスの魔術師は、きっと、侵入を許してくれない。」

 「そうであったな。」


 セラが戻って来る。


 「お休みになられました。」

 「ちょうどいい。
  今から、キャスターに電話しようと思って。」

 「ええ、お願いします。」


 士郎は、キャスターに電話を掛ける。


 『あら、坊や。
  手紙読んだわよ。
  生きてたの?』

 「死んでたまるか。」

 『で、今度は何?』

 「ホムンクルスの寿命の延ばし方について。」

 『説明出来るの?』

 「それだけを勉強してたからな。
  携帯の電池、大丈夫か?
  多分、エンドレスでしゃべると思うけど。」

 『そんなに?
  ちょっと待って。
  ・
  ・
  アダプタ付けたから、いいわよ。』


 士郎とキャスターは、3時間近く話し続ける。
 セラは、9ヶ月の間で知識をつけて、神代の魔術師と対等に会話をする弟子が少し誇らしかった。


 「どうかな?
  イリヤは、そういったホムンクルスみたいなんだ。」

 『難しいわね。
  明らかに人間より高位の生命体よ。
  ホムンクルスを作る前なら、未だしも、
  もう成長してしまっているんでしょう?』

 「ああ。」

 『打開策は、思い浮かばないわね。』

 「そうか。
  ちなみにホムンクルスを作る前なら、
  どうやって対応するんだ?」

 『貴方、DNAって分かる?』

 「あの塩基のなんとかってヤツ?」

 『そう、それ。
  その遺伝子の情報に細胞分裂の回数とか
  寿命に関する情報が入ってるの。』

 「よく分からないけど。
  そういったものと頭に入れとく。」

 『でも、それ以上に重要なのが魂の設計図。
  この魂と呼ばれるものが、DNAと結びついて作り上げる。
  アインツベルンは、聖杯の器としてイリヤを作り上げるために
  魔術刻印そのもので体を作り上げている。
  当然、設計図に不一致が発生するわ。
  ・
  ・
  魔術刻印にDNAが耐えられないか……。
  魂の設計図が魔術刻印を受け付けないか……。
  多分、そこら辺で摩擦が起きる。
  イリヤが存在している以上、原因は、調べれば分かるはずよ。』

 「なるほど。
  それで、作る前に補強なり修正なりする訳か。」

 『ええ、そういう事よ。』

 「ありがとう。
  参考になったよ。」

 『悪いわね。
  これ以上、力になれそうにないわ。』

 「十分だよ。
  じゃあ。」


 士郎は、電話を切る。
 キャスターは、電話を終えて呟く。


 「あの坊や……。
  『根源への道を開いて、なんとかしろ』って、
  私に泣き付かなかったわね。
  ・
  ・
  また、何か考えているのかしら?」


 …


 一方、士郎の方の話を聞いていたセラとバーサーカーは、沈んだ顔をしていた。


 「万策尽きたか……。」

 「お嬢様も分かっているのかもしれない。
  だから、最近は、皆で居るところを楽しみにしておられる。」

 「何を勝手に締めてんだ?」

 「しかし……。」

 「まず、原因を突き止める。
  キャスターが言ってた通りに寿命とDNAと設計図を調べ直そう。
  原因を突き止めてから、対応出来るか出来ないかを決める。
  それに設計図と記録を見て、目星は付き始めてる。
  ・
  ・
  俺が気になるのをリストアップするから、
  セラは、イリヤの体を調べてくれないか?
  ほら、女の子だから。イリヤは。」

 「分かりました。
  ・
  ・
  約束です。
  最後まで悪足掻きします。」

 「うむ。
  その意気だ。」

 「私も気合いを入れねばな。
  ・
  ・
  士郎、行くぞ。」

 「え?
  今日ぐらい、ゆっくりしようよ。」

 「私は、きっちりしない事は嫌いだ。」


 バーサーカーが、無言のプレッシャーを掛ける。


 「…………。」

 「……いってきます。」


 士郎は、バーサーカーとの修行(扱き?)が終わると、フラフラする頭でリストアップを開始する。
 そして、翌日からセラが、それを元に調べる事で原因を突き止める事に成功した。


 …


 原因は、アインツベルンの設計図。
 魔術刻印だけに目が行き、肉体の方の強化が弱い事。
 つまり、魔術刻印で体を作る時にミスがある。
 士郎は、セラとバーサーカーと話しながら、設計図の一点を指差し結論付ける。


 「この術式……これのここ。
  ここを強化出来れていれば、
  イリヤの遺伝子は、魔術刻印にも負けなかった。」

 「なるほど。」

 「つまり、ここに損傷がなければ、
  お嬢様は、問題なく成長したと?」

 「そう思う。
  だって、成長止まってんだろ?」

 「はい。」

 「多分、成長が止まった辺りで遺伝子が切れてんだよ。
  体が魔術刻印に耐えれるぐらい成長すれば問題もなくなるはずだ。」

 「しかし……もう、遅い。
  イリヤは、成長し切ってしまった。」

 「はい……。」

 「なあ、この術式を書き換えるのって可能かな?」

 「もう、無理です。
  だから、キャスターは、作る前ならと言ったのです。
  作る前なら書き換えが出来るから。」

 「可能なんだ。」

 「…………。」

 「やけに、そこに固執しますね?」

 「俺、魔術師になっててよかった。
  2,3日修行を中止していいかな?」

 「え?」

 「少し考えたい。」

 「はあ……。」

 「あと、イリヤと同じ型のホムンクルスに会えないかな?
  多分、その子も同じ様に寿命が短いはずだ。」

 「ほとんどが処分されていると思われますが……。」

 「処分……ああ、そうか。
  あのオヤジ……。
  ・
  ・
  命を冒涜するみたいでイヤだけど……。
  その処分されたとこに行けるかな?」

 「行けますよ。」

 「じゃあ、3日後。」


 そういうと士郎は、部屋を後にする。


 「何か思い付いたのでしょうか?」

 「さあ?」


 セラとバーサーカーは、呆然と士郎の出て行った扉を見続けた。


 …


 士郎は、セラと話し合って直した術式を綺麗に清書する。
 それを机に置くとイメージトレーニングに入る。
 イメージするのは、弓矢。
 それを丁寧に丁寧にイメージする。
 それを3日掛けてイメージし続けた。


 …


 「衛宮様、約束の日です。」


 セラが士郎の部屋をノックする。
 士郎は、イメージトレーニングを切り上げて部屋を出る。


 「体調が優れないようですが?」

 「二徹してるからな。」

 「…………。」

 「何をしていたのです?」

 「修行だ。」

 「?」

 「バーサーカーも一緒に来て欲しいんだけど。」

 「分かりました。
  伝えて置きます。」


 士郎は、出掛ける支度をするため洗面所に向かい、セラは、バーサーカーに伝言を伝えるために士郎の部屋を後にした。


 …


 別邸を出て処分場へと車で移動する。
 その移動中にセラは、話し始める。


 「実は、私も処分されるホムンクルスでした。
  故あって、お嬢様に助けて頂いたのです。」

 「…………。」

 「だから、処分場に行くのは、正直、気が進みません。」

 「『あの絵には、私達が居ます』……そういう事か。」

 「覚えていらしたんですか?」

 「気になる言い方だったからな。」

 「そうですか……。」

 「…………。」

 「頑張らないとな……。
  これからも、一緒に居ないといけないんだから。」

 「ええ……。
  これからも一緒に居るために……。」


 …


 車は、処分場に到着する。
 セラが、地図と型番を調べながら案内する。


 「ここです。」

 「……出来るだけ、新しいホムンクルスがいい。」

 「では、こちらですね。」


 士郎は、横たわるホムンクルスに手を添える。


 「3日前に機能が停止しています。」


 士郎は、『ごめん』と呟いてから投影を開始する。
 いつもより長い投影時間。
 中々形にならない武器。
 士郎は、両手を前に突き出し集中力を高める。


 (ダメだ!
  条件付けでランクを落としても、魔術回路が確実に焼き切れる。)


 士郎は、大きく息を吐き、一度、投影を中止する。
 その様子をセラとバーサーカーが心配した様子で見守る。
 セラもバーサーカーも投影の失敗で魔術回路を損傷して、使い物にならなくなる一歩手前までいっている失敗を何度も見ているためだ。

 士郎は、用意していた作戦を実行しようと決意する。
 ヒントは、キャスターとの会話にあった『使い捨て』。
 士郎は、再び投影を開始する。


 (ちょっと、遠回りになるけど。
  失敗するよりいいや。)


 士郎は、投影を開始する。
 空想の中から、引き出すのは己自身。
 士郎は、投影により、ダミーの魔術回路を自分の中に投影する。
 そして、そのダミーの魔術回路を使用して、作りたい武器を投影する。


 (ここからが本番!)


 3日間掛けてイメージした弓が、空想から現実へと引き摺り出される。
 大きな放電の後、装飾豊な大弓が姿を現す。
 それと同時にダミーの魔術回路が焼き切れ霧散する。
 両腕には、その時の熱で焦げ後が残る。
 1回の投影で士郎は、全身から汗を噴出させていた。


 「ハア…ハア……出来た……。
  ・
  ・
  っ! いて~……。」


 士郎は、弓をバーサーカーに渡す。


 「それ、バーサーカーに引いて貰うから。
  次の投影だ。」


 士郎は、大きく深呼吸をする。


 (今度の投影は、魔術回路を酷使しないはずだ。
  痛くても我慢する……。
  イリヤのためなんだから。)


 士郎は、清書した術式を広げる。


 「貴方が、その魔術を実行するのですか?」

 「セラがやってくれるか?」

 「はい。
  その方がいいでしょう。」

 「分かった。
  リハーサルのつもりでやる。
  ただし、ここからは亜流だ。」


 士郎は、天地神明の理を握ると魔術回路を繋ぐ。


 「セラ、この術式に必要な魔力を俺の中に。」

 「はい。」


 セラが、天地神明の理の刀身に魔力を込める。


 「OKだ。
  次は、その刀身を握って、俺の中で術式を作ってくれ。」

 「え?」

 「出来るはずだ。
  さあ、刀身を握って。」


 セラは、恐る恐る刀身を握る。
 刀身から士郎に繋がる魔術回路を認識する。
 士郎の中には、セラを否定する魔力はない。
 セラは、自分の魔力を見つけると術式を作っていく。


 「出来ました。
  意外と簡単でした。」

 「お次は、この術式を。」


 士郎は、自分の中にある術式を矢に変えていく。
 更にゲイボルクの能力を付加する。
 因果を逆転し、事象が先にあるという能力の条件を付け加えて投影を開始する。
 深紅の矢に術式が装填される。
 士郎の手に深紅の矢が握られる。


 「成功!」

 「何なのですか、これらは?」

 「引っ掛かっていたんだ。
  『作る前なら出来た』って言葉。
  どこかで聞いた事があるって。
  ・
  ・
  ランサーのゲイボルク。
  因果の逆転……事象があった事になる。」

 「そうか!
  術式をあった事にするのだな!」

 「しかし、もうお嬢様は……。」

 「そう。
  そこで、その弓。
  俺の空想で時間を飛び越える。」

 「「!」」

 「上手くいけば時間を飛び越えて、
  その術式を書き換える。」

 「この弓でか……。」

 「ただ、制約が懸かっている。
  飛び越す時間が大きいほど、張力が必要になる。
  条件をつけてランクを落とさなきゃ、投影出来なかった。」

 「それで、私か。」

 「多分、バーサーカーじゃないと引けない。」


 士郎が、バーサーカーに矢を渡す。
 そして、横たわるホムンクルスに、もう一度触れる。


 「君を悪戯に侮辱する。
  本当にごめん。」


 セラとバーサーカーも、手を添えて目を瞑り。
 死者に黙祷を捧げる。


 「セラ、彼の生まれた歳は?」

 「4年6ヶ月前です。」

 「バーサーカー、弓を引くと弓についている時計が、
  1年に付き1回転する。
  4回転半するまで引き絞ってくれ。」


 バーサーカーは、矢を番え弓を引き絞り狙いを横たわるホムンクルスに定める。
 そして、指を放し、弓から放たれた矢は時間を越えた。


 「どうだ!?」

 「狙いは外れないはずだ。
  ランサーの槍は必中する。
  同じ原理の矢は外れないはずなんだ。」

 「…………。」

 「ゴフッ……。」


 目の前のホムンクルスが息を吹き返す。
 彼は、フラフラと立ち上がると生前行っていた作業に従事しようと歩き出す。
 成功して寿命を戻した証拠だった。
 士郎は、彼を止めようとするが、セラが肩を掴む。


 「彼に……意思はありません。
  あのホムンクルスには心がない。
  ただの奴隷なのです。」

 「…………。」


 士郎は、去って行くホムンクルスに頭を下げると処分場を後にした。


 …


 別邸に急いで戻ると士郎達は、イリヤの元に向かう。
 イリヤは、まだ、静かな寝息を立てている。
 セラは、早速、術式を作ろうとする。


 「待った。
  イリヤに術式を作って貰おう。
  同じ魔力でも、イリヤが作った方が相性はいいはずだ。」

 「そうですね。
  未来は、お嬢様自身の手で掴んで貰いましょう。」


 士郎達は、イリヤが目を覚ますのを待つ。
 士郎は、イリヤのベッドの周りのぬいぐるみを手に取る。


 「俺があげたヤツだ。」

 「とても気に入ってます。」

 「ん? なんだこれ?」

 「衛宮様だそうです。」

 「へ~。
  上手いもんじゃないか。」

 「ん……士郎?」

 「おはよう。」

 「もう、修行終わったの?」

 「うん、終わった。
  もう、しなくていい。
  ドSコンビから、開放だ。」


 セラとバーサーカーのグーが、士郎に炸裂する。


 「なんで、修行しないの?」

 「それはね。
  セラが、いい案を考え付いたからだよ。」

 「?」


 セラのグーが、士郎に炸裂する。


 「私じゃないでしょう!」

 「痛いじゃないか。」

 「一体、なんなの?」

 「簡単に言うとだな。
  イリヤの虚弱体質を治そうという事だ。」

 「治るの?」

 「うん。
  セラさえ、失敗しなければ。」


 セラのグーが、士郎に炸裂する。


 「私じゃないでしょう!」

 「痛いじゃないか。」

 「ホントに、一体、なんなの!?」

 「お嬢様、私が説明します。」

 「お願い……。
  セラ、顔怖い……。」


 コホンと咳払いをして、セラが説明を始める。


 「お嬢様のお体の弱さは、出生まで遡ります。」

 「ストップ。」

 「何でしょうか?」

 「わたし……アインツベルンの事は知ってるよ。
  だから、掻い摘んでね。」

 「分かりました。
  ・
  ・
  お嬢様のお体の弱さは、出生まで遡ります。」

 (聞いてないわね……。)


 その後、セラは、ホムンクルスの誕生方法を事細かに説明する。


 「イリヤ、ここからだ。」

 「……分かったわ。」

 「アインツベルンの粋を使って作られた術式に、
  実は欠点があったのです。
  術式に不備があり、お嬢様の遺伝子は、
  魔術刻印に負けてしまうのです。」


 士郎が、設計図を広げる。


 「ここだ。」

 「…………。」

 「強化が不十分って事ね。」

 「うん。
  で、こっちが俺達が書き直したヤツ。」


 士郎が、設計図の隣に清書した術式を広げる。


 「こんなに強化するの?」

 「お嬢様の発育の悪さは、遺伝子が途切れたためと思われます。
  修正前の術式で、2次成長前ぐらい。
  それを予想の範疇とすれば、これぐらいで丁度いいと思います。
  つまり、ここを直せば魔術刻印にも負けない体まで
  成長すると考えられるのです。」

 「なるほど。
  ・
  ・
  でも、わたし、もう大人だよ?」

 「はい、心得ています。
  だから、なかった事をあった事にします。」

 「?」

 「衛宮様の投影をご存知ですね。」

 「デタラメ投影?」

 「はい。
  それを使います。」

 「まず、原因が過去にありますので、事象を遡らなければなりません。
  そこで、あの弓を使います。」


 セラは、バーサーカーの握る装飾豊な弓を指差す。


 「綺麗……。」

 「あの弓で撃った矢は、時を飛び越えます。」

 「へ~。」

 「そして、ランサーの槍:ゲイボルクの能力に似た矢を投影します。
  この矢は、術式に向かって必中し術式を書き換えます。
  書き換える術式は、そこにあります。」


 セラが、先ほど説明した術式に視線を移す。
 士郎は、一呼吸置くとイリヤに話し掛ける。


 「ただ、問題があるんだ。」

 (ありましたっけ?)

 「俺は、投影しか出来ないんだ。」

 「じゃあ……。」

 「イリヤの力が要る。」

 「わたしの?」

 「そう。
  俺の中に術式を作る。」

 「どうやって?」

 「これ。」


 士郎は、天地神明の理を取り出す。


 「まず、俺に自分の魔力を送って、
  刀身を掴んで俺の中に術式を作る。」

 「うん。」

 「そして、俺が矢を作って……。
  バーサーカーが射る!」

 「おー!」


 士郎とイリヤの会話を聞いて、セラとバーサーカーは感心する。


 「士郎は、誘導するのが上手いな。」

 「はい、自然とお嬢様にやる気を出させている。
  ・
  ・
  まあ、本職がペテン師ですからね。」


 イリヤは、やる気になっている。
 士郎も期待に応えるべく気合いを入れる。
 早速、集中して天地神明の理に魔術回路を繋ぐ。


 「イリヤ、出番だ。
  刀身を握って。」

 「うん。」


 イリヤが、刀身をゆっくり掴む。


 「よし。
  後は、術式を作るのに必要な魔力を俺に送り込んで、
  俺の中にその術式を作るんだ。」


 イリヤは、魔力を送りながら、丁寧に術式を組み上げていく。


 (さすが、セラよりスムーズだ。)

 「出来たよ。」


 士郎が、投影を始める。
 イメージを鮮明にし、術式とゲイボルクの能力を矢に込める。
 そして、手に深紅の矢を握り締める。


 「バーサーカー。」

 「うむ。」


 バーサーカーが、矢を受け取る。


 「あれをわたしに向けて撃つんだよね。」

 「怖いか?」

 「……うん。」

 「じゃあ、俺が後ろで支えていてやる。
  ・
  ・
  いや、セラがいいだろう。」

 「うん、セラがいい。」

 「お嬢様?」

 「しっかり支えてね。」

 「はい!」

 「…………。」

 「これで、リズも元気になるよね?」

 「なります! 絶対に!」

 「うん。」

 (これで、また、みんなと一緒に……。)

 「では、行くぞ。」


 バーサーカーが、弓を引くと時計の針が一気に回転を始め、イリヤの年齢分まで引き絞られる。


 (凄い力だ……。
  張力は、とてつもなく重いはずなのに。)


 バーサーカーが、狙いを定める。
 そして、指を放す。
 矢は、イリヤに向かい姿を消す。


 「?」

 「消えちゃった……。」

 「過去に飛んだんだ。」

 「う!」


 イリヤが、体重をセラに預ける。


 「お嬢様!? お嬢様!?
  どうしました!?」


 セラの中でイリヤが光っている。
 セラは、必死にイリヤを抱きしめる。
 やがて、光が収まると髪がライダーの様に長く伸び、背も、二回りほど大きくなりセラぐらいの大きさになっている。


 「あれ?」

 「お嬢様?」

 「大丈夫か?」

 「おっぱい、でかくなったか?」


 イリヤとセラとバーサーカーのグーが、士郎に炸裂する。


 「どうなのですか?」

 「どうって?」

 「おっぱい、でかくなったか?」


 イリヤとセラとバーサーカーのグーが、士郎に炸裂する。


 「なんで、そんなセクハラみたいな事ばっかり聞くの!」

 「大丈夫だな。
  パンチの威力が、冬木に居た時と同じぐらいになってるから。」

 「もっと、まともな復調の確認の仕方はないのか……。」

 「いや、ある意味、一番正確だろ?
  殴られ続けて数年間……。
  これだけは間違えない!」

 「衛宮様、殴って欲しいなら言えばいいでしょう!」

 「怒りのエネルギーがないと正確な値は出ない。」

 「もう!」

 「ところで……。
  俺の復調確認方法でいいのか?」

 「「「よくない!」」」

 「じゃあ、真面目にやれよ。」


 イリヤとセラとバーサーカーのグーが、士郎に炸裂する。


 「「「お前だ!」」」

 「お嬢様、あちらに行きましょう。
  軽い健康診断を行います。」

 「分かったわ。
  ・
  ・
  うわ!」


 イリヤは、自分の髪を踏んでスッ転ぶ。


 「気を付けろよ。」


 イリヤは、ずるずると髪を引き摺って行く。


 「なんか新手の妖怪みたいだな……。」

 「それにしても、何故、急に背が伸びたのだ?」

 「成長期の事象が置き換わったんじゃないか?」

 「歴史が変わったのか?
  しかし、記憶にあるのは、小さい頃のお嬢様だ。」

 「多分、体験した歴史は変わらないんだよ。」

 「俺達がやった事も、また、歴史の1ページだ。
  つまり、その事象が反映されるのが、今からなんだよ。」

 「分からないな。」

 「言ってる俺も分からない。
  こんな事した事ないから、どうなるかも分かんないし。
  なるようになったんなら、いいんじゃないの?」

 「適当な……。」


 士郎とバーサーカーは、イリヤの健康診断を待つ。
 その間、士郎は、自分とバーサーカーの二人分のお茶を用意して寛ぐ。


 「は~。
  本当にアインツベルンのお茶美味しいな。」

 「何で、そんなに余裕なんだ?
  私は、不安で仕方ない。」

 「だって、元気になったっぽいじゃん?」

 「それでもだ。
  確認したのは、見た目だけだ。」

 「俺は、パンチ力を測った。」

 「当てになるのか?」

 「間違いなく。」

 「そんな馬鹿な……。」


 バーサーカーが、呆れて溜息を吐いた時、ドアが開く。


 「ホント!
  そんなデタラメで、わたしの体調を測ったつもりだったの?」


 長い髪をポニーテールで縛ったイリヤが怒っている。


 「どうだった?」

 「ふふ……バッチリよ!」

 「!」


 バーサーカーが立ち上がるとイリヤを抱きしめる。


 「バーサーカー?」

 「……よかった。
  本当によかった。」

 「うん、ありがとう。」


 イリヤも、バーサーカーを抱きしめる。
 士郎は、それを見て思う。


 (パパモード全開だな。)

 「バーサーカー、痛いよ……。」

 「すまない……。
  でも、嬉しくて……。」

 「はは……。
  泣かないでよ。
  つられちゃうから。」


 イリヤとバーサーカーは、親子の様に抱き合っている。
 イリヤは、力強い腕に幸せを噛み締めていた。
 しかし、幸せの報酬は、まだ終わらない。


 「イリヤ……。」

 「リズ!」


 扉の近くに、セラと一緒にリズが立っている。
 バーサーカーは、手の力を緩め、涙を拭うとそっとイリヤを押し出す。
 イリヤは、今度は、リズの元に走る。


 「大丈夫?
  どこかおかしくない?」

 「おかしい……。」

 「え!?」

 「お腹へってる……。」

 「もう!」


 イリヤは、リズに抱きつく。
 今は、何もかもが嬉しいらしい。


 「欲しいものは、みんな手に入れたって感じだな。」

 「ああ……よかった。」

 「涙脆かったんだ。」

 「うるさい!」


 士郎は、バーサーカーをからかいつつイリヤを見ている。
 イリヤが嬉しそうで。
 セラが嬉しそうで。
 リズが嬉しそうで。
 バーサーカーが嬉しそうで。
 士郎は、満足した気持ちで微笑んだ。


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