== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
その日は、大いに笑いあった。
イリヤとリズの復調を祝って宴を開く。
士郎は、イリヤ達を見て家族なんだなと思う。
それと同時にこんなに笑いあってる家族が居るのに、イリヤが自分を殺しに冬木に現れたのはおかしいと思う。
犯人は、やはりアイツだろう。
アインツベルンの最高責任者にしてイリヤの祖父。
「少し、痛い目を見せるか?」
第76話 その後⑥
宴も終焉を迎える頃、イリヤは、ポツリと呟く。
「これから、どうしようかな?
長く生きられないと思ってたから、何も考えてなかったわ。」
「?」
「わたしは、アインツベルンのために生きて、
アインツベルンのために死ぬ……そう思ってた。」
「でも、アインツベルンは、イリヤを裏切った。」
「うん……。
だから、どうしよう?」
「…………。」
「アインツベルンを滅ぼす!」
「え!?」
「やったらやり返すのだ!」
「そんな事出来ないよ!」
「なるほど、未練もあるんだな。」
「士郎……。
試したわね?」
「まあね。」
「イリヤはさ。
何したいの?」
「それが分かんないの。
士郎は、やりたい事ないの?」
「ないな。」
「嘘?」
「黙ってても、ここ何年かは色んな事が起きるんでな。」
「…………。」
「じゃあ、士郎に着いて行こうかな?」
「なんでさ?」
「だって、何もしなくても何か起きるんでしょ?」
「なるほど。
・
・
じゃあ、俺の家来るか?
セラとリズとバーサーカー連れて。」
「いいの?」
「部屋余ってるし、いいだろう。」
「お前達は、どうする?」
「どうって……。
お嬢様の行くところに、私達は着いて行きます。」
「じゃあ、決定だな。」
「あーっ! どうせ行くなら寄り道しよう!」
「寄り道?」
「そう! 世界旅行しよう!」
「いいんじゃないか。」
「決定!」
「セラ、リズ、バーサーカー、準備よ!」
「分かりました、お嬢様。」
「用意をしよう。」
セラとバーサーカーは、直ぐに用意を始める。
2人は、きっと、アインツベルンを去る事を決めていたに違いない。
リズは、暫くぼーっとしていたが、セラの声が響くと駆け出して行く。
リズは、久々に自分を呼びつける声に嬉しそうだった。
その日、イリヤ達は、アインツベルンの最後の住処である小さな別邸を出る事に決めた。
…
出発前夜。
士郎は、別邸の屋根に上り、時間を飛び越える弓を構える。
キャスターの手紙と一緒に届いたある魔術の術式。
それを天地神明の理で、己の内に取り込み矢を作る。
狙いは、天に輝く大きな月。
事象を飛び越えるそれは、本来、狙いを定める必要はないのだ。
士郎は、矢を射る。
矢は、月に吸い込まれるように姿を消した。
士郎は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべると部屋に戻った。
…
出発の日。
誰の見送りもない旅立ち。
だけど、心は、晴れ渡る。
これからは、何の柵もない。
失敗も成功も、全て自己責任。
ある意味、究極の自由を手に入れた。
(父や母の思い出の残る地を出るのは寂しいけれど……。
これからの未来に笑みが零れるわね……。)
イリヤは、バーサーカーの運転する車に伸びをすると乗り込む。
そんなイリヤを見ながら、士郎は、ある事を思い出す。
「あ、イリヤに記念品があるんだ。」
「記念品?
なんで、士郎から?」
「はい。」
士郎は、イリヤに紙切れを渡す。
「何? この長い呪文みたいの?」
「唱えてみな。」
イリヤは、不思議そうな顔をしながら、呪文を唱える。
車の中で閃光弾でも炸裂した様に光が溢れる。
イリヤの手には、根源への鍵が握られている。
「これって……。」
「キャスターの細工の一つだ。
持ち主のところに帰る。」
「でも、所有者を代えたって……。」
「あの弓だ。」
「?」
「あれ使って、事象をなかった事にしてやった!」
「「「!!」」」
「はっはっはっ。
ざまあみろってんだ!」
車中に笑い声が木霊する。
イリヤ達は、もしかしたら、とんでもない爆弾を抱えて旅をするのではと不安を抱える。
しかし、このトラブルメーカーが、今回の結果を導いた張本人でもある。
そして、このトラブルメーカーと居ると何故か元気になる。
「お嬢様、何処から行きますか?」
「そうね?
暖かいところがいいかな?」
「劇中、夏だぞ?」
「海があるところにしよう!」
「了解しました、お嬢様。
お願いします、バーサーカー。」
車は、アインツベルンの森を抜け走り出す。
「これからは、倹約しないと。
もう、お嬢様じゃないし。」
「金には困らんだろ?
錬金術が使えるんなら、希少金属を作って売れば、
左団扇で暮らしていけるよ。」
「そっか。」
「労働したいんなら、冬木に来てからでいいさ。」
「そうね。
今まで苦労した分、遊ばなきゃね!」
「いい心掛けだ。
それにまだ、セイバー達の罰ゲームを敢行していないから、
楽しみも結構残ってるぞ。」
「士郎……。
まだ、覚えてたんだ。
わたしは、忘れてたわ。」
「俺も修行の日々が終わって、一段落だ。」
「終わってないよ。」
「え?」
「わたし、セイバーに約束したもん。
士郎を立派な魔術師にするって。」
「イリヤ……。
まだ、覚えてたんだ。
俺は、忘れてたよ。」
「私の修行も残っている。」
「バーサーカー!?」
「私は、きっちりしないのが嫌いだ。」
「微力ながら、お嬢様の手助けをします。」
「セラまで!?」
「リズは、士郎の差し入れを食べてあげる……。」
「俺が、リズに差し入れるのか!?」
士郎が珍しく項垂れる。
「仕方ないか。」
「うん!」
走る車の風を受け、イリヤは、窓から気持ち良さそうに空を仰ぐ。
「バーサーカー、田舎なんだから、もっと飛ばさないか?」
「うん、わたしが許すわ!
行っちゃえ! バーサーカー!」
バーサーカーは、苦笑いを浮かべるとアクセルを踏み込んだ。
車は、猛スピードで風の中を駆け抜ける。