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No.7779の一覧
[0] 【ネタ完結】Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~[熊雑草](2009/05/16 02:23)
[1] 第1話 月光の下の出会い①[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[2] 第2話 月光の下の出会い②[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[3] 第3話 月光の下の出会い③[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[4] 第4話 月光の下の出会い④[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[5] 第5話 土下座祭り①[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[6] 第6話 土下座祭り②[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[7] 第7話 赤い主従との遭遇①[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[8] 第8話 赤い主従との遭遇②[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[9] 第9話 赤い主従との遭遇③[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[10] 第10話 後藤君の昼休みの物語[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[11] 第11話 赤い主従との会話①[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[12] 第12話 赤い主従との会話②[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[13] 第13話 素人の聖杯戦争考察[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[14] 第14話 後藤君の放課後の物語①[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[15] 第15話 後藤君の放課後の物語②[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[16] 第16話 後藤君の放課後の物語③[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[17] 第17話 天地神明の理[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[18] 第18話 サーヴァントとアルバイト①[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[19] 第19話 サーヴァントとアルバイト②[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[20] 第20話 サーヴァントとアルバイト③[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[21] 第21話 帰宅後の閑談①[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[22] 第22話 帰宅後の閑談②[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[23] 第23話 帰宅後の閑談③[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[24] 第24話 帰宅後の閑談④[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[25] 第25話 深夜の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[26] 第26話 深夜の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[27] 第27話 アインツベルンとの協定①[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[28] 第28話 アインツベルンとの協定②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[29] 第29話 アインツベルンとの協定③[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[30] 第30話 結界対策会議①[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[31] 第31話 結界対策会議②[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[32] 第32話 結界対策会議③[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[33] 第33話 結界対策会議④[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[34] 第34話 学校の戦い・前夜[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[35] 第35話 学校の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[36] 第36話 学校の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[37] 第37話 学校の戦い③[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[38] 第38話 学校の戦い④[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[39] 第39話 学校の戦い⑤[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[40] 第40話 ライダーの願い[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[41] 第41話 ライダーの戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[42] 第42話 ライダーの戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[43] 第43話 奪取、マキリの書物[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[44] 第44話 姉と妹①[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[45] 第45話 姉と妹②[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[46] 第46話 サーヴァントとの検討会議[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[47] 第47話 イリヤ誘拐[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[48] 第48話 衛宮邸の団欒①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[49] 第49話 衛宮邸の団欒②[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[50] 第50話 間桐の遺産①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[51] 第51話 間桐の遺産②[熊雑草](2010/08/27 00:31)
[52] 第52話 間桐の遺産③[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[53] 第53話 間桐の遺産~番外編①~[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[54] 第54話 間桐の遺産~番外編②~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[55] 第55話 間桐の遺産~番外編③~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[56] 第56話 間桐の遺産④[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[57] 第57話 間桐の遺産⑤[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[58] 第58話 間桐の遺産⑥[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[59] 第59話 幕間Ⅰ①[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[60] 第60話 幕間Ⅰ②[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[61] 第61話 幕間Ⅰ③[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[62] 第62話 キャスター勧誘[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[63] 第63話 新たな可能性[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[64] 第64話 女同士の内緒話[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[65] 第65話 教会という名の魔城①[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[66] 第66話 教会という名の魔城②[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[67] 第67話 教会という名の魔城③[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[68] 第68話 幕間Ⅱ①[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[69] 第69話 幕間Ⅱ②[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[70] 第70話 聖杯戦争終了[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[71] 第71話 その後①[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[72] 第72話 その後②[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[73] 第73話 その後③[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[74] 第74話 その後④[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[75] 第75話 その後⑤[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[76] 第76話 その後⑥[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[77] あとがき・懺悔・本当の気持ち[熊雑草](2009/05/16 02:22)
[78] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話[熊雑草](2010/08/27 00:42)
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[7779] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する
Date: 2010/08/27 00:42
 == Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==



 ※修正ageだけでは、マナー違反の為に追加した話です。



  愚者の帰還



 数年の時を経て、主は自分の家へと辿り着く。
 離れていた理由は忘れた……思い出したくもない。
 そして、目の前の現実も理解したくない。


 「冬木よ! 俺は、帰って来たーーーっ!
  ・
  ・
  と、したかったのに……。
  なんだ! これはっ!?」


 目の前には見慣れた家があるはずなのに……ない。
 見慣れた家は、二階建てになっていた。


 「なんでさ?」

 「犯人は、一人しか居ないんじゃないの?」


 士郎にイリヤが、笑顔で話し掛ける。


 「いや、容疑者が多過ぎて分からない。」

 「なんで? セイバーでしょ?」

 「藤ねえかもしれない。」

 「ああ……。」

 「雷画爺さんという事も。」

 「ああ……。」

 「案外、遠坂が一枚噛んでるかもしれない。」

 「ああ……。」


 そして、遅れてイリヤの従者達が到着する。


 「注文通りの仕上がりですね。」

 「犯人は、お前か!?」

 「……まさかのセラ落ち。」


 衛宮邸の前には、数年で見違えた面々が居る。
 バーサーカーの暴力で逞しくなってしまった士郎。
 手足がスラリと伸び、少女の面影が薄くなったイリヤ。
 イリヤのボディーガード、時々、パパのバーサーカー。
 アインツベルンでは見る事が出来なかった私服のセラとリズ。


 「ただいま。」


 士郎は、いきなり扉を開ける。


 「あの男……。
  何の感慨もなしに……。」


 セラが、眉間に皺を寄せ拳を震わせる。


 「士郎には大事な感覚が欠けてる気がするわ……。」

 「お嬢様、感覚だけではありません。」

 「全般的に常識だな。」

 「知性ない……。」

 「…………。」


 そして、ピシャンと扉が閉められる。


 「「「無視するな!」」」


 イリヤ達は、後を追おうと扉に近づく。
 すると懐かしい声が耳に入る。
 しかし……。


 「貴方は、『誰だ?』と言っているのです!」


 閉められた扉の中から、セイバーの怒鳴り声が聞こえる。


 …


 「なんで、セイバーが怒ってるの?」

 「何故でしょうか?」

 「士郎は、背が伸びたからな。
  別人と思っているのかもしれんな。」


 イリヤ達は、完全に入るタイミングを逸した。


 …


 士郎は、額を押さえて俯く。


 (なんで、気付かないんだ……。
  ここは、俺の家じゃないか。)

 「いいですか?
  私は、留守を預かる者です。
  貴方のように背の高い人物は、私の記憶に居ません。
  ・
  ・
  いや……。」

 (やっと気付いたか。)

 「何だ……。
  アーチャーではありませんか。」

 「違うわ!」


 …


 「あの二人……。」

 「何故、漫才をしているのです!」

 「ブランクってないのね……。」


 イリヤ達は、衛宮邸到着2分で、今まで散々味わった脱力を感じていた。


 …


 士郎は、ビッと自分に親指をさす。


 「俺だ! 士郎だ!」

 「…………。」

 「シロウ……。
  あのシロウですか!?」

 「他にどの士郎が居るんだ?
  世の中には、そんなに士郎が居るのか?」

 「最近知った方には、真田志郎という方が……。」

 「技師長じゃねーか!」


 …


 「また、話が妙な方向に……。」

 「ちょくちょく出て来る真田って、誰なの!?」


 …


 一息ついてセイバーの顔が穏やかになる。
 士郎の顔を見るのも久方振りである。
 セイバーは、士郎の顔をマジマジと見上げる。


 「随分と背が伸びましたね。」


 士郎は、セイバーの胸に視線を移す。


 「変わらんな。」

 「何処を見ているのです!」


 セイバーのグーが、士郎に炸裂する。


 …


 イリヤとセラに青筋が浮かぶ。


 「なんか、今のは何が起きたか分かったわ。」

 「はい。
  その過程まで逐一と。」

 「ヒンニュウ……。」


 イリヤとセラが凄い勢いでリズに振り返る。
 バーサーカーは、額を押さえて溜息を吐く。


 …


 セイバーが、士郎の襟首をがっちりと掴むとブンブンと前後に振りまくる。


 「シロウ!
  貴方って人は……!
  貴方って人は…!
  貴方って人は!」

 (セイバーか……。
  何もかもが皆懐かしい……。)

 「会って2分ちょいで
  ツッコミを入れさせるとは、どういう事です!」

 「…………。」

 「NARUTOのサクラですか!? 私は!?」

 (バラエティー増えたな。)


 ガラリと扉が開く。
 イリヤとセラが、士郎にグーを炸裂させる。


 「な、なぜ……イリヤとセラから……。」

 「士郎……。
  世の中には、例え自分じゃなくても人を傷つけるNGワードがあるのよ。」

 「お前ら、3人だけじゃないのか?」


 セイバーとイリヤとセラのグーが、士郎に炸裂する。


 「リンもです!」

 「セイバー……それ違う。」

 「止めませんか……。
  傷が広がりますから。」

 「そうね……。
  久々に訪ねてみれば。」


 ハッとしてセイバーとイリヤとセラは、振り返る。
 そこには、赤い悪魔が拳を震わせて立っていた。
 そして、間髪いれずに凛は、士郎にグーを炸裂させる。


 「二次災害が……。」

 「あんたは、玄関入ってから何分間ボケてんのよ!」

 「お前は、どこから聞いて突っ込んでんだ?」

 「あんたが、セクハラ始めた辺りからよ。」

 「ほぼ全部かよ。」

 「入るタイミングが微妙なのよ!」

 「専門分野じゃないか……。
  貧……。」


 再び、セイバーと凛とイリヤとセラのグーが、士郎に炸裂する。


 「数年振りの癖に……。
  なんてコンビネーションなんだ。」

 「あんたこそ、数年振りなのに何なのよ!」

 「本当です!」

 「……日々、進歩がないのは知ってたけど。」

 「……この光景は懐かしいのですけどね。」


 セイバーと凛が怒りを再燃させる中で、イリヤとセラは溜息を漏らす。
 バーサーカーは、聖杯戦争中のアーチャーのポジションで脱力していた。


 …


 場所を居間へと移し、各々席に着きお茶を啜る。
 一息ついてセイバーが、士郎達に話し掛ける。


 「今まで、どちらに居たのですか?」


 イリヤは、指を顎にあてて答える。


 「世界中は、ほとんど回ったかな?」

 「世界中ですか……。」

 「そうよ。
  士郎の家に行く寄り道にね。」

 「寄り道って……。」

 「俺も、どうかと思う。」

 「あんた、変なもんでも拾って食べたの?」

 「なんでさ?」

 「そんな常識的な答えを返すなんて。」

 「俺だって後悔する事もあるさ。
  大変だったんだぞ……セラとバーサーカーと旅するのって。」


 セラとバーサーカーのグーが、士郎に炸裂する。


 「何故、我々なのだ!」

 「そうですよ!
  何処に行っても四六時中トラブルを
  起こしていたのは貴方でしょう!」

 「やっぱり、トラブル起こしてたのね。」

 「予想はしていましたが……。」

 「聞いて下さい!
  衛宮様は、一度や二度ではないのです!
  その国に行ってトラブルを起こすのではなく、
  その国の街単位でトラブルを起こすのです!
  ・
  ・
  この男……。
  最初は、ろくに言葉も話せないくせに!」

 「うるさいな……。
  大阪弁を話す宇宙人も居るぐらいなんだぞ?」

 「テレビのCMじゃない!
  しかも、何年も前の!」

 「これが日本を離れていた時間差というヤツだな。」

 「嫌な懐かしがり方をするわね……。」

 「しかし、言葉も通じないのに
  どうやってトラブルなんて起こすのですか?」


 バーサーカーが、溜息混じりに言葉を吐き出す。


 「最初は、ジェスチャーだ。」

 「それなら伝わりますね。」

 「セイバー……。
  『最初は』って言ってるわ。」

 「そのうちに相手のニュアンスで言葉を覚え始める。」

 「…………。」

 「大体、6時間ぐらい野放しにすると言葉を覚えて帰って来る。
  それから、トラブルを起こし始めるのだ。
  こちらは、まだ、言葉を覚えている途中だから必ず後手に回る。」

 「…………。」

 「リン……。
  私は、この手の映画を見た事があります。
  人間に寄生して言葉を解し人を襲っていくのです。」

 「俺は、寄生虫かエイリアンか!」

 (近いんじゃないかしら?)

 「あんた、横文字ダメなんじゃないの?」

 「色々あってな……。
  あの町で、セラに勉強させられたり。
  この町で、セラに勉強させられたり。
  その町で、セラに勉強させられたり。
  セラに勉強させられたりしていくうちに身についた……。
  セラは、イリヤの事になると容赦がないからな……。
  セラに殺される前に体が覚えるようになって……。」

 「あ、そう……。」

 (以前、聞いた大河関係で身につけた特殊能力と
  同じ香りのするエピソードですね……。
  ・
  ・
  まあ、特殊能力の活かされた経緯を聞くと、
  トラブルしか生まないというのが、シロウらしいですが。)


 士郎は、セラの事を口にした事でスイッチが入る。


 「俺の事ばっかり言ってるけど!
  セラもバーサーカーも常識がズレているんだぞ!」

 「嘘は、言わないで下さい!」

 「嘘?
  ・
  ・
  っな訳ないだろう!
  お前らのドSっぷりは、常軌を逸してんだよ!」


 セイバーと凛は、心当たりがあった。


 「あの手紙か……。」

 「よく生きていましたよね……。」

 「大体、死に掛けるまで修行ってなんだ!?」


 セラは、お茶を啜る。


 「生きているではありませんか?
  ・
  ・
  残念ながら。」

 「殺すつもりか!
  何度も言うがな……。
  俺は、死にたくないんだ!」


 今度は、バーサーカーがお茶を啜る。


 「その割には、死地に足を踏み入れるが?」

 「踏み入れてんじゃない!
  引っ張られてんだ!」

 「……あの。」

 「なんだ、セイバー?」

 「あの手紙は、事実なのですか?」

 「あれの6割増しの事があったと思ってくれていい。」

 「…………。」


 今度は、凛がお茶を啜る。


 「でも、何かスッキリしちゃった。
  セラとバーサーカーによって制裁が行われてたって聞いて。」

 「リン。
  私も分かります。
  こう……何か胸の痞えが取れるのが。」

 「アホの子が居る。」


 セイバーと凛のグーが、士郎に炸裂する。


 「アホ言うな!」

 「貴方にだけは言われたくありません!」

 (俺を肯定してくれる人間は居ないのか?)


 今度は、セイバーがお茶を啜る。
 そして、コホンと咳払いを一つ。


 「シロウのせいで大事な事を言うのを忘れていました。
  皆さん、おかえりなさい。」


 セイバーの穏やかな笑顔にホッとした空気が流れ、各々大事な事に気付く。


 「忘れていましたね。
  大事な挨拶を。」

 「セイバー、凛、ただいま!」

 「おかえりなさい、イリヤスフィール。
  成長した貴女に会えて嬉しいです。」

 「おかえり、イリヤ。
  もう、子供扱い出来ないわね。
  ちょっと、残念だわ。」

 「これから、お世話になります。」

 「ん。よろしく……。」


 セラとリズが姿勢を正して丁寧に頭を下げる。


 「ええ、ここを自由に使ってください。
  頂いた手紙の通りに改築は済んでいます。」

 「ご面倒をお掛けしました。」

 「……家主を差し置いて、
  そんなやり取りをしてたのか。」


 凛は、少しだけ士郎に同情した。
 続いて、バーサーカーが挨拶する。


 「すまないな。
  私も世話になる。」

 「お構いなく。
  貴方とイリヤスフィールの主従の関係は、
  手紙により理解しています。」

 「ありがとう。」

 「ただし……。
  暇な時で結構ですので、私と剣を交えてくださいね。」

 「了解した。」


 セイバーが、士郎を見つめる。


 「俺は、もう言ったんだけど……。」

 「言いましたっけ?」

 「扉開けた後に全力で否定された。」

 (そういえば……。)

 「まあ、いいや。
  ただいま戻りました。」


 士郎が頭を下げる。


 「おかえりなさい、シロウ。」

 「愚者の帰還ね。」


 凛の一言に皆が納得したように頷く。
 そして、士郎は、ふてくされた。


 …


 帰宅の挨拶が終わると士郎は、今度は、他の面々の行動が気になりだした。


 「俺達の事は、大体分かっただろ?」

 「はい。
  世界中でシロウが迷惑を掛けて回ったのですね。」

 「「「その通り。」」」

 「…………。」

 「でも、それがあったから面白くもあったわ。」

 「本来、怒るべきとこだと思うんだが、
  イリヤの言葉が、なぜか温かい……。
  ・
  ・
  ところでさ。
  セイバー達は、何してたのさ?」

 「我々ですか?」

 「無事に卒業したわよ。」

 「…………。」

 「卒業? なんの?」

 「学校に決まっているでしょう!」

 「ああ……。
  そんなのあったな。」

 「しかも、あんた。
  ちゃんと卒業出来てるし……。」

 「妙な日本語だな。」

 「ちゃんと細工してたのですよね……ライガさん。」

 「あの人は、そういう人だ。」


 『この馬鹿師弟が』と各々が拳を握る。


 「その後は?」

 「わたしは、桜と仲良くやってるわ。
  修行をメインでね。」

 「なんで?」

 「士郎、少し考えようよ。」

 「?」

 「鍵は、あるんだよ。
  後は、扱うための力量じゃない。」

 「でも、キャスター待ちなんだろ?」

 「違うの!
  鍵を扱うのは凄く大変なの!
  知ってるでしょ!?
  それが負担になるから、士郎は、わたしに辞めさせたじゃない!」

 「そうだった……。
  遠坂は、大変なんだよな。
  イリヤより雑魚だから……。」


 凛のグーが、士郎に炸裂する。


 「言葉を選べ!」

 「シロウ……。
  イリヤスフィールやキャスターと比べないでください。
  寧ろ、彼女達の方が規格外になるのですから。」

 「あまり考えた事がないから分からないけど。
  どれぐらい違うんだ?」

 「そうですね……。
  ・
  ・
  キャスターをフリーザ。
  イリヤスフィールをギニュー。
  リンをザーボン。
  と、考えて貰えれば分かり易いですか?」

 「多分……俺にしか分からんぞ。
  普通の魔術師は?」

 「アプールですかね?」

 「今のでほとんどの人が着いて来れなくなった。
  しかも、絶対にパワーバランスが合ってなさそう。」

 「貴方に説明するなら、少しぐらい誇張した方が理解し易いかと。」

 「…………。」

 「正直、分かり易かった。」

 (((ダメな主従……。)))

 「で、ザーボンは修行して新たな変身でも
  出来るようになったのか?」


 凛のグーが、士郎に炸裂する。


 「変な名前で呼ぶな!」

 「シロウ。
  アプールの貴方では、ザーボンには勝てませんよ。」

 「そうだな……言葉を選ぼう。」

 「そこの主従!
  馬鹿な会話を慎みなさい!」


 イリヤ達が溜息を吐く。
 少し落ち着こうとセイバーがお茶を啜る。
 そして、自分の現状も語ろうと背筋を伸ばす。


 「では、私の番ですね。
  私は……。」

 「語らなくていいや。
  俺と会話出来るってだけで、何をしていたか大体分かる。」

 「そうですか?」

 「漫画とアニメを見まくって、怠惰を貪ってたんだろ?」


 セイバーのグーが、士郎に炸裂する。


 「失礼な事を言わないでください!
  確かに転生の目的の一つは、『ワンピース』『ブリーチ』『ナルト』が、
  最終回を迎えていない事もあります!
  しかし、それだけではありません!」


 士郎とセイバーを除く全員が頭を押さえている。


 「知りたくなかった……そんな理由。」

 「根源の力を使って叶えた望みが漫画って……。」

 「どうしたのですか?」

 「何でもないわ……。
  士郎との会話を続けてて。」

 「分かりました。
  ・
  ・
  私は、怠惰を貪ってなどいません!」

 (凄いわね……この主従。
  まだ、続けられるんだ。)

 「じゃあ、何をしてたのさ?」

 「普通の生活です。」

 「?」

 「家事をして。
  炊事をして。
  ネコさんと働いて。
  大河達とお酒を飲んだり。
  そして、時々、羽目を外したり。」

 「…………。」

 「本当に普通の生活だな。面白いのか?」

 「この上なく。
  キャスターやライダーともお酒を飲みます。」

 「へ~。」

 「リンとサクラとも。」

 「へ~。」

 「聖杯戦争を切っ掛けに友達を作ったみたい。」


 イリヤの言葉にセイバーは、微笑んで返す。


 「ええ、最高の報酬です。」


 士郎は、満足そうに微笑むと立ち上がる。


 「少し安心したよ。
  街を回って来る。
  ついでにキャスターとライダー達にも会って来る。
  で、最後に藤村組に寄って帰って来る。」

 「わたしも行く。」


 イリヤが立ち上がる。


 「わたしは、セイバーに用があって来たから。」

 「お嬢様、我々は、荷物を片付けます。」

 「そう?
  じゃあ、士郎とわたしだけで行って来るね。」


 士郎とイリヤが居間を出て行く。
 セイバーと凛が感想を漏らす。


 「あの後姿は、もう兄妹には見えませんね。」

 「かと言って、恋人同士にも見えないわね。」


 バーサーカーが言葉を続ける。


 「人は、変わっていくものだ。
  成長していく過程で失うものもあるが得るものもある。
  私は、失ったものより得たものの方が価値あるものと信じている。」

 (バーサーカー……。
  すっかり、いいお父さんね。)


 居間での会話など知らずに士郎とイリヤは、衛宮邸を後にした。


 …


 士郎とイリヤは、ゆっくりと町並みを確認して歩く。
 そして、商店街を通り公園に差し掛かる。


 「懐かしいな。」

 「ここで士郎とセイバーに拉致されたのよね。」

 「…………。」

 「なんか勢力が分かれてるな。」

 「誤魔化した……。」


 公園では子供達のグループが3つに分かれ、何かを争っている。
 どうやら公園での勢力争いのようだ。


 「縄張り争いか?
  最近のガキは、血気盛んだな。」

 「大人も混じってる気がするんだけど……。」


 第1勢力:モップを槍のように構えたリーダーの勢力。
 第2勢力:物干しを刀のように構えたリーダーの勢力。
 第3勢力:金髪の青年と根暗そうな参謀の二人組みのリーダーの勢力。


 「あの構え……どこかで見たような。」

 「わたしも……。
  なんで、大人が混じってるの?」

 「しかも、アイツが一番人気を集めてる。」


 ジャングルジムのてっぺんで腕を組み偉そうに金髪の青年は叫んでいる。


 「フハハハハ!
  また、来たか! 愚かな雑種共!」


 士郎は、過去の記憶の言動から思い当たる人物を検索する。


 「ギルガメッシュじゃないのか?」

 「じゃあ、あれは言峰?」


 イリヤは、根暗そうな少年を指差す。


 「小峰! 貴様も笑え!」


 小峰と呼ばれた少年は、声を立てずに小馬鹿にしたように唇を吊り上げる。


 「微妙に名前が違うが……。」

 「別人なのかな?」

 「様子を見ようか。」


 公園では勢力同士の戦いではなく、リーダーによる一騎打ちの戦いになりそうだ。
 モップの槍リーダーが公園の半分をモップで線を引いて遮る。


 「ここからは、オレ達の領域だ。
  オマエらは、一歩たりとも入るな。」

 「何を馬鹿な事を……。
  ここからが拙者達の領域だ。」


 物干しの刀リーダーが領域を上書きする。


 「愚か者達め。
  この公園を支配するのは我々だ。」


 根暗そうなリーダーが線を踏みにじる。


 …


 「そろそろ名前で呼び合ってくれないかな。」

 「どうでもよくない?
  もう、ギルガメッシュ、言峰、ランサー、アサシンでいいじゃない。」

 「でもさ。
  言峰が小峰だろ?
  他の奴等の名前も気にならないか?」

 「う~ん。
  確かに気になるとこだけど。」


 …


 「ランサー、野蛮なところは変わらんな。」

 「そういうオマエこそ……この似非神父!」

 「ふ……。
  阿呆の子が喚いておるわ。」

 「「黙れ! アサシン!」」


 …


 「ランサーって言ってるし……。」

 「似非神父だって……。」

 「アサシンって言ってるし……。」

 「なんで、ここに転生してるのかしら?
  キャスターの手抜きかな?」

 「遠坂のうっかりじゃないのか?
  キャスターの年齢操作も失敗したみたいだし。」

 「どうするの?」

 「もう少し様子を見ようか。」


 …


 戦いは、壮絶を絶するものだった。
 既に子供同士の戦いの枠を外れて打ち合っている。
 そして、遠くから見ているからこそ分かる。
 勢力が分かれていた訳ではない。
 子供達は、戦いを見に来たギャラリーでしかない。
 各リーダーのファン層で分かれているのだ。
 壮絶な戦いの後、ランサーとアサシンと言峰が同時にノックアウトする。


 「凄いな……。」

 「お金取れるんじゃないの?」


 士郎とイリヤは、呆然と戦いを終始見届ける。


 「この後、どうなるんだろう?」

 「予想もつかないな。」


 ノックアウトしたリーダー達が、のそのそと起き上がる。


 「くそ! また引き分けか……。」

 「そのようだ。」

 「決着は、次回か……。」

 「お前ら……まだ、やるのか。」


 暫しの沈黙の後、リーダー達は、お互いを讃え合い始めた。


 「暑苦しい……。」


 その後、ギャラリーがリーダー達を胴上げしてフィナーレを迎える。
 イリヤは、頭を押さえて複雑な顔をする。


 「何がしたいのよ……。」

 「アイツらが、あのまま大人になったら、どうなるんだ?」

 「不良の巣窟になるんじゃない?」

 「ランサーは、似合いそうだな。」

 「他は?」

 「…………。」

 「想像出来んな。」

 「ギルガメッシュに至っては、何もしてないし……。」

 「他の子供とジャンプ読んでただけだった……散々、煽って。」


 士郎とイリヤは、その場を後にする。


 「今後が、ちょっと心配ね。」

 「セイバー達は、知ってるのかな?」

 「キャスターは、知ってるでしょ?」

 「そうだよな。
  ・
  ・
  あ。
  分かったかも。」

 「?」

 「アイツらをなんとかするなら子供の方が扱い易いから、
  この状態なんじゃないの?」

 「なるほど。」

 「いざとなれば、セイバーとキャスターで折檻すればいいんだから。」

 「でも、あの子達も大人になるよ?」

 「多分だけど。
  宝具が使えないなら、キャスターが一番強い気がする。」

 「そうかも……。
  キャスターだけが武器に依存しないから。」

 「…………。」

 「どうしたの?」

 「その後の展開が頭を過ぎった。」

 「その後?」

 「アイツらが大人になった時、キャスターはおばさんだ。
  それを冷やかされて何かが起きる。」

 「…………。」

 「ごめん、士郎……。
  その光景をわたしも予想出来る。」

 「何年後かに戦争が起きるな。」

 「回避出来ないの?」

 「…………。」

 「出来なくもない。」

 「本当?」

 「今からトラウマを作る。」

 「へ?」

 「ランサーとアサシンと言峰に
  キャスターを見ただけで動けなくなるぐらいのトラウマを刻み付ける。」

 「…………。」

 「ありなの?」

 「これしか未来を守れない。」

 「…………。」

 「ギルガメッシュは?」

 「放っといていい。
  宝具も王の財もないアイツなど、誰でも勝てる。」

 「酷い扱いね……。
  ・
  ・
  でも、なんで、ギルガメッシュと言峰がここに……。」


 少しの疑問を残しつつも士郎とイリヤの足は、柳洞寺へと向けられた。


 …


 柳洞寺の長い階段を上がって行く。
 この山門には、もう侍は居ない。
 その侍は、公園で暴れていたばっかりだ。
 山門を通り抜け、目的の人物を士郎は発見する。


 「お~い。
  キャスター。」


 キャスターは、士郎を見ると面倒臭いものを見つけたような顔をする。
 しかし、続いてイリヤを見るといいものを見つけたというような顔になり、そそくさと近づいて来る。


 「立派なレディになったわね、イリヤスフィール。」

 「あ、ありがとう。キャスター。」

 (なんか、この笑顔怖い……。)

 「今、暇かしら? 暇よね。
  貴女にぴったりの服があるのよ。
  是非、寄っていって。」

 「すまないな、キャスター。」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「お呼びでない!」

 「最初に声を掛けたのは俺なのに……。」

 「公害を私の視界に入れないでくれる?」

 「色々な例えをされて来たが、まさか公害とは。」

 「何しに来たのよ?」

 「なんで、遠坂もキャスターも俺を邪険に扱うんだ?」

 「貴方が居て良かった試しがないからよ。」

 「……酷いな。」

 「で?」

 「数年ぶりに帰って来たから寄ったんだけど。」

 「イリヤスフィールだけでいいわ。
  貴方は、帰りなさい。」

 「…………。」

 「イリヤ、おばさんが帰れって。」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「誰がおばさんだ!
  貴方とは、同い年でしょう!」

 「また、導火線が短くなったんじゃないか?」

 「誰のせいよ!」

 「真面目な話がしたいんだけど。」

 「…………。」

 「本当でしょうね?」

 「本当。」

 「何よ、真面目な話って。」

 「お礼を言いたくて。」

 「?」


 士郎が、イリヤの肩をポンと叩く。


 「キャスターのお陰で元気だ。」

 「キャスター。
  本当にありがとう。
  ずっと、直接お礼が言いたかったの。」

 「…………。」


 背が伸びて元気そうなイリヤを見て、キャスターは微笑む。


 「どういたしまして。
  私も嬉しいわ。」

 「キャスターが居なかったら……わたし……。」


 キャスターが、イリヤの両肩に手を置く。


 「私だけじゃないわ。
  きっと、皆が居なかったら、貴女は、ここに居ないわ。
  あそこには、誰一人欠けてもいけなかったの。」

 「キャスター……。」

 「努力を続けて来た貴女は、
  きっと天国の未来を呼び寄せたのよ。」


 イリヤは、感動したようにキャスターを見ている。
 しかし、士郎は、頭を押さえている。


 (ガイ先生だ……。
  この数年でNARUTOに毒されてる……。
  ・
  ・
  キャスター……セイバーと仲良かったからな。)


 士郎は、何となく凛達の気持ちが分かってしまった。


 …


 感動的な場面を壊さないように士郎は気を遣って無視する。
 本当は、どうしようもなく突っ込みたかったが、セイバー達のようにグーを炸裂させるスキル(勇気?)は、士郎にはなかった。


 「よかったな、イリヤ。」

 「うん。
  ・
  ・
  どうしたの? 疲れた顔してるよ。」

 「なんでもない……。
  そう……なんでもないんだ。」

 「?」

 「坊や、他にも用があるの?」

 「未来を託したい……。」

 「は?」

 「公園のガキンチョどもを知っているか?」

 「ええ、サーヴァントの成れの果てね。」


 キャスターは、おかしそうにクスクスと笑っている。


 (犯人は、コイツか……。)

 「アイツらもさ。
  時間が経てば大人になるんだよ。」

 「当たり前じゃない。」

 「大人になって暴れたら、どうするんだ?」

 「…………。」

 「別に……放っとけばいいんじゃない?」

 「でもさ……。
  アイツらが大人の時、俺はおじさんで、キャスターはおばさんだぞ。
  押さえ切れるのか?」

 「…………。」

 「考えてなかったわね。」

 (やっぱり……。)


 キャスターが、顎に手を当て考え始める。
 士郎は、さっき、イリヤと話し合った作戦を提示する。


 「今のうちにアイツらを躾けてくれないか?」

 「何で、私が躾けるのよ?」

 「多分、冬木で一番強い。」

 「そんな訳ないでしょう。」

 「他のヤツらは、宝具ないから。
  それに日本じゃ得物も中々手に入らないし。」


 キャスターは、少し考えると唇を吊り上げる。


 「そうね。
  この時代のこの国なら、私が一番理に適ってるわね。
  いいわ。躾けてあげる。」

 「トラウマになるぐらいがいいかと思う。」

 「いいわ。
  それぐらいの方が遣り甲斐あるし。」

 (キャスターも、ドSだ。
  アイツら終わったな……。)

 「これで未来は、守られたわね。」


 イリヤは、納得した表情で頷く。


 「用件は終わりだ。」

 「じゃあ、イリヤスフィールを借りるわよ。」

 「は?」
 「へ?」

 「セイバーのために作った服があるんだけど。
  あの子、中々袖を通してくれなくて。」

 (まあ、キャスターの趣味じゃな……。)

 「ここは、是非、イリヤスフィールに
  一肌脱いで貰うしかないのよ。」

 「……だってさ。」


 士郎は、イリヤを見る。


 「ちょっと、待って!
  士郎! なんで、擁護してくれないの!」

 「俺、未来予知出来てさ。
  キャスターを説得するの無理だって分かってるんだ。」

 「嘘でしょ!?」

 「いい心掛けよ、坊や。」

 「まあ、死ぬ訳じゃないし。
  こんなんで恩を返せるならいいじゃないか。」

 「その通りよ、坊や。」

 「士郎の裏切り者~~~っ!」


 イリヤのグーが、士郎に炸裂する。
 士郎は、ハンカチを振ってイリヤを見送る。
 イリヤは、ズルズルとキャスターに引かれて本堂の奥へと消えて行った。


 「さて、お茶でも飲みますか。」


 士郎は、時間を潰すために久々の柳洞寺を時間を掛けて満喫する。
 イリヤが開放されたのは、約一時間後だった。


 …


 大きな紙袋を両手で抱えながら、イリヤが複雑な表情で現れる。


 「おもいの他、よかった……。」

 「じゃあ、着て帰れば?」

 「それは、ちょっと……。」

 「あれ? キャスターは?」

 「マスターとの甘い時間に突入して追い出された……。」

 「…………。」

 (やりたい放題だな。)


 イリヤは、士郎に問い掛ける。


 「この後、どうするの?」

 「出来れば桜とライダーに会いたいな。」

 「凛の家かな?」

 「どうだろ?」

 「なんで、士郎が詳しくないの?」

 「遠坂姉妹の生態なんて観察してないし……。
  そもそも家も知らない。」

 「本当に?」

 「桜のためにって、遠坂もライダーも教えてくれなかった。」

 「…………。」


 イリヤは、深く納得した。


 「じゃあ、探せないじゃない。」

 「キャスター! キャスター! キャスター!」

 「また、士郎が壊れた……。」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「他の人に迷惑でしょう!」

 「こうすれば来ると思った。
  しかし、空間転移とは……。」


 再びキャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「何の用なの!」

 「桜とライダーと連絡取りたいから、
  なんとかしてくれ。」

 「貴方、何様なの?」

 「鷹村さんなら『俺様だ!』と言うだろうが……。」

 「鷹村守……か。
  強くても落ち着きのない男はね……。」

 (このキャスター……。
  どこまでセイバーに毒されてんだろ?)

 「で、なんとかしてくれ。」

 「頭を下げる気はないわけ?」

 「だから、なんとかしてくれ。」

 「…………。」

 「貴方の居ないこの数年は、本……当に平和だったわ。」

 「今日、数分しか話してないじゃないか。」

 「…………。」

 「はい。」


 キャスターは、諦めて自分の携帯を渡す。


 「それで連絡を取りなさい。」

 「ご苦労。」


 士郎は、携帯電話を受け取るとアドレスを検索し始める。


 「頭が痛い……。」

 「キャスターは、真面目だから。」

 「貴女は、平気なの?」

 「もう、慣れたわ。
  それに……これはこれで面白いよ。」

 「そう?」

 「そうよ。
  世の中、分かりきった事ばかりより、
  分からない数%の方が貴重な事もあるのよ。」

 「……あれが貴重ねぇ。」


 携帯電話で連絡を取る士郎を遠目で観察する。
 電話が繋がると士郎は、話し始めた。


 「俺だ。」

 『…………。』

 「俺だ。」

 『誰ですか?
  ディスプレイの名前と声が一致しないのですが。』

 「…………。」

 「や~ねぇ。
  宗一郎様命のキャス子よ。」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。
 キャスターは、士郎から携帯電話を奪い取ると怒鳴りつける。


 「もしもし!
  さっきのは、私じゃないわよ!」

 『当然、分かります。
  ・
  ・
  もしかして……いえ、士郎ですね。』

 「貴女が真人間で助かるわ。
  凛だったら、何て言われたか……。」

 『大丈夫ですよ。
  士郎絡みなら、分かってくれます。』

 「そうよね。
  坊やは、共通の敵ですものね。」

 『……そこまでは言っていないのですが。
  ・
  ・
  あの用件は、何でしょうか?』

 「替わるわ。」


 キャスターは、士郎の襟首を掴む。


 「余計な事を言ったら殺すわよ。」

 「殺すなよ……。
  お前の場合、冗談じゃ済まないんだから。」


 士郎は、再び携帯電話を受け取る。


 「俺だ。」

 『士郎……。
  『俺だ』といきなり言われても困ります。』

 「用件なんだが……。」

 (((無視した……。)))

 『士郎……。
  もう少し話を聞いてください。』

 「何か話したいのか?」

 『もう……いいです。
  あなたの言いたい事を話してください。』

 「久しぶりに戻って来たから会いたいんだけどさ。
  桜と一緒に居るところを教えて欲しいんだ。」

 『今ですか?』

 「そう。
  今から行こうと思ってる。イリヤと。」

 『凛の家なのですが……分かりますか?』

 「何を今更。
  ライダー達が、隠匿したんじゃないか。」

 『そうでしたね。
  では、引き続き隠匿するために外で会いましょう。』

 「虐めじゃないか?」

 『桜のためです。』

 「変わらずの桜主義者め……。
  ・
  ・
  ライダーって……同性愛者?」

 『違います!』

 「まあ、いいや。
  どこで会うのさ?」

 『……この人の話を遮り、
  イラッとさせられるのも久しぶりですね。
  ・
  ・
  学校では、どうでしょう?
  あなたも懐かしいのではないですか?』

 「学校か……ライダー達が暴れた。」

 『本当に心の傷を逆撫でするのが得意なようで……。
  学校で躾けてあげます。』

 「…………。」

 「待ってます。」


 士郎は、携帯電話を切りキャスターに返す。


 「今日は、気分が悪いようだ。」

 「今、気分が悪くなったのよ!」

 「学校で待ち合わせ?」

 「うん。」

 「キャスターも行くか?」

 「何でよ?」

 「暇そうだから。」


 キャスターのグーが、士郎に炸裂する。


 「貴方が、呼んだんでしょうが!」

 「士郎、いつまでからかってるの?
  キャスターに悪いよ。」

 「貴女は、いい子に育ってよかったわ。
  こんな人格破綻者といて……。」

 「はは……。
  近くに居ると悪い事は真似しないようにって
  弥が上にも認識させられるから。」


 キャスターは、イリヤを優しく撫で、イリヤは、乾いた笑いを漏らす事しか出来なかった。
 その後、士郎とイリヤは、柳洞寺を後にする。
 キャスターは、士郎が帰って来なければ良かったのにと溜息をついて本堂へと戻って行った。


 …


 士郎とイリヤは、学校へ向け歩いて行く。
 荷物は、士郎が持ちながら。
 彼も一応、気を遣う事が出来たらしい。


 「みんな元気で変わらないな。」

 「士郎と一緒に回らなければ、
  もっと新鮮な気持ちで回れたかもしれない。」

 「?」

 「キャスター達の態度って、士郎だからだよ。
  士郎以外だったら別の態度をするに違いないもの。」

 「もしかして……。
  俺って特別な人なのだろうか?」


 イリヤのグーが、士郎に炸裂する。


 「特別ではなく軽蔑する人よ。」

 「軽蔑……。」

 「そうよ。」

 「その割には、旅行中ひっついてたじゃないか?」

 「だって……。
  得体の知れない原住民ともコミュニケーションを
  取れる人間って士郎しかいないし。」

 「俺、役立ってるじゃん。
  尊敬出来るじゃん。」

 「馬鹿と鋏は使いようって、知ってる?」

 「…………。」

 「俺は、イリヤにこんなに尽くしているのに。」

 「その分、お金払ってるじゃない。」

 「イリヤは、俺に絶対服従なのに。
  アインツベルンの名に懸けて誓ったのに。」

 「わたし、もうアインツベルンじゃないし。」

 「これから俺の家にお世話になるのに。」

 「あれ、セイバーの家でしょ?」

 「…………。」

 「いい切り返しを覚えたじゃないか。」

 「士郎のお陰でね。」

 「…………。」

 「イリヤは、『@$%#&』だな。」

 「え? 何?」

 「その上、『&&#$$$%』だ。」

 「何よ! その分からない発音!」

 「分かるまい!
  原住民の言葉を解せぬ愚か者には分かるまい!
  イリヤなんて、『%#&&@@@$』で
  『%%##@###』のくせに
  『&&%&#$@@##』だ!
  フハハハハハハッ!」


 イリヤのグーが、士郎に炸裂する。


 「意味も分からないくせに殴るなんて……。」

 「意味は分からなくても、馬鹿にしているのは分かるわ!」

 「やっぱり『%#&&@@@$』だ。」


 再びイリヤのグーが、士郎に炸裂する。


 「何をしているのですか?」


 いつの間にか学校に着き、ライダーが呆れて見ている。


 「イリヤは、今、反抗期なんだ。」


 再びイリヤのグーが、士郎に炸裂する。


 「もう、馬鹿! 大馬鹿! 本物の馬鹿!」

 「ふ……。
  馬鹿に種類も境界もないだろう。」

 「あ、相変わらずですね……衛宮先輩。」

 「おお!
  ・
  ・
  誰?」


 ライダーが、溜息混じりに補足する。


 「桜ですよ。」

 「桜?」

 「そうです。」

 「このセクシーな人が?」

 「そうです。」


 士郎は、桜の胸に視線を移す。


 「別人じゃないの?」


 ライダーと桜のグーが、士郎に炸裂する。


 「あなたは、何処で人を見分けているのですか!」

 「なんで、昔からそうなんですか!」


 士郎は、少し驚いている。


 「桜が……ツッコミを入れるなんて。」

 「士郎……。
  そこで驚きますか……。」

 「だって!
  唯一、俺に制裁入れなかった貴重な存在なんだぞ!
  ・
  ・
  それなのに……この数年ですっかり馬鹿共に毒されて……。」


 ライダーのグーが、士郎に炸裂する。


 「我々を馬鹿と言い換えるのを止めてください!」

 「ライダー……。
  お前も、こんなに俺をポンポン殴ってたっけ?」

 「…………。」

 「セイバーとキャスターと凛の影響で……。」

 「それ、おかしいだろ?
  だって、俺居なかったのに癖がつくなんて。」

 「この街には虎とか黒豹という輩も居ますので。
  それに……セイバーもあれで突っ込まれる要因を
  持ち合わせていますし……。」


 ライダーは、誰かのせいでと補足するように士郎を見る。


 「アイツら……。
  お構いなしで制裁入れてんのか?」

 「セイバーの話では、もうツッコミ癖がついて抜けないとか。
  酷い時には街中の人にも制裁を入れてしまうとか……。」

 (日本でも偉大な大阪人みたいになってる……。)

 「補足して置きますが、大阪は関係ありませんよ。」

 「?」

 「我々を突き動かすのは、殴った後の爽快感です。」

 (もっとダメじゃん……。)

 「桜も毒されてんの?」

 「わたしは、そんな事ありません!」

 「まあ、性格的に元がマイナスだから
  プラスマイナス0で普通なのかな?
  他は、プラスにプラスだから……。」


 士郎は、少し乾いた笑いを浮かべる。


 「それにしても桜は変わったな。
  髪の色って、そこまで元に戻るんだ。
  あ、目もか。」

 「姉さんのお陰です。
  あの後も、魔術書を読んで薬を処方して貰っていたんです。」

 「ええ、普通の魔術師以上の丁寧な処置をしてくれています。」

 「へ~。」

 「でも、わたし達から見れば、お二人の変化が目に付きますよ。」


 士郎とイリヤは、お互いを観察する。


 「そんなに変わってないけど?」

 「わたしの場合は、一瞬だったからね。
  それ以降は、変化がないのよ。」

 「実際の状況を見てない人達は、そういうもんか。」


 ライダーと桜は、疑問符を浮かべている。
 アインツベルンに居た者意外は、一瞬でイリヤが大人になった事を知らないからである。


 「わたしと違って士郎は、変わったの自覚あるでしょ?」

 「ああ……。
  ・
  ・
  バーサーカーの扱きにも気絶しにくくなった。」

 「…………。」

 「しかし、それは苦しむ時間が長くなった事にしかならない。」

 「…………。」

 「魔術回路も焼きつかなくなった。
  それにより、セラの魔術指導で気絶しにくくなった。」

 「…………。」

 「しかし、それは苦しむ時間が長くなった事にしかならない。」

 「…………。」

 「俺は、変わってしまった……。」


 士郎は、遠い目で空を見上げている。
 桜に一筋の汗が流れ落ちる。


 「ライダー。
  衛宮先輩に何があったんでしょう?」

 「……さあ。
  士郎をここまで廃人にするのですから、
  普通の修行ではないのでしょう。」

 「イリヤさん。
  一体、何があったんですか?」


 桜の質問にイリヤは、律儀に答える。


 「士郎ってね。
  人間個人のスペックで言えば、結構、優秀なの。」

 「はあ。」

 「今まで鍛えてなかったから、
  上等な原石みたいなものだと思って。」

 「原石というのは、我々が初めて会った頃でいいですか?」

 「うん。
  ・
  ・
  それでね。
  セラもバーサーカーも根っからの教え魔だから……。
  士郎は、格好の獲物なのよ。」

 「…………。」

 「わたしは、元々全てを持っているようなものだから、
  セラもバーサーカーも不完全燃焼だったの。
  でも、士郎という獲物が現れてセラ達は変わったわ。」

 「…………。」

 「大河による度重なる横暴により、
  普通の人間より死なない事に特化した士郎……。
  バーサーカーに取っては、死ぬ寸前までいたぶる事の出来る優秀な弟子だった。
  ・
  ・
  あんな生き生きとしたバーサーカーを見るのは初めてだったな。」

 「…………。」


 イリヤは、懐かしそうに目を閉じ思い出に耽っている。
 桜は、そんなイリヤに続きを促す。


 「あの……セラさんは?
  衛宮先輩は、投影しか出来ないんですよね?
  教える事はないんじゃないでしょうか?」

 「ええ、基本的にはね。
  でも、魔術師としては全然ダメ。
  ・
  ・
  普段から使ってないから魔術回路は鍛えられてないし。
  魔術回路だってかなりの本数があるのに活かし切れない。
  更に魔力に至っては生成も出来ずに絶対量も少ない。」

 「確かに士郎は、自分では魔力の生成すら
  出来ませんでしたからね。」

 「でも、1日で使える魔力には限度がありますよ。
  だから、魔術師は大成するのに時間が掛かります。
  セラさんが、いくら教えたくても……。」

 「フ……。
  セラのサディスティックな教育方針を
  満たすアイテムがあるでしょ?
  ・
  ・
  士郎の天地神明の理……。
  セラは、士郎の魔力が切れれば天地神明の理で
  無理やり外から魔力を注入して魔術の修行を続けるわ。」

 「…………。」

 「お陰で今や士郎は、わたしの質実剛健な魔術師よ。」

 「…………。」

 (道理で一回り大きい体格に……。
  よく死にませんでしたね……。)

 「その割には、あまり……と、いうか以前と変わらず、
  魔力を感じないのですが。」

 「当たり前だ。」


 ライダーの質問に士郎が答える。


 「魔力通すと痛いじゃないか。
  俺は、使用しない限り、1ミリたりとも魔力を生成しない!」

 「凄いのか凄くないのか
  分からなくなる発言ですね……。」

 「凄いんじゃないんですか?
  ある意味、魔術師なのに魔力感知されないんですから。」

 「聖杯戦争も終わっているのに……。
  何の役に立つんですか、そのスキル?」

 「なんの役にも立たん。」

 「身も蓋もないですね。」


 ライダーと桜に溜息が漏れる。


 「まあ、バランスの取れた生態系ではありますね。」

 「?」

 「士郎の暴走と抑止力がバランスよく生存しているのですから。」

 「食物連鎖の関係みたいにサラッと言うな!」


 ライダーは、クスリと笑いを溢す。


 「でも、結局、みんな冬木に集まって来たんだな。」

 「そうですね。
  ここは、思い入れの強い土地になってしまいましたから。
  わたしの場合は、従いたいマスターも居ますし。」

 「ありがとう、ライダー。」

 「そっか……。」


 イリヤは、冬木の街を巡り、それぞれ会ったマスターとサーヴァントを思い返す。


 (わたしとバーサーカー……。
  間違いなく最高の主従関係。
  ・
  ・
  葛木とキャスター……。
  キャスターを見れば、一目瞭然の幸せな夫婦。
  ・
  ・
  遠坂姉妹とライダー……。
  わたし以下だけど、信頼で成り立った主従関係。
  ・
  ・
  ギルガメッシュ、言峰、ランサー、アサシン……。
  子供同士の腐れ縁。
  彼らは、マスターを持っていないようなものだから……省略しよう。
  ・
  ・
  士郎とセイバー……。
  この二人だけが、どうしても主従として結びつかない……。)


 イリヤは、額に手を当て俯く。


 「どうしたんですか? イリヤさん?」

 「ちょっとね……。
  それぞれの主従関係を見て来たから、頭の中で整理してたの。」

 「はあ……。」

 「途中までは、いい信頼関係の下で冬木に来たんだなって。」

 「はい。
  みなさん、仲良くやっていました。」

 「でも、最後に士郎とセイバーの主従関係が頭を過ぎったら、
  なんとも言い表せない関係に頭痛が……。」

 (俯いた理由は、それでしたか……。)


 桜は、笑って誤魔化すしかなかった。


 「何を言ってるんだ。
  俺とセイバーは、誰にも負けない主従関係を築いている。
  俺がボケれば、セイバーが突っ込む。
  ・
  ・
  この上ない関係で成り立っていると思わないか?」

 「突っ込んでいるのは、セイバーだけではありませんが。」

 「そういえば……。
  俺は、無意識のうちにみんなと絶妙なコミュニケーションを
  取っているのかもしれない。」

 「会う人が、みんな同じ行動を取らされてるだけでしょ!」

 「俺の協調性の高さが恐い……。」

 「全くもって違う気がします……。」

 「その通りです、桜。」

 「士郎、本物の協調性を見せてあげましょうか?」


 イリヤとライダーと桜が無言で頷くと、寸分の狂いもなく士郎にグーが炸裂させる。


 「どう?
  これを協調性と言うのよ。」

 「ただの暴力じゃないか……。」

 「まあ、何はともあれ。
  あなたが冬木に帰って来た以上、騒がしくなりそうですね。」

 「遅くなりました。
  衛宮先輩、イリヤさん、おかえりなさい。」

 「おかえりなさい。」

 「ただいま!」

 「殴った後に挨拶なんて……。
  まあ、いいや……ただいま。」


 イリヤとライダーと桜は、再会に微笑む。
 士郎は、殴られた余韻でゲンナリする。


 「さて、そろそろ行こうか。」

 「どちらへ?」

 「藤ねえのところ。
  そこが最後だ。」

 「最後に一番の難関を残した感じですね。」

 「正直言うと……あまり行きたくない。
  誘拐されてから時間が経ち過ぎた。」

 「そうかな?
  雷画は、許してくれると思うよ。」

 「あの人はな。
  ・
  ・
  じゃあ、怒られて来る。」

 (怒られて来るって……。
  子供じゃあるまいし……。)

 「あ、夜来てくれ。
  姉ちゃん、連れて。
  多分、夜通し宴だから。」

 「はい、伺わせて貰います。」


 イリヤと士郎は、桜達と別れると藤村組へと足を向けた。


 …


 士郎の足は、何となく重かった。
 藤ねえのお説教が待っているのは間違いない。


 「学校を懐かしんでいる場面なんてなかったな。」

 「桜とライダーのパンチは、懐かしかったんじゃないの?」

 「桜のパンチは、初体験。」

 「色々、回って来たけど、あまり変わった気はしなかったね。」

 「そうだな。
  見た目が変わったぐらいだ。」

 「大河……。
  変わってるのかな?」

 「どうだろう?
  あの性格は、変わらないと思うけど。」

 「髪伸ばして、御しとやかになってるかもしれないよ?」

 「…………。」

 「想像出来ないんだけど……。」


 いつもと違い、舌のノリが悪い士郎のせいで、会話は余り続かなかった。
 そして、二人は、藤村組に辿り着く。


 「今日は、悪魔城のように見えるな。」


 早速、若衆に取りついで貰う。
 若衆は、最初、士郎と認識してくれなかったが、イリヤの事を覚えていてくれた事で認識してくれた。


 「俺は、そんなに変わったのだろうか?」

 「バーサーカーの修行は凄かったからね。
  腕まわりとか逞しくなってるよ。」

 「確かに……。」

 「背も伸びたし。」

 「アーチャーと間違われたから、
  アイツぐらいの大きさか。」

 (あれから背が伸びたのか……。
  自分で言うのもなんだが、
  年齢的に気持ち悪い時期に成長期が来たな。
  ・
  ・
  これも、俺がデタラメだからか?)


 雷画の居る座敷へと通される。
 雷画は、イリヤを見ると頬が緩み、愛しい孫娘に会ったようにイリヤの頭を撫でる。


 「綺麗になったな、イリヤ。」

 「ありがとう。」

 「あの小さい子が、いつの間にか大人になって。」


 イリヤは、嬉しそうに照れている。


 「雷画も、元気そうね。」

 「おう。
  それだけが取り得だからな。」

 「ただいま、雷画。」

 「ああ、おかえり。
  ・
  ・
  ところで、そちらは……。」

 (やっと、俺に気付いたか。)

 「イリヤのボディガードの方ですか。
  ・
  ・
  オイ! 茶を用意してやれ。」

 (呆けたか……雷画爺さん。)

 「違う……俺だ。」

 「そう言われてもな……。
  イリヤのところのボディガードの顔なんて分からねぇし。
  セラとリズのメイドしか知らねぇんだよ。」

 「ボディガードから離れてくれ。
  身内だろ……。」

 「身内?
  どっかの盃交わした奴か。
  誰だったかな~~~。」

 「どこまでボケる気だ!
  俺だ! 士郎だ!」

 「冗談だろ?」

 「どこに嘘をつく意味があるんだ。」

 「だってよぉ。
  幾らなんでも卒業間近のアイツが、
  そこまで背伸びねぇだろ?」

 「言ってる事は、尤もなんだけど。
  伸びちゃったんだよ。
  信じられないか?」

 「いや、信じるよ。」

 「雷画さん……。」

 「そのデタラメなところが士郎らしい。」

 「そこで信じるの!?」

 「まあ、言われてみれば面影残ってるしよ。
  何より、イリヤが連れて来たんだ。」

 (俺が、イリヤを連れて来たんだが……。)

 「もう、いいや。
  分かってくれただけでいい。」


 雷画とイリヤは、可笑しそうに笑っている。


 「しかし、旅に出すもんだな。
  一回りも二回りも、逞しくなって帰って来やがった。」

 「はは……。」

 (日々、死に掛けてたけど。)

 「雷画さん、ありがとう。
  無事、卒業出来てたよ。」

 「あんな事、大した事じゃねぇよ。
  ・
  ・
  それより、聞きたいんだがよ。
  何で、外国に行ってたんだ?」

 「セイバーに聞いてないの?」

 「いや、聞くとよ。
  複雑な表情して話を誤魔化すんだよ。」

 (まあ、説明しづらいわな……。
  イリヤも助かるか分からなかったし。
  助かった後は、音信不通で世界中飛び回ってたし。)


 回答に困っている士郎にイリヤが答える。
 答えた理由は、士郎の説明による二次災害を避けるためでもある。


 「わたしが無理言って、士郎を連れて来て貰ったの。」

 「ん?」

 「わたしね……。
  死にそうになってたんだ。」

 「なんだと!?
  士郎、てめぇ!
  何で、言わなかった!」


 雷画は、士郎の首根っこを捕まえるとブンブンと縦に振りまくる。


 (なぜ、俺がこんな目に……。)

 「やめて!
  わたしが無理言ったの!」

 「そ、そうか……。」


 雷画は、士郎を放す。


 「本当は、誰にも言わないで死のうって思ってたけど。
  無理言って連れて来て貰ったの。
  それで、士郎は、ずっと側に居てくれたの。」

 「そうか……。
  すまなかったな、士郎。」

 「ああ、気にしないで。」

 (やっぱり、ああいう行動の早さは藤村の血だよな。)

 「でね。
  士郎が来たら、治っちゃったの。」

 「…………。」

 「何で?」

 「…………。」

 「えっと……。
  士郎がデタラメだからかな?」

 「そうか。」

 「…………。」

 「ちょっと、待った!
  いいのか!? それで!?」

 「ああ? 何がだよ?」

 「何が……って。
  俺がデタラメだから、イリヤが治ったってとこ!」

 「おかしいか?」

 「おかしいだろ!?
  俺は、一体なんなんだ!」

 「デタラメな奴なんだろ?」

 「それで納得出来るのか!?」

 「まあな。」

 「!」

 「それによ。
  イリヤは嘘つく子じゃねぇしよ。」

 「それ、間違い!
  イリヤは、これでかなりの悪戯っ子だ!」

 「そうなのか?
  まあ、いい。
  治ったんだろ。
  問題ねぇじゃねぇか。」

 (似てるわ……この会話。
  要点を無視して軽く流すとこなんか……。)

 「なんで、流せるんだ!?」

 「しつけぇな。
  士郎のデタラメさが役ん立ったんなら、いいじゃねぇか。」

 「しつこい!?」

 「そうだよ。
  何で、素直にいい事はいい事って認めないんだ?」

 「いい事なのか!?」

 「いい事じゃねぇか。
  何か知らねぇ病気が、
  何か知らねぇ士郎のデタラメさで治ったんだろ?」

 「まあ、要約するとそうだけど……。」

 「だろ?
  考え過ぎなんだよ。
  俺は、また、イリヤに会えて十分なんだよ。」

 (デタラメだ……。)

 (士郎の根元を垣間見た気がするわ……。)


 雷画は、再び、イリヤを甲斐繰りしている。
 それを見て、士郎は、脱力する気分だった。


 「もう、いい……分かった。
  俺が馬鹿だった……。
  この人は、こういう人だった。」

 「失礼な奴だな。」


 イリヤは、あの話で事態が収拾した事に戸惑いつつも、魔術師の話を一切しなかった事に安堵した。


 (それにしても……。
  雷画が、この性格ならセイバーって、
  悩んで隠し通した意味あるのかしら?)


 イリヤは、笑う事しか出来なかった。

 そこにスパーンと勢いよく障子を開ける人物が登場する。
 その人物は、走りながら右拳を内側に捻る。
 そして、左足を踏み込み、右足を力強く蹴る。
 その回転は、足から腰に伝わり、突き出される右腕へと伝わる。
 それは、フィニッシュブローの一つ。
 ストレートのパンチに貫通力を持たせる伊達英二の必殺ブロー。
 人は、それをコークスクリューブローと呼んだ……。

 藤ねえのコークスクリューブローが、士郎に炸裂する。


 「歯を喰いしばりなさい! 士郎!」


 士郎は、久々の藤ねえのパンチで中を泳ぐ。


 (殴られてからのこのセリフ……。
  久々で、なんか懐かしい……。)


 藤ねえは、中を舞う士郎の襟首を掴むとブンブンと縦に振りまくる。


 「士郎の馬鹿!
  心配したんだから!
  連絡もよこさないで!」

 「大河……。
  それ以上振ると本当に命の心配をしなくちゃいけなくなるよ。」

 「へ?」


 士郎は、藤ねえの手の中でデッド・エンドへ向かおうとしていた。


 「キャーーー!
  士郎ーーー!
  ダメよ! 死んじゃダメよ!」


 士郎が、藤ねえの手を首から引き剥がす。


 「殺す気か!」

 「や~ね~。
  大丈夫よ。
  士郎は、これぐらいじゃ死なないって。
  こんなの今まで何度もして来たじゃない。」

 「そのどれもが、死に直結してただろうが!」

 (やっぱり、半端じゃないわね。この姉弟……。)

 「そんな事より、説明しなさい!」

 (俺の死は、そんな事なのか……。)

 「何を?」

 「今まで、何をしてたのかよ!」

 「もう、説明終わちゃったよ。」

 「へ?」


 雷画が、士郎に代わって説明する。


 「さっき、イリヤから聞いちまった。
  士郎は、病気だったイリヤに付き添ってたんだとよ。」

 「それならそうと、なんで、連絡入れないの!」

 「言えなかったんだよな、イリヤ。」


 雷画が、イリヤの頭を撫でる。


 「大病だったらしくてな。
  死ぬかもしれなかったんだとよ。
  気遣ってくれたんだよ。」

 「でも……。」

 「それでも、士郎にだけは話せたんだ。
  その勇気だけ認めてやりゃあいいんだよ。」

 「…………。」

 「はあ、仕方ないわね。
  イリヤちゃん、もう大丈夫なの?」

 「え? あ、うん。」

 「士郎のデタラメさで助かったんだと。」

 「そう、よかったわ。」

 (本当にこの人達凄い……。
  士郎のデタラメさを受け入れた上で会話してる……。
  ・
  ・
  士郎も項垂れてるし。)


 イリヤは、こんなに憔悴し切った士郎を見るのは初めてだった。


 「まあ、兎に角。
  士郎達が帰って来たんだ。
  今夜は、宴にしよう。」

 「いいわね。」

 「そうなると思って、遠坂達も呼んである。
  俺の家でいいんだろ?」

 「ああ、構わないぜ。」

 「そうよね。
  こういう日のために、士郎の家の地下に宴会場を作ったんだもんね。」

 「俺の家は、2階建てにされただけでなく、
  地下まで弄られてたのか……。」

 「雷画凄い……。」

 「ハッハッハッ!
  イリヤが喜んでくれるなら、弄った甲斐があったってもんだ。」

 「じゃあ、行きましょう。
  士郎! 早く料理作んないと!」

 「俺が作るのか!?」

 「そうよ!
  やっぱり、食べ慣れた士郎の料理が一番だもの!」

 (藤ねえ……。
  あれからなんの進歩もなかったのか……。)


 士郎達は、藤村組を後にして衛宮邸へと向かう。
 予定通りの宴をするために。

 この日より、鋼の錬金術師のナレーションのように語られる。

 冬木に禁忌あり……。
 動物の名前を二つ名に持つ者には覚悟を決めるべし……。
 そして……衛宮の名前には近づくなかれ。


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