== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
士郎が去ると凛のサーヴァントが姿を現す。
赤い外套を纏ったがっしりとした体つきの彼は、凛に話し掛ける。
「凛、どうだった?」
「どうもこうもないわ!
あいつは、ただの人間!
魔術師でも何でもないわ!」
(馬鹿な!?)
「魔力を感じなかったという事か!?」
「ええ、そうよ!
ただでさえ、こんな馬鹿みたいな結界張られてんのに!
余計イライラするわ!」
(しかし、あそこに居たのは、彼女に間違いなかった……。)
「次の休み時間に、とりあえずリベンジさせて貰うわ!」
凛のサーヴァントは、霊体化して姿を消す。
虚空の空間から溜息が漏れ、いつもの空気に戻っていく。
凛は、怒りを静めながら学校に向かった。
第8話 赤い主従との遭遇②
学校の下駄箱では、霊体化したセイバーが声を掛ける。
「シロウ、どうでしたか?」
「マスターだったよ。」
セイバーの気配が変わり、辺りを緊張させる。
「安心しろ。
こっちの正体はバレてない。」
「本当ですか?」
「ああ。
でも、時間の問題かもな。」
「何故ですか?」
士郎は、手の甲を見せる。
「令呪の位置が悪い。
これじゃあ、すぐに目につく。」
「確かにそうですね。」
「とりあえず。
遠坂には、こちらがマスターだとバレる事を前提でいく。」
「はい。
では、それ以外は?」
「情報の隠蔽をしながら情報収集する。
セイバーは、俺が奇襲に合わないように気を配ってくれ。
実戦は、経験がないからセイバーの指示に従う。
情報の引き出しは、任せてくれ。」
「了解しました。」
「じゃあ、次の接触があるまで授業を受ける。
退屈だと思うけど我慢してくれ。」
士郎は、セイバーを引き連れ教室に向かう。
授業は、二時限目が終わり休憩時間に入るところだった。
…
教室に入ると士郎は、一人の生徒に声を掛ける。
「おはよう。後藤君。」
「おはようでござる。衛宮殿。」
「やってくれた?」
「安心されよ。
代わりに声を変えて返事をしといたでござる。
今日も衛宮殿は、皆勤賞でござるよ。」
「おお、心の友よ~。」
「少し古いでござるよ。」
「さて、次の時限からは、しっかり授業受けないとな。」
士郎は、鞄から筆記具を取り出す。
ふと見ると後藤君が、一点を見たまま固まっている。
後藤君は、何も言わず指をさす。
そこには、遠坂凛が笑いながらこちらを見つめて(?)いた。
(あの女……。
十分も経たないうちに、また現われやがった。)
「衛宮殿。
あそこに居られるのは、遠坂女史ではござらんか?」
「そのようだが?」
「衛宮殿に用があるのでは?」
「仮にそうだとしても無視する!」
「なんと!?」
「後藤君。
アイツは、優等生という化けの皮を被った状態だ。」
「ふむふむ。」
「故に! 自ら、よその教室に足を踏み入れる事はない!
この教室は、言わば奴の心の壁!
我々は、A.Tフィールドによって守られているのだよ!」
「しかし、遠坂女史も別のA.Tフィールドを張っているように見えるが?」
後藤君の洞察力は、間違っていない。
現に凛の近くを歩く生徒は、見えない壁を避けるように彼女を避けている。
凛は、笑顔を浮かべたまま、右手の人差し指をチョイチョイとこっちに来いと言わんばかりに動かし始めた。
後藤君は、その光景に恐怖しダラダラと冷や汗を流している。
「衛宮殿!
これ以上は、死に関わるでござる!」
「大丈夫だって!
アイツ、あそこから一歩も動いてないじゃん?」
しかし、事態は秒単位で悪化している。
後藤君が死を意識した時、今まで眠っていた魔術回路に魔力を通し奇跡の力を発揮する。
「衛宮殿。
何故だか分からぬが、今なら遠坂殿の考えが手に取るように分かるでござる。」
「面白い事を言うなぁ。
ちなみに、今、なんって思ってる?」
「『さっきから気付いてんでしょ?
何時まで、わたしを無視して後藤とくっちゃべってるつもりよ!』
でござる。」
「なんか妙に生々しいな。
まあ、どうせ動けないんだろうし。
無視だ! 無視!」
「『聞こえてるわよ。無視する気?』でござる。」
「聞こえてる訳ないって。
何メートル離れてると思ってんだよ。
聞こえてんだったら、右手と左手入れ替えてみろっての?」
凛は、右手と左手を入れ替えて人差し指で士郎を呼び続けている。
「…………。」
士郎は、ゆっくりと席を立つ。
「後藤君。
骨は拾ってくれ。」
凛の後を項垂れてついて行く士郎を見て、後藤君の頭の中では、ドナドナが流れていた。