== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
子牛を連れた主は、教室の廊下を曲がる。
そこに誰も居ない事を確認すると音声遮断の結界を発動する。
そして、怒りに任せたグーを子牛……もとい、士郎の顔面に炸裂させる。
「衛宮君! 歯を喰いしばりなさい!」
士郎は、中を泳ぎながら思った。
(またか……。)
第9話 赤い主従との遭遇③
士郎は、飛ばされながらある事に気付く。
(この位置って拙くないか?
確か……この先にあるのって……。)
士郎は、地面に背中が着く瞬間に受身を取る。
しかし、一箇所だけ受身を取れない場所がある。
それは、今、後頭部にクリティカルヒットしている消火器だった。
士郎は、物の見事に気絶した。
「衛宮君!
校門の所といい、今の態度といい、
一体、どういうつもりなのかしら?」
「…………。」
しかし、士郎は、気絶していて返事がない。
ただの屍のようだ。
「あなたが、わたしの普段の態度を見破ったのは
褒めてあげるけど、やり過ぎなんじゃないかしら?」
「…………。」
しかし、士郎は、気絶していて返事がない。
ただの屍のようだ。
「ここでは言えない重要な事もあるから、
お昼休みに屋上へ来なさいよ!
いい? 来なかったら、ただじゃ置かないわよ!」
「…………。」
しかし、士郎は、気絶していて返事がない。
ただの屍のようだ。
凛は、フンと鼻を鳴らすとその場を去って行った。
凛のサーヴァントは、霊体化して、この光景を見ながら額に手を当て押し黙っている。
暫くすると彼は、凛を追って去って行った。
…
セイバーは、教室から今までの光景を通して見て頭痛がした。
自分の主は、一体何をやっているのか……。
セイバーは、仕方なく霊体化を解くと士郎を揺すって意識を取り戻させる。
「っ! あの馬鹿!
何考えてやがる!?」
「シロウ……。
何故、あのマスターは、シロウに敵意を向けているのですか?
シロウが、マスターである事は知らないはずなのに……。」
「学校で猫被ってんのを見抜いたからだよ。」
「猫?」
「そう。
多分、魔術師であるってのは、
必要以上に内面を見せない事も重要なんじゃないか?」
「ええ、魔術師であるという事は
世間一般では秘匿されています。」
「やっぱりか。」
「…………。」
セイバーは、まだ、シロウを睨んでいる。
「シロウ、本当にそれだけですか?」
「短い付き合いでも見抜くもんだな。
正解、あんまりにも図々しいんで少しからかってやった。」
「……やっぱり。」
セイバーは、額を押さえる。
「まあ、校門での会話の詳細も伝えないといけないし、
昼休みに屋上ででも話すよ。」
「分かりました。」
「それと……気絶していて分からないんだけど。
アイツ、なんか言ってたか?」
「すいません。
あのマスターは、音声遮断の結界を使用したため、
会話は聞き取れませんでした。」
「いや、それが正しい。
下手に近づいたらバレるからな。
・
・
さて、戻るか。
また、霊体化してくれ。」
士郎は、セイバーを連れて教室に戻った。
その後、解呪されなかった音声遮断の結界は、効果が切れるまで放置された。
そして、音の届かない廊下と言う七不思議の一つが学園に刻まれる事になった。
…
教室に戻った士郎の後頭部を見て、後藤君は、驚きの声をあげる。
「どっ、どうしたでござるか!?」
「ああ、これか。
拾ってくれるはずの骨の代償だよ。」
「そんなコブは、漫画でしか見た事ないでござる!
完治するのでござるか!?」
「多分、大丈夫。
藤ねえに経験させられた事がある……。」
「経験済みでござるか!?」
「ああ、思い出したくない過去の記憶ってヤツだ。」
士郎は、ゲンナリとして頭を抱える。
セイバーは、珍しい光景だと事態を眺めた。
…
時は流れて、お昼休みを迎える。
「衛宮殿。
お昼は、どうされるのでござるか?」
「藤村先生に弁当を届けないといけないから、
ついでに外で取る事にするよ。」
「そうでござるか。
では、拙者は、いつも通り購買に出掛けるでござる。」
教室の前で後藤君と別れると士郎は、職員室へ向かう。
職員室では、校長にこっぴどく叱られる藤ねえの姿があった。
「藤村君っ! 君は、一体何を考えているのかね!?
教師たるもの、生徒の見本となるべく遅刻など言語道断だ!」
「しかし、校長先生~。
今回は、士郎の躾で仕方なく……。」
「言い訳は、やめたまえっ!
衛宮君は、本日、1時限目から出席している!」
校長は、出席簿を藤ねえに見せつける。
「嘘!? なんで!?」
士郎は、その光景を見て助け舟を出す事にする。
これ以上、余計な事を言われたら、せっかくの偽装計画が失敗に終わる。
「校長先生、その辺で許してやってください。」
「おお、衛宮君。
しかし、だねえ……。」
「お昼食べる時間がなくなっちゃいますよ。」
藤ねえは、うんうんと無言で頷き、士郎に無言のエールを送る。
士郎は、切り札を出す。
「これは、今日、漬けあがった漬物です。
先生方、みんなで食べてください。」
「おお、衛宮君。
すまんねぇ、いつも。」
「いえ、いつも義姉がお世話になっているので
心ばかりのお礼です。」
「藤村先生、今日は、衛宮君に免じて、これまでにしましょう。
では、皆さん。
お昼にしましょう。」
機嫌の直った校長は、職員室の他の先生を交えて昼食の時間に入った。
藤ねえは開放され、胸を撫で下ろす。
「感謝しろよ。
こうなると思って仕込んどいたんだ。」
「う~~~っ。
ありがとう、士郎。
でも、士郎にも原因があるんだからね。」
「分かってるよ。
ホラ、これは藤ねえのだ。」
士郎は、藤ねえにお弁当を渡す。
「作ってくれたの!?
ありがと、士郎ーっ!
今日は、部員の子におかず分けて貰わなくて済みそうだわ。」
「生徒にたかるな。」
「あははは……。
じゃあね、士郎。
お姉ちゃん、弓道場に行って来る。」
藤ねえは、お弁当を持って職員室を後にした。
士郎は、漬物の争奪戦をしている先生の集団に向かって叫ぶ。
「食べ終わった容器は、藤村先生に渡して置いてください。」
教師達は、振り返ると無言で全員が頷く。
そして、すぐに争奪戦は再開される。
(大丈夫か……。
ここの学校……。)
士郎は、職員室を後にした。
お昼休みは、10分間、無駄に過ぎた。
そして、凛は、待ちぼうけを喰らい、イライラを募らせていた。