どこまでも静かだった。
軍議の間には多数が詰めているというのに、しわぶき一つ洩らす者はない。
静寂の時がどれほど流れたのか、やがて華琳がことさら静かに口を開いた。
「桂花、すぐに出陣の用意を整えなさい」
「っ! は、はいっ! そ、それで行く先は?」
「―――徐州」
つまらぬことを聞くな、とばかりに華琳は冷えた口調で言い捨てた。
「は、はいっ。……そ、それでは、いか程の規模の軍を、起こされるのでしょうか?」
「徐州全土を平らげる。十万の兵を整えなさい」
「し、しかし、いまだ帰農させた者達からの収穫は上がっておりません。兵糧、それに新しく加わった青州兵には武具の備えも十分とはいえません」
元来予定されていた予州の平定とは、戦の規模が一桁違うものだった。
小勢力が乱立し、黄巾の残党なれば張三姉妹の歌による帰順も望める予州と、まがりなりにも陶謙という州牧の元で一つにまとまっている徐州への侵攻では、全く情勢が異なる。
「兵糧も武具も、敵から奪えばよい。―――そう、何もかもを奪い取りなさい」
十万の軍ともなれば、その主力は新兵の青州兵に頼らざるを得ない。華琳の言葉に、軍議の間にいる誰の頭にも、思い浮かぶ像は一つだった。人肉すら喰らい尽くすといわれた、かつての青州黄巾賊の姿である。
「青州兵を、再び暴虐の野へと解き放つおつもりか? いや、報復のための軍旅ともなれば、かつての我ら以上のことにもなりかねません」
末席から声を上げたのは褚燕―――今は名を変えて張燕と名乗っている―――であった。新参だからといって、微塵も萎縮したところは無い。この胆こそ、憎悪で曇りきって見えずにいた張燕の美徳であろう。
「それがなにか」
「天下が遠のきます、曹操様」
青州黄巾賊による海内全土の地ならし。荀彧が、そうした献策をしたという噂は曹仁の耳にも聞こえていた。
青州黄巾の受け入れ自体をひた隠し、百万の飢餓の軍勢を、全土に侵攻させる。そうして弱り切った諸侯を攻め落とすと言うものだ。卓抜した戦略も、その時は華琳によって斬って捨てられたらしい。青州黄巾賊は予定通り曹操軍に取り込まれ、他の兵と区別して青州兵などと呼ばれている。
今、青州兵による暴掠が行われれば、それは即ち曹操軍によるものであることは隠しようもない。
「それが何だというの? 私自身を偽り殺してまで為して、それで曹孟徳の覇業と言えようか!?」
華琳が、初めて感情も露わに叫んだ。同時に、曹仁も頭にかっと血が上るのを感じた。
徐州の民もまた、天下の民。ひいては曹孟徳の民ではないか。人を活かす。それがたとえ敵対した相手であっても生かし活かす。それこそが曹孟徳の覇道ではなかったのか。報復のための虐殺など、自身の覇業に対する裏切り以外の何ものでもなかった。
「……他に異議のある者は?」
華琳の激昂を前に、再び軍議の間はしわぶき一つ無い静寂に包まれた。
曹仁は、無言のまま一歩膝を進めた。
「……仁。……とめるつもり?」
背筋が凍えるような視線が注がれた。まるで、今ここにいる曹仁ではなく、仇そのものを睨みつけているようだった。華琳とは喧嘩をしたこともあったし、戦場で敵対したことすらあった。それでもこんな視線を投げつけられたのは初めてのことだ。
怯むな。曹仁は目にぐっと力を込めて、言葉を返した。
「―――そんなはずがありましょうか。私とて曹嵩様には、数えきれぬほどの御恩がございます。私に、ぜひとも先陣の誉れをお与え下さい」
周囲の皆が息を呑むのが聞こえる。非難するような視線が全身に突き刺さるのを曹仁は感じた。
「へぇ」
華琳が冷ややかに返した。じっと、こちらの考えを見透かすかのように、見つめてくる。
「…………私が、どのような戦を望んでいるのか、わかった上で言っているのでしょうね?」
曹仁はすっと息を吸い込むと、静かに口を開いた。
「はい。―――凄惨で血みどろの報復戦を行いましょう」
一度言葉を紡ぐと、それからは溢れ出すままに一息にまくし立てた。
「徐州の民全てに絶望を与えよう。
父の前で娘を犯そう。
母の前で息子を嬲ろう。
泣き叫ぶ幼子の声を、親達に聞かせよう。
親の首を並べ、子の目に曝そう。
子のために剣を取った父を殺そう。
身を盾とする母も殺そう。
徐州の民が流す血を河としよう。
徐州の民が亡骸を積んで山としよう。
徐州の―――」
「―――もうよい!!!」
華琳の制止の言葉に、曹仁は口を閉ざした。自分で思っていた以上に興奮していたのか、胸が激しく上下する。
「………………」
曹仁はゆっくりと呼吸を整えながら、華琳を見据えた。
華琳は、曹仁の視線から逃れるように、目を逸らした。恥じ入るような、慙愧に耐えかねているような、そんな表情だ。それは彼女らしくない表情だが、それでも確かに、いつも通りの華琳だと思えた。
「軍議を終える」
華琳はそう言い放つと、立ち上がり、すぐに出口へ向けて足を進めた。
「か、華琳さま、それでは出兵の方はいかがすれば?」
荀彧が慌てた様子で腰を浮かせ、声を上げた。
「出兵は取りやめる。…………それから、仁。後で私の部屋まで来なさい」
言い捨てると、逃げる様に華琳は軍議の間を後にした。
人気の感じられない部屋の前で、曹仁はわずかに逡巡した。日はとうに落ちて、あたりは闇と静寂に支配されているが、室内には灯りも灯されてはいない。
「入りなさい」
伺いを立てるまでも無く声がした。暗い室内に曹仁は足を踏み入れた。
「……私に、失望したかしら、仁?」
闇に目が慣れた頃になって、ようやく部屋の奥、星明りも届かない暗がりから声が掛けられた。
「そうですね。少し、いや、かなり腹が立ったのは確かです。でも、まあ、良かったですよ」
言うと、曹仁は寝台に座る華琳に並んで腰を下ろした。
「良かった?」
「ええ。華琳様も過ちを犯す。判断を誤る。天下のことが頭から抜け落ちることもある」
「……無様を晒した私に、追い討ちを掛けているつもりかしら?」
「そうではありません。だからこそ俺にも出来ることがある。お前を支えられる。…………と、まあ、そういう感じのことを言いたいわけだ」
最後に少し照れて、曹仁ははぐらかすように言葉を付け足すと、華琳から目を逸らした。
しばし、横顔に突き刺さる視線に曹仁は耐えた。
なにをもって仕えるのか。それは華琳に付き従うと決めた曹仁が、第一に行き当たった問題だった。政はもちろん戦でも、華琳の手並みには及ばない。一人突出したこの天才に己が全てを委ね、ただ手足となって動く。それが分相応と思いながらも、やはり華琳にも他の家臣にも出来ない、自分だけの何かが欲しかった。
―――俺は、華琳を諌めることが出来る。
華琳は臣下の言に聞く耳を持たない無能の主ではない。それでも、先刻あの瞬間に、諌めることが出来たのは自分だけだ。それは曹仁にとって何物にも代えがたい喜びだった。
「……私だってただの人間よ。そりゃあ、たまには判断を誤りもするわよ」
そんな曹仁の思いを知ってか知らずでか、華琳は小さく洩らした。
「珍しく殊勝だな」
「これでも精神的にまいっているのよ。じゃなきゃ、こんなこと弟分の前で口にしないわ」
「たしかに、普段なら俺の前でまいっているだなんて弱みは口にしないな」
華琳は、一つ大きく息をついた。
「何にしても、良く止めてくれたわね。仁に、ああした物言いが出来るとは思わなかったわ」
「俺も頭に血が上っていたからな。失礼の段はお許しを」
「案外、それぐらいの方があなたは弁舌が冴えるのかもしれないわね。張燕の時にも、拙いながらもお熱い口上だったし」
曹仁は、気恥しさを覚えて押し黙った。
とはいえ、曹仁は自身の弁舌そのものが華琳の変心を促したとは思っていない。流れるように言葉が口をついて出たのは、実際にそうしてしまいたいという気持ちがどこかにあったからだ。華琳は、そんな曹仁の中に激情に溺れる自身の姿を垣間見たのではないだろうか。
顔をそむける曹仁に、華琳はなぶる様な視線をそそぎながら口を開いた。
「付き合いの短い季衣や沙和あたりは、結構本気で怖がっていたわよ。後で言い繕っておきなさい」
「了解」
すっかり冷静さを取り戻したものと見える言葉に、曹仁は大きく首を縦に振った。
「貴方には褒美の一つもあげないとね。何か欲しいものはあるかしら?」
気を取り直すように、華琳は話題を切り替えた。
「前回の戦での功もあるし、何でも良いわよ。太守という扱いで城の一つもあげましょうか? それとも、朝廷に掛け合って正式な官職の一つも付けてあげましょうか? 今なら、天の御使いなどと不遜だとか、叛意の疑いがどうとか、騒ぎ立てる廷臣もだいぶ減っているでしょうし」
「そうだな。…………なら、華琳の泣き顔が見たいな」
「はぁ? なによ、それ?」
「実の娘のお前が我慢しているのに、俺の方が先に泣いたら格好悪いだろ」
「っ! べ、別に我慢なんか」
「してないのか?」
「してない。…………こともない、か」
じっと目を見つめると、華琳は観念したように漏らした。
「なら、泣いてくれよ。そしたら、俺も泣けるから」
「嫌よ。私の方がお姉ちゃんなんだから、あなたから泣きなさい」
「男には、意地ってもんがあるんだよ」
「そんなもの、女にだってあるわ」
「…………そうか。なら、同時に」
「いいわ。それじゃあ、三、二、一で泣くわよ」
「わかった」
「三」
声を合わせて数え上げた。
「二」
「一」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
考えることは同じなのか、両者ともに押し黙ったまま、視線が交錯した。
「……おい」
「……ちょっと」
「……くっ、ははっ、はっはっはっ」
「……うふっ、はははっ、ははっ」
どちらからともなく笑いだしていた。そして、どちらからともなく話し始めた。
「初めて出会った日、曹嵩様は俺を女童と勘違いなさったな」
「それは仕方ないわ。この国の子供と違って、あなたは肌も白くて小奇麗にしていたし、服装も、こちらではああした服はあまり男は着ないし」
女性の権力者が多いためか、この世界の服飾文化は独特の進歩を遂げている。女性服だけは洋風のものが混在していて、曹仁の元いた世界とほぼ同等の水準にあるのだ。対して男性の服は時代がかったものがほとんどであった。
「それに、不安に震えて瞳に涙浮かべる様は、少なくとも勇ましい男の子には見えなかったもの。ふふっ、懐かしいわね」
「あれは、ちょうど一族郎党集まっての、曹嵩様の太尉就任を祝う宴だったな」
「ええ。眩い光とともに現れたあなたを、あの場に集まった誰もが吉兆と持て囃したけれど、まさかそれが原因で就任早々に首になるなんてね」
「曹嵩様には、申し訳ないことをした」
「良いのよ。……あの人も、実のところほっとしたのではないかしら。知っての通り、政に野心のある人じゃなかったから」
ならどうして、と聞くまでもなく、華琳はふっと口調を変えて小さくこぼした。
「……まったく、馬鹿な母さん。お爺様の貯えたお金で地位を買って、それで私が三公の娘と呼ばれるとでも思ったのかしらね」
そういうことか。曹仁は親子の真実に、初めて触れた気がした。
宦官の孫。そんなことは気にもしていないと、幼き日の華琳はことさらに言った。世間の嘲笑などどこ吹く風と、自身の才覚に絶対の自信を持つ彼女の、それがまったくの本心であると、同じく幼かった曹仁は信じ切っていた。今にして思えば、何とも彼女らしい強がりだったのだ。
権勢欲など無い人だった。それが、金で三公の地位を買ったのだ。陰で笑う者もいただろう。蔑む者もいたかもしれない。だが、面と向かって声を上げたのは華琳だけだったのだ。
明りのない室内に静寂の時が流れた。
「……おい」
泣いているのではないだろうかと、うつむきがちの華琳の顔を曹仁はのぞき込もうとした。その屈めた頭が、そっと胸元に抱き寄せられていた。
そのまま、幼子でもあやすように優しく頭を撫でさすられ、ぽんぽんと軽く肩を叩かれた。
「ずるいぞ、華琳」
年端も行かぬ時分に、この世界に一人投げ出された。里心のうずく、もっと言えば母恋しさに嘆くこともあった。そんなときに、こうしてぬくもりを分け与えてくれたのは幸蘭であり、秋蘭であり、曹嵩だった。思い出したくもないことだが、華琳にすがったことも一度ならずあった。
自分が受けた愛情を模倣するものか、華琳のあやし方は曹嵩とそっくり同じである。
「……っ」
こみ上げるものがあった。あふれ出そうとするその瞬間に、曹仁は首筋に何かが落ちるのを感じた。
「あーあ、俺の負けか」
他のなにものも見えぬように、見られぬように。曹仁からも華琳をきつく抱き寄せ、その胸に顔を押し付けた。
室内に嗚咽が二つ響き合った。
翌早朝、再び緊急の軍議が開かれた。
「曹仁。一千の精鋭でもって我が母の仇を挙げよ。
張燕。賊の潜伏場所を探るのは、貴方が適役でしょう。副将として曹仁にしたがいなさい。
賈駆。先発し、陶謙から徐州内に兵を入れる許可を得なさい。その後は軍に合流して曹仁の補佐を」
「はっ」
「は、はい!」
華琳が口早に告げると、張燕が威儀を正して受け、詠が幾分慌てた様子で返答した。
両者にとって、曹操軍に入って初めての軍務らしい軍務と言っていい。詠にはいささかの気負いが見えるが、張燕の方は泰然としている。
曹仁は、無言のまま笑顔で華琳を見返した。
「……なによ?」
「いえ。その任、しかと承りました」
「……ふん。進軍の行く手を阻む賊があれば、それも刈り取ってやりなさい。もし帰農する意思のある集団があれば、兗州は受け入れよう」
華琳の口から、さらに細かい行軍計画が説明された。昨夜、曹仁が部屋を訪ねる前に試算したものか、それとも即興で組み上げたものか、いつもなら荀彧に任せる様な部分まで全て華琳自身が詰めている。
「華琳さま、それでは兵糧が多すぎはしませんか?」
荀彧が口を挟んだ。数倍の兵力を持って行軍しても、十分過ぎるほどの量が告げられていた。
「そうね。余った分は適当に処理してしまって構わないわ、仁」
「適当に? …………なるほど。了解しました」
荀彧や秋蘭達も合点がいった表情で頷き合っていた。季衣は頭に疑問符を浮かべているが、春蘭はわかった様な表情で、うんうん頷いている。たぶん見当違いだろう。
陶謙の放置していた賊の横行を、代わって征伐する。その上で、苛政と賊徒に苦しめられた民に糧食を分け与える。兵糧など、民の数から見れば微々たるものである。それでも、施しを与えたという事実は民の心に残るし、幸蘭の諜報部隊を用いてことさらに喧伝もするだろう。いずれはそれが、徐州獲得へとつながる。
華琳らしい、その先を、天下を、見据えた行動だった。
その後、華琳は兵糧の捻出や、徐州からの賊徒―――難民の受け入れについて文官達にいくつかの意見を求めた。
「あの、華琳さま。お尋ねしたいことがあるのですが」
議論も尽きた頃、荀彧がおずおずと口を開いた。
「何かしら、桂花」
「昨夜のことなのですが。華琳さまは、曹子孝をお部屋にお召しになりました」
「ええ、そうね。それがどうかしたのかしら」
「今朝、軍議にいらっしゃった時、華琳さまは、曹子孝を伴っておりました」
「ああ、そういうことね。ふふっ」
華琳は、悪戯っぽい視線を一瞬曹仁へ走らせた。
「ええ、抱いたわよ。いえ、この場合は抱かれたというべきかしら?」
「そんなっ!!」
絶句した荀彧に代わって、努めて冷静に曹仁は問い質した。
「華琳様、何のおつもりです。誤解を招くような御発言はお避けになるべきです」
「あら、白を切るつもり? 一晩寝具を共にしておいて、それはひどいのではない? 昨夜はあんなに強く肩を抱きしめてくれたのに」
華琳が自らの肩を抱くわざとらしい仕草で、しなをつくった。
「だから、それは―――。…………っ」
泣き疲れ、いつしかまどろみに落ち、そのまま華琳の寝台で朝を迎えたのは事実であった。そこは長年の家族付き合いの気安さで、艶めいた何かがあったわけではない。
とはいえ、華琳に泣きすがったなどと言えるはずもなかった。それは面子を抜きにしても、華琳と自分の二人だけが知っていればいいことだ。
「やっぱり言えない様な事をしたってわけ!?」
そんな曹仁の態度が、荀彧をさらに興奮のるつぼへと押しやった。
「仁ちゃんが遂に男に」
すべてを察した笑みを湛える幸蘭が、火に油を注ぐような茶々を入れた。
軍議は、他の一門の将をも巻き込みさらに紛糾した。
喧々たる軍議が終わり、皆が退室していく中、張燕と目があった。
「姓を変えたんだってな」
「ああ。あのまま徐州を侵略、などということになっていたら、また賊徒の褚燕に戻って野に下ったかもしれんがな」
言って、自嘲混じりに笑ったその表情からは、義兄にすがる少年の弱さも、復讐に狂った賊徒の悲壮も感じられない。
「張燕、か」
曹仁は、男の名を口にした。その響きは、好ましいものに思える。
「ああ。張牛角が義弟、張燕だ。」
張燕も、自らの名を口にした。義兄の意思を継ぎ、義に生きようとする男がそこにはいた。
「ご主君がお前に用があるらしい。邪魔者は一足先に退室させてもらうとしよう」
気付けば、軍議の間に残っているのは曹仁と張燕、それに華琳だけとなっていた。
荒んだ流亡の時が長かったためか、復讐の呪縛から解放されても、どこか世をすねた態度に変わりはない。肚の据わった皮肉屋の男は、ふっと鼻で笑って、軍議の間を後にした。
「仁」
「はい」
張燕の姿が完全に視界から消えるのを待って、華琳が口を開いた。
「これで満足したかしら?」
華琳は王者の風格を漂わせつつ、それでいて挑む様な瞳で曹仁を見つめた。
「ああ。さすがは……。うん、さすがは華琳様です」
曹仁は華琳を称える言葉を一瞬だけ探して、直ぐに諦めた。彼女を褒め称える多くの言葉を耳にしてきたが、そのどれもが、こうして本人を前にするとひどく安っぽく感じられたのだ。
「ええ、これが私よ」
華琳は、そんな曹仁の意図を読み取ったのか、ぎこちない賛辞に満足そうに微笑んだ。