「呂布、こちらはどうだ? 食べないか?」
「…………いる」
「むぅっ、鈴々も食べるのだ!」
愛紗が恋を構い、焼き餅を焼いた鈴々がそこに割り込む。
夕時の軍営では、すでに定番となりつつある光景が展開されていた。
「鈴々よ、不機嫌そうな声を上げてどうした? 呂布に好物でも取られたか? それとも、取られたのは大好きなお姉ちゃんかな?」
「そっ、そんなことないのだ! 鈴々は愛紗のことなんか、これっぽっちも気にしてないのだ!」
「関羽も関羽やで。まったく、ウチにはつれないくせに、恋にはえらいご執心やな」
「な、何を言うか、張遼。私はただ食事を余らせても悪いと思ってだな」
星が、霞が、そこに茶々を入れれば、まさにお決まりの場面である。
これもいつも通りに、桃香が義妹二人をなだめに入るまで、しばし愛紗と鈴々の狼狽は続いた。
陶謙の勧めに従い、曹操軍は下邳城下に仮設の軍営地を築き、そこを拠点に張闓の探索活動を続けていた。
軍営には他に劉備軍と呂布軍も駐屯している。三つの軍が一つ所に同居している形だが、首脳陣がこうして仲睦まじい姿を見せているため、兵の間にも無用な緊張は見られない。
各軍の首脳陣には宮殿内にも部屋が用意されているが、皆大抵は軍営に詰めている。曹仁に至っては一度たりとも足を踏み入れてはいなかった。曹操軍では詠だけが宮廷内の動向を探るために、宮中で起居していた。
曹仁が軍を動かす際には、必ず劉備軍か呂布軍のいずれかが支援と称して行軍を共にする。両軍には陶謙直属の軍監が付いていて、曹操軍の動静に目を光らせていた。さすがに、曹操軍に軍監を置かせろとは言うほどに、陶謙も厚顔ではないということだろう。
曹仁は、初めからその視線を気にするつもりはなかった。困窮する民がいれば糧食を分け与えるし、賊徒といえども気骨のある者は捕えてもすぐに解き放った。詠がある程度は軍監の目を逸らす動きを見せてはいるが、特に隠蔽する気もなかった。
「お前は他の皆の輪に加わらないのか、音々音?」
音々音は少し離れたところから、火を囲む他の面々を睨むように見据えていた。
傍らには愛犬の張々一匹が侍るのみである。その張々も、立ち込める夕餉の匂いに気もそぞろの様子だった。
「いずれ敵になるかもしれない連中と、仲良くするつもりはないのです。劉備達や、それに曹仁、お前とも」
「恋や霞は、劉備軍の面々とはすでに直接干戈を交えてもいるが、特に気にもしていないぞ」
「武人の皆さんは、それで良いのですよ。戦ともなれば頭を切り替えられるのでしょうし、命と命、お互い様ですから。でもねねは恋殿の軍師なのです。頭だけで戦を考えて、時には策をもって命を奪いもします。だから仲良しは少ないにこしたことはないのです」
軍師として、立派な心構えというべきなのだろうか。それとも、頓着なく話の輪に加わり、今も同じ軍師同士音々音と交流を図れないものかとこちらを窺っている朱里や雛里を見るに、逆に割り切れない甘さの表れというべきなのか。少なくとも、こうして曹仁に心情を暴露してしまうところなどは、軍師としては未熟以外の何ものでもないだろう。
それでも、かつての軍師とは名ばかりであった頃の音々音には無い、悲壮な覚悟がそこにあった。
「俺はお前達と敵対したいとは思っていないぞ。たぶん桃香さん達もな」
「ふん。そう思うなら、今すぐ恋殿の傘下に加わるのですね。そうすれば、また恋殿の飯炊きくらいには使ってやるのです」
鼻息を荒げる姿に、以前と変わらぬ音々音を見た思いがして、曹仁はわずかに口元をゆるめた。
「む? 何です、いまの笑いは?」
そんな曹仁を見咎め、音々音がいきり立てば、それは洛陽の、あの皇甫嵩の屋敷で幾度となく繰り返された日常に他ならなかった。
「―――! ―――! ―――!」
曹操軍と劉備軍が共だって集落に至ると、周囲は歓声に包まれた。
ここまでの道すがら、民にはかなりの糧食を分け与えている。徐州内での曹操軍の評判は、あるいは本拠の兗州内以上に高まっているかもしれない。だが、曹操軍を褒め称える文言以上に耳につくのは、桃香―――劉玄徳の名だった。
黄巾賊鎮圧における働きで桃香が世に出てより二年足らず、この千幾ばくかの兵力を有するだけの小集団とその主の名は、中華全土に知れ渡っていた。
桃園で結ばれたという義姉妹の契り、不正を憎んでの劉備の退官、虎牢関での関羽の武勇まで、人々の口に上らぬ日はない。今や講談家の最大の飯の種は、覇王項羽の悲恋でも、驍将李陵の艱難でもなく、義と徳の将軍劉玄徳の物語なのだ。
「劉備様!」
歓声を上げるだけでなく、村の中へ桃香が一歩足を踏み入れると、民が取り囲むように周りに集まってくる。
華琳も善政を布き民の支持を集めてはいるが、こういった手放しの慕われ方はしていない。わかりやすく言うなら、桃香は民から人気がある。それは為政者である華琳よりも、張角らに近い感覚かもしれない。自然と耳目を集めるようなところが、桃香にはあった。やはり華琳にも劣らぬ傑物と言えよう。
一口に英雄、傑物などといっても、その性質は一様ではない。漢朝においても、高祖劉邦と光武帝劉秀という全く異なる二人の英傑を得ている。自身が優れた軍略家であり政治家でもある華琳を劉秀とするなら、多士済々の家臣団に盛り立て押し上げられる桃香は劉邦に近い。その例で言うなら、小覇王と称えられる孫策は項羽になるのか。もっとも桃香は劉邦のように功臣の粛清などしないだろうし、孫策の苛烈も項羽ほどに狭量なものではない。
「曹仁さーん」
桃香が大きく手を振って呼んでいた。
もう一方の手で、一人の老婆を支えるようにして導いている。この村の長老だろう。曹仁が兵糧を供与することで結んできた誼を、桃香はその名声と人柄だけで容易く築き上げていく。
曹仁は苦笑ながらに、目語する桃香と老婆の元へと歩み寄った。
天の御使いと噂される曹仁を知っていたのか、あるいは桃香が殊更大袈裟に言い立てでもしたものか。対面するや、老婆は拝み込むように頭を下げ、手をこすり合わせた。
老婆から周辺の賊に関する情報を聞き、村の近辺での野営の許可を求めた。
村人にとって軍は租税を徴収するばかりのほとんど賊とも変わりのない存在であるが、それが劉備軍となると話は別だった。賊徒が横行する中、近くに義軍と名高い劉備軍が滞陣するというのは、願ってもない話であろう。老婆は二つ返事で滞陣を認めた。
他の賊の手引きによって、張闓らの所在が判明していた。
案の定と言うべきか、張闓らの評判は賊徒の間でも最悪といって良かった。元々が彼らを取り締まる軍人の立場であり、民にとっては重税を絞りとる苛政の象徴でもあった。食うに困って立たざるを得なかった者達と、金に目が眩んだ亡者では土台が違うのだ。
集落から西へ二十里程の位置にある、小さな山と山が連なる地形。そこに山塞を築いているという。老婆の話と合わせて考えても、まず間違いがないだろう。
翌日、曹仁はわずかな護衛隊を引き連れるのみで、輜重を動かした。
曹操軍が潤沢な兵糧を抱えていることは徐州全土が知るところである。曹嵩から略奪した荷はすでに食い潰したのか、張闓を首魁とする賊徒は、あっけない程に容易く曹仁の誘いに乗った。
山と山に挟まれた隘路を進む輜重隊の前後に、それぞれ七、八十の賊が展開した。曲がりなりにも元軍人が率いるだけあって、一応の陣形は整っている。報告よりも兵が少ないが、寡兵それも輜重隊を相手に二段階の伏兵とも考えにくい。困窮の果てに離散されたか。曹操軍の狙いが張闓であると本人が知らぬはずもないのに、こうして襲撃を実行している。そのことからも、逼迫した状況はうかがえる。
「あれが、張闓だな」
前方の陣の中央で一人騎乗する男。州軍の具足を着崩して、虚仮威しに大刀などを振り上げている。いくらか荒んだ印象はあるが、州内に潜伏する幸蘭の手の者から得た州軍時代の張闓の外見的特徴とほぼ合致していた。
報告には人となりから事績まで事細かに記されていた。民からの税の取り立てがうまく、軍人と言うよりは小役人に近い。民を虐げて、上に媚びる。兵を率いる立場にあったのも、これといった武功があったわけではなく、その手腕故だった。
「――――!!」
後方で喚声。張燕が、賊の背後を襲ったのだろう。一方で、前方の賊徒の退路は角が封じているはずだった。劉備軍は戦闘には加えずに、一応後詰という形で近くに陣を張らせている。
後方への対処は、あとは輜重車を並べて防壁とするだけでも良かった。しかし曹仁は、輜重の守備に護衛隊の二十騎全てを残し、ただ一騎、張闓のいる前方の敵陣へと向かった。
腿を軽く締めると、白鵠が意を察して脚を速める。締め付けを強めると、呼応して白鵠の脚が激しく地を蹴った。
この遠征ではまだ一度も血に塗れていなかった曹仁の槍が、ここへきて初めて赤く染まった。後方の動揺が伝わり、すでにして賊は逃げ腰だった。曹仁の激情が乗り移ったのか、背を向ける賊を白鵠が蹄にかけていく。普段は体当たりまでで、あまりやりたがらないし、やらせない。悪戯に脚を痛める危険を冒すようなものだからだ。白鵠の純白の毛並も、常になく返り血に染まっていく。
曹仁と白鵠を、遮れる者はいなかった。血風を巻き散らし、曹仁は敵陣中央まで容易く至った。
―――張闓。
賊はすでに逃げ惑い、狭道を圧し合う態である。その波に翻弄され、張闓は退くこともままならずに狼狽している。
「お前が、同情の余地も無い悪党で良かった」
小さく、呟いた。
華琳と二人、決めていた。張闓と陶謙、彼らだけは決して許すことはないと。
真横を駆け抜けざまに、石突きで馬上から叩き落とした。
「俺とこの男、それと角だけにしてもらえないでしょうか?」
野営地に戻ると、曹仁は言った。
幕舎の中には、曹操軍と劉備軍の主だったものが顔を連ねている。中央には、縄を打たれた張闓が膝を付いていた。
表面上願い出る言葉だが、言外に込めた有無を言わさぬ気迫に、各々が席を立っていく。
視界の片隅に張燕の皮肉げな笑みが過ぎり、消えた。何か言いたそうにしていた桃香も、曹仁が頑なに視線を合わせずにいると、頭を振って退室した。
「……拘束を解いてやれ」
三人だけになると、曹仁は角に命じた。
張闓を後ろ手に縛り上げた縄を、角が小刀で切り放した。曹仁は、ひざまずく張闓の方へ一本の槍を転がした。
「機会をやろう。俺に傷の一つも付けることが出来れば、その腕に免じて見逃してやる」
槍を手に一歩進み出ると、張闓が慌てたように足元の槍へ手を伸ばした。
張闓は、穂先をこちらへ向け槍を持っている。曹仁の目には、本当にただ持っているだけで、構えといえるようなものには見えなかった。
曹仁は無造作に踏み込み、槍を振るった。
「――――っつ、あぐっ!」
張闓はくぐもった声を上げ、うずくまった。
「角、止血をしてやれ」
張闓が取り落とした槍には、まだ左手の手首から先が残っている。曹仁は床几に腰を下し、それをじっと見つめ続けた。
半刻(十五分)ほども経ったろうか。
斬り落とされた左手の切断面が乾ききった頃に、やっと曹仁は視線を逸らした。張闓へ目を向けると、縛り上げられた傷口には布があてがわれ、そこに滲み出した血も乾き始めている。
曹仁はおもむろに立ち上がった。
「もう一度機会をやろう」
「ひっ」
左腕を抱えるようにしてうずくまる張闓に言葉を落とすと、その身体がびくりと震えた。
「その手では、槍は使えないな。角、刀を持ってきてくれるか」
「……はっ」
角には、これまで一度も視線を向けていない。だから、どんな表情をしているのかは分からなかった。
戻ってきた角が、未だうずくまり続ける張闓の残った右手に刀を握らせた。
「さあ、どうした。毛筋ほどの傷一つでよいのだぞ」
張闓が血走った眼を見開いた。何事か喚き立てながら、刀を振りまわして向かってくる。技も何もない動きに、曹仁は容易く刀を弾き飛ばすと、張闓の足の甲に体重を乗せた石突きを打ち落とした。
悲鳴を上げてのたうち回る張闓を、再び床几に座って曹仁は見据えた。
半刻後、叫び疲れてぐったりと憔悴した張闓を引きずる様にして曹仁は強引に立たせた。張闓は怯えきった表情で、刀を突き出している。
「そう怖がるな。ここからは素手で相手になってやろう」
曹仁は言って、槍を放り出した。張闓の身体が、わずかに前のめりに動いた。
鼻と水月(みぞおち)。一撃ずつ、拳を叩き込んだ。
さらに半刻後。すでに槍の一撃で砕けている足の甲を踏み抜き、肘で顎を打ち上げた。
「篝を。それに桶に水を持ってきてくれ」
日が暮れし切る頃には、張闓はほとんど息をするだけのものになっていた。曹仁は幕舎に灯を入れ、張闓に頭から水を被せた。
張闓は、わずかに目蓋を振るわせただけで、他に反応を見せることはなかった。このまま放置すれば、数刻のうちに死ぬのだろう。治療を施したところで、もはや助かる見込みもない。冷えた頭で曹仁はそう推し量った。
曹仁は張闓を引きずり起こした。もはや自分の力で立つことも出来ない身体を、襟元を掴んで持ち上げると、もう一方の手は拳を握りしめた。
張闓の口がかすかに動いた。殺してくれ。唇の動きは、そう読める。
憤怒が、心の底から立ち上ってくる。
―――母も同じであった。
大宦官曹騰が起こした家は、すでに二代目の曹嵩の頃には曹家の宗室という位置付けだった。嫡子の華琳との不仲が噂されていただけに、要らぬ波風を立てぬために分家の養子とされた。すでに親の代は引退し、当時十代前半であった幸蘭が一人切り盛りする家である。
それでも、曹家の大人たちの中で、最も曹仁を気にかけてくれたのは曹嵩だった。買官による太尉への就任で、実娘の華琳との関係が表面上冷え切っていた時期でもあった。母性を傾ける相手を欲してもいたのだろう。曹仁もまた、一人投げ出されたこの世界で母を求めた。
また、張闓の口がわずかに開いた。楽に、殺せというのか。―――ふざけるな。
「曹仁さん!」
背後からの声に、張闓の襟を握った手を離して振り返った。どしゃりと、支えを失った張闓の身体が地に落ちる音がした。
「……桃香さんか。何か用か?」
「…………」
無言のまま駆け寄ると、桃香は、襤褸のように横たわる張闓と曹仁の間に強引に身を潜り込ませた。曹仁は肩を竦めて、一歩後ろに下がった。
「邪魔をする気か?」
「これ以上は駄目です、曹仁さん。いつもの曹仁さんに戻ってください」
「どういてくれ。その男はまだ生きている。そいつの息の根が続く限り、俺は止まれない」
「…………」
堂に入った動きで、桃香がすらりと剣を抜いた。曹仁は覚えずもう一歩後ろに退いていた。
靖王伝家。中山靖王劉勝より伝え残されたという宝剣。幾重にも刃こぼれを重ねながら、触れれば斬れるという切れ味は失われていない。だが、手にしているのは桃香である。抜き放つ姿だけは目を見張るほどに見事なものだったが、今はただの女の子だ。腰は引けて定まらず、がちがちと緊張に身を震わせている。
曹仁は一瞬でも気圧された自分を、心中嘲笑った。
「その男の味方をするつもりか?」
「私は、曹仁さんの味方です」
「敵だ。俺の前に立ちはだかるというのなら。 ―――どいてくれ」
桃香が悲しげな表情で、ぶんぶんと首を横に振った。
呼吸が、見ているこちらが心配になるほどに荒い。本気で、自分と対峙しようというのか。剣で自分を止めるというのか。それが、出来るつもりなのか。
「…………っ」
張闓が、かすれ声を上げた。最後の力を振り絞ったはずのその声は、曹仁の耳にはただ息が漏れる音としか聞こえなかった。殺してくれ、たぶん、またそう言ったのだろう。
桃香が、意を決したように目を見開いた。靖王伝家が振り被られる。
「――――――っ!」
くるりと身を翻した桃香が、剣を振り下ろした。
張闓の四肢が一度大きく振るえ、それきり動かなくなった。
「……桃香さん、どうして?」
呼吸にして、十か二十か。あるいはそれ以上の時を置いて、ようやく曹仁は口を開いた。
「これ以上続ければ、曹仁さんがおかしくなってしまいます」
「すまない。つまらない事で、あなたの手を汚させた」
すでに気は落ち着いていた。謝罪の言葉も、素直に口に出せた。
自分へ向けて振り下ろされることのなかった桃香の剣は、それでも何かを斬り払ったのか。肩から下腹にかけて、不思議と熱く痺れるような感覚が残っていた。
桃香の剣を持つ手は、ぶるぶると震えていた。人を斬るのは初めてなのだろう。
「私の手なんて、もうとっくに汚れてるよ。曹仁さんも、知ってるでしょう? 私がこれまで数えきれないぐらいの戦を指揮してきたこと」
桃香が、人に戦争を命じて置いて、素知らぬ顔の出来る人間でないことは分かっていた。それでも、責任の所在とか、罪の軽重とは全く別のところで、人を直接その手に掛けるという行為は重いのだ。
それが桃香のような少女ともなれば、耐えがたいほどの重さのはずだ。野良犬を斬り捨てた、苦しみから救ってやったなどと、割り切れるものでもないだろう。
「恩人だ、桃香さんは。このまま続けていれば、俺は俺のままでいられなかったかもしれない」
「もう、いつも通りの曹仁さんなんだよね? ……よかった」
桃香が、苦しげな表情をわずかにほころばせた。
「桃香さんに知らせたのは、角、お前か?」
「はい。御一門の方以外で、さっきの兄貴を止めることが出来るのは劉備殿だけだろうと」
「そうか。お前にはいつも助けられる」
曹仁は天を仰いだ。そこには月も星もなく、背の低い幕舎の天井があるだけだ。
「華琳や張燕に笑われるな。賢しらに叱りつけておいて、この様か。まったく、俺は自分が情けない」
「それだけ、曹仁さんにとって、曹操さんのお母さんが大切な人だったんだよね。他の誰が笑っても、私は、曹仁さんを笑わない」
桃香が、きっぱりとした口調で言う。強張って離れないのか、その手にはまだ靖王伝家が握られたままだった。