転生という言葉を知っているだろうか。 【転生】――今生きている人間には来世があり、来世ではまた別のモノに生まれ変わる。 一般にはその程度の認識の知識だ。 検証しようがない考え方。 故に現代社会ではあってないようなモノになり果てている。 だがしかし、転生はあった。本当にあったのだ。 一度目の人生は、特に何の感慨もなく終わった。 死因は癌。 享年は六十五歳であり、現代に於いてはやや早死にとして人生に幕を閉じた。 可もなく、不可もなく。 ただ淡々と毎日を過ごし、程ほど――失礼。結構なオタク人生を歩んでいた。 だが毎日が物語のように劇的なモノではなく、どちらかというと対極の位置にある日々。 毎日が退屈の戦いだった。 永遠に飼い殺しにされ続けると錯覚していた、昔日の思い出。 でも。だからこそ。その次の人生では、平穏な日々が如何に大切だったかを知ることが出来た。 二度目。目が覚めた時には、自分は赤ん坊だった。 フィクションでは割と良くあるが、まさか己の身でソレを体験する日が来ようとは夢にも思わなかった。 しかし同時に思った。 二度目の人生。 知識や思考回路は既に大人のモノ。 ならば、なりたい自分になることが出来るのではないか? 勝ち組になることも不可能ではないのだろうか? 今にして思うと、我が事ながら何て浅はかな考えをしたものだと笑ってやりたくなる。 本当に。何て浅はかな考えだったのだろうか。 二度目に生れ落ちた先は、剣道の大家だった……と二歳位までは思っていた。 木刀を振るう人々の姿が庭先や道場で行われていたので、きっとそうだろう思っていた。 ソレが勘違いだと気が付いたのは、三歳の誕生日。 何時も違う、ピリピリとした空気を不思議に思いながら、自分は道場に連れてこられた。 道場の中央で正座するように言われ、周りを親族一同が囲むように座っていた。 只ならぬ雰囲気。というのは、まさにこういった情景を指すのだろう。 コレから起こる事態に全く思い当たることがない身の上としては、ただ背筋を伸ばして待機するしかなかった。 正面に座するのは祖父――周りからは長だとか言われている人物。 彼が瞑目から復帰した時。文字通り【ボク】の日常は終わりを告げた。「今日からお前には、我らの剣の――【御神の剣】の鍛錬を行う」 視界が真っ白に塗り潰された。 耳から聞こえる音たちが、どんどん遠のいていくのが分かった。 色々言いたいことはあるが、一言で済ませるとしよう。 ……ココ、【とらハ】の世界か…… 文字通り血生臭い世界を生きることになり、鍛錬しなければ生き残れなかった。 時代的に言うのなら、この時は不破士郎たちの生まれる前のことだったらしい。 推定系なのは、ボクの生きた時間では彼らが生まれなかったから。 ただ彼らの母であり祖母である、不破美影が嫁いできたのは確認。 ソレから数週間後。ボクは二度目の死を迎えた。 今度の死因は……若い頃に無茶を重ねた為。ちなみに、御神・不破両家併せて一番多い死因でもあった。 一度転生したので、人の一生というモノを満喫することは出来た。 多少……というか、かなり危険な目にもあったが、一度目の人生では出来なかった体験と考えれば、ソレ程悪いモノでもない。 正直言えばお腹一杯だ。 あぁ、お腹一杯だ。 だからコレ以降の転生には、苦痛を伴うことが多々あった。 【多々】あったのだ。 三度目。 今度は極普通の家庭の息子として転生。 前回は斬ったり張ったり(誤字に非ず)な人生だったので、今回は逆に医者を目指してみた。 流石に三度目ともなると、知識量や様々な場面でのコツというモノが分かってくる。 だから医者になる為の勉強も、苦労はしたが絶対に無理というレベルではなくなっていた。 ただ一つ。一つだけ誤算があるとすれば、普通の家庭ではあったけど、【異世界】での普通だったというワケさ。 この世界には魔法がある。 あぁ、大丈夫。頭は至って正常だ。 嘘だと思うだろうけど、本当に魔法はあったのだ。 後に旧暦と呼ばれるであろうこの時代で、ボクは【ベルカ式】と分類される魔法を学んだ。 二度目・三度目と人生を重ねるに連れ、ボクはある確信を抱いた。 転生の環が、【都築ワールド】内で固定されているということに。 その考えを裏付けるように四度目に転生したのが――海鳴市だった。 さて――翠屋のシュークリームでも食べに行くか。