前回のあらすじ:ゼスト・グランガイツ、色々なモノを断つ剣になる。 バニングスさん……あぁ、アリサのことね? アリサの持ち物から【あるモノ】を分けて頂き、ソレに袖を通す。 ちゃんとバニングスパパから正式に譲渡して貰ったモノなので、窃盗とかじゃないからね? 白を基調としたワンピース。セーラーカラーが付いたソレは、明らかに聖祥の制服だ。 後ろで一本に結わっていた髪を解き、髪を縛るのに使っていた白いヘアバンドを額のやや上に付ける。 うん。どう見ても小学生の月村すずかさんです。本当に……何て言ってる場合じゃない。 今まで自分の容姿について言うことがなかったのは、主にコレのせいだ。 十三歳の男子としてはかなり低めな身長。まぁ、コレはクロノも一緒だからまだ良い。 月村家の姉や妹と比べても遜色ない、整った【女顔】。 本当は短く切りたいのだが、そうすると某【ワカメ頭】みたいになるので、仕方無しに伸ばしている髪。 ……コレが事実だ。 今まで目を背け続けてきたが、この姿がボクの男としての欠点なのだ。 成長すれば、顔はオッサン臭くなるだろう。 身長だって、もう少しは伸びるに決まっている。 だがソレは、【今】じゃない。今のボクは、妹と同じ位の身長のちびっ子なのだ。 ちなみに妹は、小学三年生としては恵まれた体格。 故に双子に間違われることもしばしば。 ANZ○Iせんせぇ!オトコっぽくなりたいんですぅ!! ……いかん、また話題が逸れた。 とにかく、普段はマイナスポイントにしかならないこの容姿だが、今回のような時だけ役に立つ。 ホテルが見えてきた。さぁ、作戦の始まりだ。 光点の反応は、ホテルの中層階の一室からのモノだった。すぐさま、真上の部屋を押さえるように指示する。 ちなみに、ブラックカードをフロントに突きつけたら、受付の姉ちゃんが文字通りひっくり返った。 部屋に入ったボクは、カーペットを剥いで床を露出させ、点検溝の扉を開ける。 後は人の声が聞こえるところの床に錐で穴を開け、ソコから様子を見てみると……。 ……ビンゴ。大当たりだ。 人質の二人は、猿ぐつわと手足を縛られるという古典的なスタイルで監禁され、その横には見張りの男。 ひぃ、ふぅ、みぃ……三人か。 とは言っても、【この部屋にいるのは】という条件が付くが。 後三十分で取引の時間だ。もしココにいるヤツのうちの誰かが受け取りに行くのなら、出て行く時がチャンスだ。「(……息を潜めて待つっていうのは、何時になっても慣れないモノだ……)」 どちらかというと、ソレは不破の役目だ。 ボクは御神の出身なので、ソチラは不得手。 だけど、そんなことも言ってられない。大事な妹とその友達が危ないんだ。四の五の言ってる場合じゃない。「………。…………!」 動いた! 会話から察するに、三人のウチの一人が取りに行き、残りの二人が待機するようだ。 部屋の外に出た男を追って、ボクも部屋から出て先回りする。 向こうはエレベーター。 対してコッチは、エレベーターでの鉢合わせを避けて……階段だ! 御神の剣士を舐めるなぁぁぁっ!!……と、言わんばかりの猛ダッシュ。 この際、身体強化魔法もオマケで付けた。 ジャスト一分。良い夢見た……なんてふざけている余裕はない。 僅かに向こうより先回りし、さも【逃げてきました】と思われるような走り方をする。 ご丁寧にも相手にぶつかるようにして、発見をはやめる。 食パンなんか咥えてないし、相手はオッサンだ。 ……ロマンスとかは、期待しないでね? 「気ィ付けろ、ガキが……って、オイ!?おまえは……!!」「あ、あ、あ、あ…………!」 絶望的な表情を浮かべ、脱出に失敗した少女のフリをする。 妹たちの命が掛かってるから、コッチも渾身の演技をする。 その甲斐あってか、相手はすぐにボクの手を掴んで部屋に逆戻りした。「(……計画どおり……!!)」 男の見えないところで、顔を伏せながらほくそ笑む。良ぉし……次はこの【腕時計】の出番だ。 男は自分たちの部屋の前に立つと、呼び鈴で中の仲間を呼び出す。 次の瞬間には扉が開き、男はボクを連れて中に入っていった。 ――カチ。 腕時計の蓋を静かに開けると、標準を合わせるマーカーが点灯する。 男は後ろにいるボクの動きには気が付いていない。 狭い廊下……というには短いが、ココは絶好の狩場だ。 ――プシュッ! 音と共に男の首筋に打ち込まれたのは【麻酔針】。 意味不明な悲鳴を上げながら、男は倒れて眠りに就く。 続いて、男の前を歩いていた別の男――分かりにくいから【ノッポ】とするか。 そのノッポがコチラを向き、(恐らく自慢の)長い脚で攻撃を仕掛けてくる。 しかしココは狭い廊下だ。そんな大振りの攻撃は、壁にぶつかるのが当たり前。 ココでは、チビの方が有利なんだよ! 若干筋違いな恨みを込めながら、ボクは背中に隠し持っていた小太刀を一閃。 ……したいのだが、子どもたちに後で血を見せるのはなるべく避けたい。 仕方無しに柄の部分を水月に突き入れ、相手を無力化する。意識を刈り取るのもお忘れなく。 そのまま二人が囚われている部屋に侵入。 そこに残っていた男――今回はデブとしよう。 デブは幽霊でも見たかのような顔をし、ボクとすずかを見比べる。 気持ちは分かる。 でもその致命的な隙を見逃す程、ボクはお人好しではない。 すぐさま飛針で相手の得物――ダガーナイフを叩き落し、鋼糸で捕縛しようとした。 ……が、ココで予想外のアクシデントが勃発。 何でか一番鋼糸が飛び出し、相手の服を斬り刻んでしまった。 あげくに、あろうことかデブの豊満な肉体で鋼糸が弾かれ……隣にいた、アリサの服が切り刻まれてしまいましたとさ。 涙目になるアリサ。そして訪れる、少女の怒り。 ブチィッ!という心地良い音を響かせながら、アリサのその身は自由なモノになる。 最初のターゲットはデブ。彼は何も言えないまま昏倒させられ、壁に叩き付けられた。 何でかその表情がウットリしてたのは、気にしてはいけないのだろう。 その方が良いに決まっている。 さて……次はボクの番のようだ。 補論:アリサはボクに、着てきた制服を強制的に返還させて、皆が来る前に事なきを得た。 そして【変態!】と罵倒された。 服を着たことと言い、事故とは言え小学生の服を切り刻んでしまったのだから、仕方無しに汚名を受けた。 すずかは特に問題なし。 ……と思ったのだが、何かボクを見る目がおかしい。 まるで、肉食獣が獲物を狙うかのような瞳だ。後日その正体が、月村家のPCから発見された。 【お兄ちゃんといっしょ♪】や、【ダメェェ!イケナイKINSHIN生活】が共用PCの履歴から発見されたのだ。 別にフラグオンするような描写はなかったと思うのだが……。 もしかして、女装兄が良かったのか?……とりあえず暫く身を隠そう。 中将日記スターズ 久しぶりに最高評議会に召集された。 最近呼び出しがなかった原因は、【マスクドライダー アギt○】という作品を研究していたからだそうだ。 あのC3-Xも出てくる、宣伝番組も兼ねたTVドラマ。 自分はその内容を知らない。 ソレを言ったら、『何ィィィッ!?レジアス、貴様!そんなことも知らないのか!?』と驚かれた。 とりあえず映像データを全て渡され、来週までに鑑賞しておくようにと厳命が下る。 彼らが作成するテストで、九十点以上取らないと減給だと言われた。 仕方がない。今日からは、コレの鑑賞が日課に加わることになった。 ……そう言えば、今回の召集の内容は何処へ行ったのだろうか? 補論……改め、ゲイズさんちのオーリスちゃん 先日の男性に食事に誘われたオーリス。 相手の名前は【ティーダ・ランスター】。 傍から見ると、美男美女でお似合いなカップルに見える。 次にまた会う約束をし、今日のデートは終了。 そして最寄りの駅まで送ってもらい、改札を通ろうとしたその瞬間。 先ほどの店に、定期を忘れてきたことに気付く。 途方に暮れるオーリスは、恥を忍んで父親に迎えに来てもらった。 文句一つ言わずに迎えに来てくれた父親に、オーリスは感謝の気持ちでいっぱいになった。 あとがき >誤字訂正 俊さん、Yamanさん。ご指摘いただき、本当にありがとうございます。