前回のあらすじ:レジアス、死の淵から蘇る。 戦闘機人プラント。 レジアスが強制転送させられてから、既に半日が過ぎ去っているこの場所。 現在ココでは、一切の戦闘行為がなされていない。 不気味な程に静まりかえった、巨大な閉鎖空間。 この直線を抜ければ、レジアスが転送させられた部屋に着く。 あいつの情報どおりなら、ココで巨大ロボットとゼスト隊が闘っているハズ。 仮にその部屋が超防音構造だったとしても、戦闘が行われていたら気が付くはず。 故に今は戦闘が中断、もしくは終了していることが分かる。 さっきから無言のレジアスとゲンヤ。 二人はその可能性が高いことを理解しているからこそ、何も言葉を発せないのだ。 鈍いながらも見えてくる光。 アレが部屋の入り口か……! 大きく開けた空間。 ソコにあったのは、戦闘の爪跡だけだった。 黒く変色した血やデバイスの残骸。そして他にあったのは、敵さんの屍。 二股に分かれた銀色の角。漆黒で統一されたカラーリング。蒼を填め込んだ、その瞳。 どう見てもソレは、有るハズのない【C4】だった。 C3とC3-Xの中間のような明らかに狙ったデザインは、【C4】としか言いようがない。 ヘルメットの残骸を剥ぎ取り、装着者の顔を見ておこうとする。 曲がりなりにも、ボクのシステムを使って作られたモノだ。 黙祷を捧げるくらいはしないと、やりきれない。 ――プシューッ! 開放音をさせて面を外し、中から出てきたモノを見る。 ……何だコレは? てっきり人の死体が出てくるとばかり思っていたボクは、その良い方に予想外の事態に戸惑った。「(……コレは……もしかして……!)」 ある考えに気が付き、周囲を見渡す。 部屋の更に奥にあったのは、金色のロボット……その脚。 鋭利な刃物で斬られたかのようなその傷口は、明らかにザンカンブレイドによるモノだ。 徐々に集まる欠片。 足りなかった情報が組み合わさっていき、ソレらが一枚の絵を作り上げていく。 もしかするとボクたちは、とんだ思い違いをしているのかもしれない。 その可能性を二人に話そうとした時、部屋の奥から幾人かの気配を感じた。 酷く感じなれた気配が二つに、もう一つはアンノウンのモノ。 予想が正しいのなら、その未確認の気配の正体は……。「これはこれは……ようこそ、私の秘密基地へ!地上本部の勇者たちよ……」 スポットライトに照らされて、人影が一つ現れた。 芝居がかったその口調。大根役者のような、ウソくさい仕草。 白衣を纏った、稀代の変態MAD。コイツがあの……。「……ご丁寧にどうも。アンタが、噂の変態ドクター?ちなみにボクは、管理局員じゃないよ……?」 一応訂正を入れておく。 あとの二人やゼストは地上本部の勇者でも良いが、生憎ボクは違う。 ただの人間だ……とは言えないが、部外者であることには違いない。「あぁ……キミのことは、良ぉく知っているよ……?その地上本部の勇者たちの……ある意味、生みの親のようなモノだからねぇ……?」 勇者たちの生みの親と言うと格好良く聞こえるが、実質はオヤジーズの世話だ。そんなに良いモノではない。 どうせなら、原作三人娘みたいな可愛い娘たちの方が……ゴメン。やっぱ、今のナシ。 【アノ】美少女の皮を被った魔王とかの世話をするぐらいなら、ボクは喜んでオヤジーズの方を選ぶ。 【全力全壊のトラウマ製造機】や、【超高速のホームラン娘】。 【ブラックストマックな狸】とか、【光にされそうなデカハンマーの幼女】。 【最後しか働かないニート侍】に【内臓をぶちまけられそうな、似非癒し系】。 ……ウン。 オヤジーズよ、コレからもよろしくね? やっぱりボクは、この渋オヤジたちを選ぶぜ!「……この金色の脚を見ると、ゼストたちがガンバったみたいだねぇ……?」「……その通りだよ。彼らは中々手強くてねぇ……?おかげでスカドランは、現在修理中なんだよ……」 一つ予想が当たった。 コレをしたのはやはりゼストであり、彼の奮闘のおかげで巨大ロボットは出てこない。 この変態ドクターを捕まえるには絶好のチャンスのハズだが、何かが引っかかる。 飄々としたその態度。 捕まえられるなら捕まえてみろと言わんばかりの、その余裕さ。 ……まだ何か、伏せ札を持っている。この用意周到なドクターが、ソレを持っていないハズがないのだ。「……ゼストたちはどうした……?」 コッチの面子が一番気になっていることを、代表して問い質す。 崩れない笑み。 余裕の張り付いた、スカリエッティのその表情。「あぁ、彼らなら…………死んだよ」 世界から色が失われた。 同時に全くの無音が発生し、レジアスとゲンヤの顔から生気が引いていく。 だがボクにソレは通じない。確かにヤツは嘘を付いていないだろう。だがソレは【過去のこと】だ。「……ふーん、ソレで?じゃあ、お尋ねしたいんだけどさぁ…………アンタの後ろに居るのは誰なのさ?」『…………!?』 驚愕するオヤジたち。 それに反して変態は、興味深そうにボクを見る。 ヤメロ。ボクは美味しくないからね?ボクにその気はないからね?「そうか……キミは魔法に頼らずに、人のサーチが出来るんだね……?」 気配を読むということは、魔法が発達したこの世界にはない技術だ。 肉体派なオヤジーズだって、この技術は体得出来ていない。 いや。その内某【野菜人の王子】のように、何時の間にか出来ていそうで怖いが。「……マジシャンは、タネを明かしたら終わりなんだ。だからその質問には、答えることが出来ないね……」「コレは失礼……。だが、クイズの答えとしては正解だよ?さぁ……お披露目と行こうじゃないか……!」 変態白衣がそう言ったのを皮切りに、前に躍り出てくる二つの影。左方に居るのは、武士の意匠を施された男だった。 紅く、鋭く尖った大きな角。白と黒をベーシックカラーに使った、その騎士甲冑。 面頬のような仮面を被り、両肩には巨大なドリルを装備して、後方に垂らしている。 「彼の名前は【ウォータン・ユミリィ】。この【ドリル】は出来れば外したかったのだが、彼のたっての希望でねぇ……?」 右方に居たのは、白銀の角突き仮面を被った女性。 紅いタービン付きのナックルとブーツ。 ……どう見てもボクが作ったリボルバーナックルなだけに、その正体も分かりやすい。「彼女は【桜花】。ソコにいる【ゲンヤ・ナカジマ】と同じく、【シューティングアーツ】の使い手だ……」 目の前の男女の正体。 ソレは非常に分かりやすいモノだった。 だからこそ向こうに居る理由が分からず、レジアスとゲンヤは困惑する。「……洗脳か……?」「……つれない反応だね?折角、趣向を凝らしたというのに……」 別に、お前を楽しませる道理はない。 むしろそんなことは、願い下げだ。 空気が変わる。殺気が質量となってボクたちに襲い掛かり、ボク以外の二人がダンスに借り出された。 ――轟。 一瞬にして顕現したザンカンブレイドが、ガトックを纏ったレジアスに襲い掛かる。 両肩に装備された空気弾のバルカンが回転させ、レジアスはウォータンに反撃する。 並みの使い手ならその速度と威力によって、一瞬の内に意識を刈り取られるハズのモノ。 だが巨大刃を手にした剣士は、その刃でソレらを全て叩き落した。 馬鹿デカイ得物なのに、常軌を逸した俊敏な動作。 移動速度も桁違い。現にレジアスは、そのスピードに翻弄されていた。「ゼスト、オレだ!レジアスだ!!模擬戦なら、あとで幾らでも付き合ってやる!だからはやく、目を覚ませ!!」「……違う。オレの名前はウォータン。ウォータン・ユミリィ!!メガーヌの剣なり!!」「……メガーヌ、だと……?」 メガーヌ・アルピーノ。 ゼスト隊の准陸尉であり、クイントの同僚。 召還魔法の適正は不明だが、ブーストデバイス【アスクレピオス】の使い手。 後に登場するルーテシアの母親で、この戦闘機人事件で殆ど死んだような状態になった人間。 ……人質。 洗脳も施されたかもしれないが、人質作戦も同時に行われているようだ。「クイントォォォォッ!!ウチには、ギンガやスバルが待ってるんだぞ!?はやく帰ってやらないと、アイツが泣くぜぇぇっ!!」「ハァァァァッ!!」 回転するタービン同士が擦れ合い、激しく火花を散らしている。 誓いの儀式で重ねあったその紅と黒は、今は別の意味で重なり合っていた。 同門同士の闘い。かつては腐る程行われたソレだが、現在のような意味で行われたことはない。「……ねぇ?ボクたちだけ何か、雰囲気違わない……?」「同感だね。とりあえず、【ウーノ】にちゃぶ台とお茶菓子を用意させたから、ティータイムにしないかい?」「……まぁ、いっか。ボクに毒物は効かないしね……」 いきなり出現するちゃぶ台。 その上には木彫りの器に入った煎餅があり、僅かに湯気が立つ緑茶。 ……うん、コレは美味い。 丁度六十度で淹れられたその緑茶は、最適な方法で旨味を引き出されていた。 バリッ!と音を立てて、煎餅をかじる。コレもまた良し。 人の手で一枚一枚炙られ、米百パーセントで出来た至高の煎餅。素晴らしいね……この無駄なまでの力の入れ具合は。 さて、気分もリフレッシュした。 だから……ソロソロ始めるとしよう。 コレまでに浮かんだ疑問を材料に、ボクの【口撃】を。「……アンタさぁ?もしかして、【勇者に倒される巨大な悪】役のヒト……?」 ソレは、様々なモノを根底から覆すモノだった。 ⇒後編に続く。