前編のあらすじ:ゼスト・クイント、洗脳モード?に入る。「……アンタさぁ?もしかして、【勇者に倒される巨大な悪】役のヒト……?」 ソレは、様々なモノを根底から覆すモノだった。 凡そヒトの身では考え付かない、大風呂敷。 だがボクには検討が付いた。この科学者がやろうとしている、その【何か】について。「…………さて。一体何のことだい?」「……なら、独り言を言わせてもらうぞ……?C4の中身は【ヒト】じゃなかった。あの中にあったのは、機械だった……」 先程確認した、C4の中身。 ソコにあったのはヒトの身体ではなかった。 生命操作技術を得意とする彼のこと。彼がその気なら、【ヒト】を生産して中に入れるハズ。 なのにソレ以上に面倒で、ワザと手間のかかる方法を取るのは何故か。 ソレも、その場に居た人間たちにソレを気付かせないようにして。 まずコレが、疑念の一。 そのニ。 どうして彼は、ゼストやクイントを生かしているのか? 確かに二人は優れた使い手だが、戦闘機人を生み出せるスカリエッティだ。 いつ敵に戻るともしれない二人よりは、裏切らない味方を大量に生み出した方が、余程戦力になる。 そして何より二人が動く原因を、【洗脳】や【人質】という、本人の意思を無視したモノにしていること。 洗脳は未だに施されているかは不明だが、どちらにせよスカリエッティだけが悪いように仕向けている。 その三。 メガーヌを【生かして】いること。 人質になるには、どんなカタチにせよ【生きて】いないといけない。 他にも、おかしなポイントは存在する。 その【何故?】・【どうして?】を組み上げていくと、ソコには通常では考えられない絵画が。 おかしくなった最高評議会と、同じく変化したジェイル・スカリエッティ。もしかして彼らは……。「……大した想像力だ。キミには、小説を書くことをお勧めするよ?」「……そうかい」 言葉が見つからない。 何を言っても、どうにもならない。 だから言えない。ボクの話は、コレで終わりなのだ。「そうそう。一人青年の死体【のようなモノ】があったんだ。研究材料に使えると思ったんだけど、予想と違ったから、君にあげるよ?」「……くれるというのなら、有り難くもらうけど……そんなことして、大丈夫なのか?」「フッ、そんな心配は無用だよ?何と言っても私は、【ジェイル・スカリエッティ】だからね……?」 少し離れたところで、レジアスと【ウォータン】が闘っているのが見える。 素早いウォータンの動きを捉えるために、装甲をパージして剣士にぶつけるレジアス。 剣士に一瞬の隙が生じる。ソレに乗じて、新たに現れた双刀でザンカンブレイドを跳ね除けるレジアス。 また少し離れたところでは、ゲンヤと【桜花】が。 ……さて。そろそろボクたちも、少しは闘っておかないとね? 湯飲みをちゃぶ台に置き、静かに立ち上がる。「先程の青年なら、既に地上本部に搬送されているハズだ。だから……」 スカリエッティがそう言うと、その身を変化させる。 ダークグリーンの体色に、緑色の三本角。 肋骨の継ぎ目辺りには奇妙な形の石が現れ、肩や腕からは非常に鋭利な突起物が。 背中には二本の紅い巨大な触手のようなモノが生え、その瞳もまた紅で染まっている。「……だから思いっきり、暴れられるよ……?」「……【イクスード・ギロス】。まさか、自分の身体を改造していたとはね……!」「当然だよ?人体実験をするのなら、まずは自分で試さないとね……どんな危険があるか、分からないし……」 身体強化魔法を展開する。 同時に距離を取り、戦闘態勢を整える。 スカリエッティラボでのボクの戦闘が、今始まった。 ――ズシャァァァァァァッ!! 二本の紅い触手が迫る。 微妙にタイミングをずらして迫ってくるソレらは、まるで触手自身が意思を持っているかのよう。 ソレらを何とかかわしたところで、一気に間合いを詰めてくるギロス。 ズンッ!と重いパンチが鳩尾に入り、思わず咳き込んでしまう。 身体強化魔法を掛けているのに、この威力。やはり一筋縄ではいかないらしい。 グッと脚に力を籠めて、ギロスから距離を取る。「……大したモンだね?正直、少し見縊ってたかも……」「……何。この身は科学者でね?本職の戦闘者なら、もっと上手く闘えると思うよ……?」 ……嘘こけ。 ただの科学者が、力を底上げしただけでこんなになるか。 コイツも鍛えしモノ。その事実は確認できた。「……しゃーない。ならコッチも、使わせてもらうとしよう……」 既に腰には、銀色のバックルが巻かれている。 あとはそのバックル上部のボタンを押し、バックルカバーを前に倒すのみ。 コレで準備は完了。「……どうせボクなんか……ハァ。オヤジたち見たいな光にはなれないよぉ……」 ネガティヴオーラを結集し、【アル】モノの召還を促す。 来てくれよぉ……。 この光り輝く、悪役を倒すためによぉ……。 ――ビョン、ビョン! 地面を跳ね回る音と共に、一体のバッタが現れた。 否。バッタ型のセクターだ。 全体的に長方形のようなカタチをしたソレは、中央部に大きな紅いボタンのようなモノがあり、ソレが往年のマスクドライダーを思わせる。 ――ビョォォォォン! ひと際高いジャンプで、ボクの手に飛び込んでくるセクター。【ホッパーセクター】。 レジアスのガトックに比べる低スペックで、結構オミットした機能が多いけど、ソレでもボクには十分。 その代わりに装備されてる、ジャッキの方が魅力的だしね?「……変身」 短くそう呟くと、この身はマスクドライダーに変化する。 全身をメタリックなグリーンで覆い、バッタを意匠として取り込んだマスクは、どこか古臭くも感じる。 両肩には尖った突起があり、瞳の色は真紅。 そう。 ソレらの特徴は、目の前のギロスとも共通するモノだった。 パッと見は全く似てない者同士。だが細部は、驚くほど似ている。まるでソレは、ボクと目の前の漢のよう。「……どうして待ってくれたんだ?てっきり、変身中に攻撃されるとばかり思ってたんだが……?」 浮かんだ疑問。 ボクの変身中、スカリエッティは腕を組んで待っていただけ。 コチラの警戒を読んだからか。それとも……?「……お約束中の攻撃……【アレ】は、死ぬほど痛くてねぇ……?まさか!と思ったタイミングでやって来るから、精神的にもツラいんだよぉ……」「……やけに、実感籠もってるように聞こえるけど……もしかして、経験者か?」「…………何。昔、黄金龍との合体を邪魔されたことがあってねぇ……」「…………そうか。大変だったんだなぁ……?」「……うん」 幾ばくかの同情をし、何とも言えない空気の中、ボクらは再び戦闘に移る。 ギロスの攻撃を交わし、迫ってくるヤツに対して、ボクはジャンプして上空から攻撃。 ……いける。左足に付いたジャッキは、コイツの動きに付いていける。 第二ラウンドの開始だ! 中将日記EVOLUTION-R 相対するのは親友。 相対するのは巨大な刃。 今目の前にいるのは、間違いなく【ゼスト・グランガイツ】だった。 理由は分からない。 シズカの言うように洗脳かもしれないし、本人が言っていた名前の部下を、人質に取られたからかもしれない。 だが如何なる理由があっても、今この場が変わるわけではない。 いつもと同じ面子の闘いなのに、いつもとは全く異なった【戦闘】。 向こうはスカリエッティが強化したデバイスを駆り、コチラはシズカの新造したデバイスで挑む。 C3-Xとは違い、全てが自分の望むようにガトック。 だがソレでも強化されたゼストの動きを捉えることは叶わず、苦戦を強いられる。 策はある。 そして、その為の手段も存在する。 チャンスは一度。通用するのも、恐らく一度だけだ。 ベルトに固定されたセクター。 クワガタムシをモチーフにしたソレは、当然の如く二本の角がある。 ――ガシャン。 その二本の角を若干開き気味にし、装甲をパージする準備をする。 ……まだだ。 向こうが最大限接近してきたその瞬間こそが、コチラの最大のチャンスなのだから。 あと十メートル。 残り五メートル。 そして……一メートル! ――ガシャァァァァンッ!! 装甲を強制排除し、目の前に居たゼストを弾き飛ばす。 出来た隙は一瞬。だが一瞬あれば、自分にとっては十分だ。 装甲の下から出てきた、新たなスーツ。 クワガタをモデルにしたマスクには、大きな二本の角に紅い瞳。 全体を蒼で彩られたそのスーツには、両肩に二振りの湾曲刀がマウントされている。 両手を身体の前で交差し、両肩の双刀を手に取る。 その双刀でゼストの大型刃を跳ね除けると、相手には大きな隙が出来た。 今の内に他の武装も無力化しようとすると、自分とゼストの間を縫うように何かが走る。 ソレが来た方向を見ると、緑色のマスクドライダーが居た。 【イクスード・ギロス】。 アギt○の劇中に出てきたその姿のまま、ソイツはそこに存在していた。 先程の攻撃は紅い触手のモノ。中身はスカリエッティのようだ。 ――ブォォォォンッ! 紅い触手が、今度はゲンヤとクイントの間を割って入る。 何がしたいんだ? 生じた疑問は、このすぐ後に答えを理解した。「さて……我々も忙しい身の上でね?申し訳ないのだが、そろそろお暇させてもらうよ……?」「……まさか!」 一瞬で離脱し、スカリエッティの下に現れるゼストとクイント。 更に次の瞬間にはスモークが焚かれ、視界はゼロとなった。 煙が晴れた時には既にスカリエッティはおらず、ゼストとクイントもまた存在しなかった。『……クソッ!!』 重なる声。 シズカとゲンヤ。それに、自分の声が一致した。 想いは同じ。必ず、アイツらを助けてみせるという、決意までもが一緒。 長い長い闘い。 その幕開けが、今静かに行われたのだった。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【四】 ティーダとレジアスが、今日は極秘任務。 よって、お互い一人になってしまったオーリスとティアナ。 オーリスの提案により、ティアナがゲイズ家にお泊りをすることになった。 父が作り置きした料理を温めようとするも、焦がしてしまいそうになるオーリス。 見かねたティアナが代わり、何とかありついた夕食。 ……美味しかった。二人で協力したからか、その料理は酷く美味しく感じたようだ。 食後は二人で風呂に入り、身を寄せ合うように二人で就寝。 互いにそれぞれの家族を想い、今日という一日が終わりを告げた。