前回のあらすじ:ダイノーズ、出動。 ブラックスカガイン。 その名前は、現在機動六課前線メンバーに恐怖を与えるモノだった。 その圧倒的な巨体。ソコから繰り出される、驚異的なパワー。 木偶ではないことを証明する、その小回りの効き具合。 武装はパッと見、剣しかない。 しかしその重量から繰り出される攻撃は、振り下ろされるだけで脅威であり、隊長陣を欠く新人たちには荷が重過ぎる相手だった。 空には大量のガジェットⅡ型。 スターズ・ライトニングの両隊長はその相手から抜け出せず、新人たちの救援にまわることは不可能。 つまりは絶体絶命。正真正銘のピンチである。「……ど、どうしよう!?こんなの訓練じゃあ、やってないよ!?」 新人四人組の中では、ムードメーカーとして認識されるスバル。 いつも天真爛漫で猪突猛進。 良く言えば大物ちっくで、悪く言えば馬鹿っぽい。 だが彼女のような存在は、いつの時代も周囲に影響を与えるモノだ。 アイツならきっと何かしてくれる。 そう思われる存在。 ソレがムードメーカーというものである その役割に任ぜられたモノは、周囲に影響を与える――故にその存在が諦めなければ、皆にはソレが希望に見える。 逆に言えば――ムードメーカーが諦めたら、ソコで絶望が押し寄せるのだ。「……なのはさんたちは空から離れられないし、チビ竜でもアレは無理っぽい……スバルじゃないけど、コレは…………」 相棒の意気消沈につられてか、フォワードリーダーのティアナの気持ちも下降する。 こんなモノを相手にするには、隊長たちでも無理かもしれない。 自身の冷静な部分を恨めしく思いつつも、彼女の頭脳が止まることはない。 彼女はムードメーカーにはなれない。 ソレは、彼女自身が一番良く分かっていることだ。 だがそれでも。彼女の諦めの悪さはスバルにも負けないモノ。 いや……。 ソコだけを比較するのなら、もしかするとスバル以上かもしれない。 諦めたらソコで路は閉ざされる。 小さな頃から苦労してきた彼女からすれば、ソレは文字通り未来に関わることだった。 故に諦められない。 まだ兄が目覚めていないのだ。兄が起きたら、一番初めに【おはよう!】と言ってやる。ソレが自分に課した誓いなのだから。「……そうよ。あたしは諦めない!お兄ちゃんにもう一度、【おはよう!】って言うまでは……!!」 瞑目。そして開眼。 CNスナイパーライフルⅡを展開し、狙撃モードに移行する。 バロに演算を任せ、自分はただ……狙い撃つのみ。「……狙うとしたら、関節の継ぎ目か外部カメラ……」 まともじゃない相手を、まともに相手してやる必要はない。 正面切って闘えないのなら、どうすれば相手を無力化させられるかを考える。 そうなると狙いは決まってくる。装甲の薄い場所か、あとは外の様子を見るための【目】。「……どっちも効かない可能性が高いけど……それならあたしは、アイツの関節を潰してやる……!」 確かに目の方がダメージはデカイだろう。 だがソレは同時に、針の穴を通すような技量が必要だ。 静止目標ならいざ知らず、相手は移動目標。そこを狙うのは難しいだろう。 ならばダメージは浅くても、面積が大きい方が狙いやすい。 それにもしかすると、小さなダメージでもその関節の一部分は、無力化出来るかもしれない。 大きなパーツは、小さな物質が集まって出来ているのだ。 その小さな物質一つ取っても、大きなパーツに取っては重要であり、死活問題となる。 ターゲットを確認。 敵巨大兵器の膝の裏……その関節部のパイプ。「ランスターの弾丸は、どんなモノにも負けたりはしない。だから…………」 バロに制御を任せ、彼女はライフルの引き金に指を掛ける。 目標がコチラに振り向く前に、片を付ける。 はやく。はやく……!マーカーが重なるのを固唾を呑んで待ち……その瞬間が訪れた。「だから…………狙い撃つわ……!!」 光が一閃。 その一瞬の後のあったのは、小さな小さな穴。 だがソレで十分だった。ブラックスカガインの動きは鈍り、前に倒れそうになる。 そう……【前】に倒れそうになるのだ。 ソコには呆然としているスバル。 声を掛けただけでは、きっと間に合わない。 駆ける。駆ける。 一瞬のロスさえ惜しく感じ、もっとはやく走れない己を恨む。 あと一歩。そして到達。 しかしその瞬間、相手の巻き起こした振動により、列車は大きく揺れる。 当然彼女は車上から投げ出され、スバルと共に谷底へのダイブをすることに。 スバルはウイングロードを展開して助かったが、ティアナには宙を浮く手段はない。 模索する。 でも、該当する手段がない。 クロスミラージュのアンカーを打ち込もうにも、谷の側面との距離がありすぎる。「ティアァァァァァァッ!!」 パートナーの叫ぶ声。 ソレを他人事のように聞きながらも、諦めることはしない。 諦めない。絶対に諦めてやらない。最後の最後まで足掻いてやることこそが、己に課せられた唯一のモノと信じて。「…………アレ?あたし、落ちてない……?」 空中で静止するティアナ。 飛行魔法の類は使えないし、土壇場で使えるようになる程、魔法は甘くない。 ならば何故。その答えは、虚空から聞こえてきた。『良くがんばっ…………失礼。最後まで、良く頑張りましたね……』 その声と共に現れたのは、紫色のロボット。 全体的に暗い色を主体に使い、忍者の鎖帷子のような装甲。 額に走るのは十字手裏剣。「……ア、アンタは…………一体、何……?」『……私の名前はティ……【ヴォルヴォッグ】。貴女たちの味方です……』 Cストーン搭載の勇者ロボ、その【第一号】。 ソレが彼の生まれであり、身分証明でもある。 彼は今、【妹】の危機を救い……そしてアイカメラで盗撮中である。「……さぁ、真打の登場ですよ……?」 自身が何をやっているのかをおくびにも出さず、彼は空を見上げてそう言った。 大空を舞うように登場したのは、【アノ】白いジェット機。 そう、【ダイノージェット】と呼ばれるモノだった。 何か結構な間が空いたような気がするけど、きっと気のせいだろう。 別にボク不在でも話は進むし、あんまり影響はない。 ……拗ねてなんか、ないからね?そんなこと、きっとないからね?「シズカさん、分離よっ!」「……了~解。【ダイノーフォーメーション】!!」 ジェット機が三つに分割される。 一つは大空を翔る、蒼きプテラノドン。 パイロットも、蒼き守護獣。 二つ目は、紅きステゴサウルス。 地を堂々と歩むその姿は、まんまレジアスのようだ。 当然、ヤツが操縦者。 最後。白いブラキオサウルス。 コレを操縦するのがボク……ではなく、教会騎士のカリム様でござい。 ……つまりボクの出番は、現地までの移動のみ。……あ。あと戦闘中の分析もやるからね?そんなに哀れまないでよ!?『コレはコレは……!良く来たね、エ~っと…………』『……ダイノーズ』『あぁ!良く来たね……ダイノーズの諸君!!』 リテイク。 スカリエッティは、様式美を護る漢なのです。 ソレは以前の彼の発言から分かること。故にこのやり取りは、大事なことなのですよ。『(……ブラックスカガインは現在、あの少女に受けた傷が元で稼動に制限が出てる。今がチャンスだよ……?』『(……ソコまでお約束を護るか……良いよ?ソッチがOK出すんなら、今回コッチの苦戦シーンは無しだ!)』 ロボット越しだというのに、申し合わせたような意思疎通。 良く似たモノ同士だからこそ分かり合える、この感覚。 そして、非常に良く似たモノ同士だからこそ理解し合える、その信念。「ザフィーラ!今のうちに、合体だ!」「……心得た。【ゴウダイノー】、根性合体……!!」 コンソールから蒼い端末を取り出し、決められたコードを入力する。 コレは合体後のロボット、そのメインパイロットを務める、ザフィーラの仕事。 コマンドの受信を受け付けた、各恐竜型ロボットが変形を始める。そう……合体のための変形を。 ――ンギャァァァァァ!! 恐竜の叫び声のような合成音が響き渡り、三体の恐竜が三つのパーツに変化する。 白きブラキオが脚になり、紅きステゴが胴体に。 残った青いプテラが腕部と翼を構成し、ココに合体は成る。 白い身体。金色の角と胸当てには蒼い宝玉が填め込まれ、大きく突き出た両肩のパーツ。 スラリとした体型に、引き締まった鋭いマスク。 ……完璧だ。コレ以上の再現度は、例え変態ドクターでも無理だろう。『……ソレが【ゴウダイノー】……。相手にとって、不足はない……!!』『……抜かせぇぇ!!』 ザッフィーが主人公してます。 本編で目立たないのの鬱憤を晴らすが如く、今の彼は大変生き生きしておりますです、ハイ。 色々と武装はあるのに彼得意の肉弾戦になってるのは、この際目を瞑ってあげましょう。 本来のスペックで言ったら、多分向こうさんとコッチの差はそんなにないハズ。 強いていうのなら、武装の数と飛行能力の有無。 ソレぐらいの差しかないのだ。 でも今は、相手がフルボッコ状態です。 理由は、さっきティアナが攻撃した場所のせい。 脚の駆動系をやられたので、文字通り脚が止まっているのだ。『……一気に止めだぁぁぁぁ!!』 何処からともなく出現する紅い盾。そして同じく現れる、紅い鍔を付けた金色刀身の剣。 一瞬恐竜が現れて、ソレらを咥えていたような気が……多分気のせい。 そういうことに、しておきましょう。 ――グォォォォォォッ!! 【何か】の叫び声がし、直後に炎のカーテンのようなモノが敵を拘束する。 バインドなんかとは違う、もっと熱い別のモノ。 その中を通って、ザフィーラ……じゃなくて、ゴウダイノーは敵に斬りかかる。『ダイノー、マグロフィィィィィィッシュ!!』 斬撃。 そして爆発。 直後に紅い脱出用機体が、飛行機雲を作って飛んでいく。『おのれぇぇ、ゴウダイノーめぇぇぇぇっ!!』 ソコまで律儀にやらんでも。 敵ながら天晴れな精神を持った変態は、今日もお空を飛んでいく。 ……さあ、決め台詞が待ってるぞぉ。『根性最強!ゴウ、ダイノォォォォッ!!』 ……ザフィーラは、すっかりゴウダイノーが気に入ったようです。 唖然とするフォワード部隊を余所に、ボクたちはジェットで帰っていく。 そう言えば全然触れなかったけど、ロングアーチの方々は分析の手伝いをしてくれてましたよ? どうして、こんなことをしてるんだろう? 自分たちは一体……? とか言いたげな表情で埋め尽くされる司令室。「皆、お疲れ様。コレでも飲んで、一服しましょう?」 そう言ってメイドリンディが皆に差し入れたのは、かの有名な【リンディ茶】。 本人はあまりの美味さに意識を失うと思っているが、実際は……。 まぁ、良いか。結果は同じだし。 飲んだ人の意識を失わせて、記憶をトバす。 証人の記憶隠滅には最適だ。 本人は純度百パーセントの善意でやってるだけに、多少心苦しくはあるが。 白い雲を突き抜けて、見えてきました我らの六課。 予備の隊舎パーツを収容し、ダイノージェットを元の位置に戻す。 後はオートで隊舎に戻るから、コレで一安心。 この後は……まずは反省会からだなぁ……。 大将日記Z 初出動を終えて、隊舎に帰還した自分たち。 いや。隊舎に帰還という言い方はおかしいか。 隊舎は先程まで、自分たちと共に闘っていたワケなのだから。 この後は反省会をするだろうが、その前にハーブティーと今朝はやくに作ったシュークリームを用意した。 疲れている時は、糖分とリラックスが必要。 いつも騎士カリムやシズカにやらせていては、コチラとしても申し訳なさ過ぎる。 ところで……先程から食堂の隅でのの字を書いているタヌキは……一体どうすれば良いのだろうか? ゲイズさんちのオーリスちゃん【八】 花を活けようとして失敗した先程。 看護士さんにいつもの通りやって貰い病室に戻ると、さっきまではなかったモノが。 ソレは、ティアナのドアップ写真。 意識不明の重体になるまで彼は、良く妹の写真を撮っては自慢していた。 そんな彼の想いが天に通じたのだろうか? この不可思議な現象を、オーリスはそう結論付けることにした。 後日になって、任務中(バリアジャケットを着用していたので判明)の写真が何故ココにあるのか。 そのことに漸く気が付いたオーリスだったが……ソレは数ヶ月も先のことである。