前回のあらすじ:水兵服美【熟女】戦士、復活。 尾行任務は継続中。 もう良い加減にしてくれと言いたくなるが、ココでポンコツ執務官を放置した方がメンドいと判断。 法に則って犯罪者を逮捕する方が、法に則られて犯罪者として逮捕されるのは御免だ。 そうなったら、それまで一緒に行動していたボクにも被害は来る。 そんなの勘弁してほしい。 だから仕方なしに、この執務官殿と行動を共にしているのだが……。「あぁ……!!二人で一本のジュースを飲むなんて…………!!」 そろそろこの娘っ子は、【物理的に】黙らせた方が良いかもしれない。 そう思い始めてしまうのは、ボクの立場に誰が居てもそう思うことだろう。 きっとそうだ。そうに違いない。 シャーリーの組んだデートプラン(本人たちにはその気はないが)を、忠実にこなしていく少年少女。 手を繋いで歩く。映画を見る。そして、一本のジュースを二人で飲む。 そのどれもが、あの【酢飯娘】の計画である。 エリオたちは真面目に、オリエンテーリングのチェックポイントでの指示をこなすだけ。 でも彼らが真面目にソレをこなせばこなす程、ボクの隣の御嬢は……その身の内から炎を出してくる。 ……おかしいなぁ。この娘っ子の身体から出てくるのは、【電気】だったハズなんだけど……? そんなコチラの苦労(?)などには気付きもせず、幼きカップルは前を行く。 手元の端末で周囲の地図を見る。 すると、今度の行き先候補は……………………【カラオケ】、かぁ……。 ミッドにもカラオケはある。 というか、在るようにした……と言った方が正しいだろう。 少なくともボクが最初にミッドに来た時は存在しなかったのだ。 当時、この世界に来て間もない頃。 ボクはこういった【地球にはあるモノ】に目を付けていた。 そういった【既に完成されたモノ】は、市場に投入しやすい。 逆に言えば、当たればそれだけ儲けやすいということだ。 その目論見は的を得たようで、今日に至るまで【ツキムラカラオケ】は順調に成長中である。 つまり、ココでボクに出来ないことはないのだ。「……あのー、ココって勝手に入ったら不味いんじゃ…………?」「心配ないって。ココの店長とは【知り合い】だし、【許可】も貰ってるから……」 社長と店長が【知り合い】なのは当然。 そして【許可】なんてモノは、どう考えても出さざるを得ない。 だってココはボクの……会社の持ち物。 オマエのモノは、ボクのモノ。 ボクのモノも、ボクのモノ。 某イジメっ子の迷ゼリフをそらんじつつ、ボクはモニター室を占拠する。「えーと、あの二人が入った部屋は…………」 見つけた。 カラオケを、殆ど利用したことがないと思われる二人。 コンソールをいじりつつ、何とか知っている曲を入力し、曲が始まったら驚く。 その光景は、明らかに歳相応の少年少女のモノだった。 日々の訓練や任務。 その中では影に隠れてしまっている、彼らの【本来の】姿。 ココに入ってからの僅かな時間しか見ていないボクですら、そう感じ入ってしまう程。 つまりソレを以前からずっと見てきているフェイトにとっては、何倍も何十倍にも感じてしまうコト。 現にボクの横に居る彼女は、酷く嬉しそうで。それでいて、とても悲しそうな表情を浮かべていた。「…………っ」 何か小さく呟くのが聞こえるが、今のボクはただのモブだ。 ただ在るだけの、背景と一緒。 故に彼女に何かを聞くことはない。あってはいけないのだ。 暫しの間、モニター室にはおチビ二人の声だけが響いていた。 他の部屋の音量など、入った瞬間に下げてある。 故に聞こえてくるのは、ライトニングのチビたちの声のみ。 少年たちの歌う曲は、どれもが最新のモノではなかった。 彼らが管理局に入る前の、本当に有名な歌ばかり。 ソレは、彼らが如何に世間から離れて暮らしてきたか。ソレを物語っているようだった。 段々とお隣の金髪娘が俯いていく。 大方、二人がこうなってしまったのは、自分のせいだ――――とか思っているのだろう。 そんな暗い空気が漂う中、おチビたちの選択した新たな曲が始まった。 ソレは絶望からの希望の創造。 金色の戦姫が、彼女の【子どもたち】から【希望】を貰い、再び立ち上がる為の【歌】。 かつて地球のカラオケで歌われた歌が、場所をミッドチルダに移して、再び歌われたのだ。「……こ、この曲って…………」「…………あぁ。間違いなく、【アンタの】歌だ…………」 厳密にはフェイトの曲ではない。 だがココ【ミッドチルダ】に於いては、この曲は【彼女のモノ】なのだ。 映画で挿入歌として流れた、彼女の歌声。 ソレは原作とは違ったカタチではあったが、それでも同じように彼女を奮い立たせたのだ。 子から親へ。 今まで貰ってきたモノの、カタチを見せるかのように。「…………私。さっきまでは母さんのコト、怒ってたんですよ……?」「…………」「……でもね?今は、凄く感謝してるんです…………ホント、おかしいですよねぇ……?」 狙ったとは思えない。 だが狙ったとしても、そうでなくとも。 リンディ(母)の行いが、フェイト(娘)を闇から救い出したのは事実だ。 昔、歌には不思議な力が宿っていると言ったヒトが居た。 ソレは、一笑に付されてもおかしくないモノ。 だが真実でもあるモノ。 古来よりヒトを鼓舞し、勇気を与えるモノ。 ソレが【歌】であり、ヒトが持つ【言葉】が生み出した究極の一つ。 ヒトが人間に進化した時に得た、一つの【奇跡】なのだ。「…………歌って、良いよね…………?」「……?」「昔ね……?まだ私が、小学生だった時の話なんだけど…………」 まだ、【生きる】ということを良く分かっていなかった時代。 特に母親――プレシアのことで、生きる意味を模索していた頃の話。 普通の小学生なら考えないで良いモノを、その歳で考えてしまう苦難の人生。 故に親友たちにも打ち明けられず、また家族にすら相談出来ないコトがまま在った。 そんな時、彼女は決まって行く場所があった。 海鳴臨海公園。かつて最初の親友となった【なのは】と闘い合い、後に義兄となるクロノと初めて会った場所。 ソコは、【今の】彼女の始まりの地。 だから迷った時は必ずココに来て、自分を見つめ直す。 ソレが彼女の行動パターンだった。 ―――― その日。いつもと同じように公園を訪れた、その日。 ソコはいつもと同じ風景でありながら、全く異なった空間になっていた。 空気を震わせて聞こえてくる、暖かな音。 その音が耳から入ってきて、やがて身体中を満たす。 全身がポカポカと暖かくなり、知らず知らずの内に両の瞳から涙が伝う。 その音の正体は、【歌】だった。 公園の中心部に位置する場所。 ソコを発信源として、辺り一帯に広がる黄金色の音。 その音を出していたのは…………彼女と同じ、【金髪】の外国人だった。「……私ね?その時まで【歌】って、そんなに凄いモノだと思ってなかったんだ…………」 そんな彼女の価値観をひっくり返した、衝撃の事件。 ソレがその人物との出会いだった。 後に知ったことだが、そのヒトは世界的に有名な歌姫で、その時はたまたま日本に来ていたとのこと。 フェイトにとって、そんなことはどうでも良かった。 彼女にとって重要なのは、【歌】がヒトの心を揺り動かし、暖かくすることが出来るということ。 たったソレだけのことなのに…………たったソレだけのことが、フェイトを救ったのだ。「それからかな……?私が保護していったコたちが、心を開いていってくれたのは…………」 執務官になった後も、その前も。 彼女は進んで事件に飛び込んで行った。 その過程の中で出会った、【被害者】である子どもたち。 最初は警戒して、頑なに心を閉ざしている幼子が多数。 事件に遭遇してしまったので、ソレも仕方のない話。 だから、一刻もはやく表情に光を取り戻させてあげたい。 そんな時には、必ず歌うようにした。 最初は警戒していても、最後には優しい笑顔が蘇る。 次に会った時には一緒に歌える。ソレがフェイトの【歌】だった。「私って、もしも管理局に入ってなかったら――――――――歌手になってたかもね……?」 ソレは明らかに冗談だった。 でも彼女は思い出したのだ。 自分の原点を。そしてソコから続いて来た、己の軌跡を。 ――パリ。パリパリッ!! 持ってきたポーチの中から、何か割れるような音が聞こえる。 ソレを机の上に出して蓋を開けてみると、ソコには孵化寸前の卵が二つ。 ……どうやら、フェイトを己のロードと認めたようだな……? ――バリィィィィンッ!! 割れた。 二つの卵はほぼ同時に割れて、中から一つずつ【何か】が飛び出してきた。 共に掌サイズのソレらは、何処からどう見ても、【天使】と【悪魔】にしか見えない。「うぅぅ!!良いハナシですねぇ~~!!さすがフェイトちゃんは、優しいコですぅぅぅぅ!!」「そんなの、あったりまえだろ!!何てったって、アタシのロードなんだからなー!」「…………ユニゾン、デバイス……?」 新型ユニゾンデバイスの【試作一号】と【試作二号】。 色んな意味で【純粋】なフェイト用に創った、リインとは異なったモノ。 ソレらが今、主たるモノの【声】を聞き、ココに生誕した。「二人とも。キミたちのロードさまに、自己紹介して」「エ……?エェェ……!?ロードって…………私のこと!?」 疑問。呆然。そして驚愕。 目まぐるしく変わる、フェイトの表情。 そんな彼女に構わず、彼女のパートナー【になる】モノたちは話しかける。「はじめまして、フェイトちゃん!わたしは【メル】ですぅ♪」「アタシは【ミル】!ヨロシクな、フェイト!!」「ちょ、ちょっと待って……!?何で私にユニゾンデバイスが……!?」 フェイトそんは混乱してるようです。 何て言ってる場合じゃないな。 面倒だけど、説明しないとダメだよねぇ……?「カンタンなコトさ。アンタは精神が脆い。だから、ソレを支えるパートナーが必要なんだよ……?」「…………エ?一体、何のコトですか……?」 はやては生き急ぐ傾向にあるが、ソレでも守護騎士やカリムやヴェロッサとかが居る。 なのはも危うかったが、この前の【なのちゃん】騒ぎで、多少変化して来た。 でもフェイトは違う。 一番物分りが良いように見えて、一番頑固かもしれない。 特にプレシアのこととかになると、すぐに頭に血が上り、冷静さを保てなくなる。 バルディッシュは良いパートナーだが、主人に尽くすタイプだ。フェイトに逆らうのを良しとしない。 そういう意味では、アルフは良きパートナーだった。 普段はフェイトの言うことを良く聞くが、主人が間違ったコトをしようとすれば、ソレを止めようとする。 そんな彼女の引退は、非常に悔やまれることだ。 「だからボクは創った。キミの心を投影しながらも、キミの支えとなり、またキミを諌める存在を……」「…………貴方は一体、何者なんですか……!」 ソコに居たのは、既にポケポケ娘ではなかった。 一人の敏腕執務官としての彼女がソコには居り、ボクは怪しいモノとして詰問されている。 でも気にしない。この程度の殺気、ボクには柳に風なのだ。「…………そうだねぇ……?リンディ・ハラオウンの【友人】にして…………キミの【親友】の兄……ってトコロかな…………?」「母さんの……?それに親友って、一体誰の…………!?」 今まで正体がバレなかったのが、まるでウソのようだ。 人間、一度認識してしまうと、今まで見えなかったことが見えるようになる。 こんな所に――ミッドに居るハズがないという思い込みが、ボクの正体を隠していたのだ。「…………貴方は、すずかの…………?」「……このことには、守秘義務が敷かれるからね……?部隊長や、もう一人の隊長にも言っちゃダメだよ……?」 呆然とする彼女を残し、ボクはモニタールームを後にする。 暫く別室でその後の彼女を見ていると、まるでキャラが変わったかのように明るい娘になって、おチビたちの部屋に入っていった。 最初はビックリした少年少女だったが、すぐに家族三人でのカラオケ大会になり、大いに楽しんだ模様。 尚このハジケモードのフェイトは、彼女本来のソレではなく、【メル】にキャラを乗っ取られた結果だとだけ言っておこう。 あとがき:長くなったので、例によって分割。大将日記とオーリスちゃんは、次の話でやります。