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No.8085の一覧
[0] リリカル・とらいあんぐる転生日記  【完結しました】[satuki](2009/11/06 10:47)
[1] リリカル・とらいあんぐる転生日記 00[satuki](2009/06/19 17:02)
[2] リリカル・とらいあんぐる転生日記 01[satuki](2009/06/19 17:02)
[3] リリカル・とらいあんぐる転生日記 02[satuki](2009/06/19 17:02)
[4] リリカル・とらいあんぐる転生日記 03[satuki](2009/06/19 17:02)
[5] リリカル・とらいあんぐる転生日記 04[satuki](2009/06/19 17:02)
[6] リリカル・とらいあんぐる転生日記 05[satuki](2009/06/19 17:02)
[7] リリカル・とらいあんぐる転生日記 06[satuki](2009/06/19 17:03)
[8] リリカル・とらいあんぐる転生日記 07[satuki](2009/06/19 17:03)
[9] リリカル・とらいあんぐる転生日記 08[satuki](2009/06/19 17:03)
[10] リリカル・とらいあんぐる転生日記 09[satuki](2009/06/19 17:01)
[11] リリカル・とらいあんぐる転生日記 10[satuki](2009/06/19 17:01)
[12] リリカル・とらいあんぐる転生日記 11[satuki](2009/06/19 17:01)
[13] リリカル・とらいあんぐる転生日記 12[satuki](2009/06/19 17:01)
[14] リリカル・とらいあんぐる転生日記 13[satuki](2009/06/19 17:01)
[15] リリカル・とらいあんぐる転生日記 14[satuki](2009/06/19 17:00)
[16] 元ネタ帳(00~14)[satuki](2009/04/30 21:34)
[17] リリカル・とらいあんぐる転生日記 15【前編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[18] リリカル・とらいあんぐる転生日記 16【後編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[19] リリカル・とらいあんぐる転生日記 17[satuki](2009/06/19 00:04)
[20] リリカル・とらいあんぐる転生日記 18[satuki](2009/06/19 00:03)
[21] リリカル・とらいあんぐる転生日記 19[satuki](2009/06/19 00:03)
[22] リリカル・とらいあんぐる転生日記 20[satuki](2009/06/19 00:03)
[23] リリカル・とらいあんぐる転生日記 21[satuki](2009/06/19 00:02)
[24] リリカル・とらいあんぐる転生日記 22[satuki](2009/06/19 00:02)
[25] リリカル・とらいあんぐる転生日記 23[satuki](2009/06/19 00:02)
[26] リリカル・とらいあんぐる転生日記 24[satuki](2009/06/19 00:01)
[27] リリカル・とらいあんぐる転生日記 25[satuki](2009/06/19 00:01)
[28] リリカル・とらいあんぐる転生日記 26[satuki](2009/06/19 00:01)
[29] リリカル・とらいあんぐる転生日記 27[satuki](2009/06/19 00:01)
[30] リリカル・とらいあんぐる転生日記 28[satuki](2009/06/19 00:00)
[31] リリカル・とらいあんぐる転生日記 29[satuki](2009/06/19 00:00)
[32] リリカル・とらいあんぐる転生日記 30[satuki](2009/06/19 00:00)
[33] リリカル・とらいあんぐる転生日記 31[satuki](2009/06/19 00:00)
[34] リリカル・とらいあんぐる転生日記 32【注:糖分過多】[satuki](2009/06/18 23:59)
[35] リリカル・とらいあんぐる転生日記 33[satuki](2009/06/18 23:59)
[36] リリカル・とらいあんぐる転生日記 34[satuki](2009/06/18 23:59)
[37] リリカル・とらいあんぐる転生日記 35[satuki](2009/06/18 23:59)
[38] リリカル・とらいあんぐる転生日記 36[satuki](2009/06/18 23:59)
[39] リリカル・とらいあんぐる転生日記 37[satuki](2009/06/18 23:58)
[40] リリカル・とらいあんぐる転生日記 38【少年編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[41] リリカル・とらいあんぐる転生日記 39【歯車戦士編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[42] リリカル・とらいあんぐる転生日記 40【大将と愉快な仲間たち①】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[43] リリカル・とらいあんぐる転生日記 41【大将と愉快な仲間たち②】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[44] リリカル・とらいあんぐる転生日記 42【歪んだ物語・その修正方法】[satuki](2009/06/18 23:57)
[45] 【オヤジ】狩り[satuki](2009/06/05 17:07)
[46] 【オヤジ】狩り-01  【続いた。続いてしまった】[satuki](2009/05/18 23:29)
[47] 【オヤジ】狩り-02  【また続いてしまった】[satuki](2009/05/26 20:02)
[48] 【オヤジ】狩り-03  【またまた、続いてしまった……】[satuki](2009/06/02 01:26)
[49] 【オヤジ】狩り-04  【狩るべきオヤジは、まだまだ存在するのだ!!】[satuki](2009/06/07 19:31)
[50] 【オヤジ】狩り-05  【アンリミティッド・オヤジワークス……ソレは地獄絵図でしかないな……?】[satuki](2009/06/29 21:16)
[51] 【オヤジ】狩り-06  【覇王少女のファンには、彼女が女神に見えるらしい……視力検査したら?】[satuki](2009/06/09 18:10)
[52] 【オヤジ】狩り-07  【イロモノはイロモノを呼ぶ…………奇跡の開幕!?】[satuki](2009/06/11 20:03)
[53] 【オヤジ】狩り-08  【奇跡は続く!?遅れてきた漢……!!】[satuki](2009/06/18 23:39)
[54] 【オヤジ】狩り-09  【漢女と乙女……オトメ同士の決闘!】[satuki](2009/06/19 17:00)
[55] 【オヤジ】狩り-10  【死亡フラグをブチ折ったモノ……!】[satuki](2009/06/20 00:19)
[56] 妖精00 【良く考えたら、コレが全ての始まりなのかもしれないなぁ……?】[satuki](2009/06/05 16:52)
[57] 妖精01 【妖精爆弾……じゃなかった。爆誕!!】[satuki](2009/06/05 16:52)
[58] 妖精02 【やって来たのは運命にかぶれたロリジャイと、その家族】[satuki](2009/06/05 16:53)
[59] 妖精03 【蝶人になった日】[satuki](2009/06/07 19:32)
[60] 妖精04 【淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために】[satuki](2009/06/10 00:10)
[61] 妖精05 【遠足。それは至上最強の闘い!?】[satuki](2009/06/20 00:20)
[62] 妖精06 【掟破り!?……覇王の蘇る日!】[satuki](2009/06/27 20:12)
[63] 真・転生日記【オヤジ】風味 ――『妖精は覇王の夢を見る!』 01[satuki](2009/06/29 21:17)
[64] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 02  【復活したイレギュラー】[satuki](2009/06/29 21:25)
[65] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 03  【お約束は突然に】[satuki](2009/07/03 18:58)
[66] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 04  【突撃、となりの小学校!?】[satuki](2009/07/12 18:30)
[67] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 05  【誕生!?養護教諭プレシあ!?】[satuki](2009/07/14 20:13)
[68] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 06  【予定とは、乱される為にあるのだ!】[satuki](2009/07/16 21:43)
[69] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 07  【イレギュラー戦隊、参る!!】[satuki](2009/07/24 16:48)
[70] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 08  【仮面対仮面(オマケ付き)】[satuki](2009/07/27 16:53)
[71] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 09  【隣の市は危険がいっぱい!?】[satuki](2009/07/31 21:08)
[72] デザイア!?[satuki](2009/08/02 16:08)
[73] リリカル・とらいあんぐる転生日記 43【本筋は、忘れた頃にやって来る】[satuki](2009/08/04 23:55)
[74] デザイア!? 02[satuki](2009/09/04 19:03)
[75] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 10  【近付いてくる真相!?】[satuki](2009/09/04 19:04)
[76] デザイア!? 03 【女(装)王、誕生】[satuki](2009/09/07 02:14)
[77] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 11  【混沌の始まり】[satuki](2009/09/13 12:20)
[78] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 12  【長い伏線(その一)】[satuki](2009/09/18 00:37)
[79] リリカル・とらいあんぐる転生日記 44【長い伏線(そのニ)】[satuki](2009/09/19 19:34)
[80] リリカル・とらいあんぐる転生日記 45【アインヘリアル?何それ、美味しいの?】[satuki](2009/09/25 21:50)
[81] リリカル・とらいあんぐる転生日記 46【少しだけ本気を出した。後悔はしている】[satuki](2009/09/27 21:52)
[82] リリカル・とらいあんぐる転生日記 47【もう少し本気を出してみた。さらに後悔している】[satuki](2009/10/02 21:46)
[83] リリカル・とらいあんぐる転生日記 48【ついに登場、最高評議会!?】[satuki](2009/10/09 11:11)
[84] リリカル・とらいあんぐる転生日記 49【三人目は…・・・グハッ!?】[satuki](2009/10/11 22:41)
[85] リリカル・とらいあんぐる転生日記 50【歯車戦士、愛の決闘】[satuki](2009/10/16 18:38)
[86] リリカル・とらいあんぐる転生日記 51【人生は闘いだ!!】[satuki](2009/10/17 21:59)
[87] リリカル・とらいあんぐる転生日記 52【魔神の生まれちゃった日】[satuki](2009/10/22 22:08)
[88] リリカル・とらいあんぐる転生日記 53【アニキ+ナイスミドル=???】[satuki](2009/10/27 16:33)
[89] リリカル・とらいあんぐる転生日記 54【変形する揺り籠!?至上最悪の悪魔の登場!!】[satuki](2009/11/06 10:46)
[90] リリカル・とらいあんぐる転生日記 55【ラスト・ラストをキミに……】[satuki](2009/11/06 10:47)
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[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 39【歯車戦士編】
Name: satuki◆b147bc52 ID:49dc76e7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:エリオ少年が、主役を乗っ取ったようです。



 唸るタービン。
 迫り来る豪腕。
 駆け抜ける様は韋駄天のようで、その強さは女神のよう。

 ソレがゲンヤフィルターを通したクイントの評価である。
 色ボケ夫婦が!!と、馬鹿にすることなかれ。
 コレが結構的を射ているから、性質が悪い。

 一部の管理局員からは、【戦女神】と呼ばれるエースオブエースたち。
 ソレはなのは・フェイト・はやてのコトを指しているのだが、ボクは彼女たちをそう呼ぶことはない。
 何故かと言うと…………ボクは知っているからだ。本当の【戦女神】たる人物を。

 ウイングロードが、暗い地下道を走る。
 ソレに乗った鉄仮面がアタックを仕掛け、その攻撃をゲンヤがかわす。
 本来であれば、ゲンヤが力負けすることはない。

 だが今の彼女の一撃は、ウイングロードを併用した高度からのアタック。
 自重と重力落下の速度を上乗せし、その破壊力は地面を沈下させる程。
 もしゲンヤがソレを避けなかったら、彼が粉砕されていただろう。

 その威力が分かっていたからこそ、彼は避けることにしたのだ。
 足りないのなら、別のモノを使って補う。
 そしてその補えるモノを持っている。

 【彼女】は強い。
 ソレは敵方になった今でも変わらずにあって、むしろ容赦なさが上がっていると言っても良いかもしれない。
 味方には絶大なる信頼を。そして敵方には圧倒的な恐怖を。

 ソレこそが、【戦女神】の資質。
 故に彼女こそが、ボクが知るソレ。
 【戦女神】――クイント。ソレが彼女の異名でもあった。






















 避ける。除ける。
 コチラからの攻撃は無力化され、自身は攻撃を回避するので手一杯。
 ソレはS・Aをあまり知らないボクでさえ分かってしまう、ゲンヤの現状だった。

 手強い。
 ソレが【桜花】となったクイントへの感想であり、ボクの素直な戦力分析でもあった。
 一撃一撃が必殺。

 水月やアゴを狙ったソレは、喰らえばただでは済まない。
 普通は再起不能。
 良くて病院送り。

 ソレがS・Aの達人、【クイント・ナカジマ】の実力である。
 元々S・Aは、魔法と組み合わせて使われることが前提で組まれている。
 その強さは彼女が証明済み。

 そして魔法を抜き取るとどうなるか。
 その点は、ゲンヤを見れば分かる。
 高速移動や攻撃砲を持たない彼は、完全に相手待ちの状態しか取れない。

 後の先という戦法は存在する。
 だが彼の戦法は、ソレではない。
 ワザと相手に先手を譲っているワケではない。そうせざるを得ないからなのだ。

 翼の路を持たないゲンヤは、三次元的な高速移動が出来ない。
 対してクイントは、ソレを使ってヒット&アウェイが出来る。
 そうなれば、ゲンヤはただの的に成らざるをえない。

 勿論サンドバッグと違い、彼は自由に動ける。
 だから移動標的ということになるのだろう。
 だが彼が移動標的なら、彼女は【超高速】移動標的だ。

 何らかの手段でクイントの足を止めない限り、ゲンヤに勝ち目はない。
 相手との戦力差を計算し、足りないモノを他で補えないかを考える。
 思索。検索。己の脳に刻まれた記憶を総動員し、使える知識と経験をサルベージする。

 相手の足を止める。
 ソレは精神的要因でも、物理的要因でも構わない。
 考えろ。考えるんだ。今の己に出来るのは、ソレしかないと分かっているのだから。

 タービンを使った移動は却下。向こうの方が速さで勝る。
 狭い場所に引き寄せて、速度を殺す。
 ……却下。幾ら狭い地下道だとは言え、ソレでも地下鉄のトンネル位の大きさはある。

 ココはS・Aのための空間と言い換えても良い位の、適度に狭く、ソレでいて壁や天井を使いやすい空間だった。
 どうすれば。一体どうすれば、彼女の足を止められるのだ。
 二人がかりなら、退路を塞いだり出来る。

 しかしゲンヤは一人――――自分だけでやるコトに拘っている。
 ならば【手】を増やすしかない。
 自分の手だけで足りないのなら、自分【以外】の手を借りれば良いのだ。

「…………」

 仮面のクイントは語らない。
 何一つとして、言葉を発しない。
 その仮面の奥の瞳は、一体何を映し出しているのだろうか。



 ――カチ、カチィッ!



 何時の間にかゲンヤの手の内にあった、黒い端末。
 ソレは【ギアコマンドー】と呼ばれる召喚器。
 金色のダイヤルを数度回すと、液晶画面に黒い蛇が現れる。

「(…………ゴクッ)」

 ヒリヒリするような攻防で渇いた喉。
 ソレを僅かでも潤そうと、ゲンヤは唾を飲み込む。
 成功するかは分からない。

 ただ一つだけ言えるのは、コレは初見が一番効力を発揮するというコト。
 ソレ以降は、ただの攻撃手段になってしまうので、本当にコレが最初で最後のチャンス。
 最終目標は、銀色の仮面を叩き割ること。

 【桜花】と【ウォータン】の共通点である、【仮面】という装備。
 恐らくアレこそが洗脳装置であり、ソレを破壊すれば元に戻る。
 ソレがゲンヤの辿り着いた結論である。故に、その破壊が最終目標なのだ。

「…………【ヴァイヴァー】・ドライブ……インストール!!」

 ゲンヤの左手。左腕のタービンを覆うように、黒と紫の中間色の物体が現れた。
 まるでデフォルメされた蛇のような追加武装。
 ソレは小型の盾のようにも見えた。



 ――ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!



 蛇の頭が飛び出し、胴体部と頭部を、ワイヤーが繋ぐ。
 そのワイヤーは電気を帯びたムチとなり、ゲンヤの頭上で回転し続けた。
 ……ココに、準備は整った。

「【ヴァイヴァーウィップ】、ラストアタァァァアックッ!!」

 電力が最大に達し、その電磁鞭が地を這っていく。
 ガリガリと地面を削りながらも、高速で【桜花】に迫る鞭。
 鞭というのは厄介なモノで、避けても【返し】で当てられるモノ。

 故に回避は、ギリギリまで引き寄せてからになる。
 まだだ。まだ避けない。
 もう少し…………今!!

「……っ」

 本当にギリギリのタイミング。
 その瞬間で鞭を避けたクイントは、回避に専念した分、空中で無防備となる。
 如何に彼女が鍛えた猛者であっても、この瞬間は何も出来ない。

 あと一秒もすれば、ウイングロードを展開するなり、魔法防御を展開するのだろう。
 だが遅い。
 彼は――ゲンヤは【この】一瞬のために、既に飛び立っているのだから。



 ――ドスッ!!



 地面にヴァイヴァーが落とされる。
 鞭は返ってくるまでに時間が掛かる。
 その時間も惜しい彼は、ソレを強制排除したのだ。

 同時にデータコマンドーも地に落ちるが、今の彼には関係ない。
 ただ当てる。
 渾身の一撃を、あの銀色の仮面に当てる。

 ソレだけ。
 たったソレだけ。
 されどソレだけ。

 その【ソレだけ】のために、彼は持てる全てを籠めた。
 娘たちの想い。自分の想い。
 そして……彼女を取り戻すという、【絶対的な】想い。



 ――ギュィィィィィィィィンッ!!



 加速は十分。
 力もMAX。
 当てる。当たる。当ててみせる。

 そんなゲンヤの気迫が通じたのか、桜花は一瞬ビクッと震えた。
 金縛りか。それとも違うコトか。
 どちらにしても言えるコトは……今以外に好機はないということだ。

「…………いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 入った。
 ソレは確かに渾身の一撃だった。
 だから彼女が落ちるのは当然のコト。

「(…………何かおかしい、よな……?)」

 だが変だった。
 彼女が叩きつけられた地面は、粉塵による煙が立ちこめて、視認が不可能となっている。
 煙が晴れる。晴れていく。

 嫌な予感は急速に増していき、すぐにその直感が正しかったことが証明される。
 ソコに彼女の姿はなかった。
 確かに彼女の存在は確認されたが、ソレは【ソコ】ではなかったのだ。

「…………【ヴァイヴァー】・ドライブ……………………インストール」

 決して大きくない声。
 だが不気味な静けさを持ったこの空間には、その声が良く通った。
 非常に聞き覚えのある声。

 忘れはしない。忘れられるハズがない。
 その声は。
 その声の持ち主は……!!

「……クイント!!」

 ゲンヤの叫びが――心からの欲求が、【彼女】の名前を自然に口にしていた。
 そう。あの声は、紛れもない【クイント・ナカジマ】のモノだ。
 仮面は叩き割れなかったものの、ソレだけは確かに断言出来ることだった。

「ゲンヤ……!!一旦、コッチに来い!!」
「アァ……?一体何を言って…………!?」

 先に気付いたのはボク。
 だからまだ、【ソレ】に気付いていないゲンヤに呼びかける。
 彼女は確かにソコに居た。ただ…………【ヴァイヴァーウィップ】というオマケ付きで…………。

「…………済まねぇ。折角の新兵器を、アイツにプレゼントしちまったようだ……」

 ボクと合流したゲンヤは、本当に申し訳なさそうにそう言った。
 クイントはゲンヤの攻撃を避けられないと悟ると、すぐに目的を変更したのだ。
 ソレは【敵】の攻撃手段の奪取。

 元々二人のリボルバーナックルは、【ほぼ】同一のモノ。
 互換性は当然あるし、その追加武装――【データ兵器】の装備も可能。
 だから今の彼女は、高速の鞭使い。

 先程までとは立場が逆転し、ゲンヤは鞭で狩られる側になってしまったのだ。
 その凄さは、身を以って知っている。
 それ故か今の桜花は、非常に余裕に満ちているようにも見える。

「何か手は……?」
「…………ない。悪いが、さっきので打ち止めだ……」
「……だよねぇ…………?」

 ゲンヤに残された手段はない。
 ソレは彼自身が認めているコト。
 速さ・武装・魔法。

 この三点で追いつけないのだ。
 作戦で引っくり返せる程、この差は甘いモノではない。
 ならば一点でも。何か一点でも追いつけば、その差は縮まるのではないか……?

 ポケットに手を突っ込む。
 ソコにはまだ未完成の…………【データコマンドー】があった。
 黒い完成品一号と違い、蒼を基調とした二号。

 当然、中に入っている【データ武装】も異なり、ソコに封じられているのは【黒き蛇】ではない。
 【白き獅子】。
 ソレがこの二号に封じられたモノであり、完成度八割というシロモノでもあった。

「(…………このゲンヤだったら、素手でもクイントに挑むだろうなぁ……?だったら…………)」

 迷う必要など、最初からなかった。
 そんなモノ、初めから存在しなかったのだ。
 この【オヤジ】たちの辞書には、そんな言葉は存在しないのだから。

「……ゲンヤ」
「……オイ。コレってまさか…………?」
「そ。そのまさか、だよ……?完成度は八割だけど、威力は問題なし。だから…………」

 差し出したのは、蒼いコマンドー。
 共に差し出したのは、白いライオン。
 コレがあっても、彼は勝てないだろう。

 だがその現実を覆す。
 そのための力でもあるのだ、この――【ライオサークル】は。
 ゲンヤはソレを受け取り、金色のダイヤルを回す。

 出現するのはライオンのマーク。
 顕現したのは、右脚のタービンを覆うモノ。
 白い丸鋸状に変化したライオンは、ソレそのものが蹴りを凶器にするモノ。

 エネルギーがチャージされる。
 ソレでも一発分。
 この一発が、この後の運命を握るのだ。

「…………【ライオサークル】…………ラストアタックッ!!」

 鋸は回転し、風を取り込んだエネルギーを解き放つ。
 一瞬遅れてクイントも、ヴァイヴァーのラストアタックを発動。
 強烈なエネルギー同士のぶつかり合い。



 ――
 ――――
 ―――――――
 ――――
 ――



 一進一退。
 まさにエネルギー勝負ならそう言える展開。
 だが忘れてはいけない。ライオサークルは未完成。

 闘いが長引けば長引くほど、コチラは――ゲンヤは不利になっていく。
 その証拠に、丸鋸からは白煙が上がってきている。
 一本。二本。三本。

 どんどん【火の車】と化しているソレは、ゲンヤにもダメージを与えているハズだった。
 だが当の彼はそんなコトはお構いなし。
 ……いや。もしかしたら、精神が肉体を凌駕しているっていうのか……?

「クイントォォォォッ!!どうだぁ…………オレは強くなっただろう…………!?」
「…………」

 だんまりを貫く桜花。
 それでも構わず語りかけるゲンヤ。
 少しでも彼女が元に戻るように。僅かでも、その可能性を広げるために。

「そっか……まだまだってか…………?ならまた鍛えてくれよぉ……!!【あの頃】みたいによぉぉぉぉ!!」
「…………!?」

 驚愕。……いや、違うな。
 アレは身体が悲鳴を上げたのだろう。
 何かの拍子でフラッシュバックした記憶が、現在の身体に衝撃を与える。

 ソレは決して珍しいコトではない。
 だが本人にとってのソレは、ワケも分からぬ痛みとして捉えられるコトが多い。
 つまり……彼女は、【昔の記憶】がフラッシュバックしたことで、ソレを知らない【現在の彼女】の身体が、混乱したのだ。

「ぃ、イヤァァァァァァァァアっ!!」

 突如頭を抱え、のた打ち回るクイント。
 ソレはチャンスだった。
 だが同時に、一番近付いてはいけない瞬間でもあった。



 ――ガガガガガガガガガガガガ。



 錯乱した彼女は、ヴァイヴァーを無茶苦茶に振り回す。
 ソレは柱や壁を無差別に抉り、この空間を崩壊させ始める。
 崩れ落ちる天井。倒壊する地下空間。

 苦しそうな彼女を救うかのように、敵方の転送魔法が発動する。
 居ない。彼女はソコに、もう居なかった。
 残されたのは、妻を取り戻せなかった漢と、かける言葉がないボク。

「チクショォォッ!!チクショォォォォォォォォォォォォッ!!」

 木霊する、悲しみの感情。
 ボクはこの時思った。
 必ず彼女を取り戻す。

 ソレは彼自身の手によって。
 そしてそのための【力】の習得に、全力で手を貸そうと。
 だからはやく、【二人】の笑顔を見せて欲しい。

 ソレがボクの心からの願いだった。





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