前回のあらすじ:リンディ、【衝撃】と出会う。 扉を開けると、ソコには…………未来の【リンディ・ハラオウン】、通称【ロリンディ】が居ました。 緑色の癒し系カラーの髪。 履いてない……もとい、提督時代の服装とは違った、スカートを【履いている】状態。 無印登場時から既にアダルティだった彼女も、今は女子高生位の年齢。 大人っポイというよりは【キャピキャピした感じ】が強く、まだ精神的に幼いコトを思わせる。 それでも変わらないモノも、当たり前だが存在する。 街を歩けば、同性からは【羨望】と【嫉妬】。 そして異性からは、【欲望】の目で見られること請け合い。 つまり何だ。その…………とっても【我が侭ボディ】だってコトさ……? ボン!・キュッ!・ボン! そんな擬音が聞こえてきそうな、彼女のメリハリのあるボディ。 今のボクも、バストとヒップには自信があるが、彼女ほどのバランスの良い身体の持ち主は、そうは居ないだろう。 ……ちなみに今のボクのスリーサイズは、上から【150・135・150】だ。 思いっきりな【寸胴】体型。 というか、明らかにバランスブレーカーだ。 しかも胸なんて在ってないようなモノで、逞しい大胸筋しか見えないのである。 ……コレじゃあ、オトコだった時と変わらんよ……? ちなみにボクの場合の擬音は、【ドォォンッ!・ムゥゥンッ!・バァァァァンッ!】だ。 ……悲しい。 ひたすら悲しい。 別にこんな容姿だから、オンナらしいコトとか出来るとは思っていない。 だけどこの擬音を目の当たりにする度に、ボクは現実に立ち返らないといけなくなるのだ。 まるで現実から目を背けないようにする為に。 ソレをボクに、思い出させるかのように……!!「ホクト執務官長……?一体、どうしたんですか……?」 そんな現実と闘っていると、部屋の中からクライド少年が歩いてきた。 どうやら扉の前から動かない上司を心配し、声を掛けてきたらしい。 うむ。素晴らしい気遣いだ。後で評価表に○を一つ付けておこう。「いや何、先程から扉の前に不審な気配を感じてね……?気になったから開けてみたんだよ……」「そうだったんですか。それで……誰か居たのですか……?」 クライドからの質問で、ボクは漸く【現在】に戻ってきた。 そうだよ。リンディ少女……言いにくいな。 リンディ嬢が居たんだよなぁ……?「あぁ、それでね……?【こんなモノ】を拾ったんだけど……?」「リ、リンディ……!?一体、何でこんな状態に…………!?」 魂は口から抜けかけ、その魂魄は【ミルク砂糖緑茶最高!!】と書かれたタスキを掛けている。 正真正銘、良く分からない状態。 少年が【こんな状態】と言ったのも、頷けるコトである。 とりあえず面倒ごとはイヤなので、部屋のソファーに少女を寝かし、少年に看病させるコトにした。 美男美女……というにはまだ幼さが残るが、ソレでも容姿が整ったモノを見るのは癒される。 特に自分の容姿が…………いや、もう止めよう。 コレ以上自分のコトを考えるのは、どう考えても危険だ。今はリンディ嬢が目覚めるのを待つとしよう。 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……! そんな幻聴が聞こえるのを無視すると、ボクはデスクに座って書類仕事を再開するのだった。 新米執務官【リンディ・?????】の邂逅 ぼやけた視界が正常に見えるようになると、ソコに映し出されたのは白い天井だった。 どうやら自分は横になっているらしい。 急いで身体を起こすと、ヒンヤリとした濡れタオルが額から落ちた。「(…………ココは……?)」 あたりを見回す。 どうやらココは誰かのオフィスらしく、【非常に】大きな机と、その脇に小さな机が置かれている。 大きな方は空だったが、小さなほうには【非常に見慣れた】顔が存在していた。「……あ、リンディ!目が覚めたんだね……!?」「…………クライド?ココって一体……?」「ココかい?この部屋は、【シズカ・ホクト】執務官長の執務室だよ。キミはこの部屋の前で倒れてたんだけど…………何があったんだい?」 思い出す。 意識を失う瞬間のことを、鮮明に思い出してしまう。 アレは仕方ない。 ドコの世界にアレを見て、意識を失わずに済む人間が居るのだろうか……? いや、居るハズがない。 冷や汗と共にぶり返してくる記憶は、またも意識を遥か彼方へと誘おうとする。「……ディ!リンディ!!」「…………ハッ!?」 危ないトコロだった。 もしもクライドが現実に引き戻してくれなかったら、自分は再びソファーに横たわるコトになっただろう。 ……危険だ。【色々な意味】であの執務官長は、彼の側に置いておくのが危険過ぎる。「おぉ……?目が覚めたのかい……?」「…………!?」 奥の備え付けの小型給湯スペースから、先程自分の意識を刈り取ったモノの声が聞こえた。 近付いてくる巨体は、否が応にも身体を強張らせる。 怖い。怖い……!! だがそんな負の感情は、その【巨体】と共に現れた、ある【匂い】によって霧散していった。 ソレは卵の匂いと、何らかの出汁が合わさったようなモノ。 その匂いの元は、【彼女】が持って現れた【鍋】であった。「お昼はとっくに回ってるんだけど、起きてすぐに重いのはダメだろう……?コレなら胃にも優しいから、食べられると思うよ……?」 ……エ? 右の耳から入ってきた音が、そのまま左の耳から抜けていきそうになった。 今、何て言った……? このとても癒されるような香りを、この【巨体】が作り上げたというのか……!? その情報を肯定するように、【彼女】の胴には【ピンクの】エプロンが掛けられていた。 明らかに特注の、超巨大サイズのエプロン。 胸の辺りに【SHIZUKA】と刺繍がされている。 ……あまりのギャップと光景に、子どもなら泣き出してしまうだろう。 むしろ、そうならないとオカシイと思う。「リンディ、執務官長の料理は絶品なんだよ……?冷めないうちに、頂いちゃいなよ……?」「……エ、エェ…………」 色々と信じられない情報があるが、とりあえず頂こう。 直接の上司ではないといえ、上の階級にあるモノから出されたのだ。 頂かないという選択肢は、最初から存在しない。「……い、頂き、ます…………」 スプーンに似た匙のようなモノを使い、恐る恐る料理を口に入れる。 舌の上で優しくほぐれるライスと卵。 何処か惹きつけられる匂いは、魚介系の出汁だと後で分かった。「お、美味しい…………です……」「ウン。そりゃあ、良かった♪」 笑顔だ。 表情は相変わらず厳ついし、声も渋いままだけど、ソコには笑顔があった。 実際にあるのは強面の【覇王少女】フェイス。 だが本人以外のモノ(この場合は卵粥など)を見ると、その強面が【笑顔】に見えてくるという不思議さ。 ……多分このヒトに接する回数が増えれば増えるほど、脳内変換フィルターのスキルが研ぎ澄まされるのだろう。 それ故にクライドは、【気になる上司】と言うまでになったのではないだろうか? クライドは現在、彼女の元で働き始めて半年程。 一回しか接していない自分に【笑顔】が見えたのだ。 きっと彼にはモノ凄い美人に見えることだろう。「トコロでアンタ、あんな所で何やってたの……?」「エ、それは……そのぉ…………」 言えない。 貴女の謎について考えていたら、何時の間にかココへ来ていたとは、口が裂けても言えない。 しかし相手は上官だ。何も言わないワケにもいかない。「…………クライド。キミはちょっと、飲み物でも買ってきて……?」「は、はぁ…………何時ものですか……?」「ん~ん。今日はお客さんも居ることだし、隣街の一級品にして頂戴な……?」「……良いんですか?時間が倍掛かりますが……?」「ウン。構わないから、行っといでぇ~♪」 人払い。 というより、ホクト執務官長は【クライド】を外させた。 まるでコチラの心の内を読んだかのような、その配慮。「……お嬢さんはクライド少年の、【コレ】かい……?」 左手の小指を立てて、ある種の暗号を表す執務官長。 【コレ】。ソレはイコール、【恋人】を意味するモノ。 その意味を理解すると、急速に顔が火照ってくる自分が居た。「え!?そんなんじゃ、ありません……!!…………そりゃあ、そう成りたいとは思ってますが……」 段々と尻すぼみになる言葉。 カッとなって言ってしまったまでは良いが、どう考えても初対面のヒトに言うようなモノではなかった。 穴が在ったら入りたい。そんな心境でいると、目の前の存在が、予想外のコトを言い出した。「ハッハッハッハ……!!良いねぇ~♪クライド少年はモテモテだなぁ……!!」 豪快な笑い声が、小さくないオフィスに響き渡る。 ソコに黒い感情はない。 どうやらこの女性自身は、クライドをどうとも思っていないようだ。「…………お嬢ちゃんはさしずめ、囚われのクライド姫を助けに来た、白馬の王子さまって感じかな……?」「……!?」「どうして分かったのか、って顔だね……?カンタンだよ。ボクの外での評価は【化け物】だ。なら、気になる相手がソコで捕まってると思ったら……てね?」 見破られている。 流石に執務官長を務めるだけはあるらしい。 その優れた洞察力は、大したモノだ。「心配せんでもボクは、クライド少年を食べたりするつもりはないから、安心しなよ……?」 恐らく彼女にとっては、彼は手の掛かる部下。 ソレ以上に発展することはないのだろう。 もしあっても、ソレは【弟分】とかそんな感じなのではないだろうか……?「まぁ、気長にがんばりな……?彼目当ての大半が、そんなに長くは続かないだろうから……?」 大半がミーハー気分でクライドに憧れている。 ソレは裏を返すと、本当に好きな人間は少ないことを意味する。 ……確かにそうだ。焦るばかりでその事実を忘れていたが、確かにその通りなのだ。「だから嬢ちゃんは、今は焦らず着実に自分を磨いて行きな……?そうすれば、そう遠くないウチに…………アイツは捕まえられるさ♪」 ……大きい。 物理的な意味でも大きいが、今の彼女はソレ以上に大きく見えた。 何というか……そう。人間としての器の大きさや、オンナとしての懐の広さが桁違いに感じるのだ。「(…………そうか。クライドが【気になる】っていう意味が、漸く分かった気がするわ……)」 確かにこの人物に惹かれない人間は、そうは居ないだろう。 表面だけ見ていて、接するコトが少ない人間はその限りではない。 だが一度接すれば、このヒトの【大きさ】が良く分かる。 ……まるで広大な山脈のようだ。 このヒトは同じ人間でありながら、まるで違う高さに居る。 勝てない。だが、盗むコトは出来るかもしれない。「……あの、またお邪魔しても良いでしょうか……?」「あぁ♪気が向いたら、いつでもおいで……?その時は、なるべくクライドと一緒にさせてあげるから……?」「……ハイッ!!」 この日。 偶然訪れたこの部屋で。 自分――【リンディ・ハーヴェイ】は…………生涯を掛けて超える【オンナ】に出会った。