前回のあらすじ:リンディ、【漢女】を生涯の目標とする。 前回のあらすじ:月村静香の転生。 ……アレ? 何だか記憶に齟齬がある。 先日ボクは、確かに【ロリンディ】の首にロザリオを掛けて、スール関係を構築……まではしてないか? 落ち着け。状況を整理するんだ。 ボクの名前はシズカ。 シズカ……ホクトだ。 一瞬違う苗字が出そうになったが、きっと気のせいだ。 気のせいに違いない。 ……うん。落ち着いた。 じゃあ次に、自分の経歴を列挙していこう。 現在のボクは、時空管理局本局勤めの【執務官長】。 クライド・ハラオウンを部下に迎え、リンディ・ハラオウンとも顔見知りになった。 そう。そうだよ。 そしてボクは、所謂【転生者】。 今回で四度目の転生。都合五度目の人生は、【覇王少女】としての転生。 世紀末覇王に似た体躯と顔は、見たものを震え上がらせ、鏡で自分の顔を見るのも怖い程。 ……それはもう、夜中に電気を付けずに月明かりに照らされたのを見たら…………思い出したくも無い! 良し。あとは昔のコト位か……? 一度目:ただのオタ。生涯をDTとして過ごし、癌で死亡。……むなしい人生だったなぁ? 二度目:御神の家に転生。血で血を洗うような世界に突入し、剣術を覚えざるを得ない状況に。これまたDT。 三度目:今度はベルカ領で、医者になりましたとさ。魔法と医術は重要です。……この度もD(もう良い!)。 四度目:女装少年……じゃなかった。月村すずかにソックリな兄として転生。 デバイス。兵器。その他諸々。 非常にフリーダムに動き回り、そして…………。「(……ん?四回目は、どうやって死んだんだっけ……?)」 一度目は病死。二度目・三度目は老衰? ……ダメだ。 どうしても四回目のコトだけが思い出せない。 そもそも転生の際に持ち込める記憶には、限りがあるのだ。 その全てを覚えているワケではない。 今まではどうでも良いコトがその対象だったから、特に気にしなかったものの……。 ……うん。今回は結構な重要情報が、その対象になってしまったらしい。 あまり良くない兆候だ。 だからと言って、考えただけで記憶が戻るワケではないので、前面スルーの方向だけど。「……つまり、考えてるだけ無駄というコトか…………なら!!」 今日も元気良く、早朝のラジオ体操。 第一、第二は地球であったの同じ。第三は欠番で、今は何と…………第百八まであるのだ。 恐るべしミッドチルダ。コレで今度地球人に転生したら、『ガッハッハッハ……!!我輩のラジオ体操は、百八式まであるぞぉぉぉぉっ!!』 って、自慢出来るのだが。 ……ともかく。 こうしてアバウトさにまみれた、ボクの失夢感調……もとい。執務官長としての一日が幕を開けるのであった。「シズカちゃん。貴女、地上で働いてみない?」「…………ハァ?」 場所は管理局本局。 目の前に相対するのは、後に伝説とまで謳われる【三提督】。 その一人である、【ミゼット・クローベル】女史。 前回の転生時には既に皺が走っていた顔も、現在はその影すら見えない。 ちなみ現在、四十台に突入したかしてないか位。 ……リンディと言い桃子さんと言い、みんな生物の老化を無視していると言わざるをえない。 小柄で可愛らしくて、美人というよりは可愛い系。 どう考えても二十代……いや。下手をすると、十代後半にも見えてしまう恐ろしさ。 ……ババァ、結婚してくれ!! もしもボクがオトコだったら、きっとそう言っていただろう。 そう言わない自信が、コレっぽっちも存在しない。 ……良かった。本当に良かった。今回の転生が、一応とは言え【オンナ】であって……。「……どういうツモリです?ボクのような【化け物】を地上に置いた日には、ミッドが震撼するって言ってたじゃないですか……?」 本局が警察庁なら、地上は警視庁か県警だ。 つまりその分だけ、住民との距離が近くなる。 というコトは…………それだけ、住民を怖がらせてしまう可能性が増えるのだ。 コレが今まで、ボクが地上に配備されなかった理由。 家がミッド地上にある身としては、ソチラでの勤務を希望してた。 しかし理由が理由だけに、仕方無しに本局勤めを了承したのは遠い思い出。「ソレがね?最近、地上の治安が悪化してきてるのよ……?」「……ソレって、本局が有能なヤツらを引っこ抜くからじゃあ……?」「…………そうね。確かにソレもあるわね。でもね?原因はソレだけじゃないのよ……?」 曰く。地上に残した人員だけでも、正常に作動すれば治安は維持出来るハズだと。 しかし残された低ランク魔導師。または魔力を持たないモノたちは、不平不満を言うだけでちっとも鍛錬をしないらしい。 つまり彼らの力量不足は、彼ら自身のせい。 だが正面切ってそう言うワケにもいかないので、ミゼットは知恵を絞ったのだ。 全体的に質を上げつつ、一人一人の才能を開花させられる人物。 そしてソレによって叛乱が起こったとしても、可及的に速やかに鎮圧出来る人間。 彼女は探した。 その該当条件を満たすモノを探す為に、夜も寝ないで昼寝してガンバった。 好きな【十五時】のオヤツを、【三時】に変えてまで探すこと数日。 ついに彼女は該当者を見付け出した。 ……いや。真っ先に候補に挙がったその人物だったが、ソレ以外を探していたので時間が掛かったのだ。 【シズカ・ホクト】……つまりはボク。 やはりというか、当然というか。 最初から最後までボク以外に条件を満たすモノは居なくて、彼女は仕方なしに諦めたのだ。 ……まぁ、当然か。ボクみたいな火種……いや、核弾頭か?そんなモノを好き好んで地上に送るヤツは、普通は存在しないからねぇ……?「……本当に。ほんっとぉぉぉぉに遺憾ですが、貴女を地上に派遣するコトにしました。期間はコチラが良いと判断するまで。…………何か、質問はありますか?」「……色々と言いたいコトはあるんだけど…………ボク一人で行くの?」「ハイ。貴女の部下であるクライド君は、今は押しも押されぬエースとなりました。そんな有能な彼を、地上に連れて行くコトは許しません」 そうなのだ。 クライド少年は、ボクのしごきに耐えたせいか。 現在は、管理局の時代を担うモノとして注目を集めている。 つまり上としては、地上に左遷(という言い方は地上に失礼だが)されるボクのお供を、彼にさせるワケにはいかないのだ。 コレは仕方ないコト。ボクはとっくに覚悟完了済みだ。 ……と言うよりも、今まで良く強制配置換えをしなかったモノだと、感心する位である。 「あいよ。あとボクの向こうでの役職は、一体何になるの……?」「執務官からは離れてもらいます。そして地上での貴女の役職は…………【戦技教導官】です」 マジですか?ボクに、なのはの大先輩をやれと? ボクに教えられるコトと言ったら、【近付いてドン!!】位しか、教えられないのだが……。 ……イカン。それじゃ後の、【ニートなボインナイト】と変わらないじゃないか……!?「……本気?」「…………本気です。それに向こうでは、貴女のファンが居るらしいので、その方々を補佐に回すコトにしました……」 ファン? 嘘でしょう!? この【覇王少女】に固定ファンが付くだと……!? ……どいつだ。 一体。ドコのどいつが、そんなコアな趣味持ちなんだ……!? まさかアレか?【キモかわ】系が好みの、歪んだヤツとかじゃないよな……?「……一応、その人物の名前と階級を教えてもらっても良いですか……?」「……非常に驚くコトですが、連名です。一人は【ゼスト・グランガイツ】空曹……」 ……エ゛? マヂで? あの筋肉オッサン【一号】が、ボクを御所望ですとぉっ!?「もう一人は…………あった。【レジアス・ゲイズ】陸曹の、以上二名ですね……?」 オォォォォイッ!? アレか!?ボクとあの筋肉ブラザーズとは、【運命の紅い糸】で結ばれているとでも言うのか!? 勘弁。ハンペン。豚蔓延。 ボクの――【シズカ・ホクト】としての管理局ライフの第二章は、こうして思いもよらぬ形でスタートするのであった。 マル。 ……って、納得出来るかぁぁぁぁっ!? あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!