前回のあらすじ:二人のメイドと、二人のメイド害。そして……一体のメイド(?)が集まって出来た、メイド戦隊【冥土ノ土産】。 新型実験航行艦【ラグナロク】。 現在その一室で、四人のメイド服に身を包んだ肉達磨が【異様な程】の緊張を伴いながら作業をしていた。 その作業の名前は…………【掃除】。 モップ掛け。 シルバー洗浄。 暖炉の掃除。 凡そ一般家庭になさそうなモノを筆頭に、【掃除】という名の特訓は続けられてきた。 初級編として掃除機の使い方に始まり、雑巾掛け・ハタキの使い方。 なお雑巾掛けに関しては、絞り方も指導済みである。「…………どれどれ?」 窓枠に人差し指を滑らせ、埃が溜まっていないかをチェック。 ……フム。 流石はボクの鍛えた教え子たち。塵一つも残さないとは……。「……合格だ。良くやった。これでキミたちは、一人前の【メイド(害)】となった!!」『あ、ありがとうございます!!』 涙を流す者。 ソレは三つの影。 残りの一つは、「はっちゃ~♪ルナちゃんに教えてあげなきゃ~♪」とか身体をくねらせている。 もう一度現状を確認しよう。 ムキムキマッチョな野郎隊と、ナイス(マッスル)バディな漢女組。 そしてどちらとも区別が付かない……いや。人間かどうかの区別すら出来ない、【物体】が一つ。 ……スゴイネ? マルデ、メイドノヤカタノヨウダネ? ……ごめん。現実逃避したかったんだけど、ダメだったみたい。 というか、神はそれを許してくれないらしい。 何てイケズな神様なんだ? もう「神様の、イ・ケ・ズ……?」とか、やってやろうか……?「……お姉さま゛ぁぁ?一体、どうしたんじゃぁぁ?」「……あぁ。ゴメン、ゴメン。ちょっと考え事をしてただけだから……」 イカンイカン。 部下に心配されちゃ、面子が立たない。 それに心配顔のウマ子はその……【乙女力】がアップしすぎて、破壊力がスゴイしね……?「よぉし!!それでは今回のミッションに入る……!!」『…………!?』 【冥土ノ土産】の、この度の任務。 ソレはミッドとは違った次元の、異なった国々の間で行われる戦争。 血で血を洗い、既に退くに退けなくなった戦。 本当は誰もがもう、戦いを止めて平和に暮らしたい。 でも面子を気にする双方の国主は、自分からは停戦を言い出せないのだ。 そこでボクたちが介入し、【平和的に】解決するように指令が来たのである。 ……ちなみにこの情報提供者は、エドマエグループ。 つまりルナパパが掴んできた情報なのだ。 だからボクはノータッチ。詳細はルナパパとミゼットばあ……もとい。ミゼット【お姉さま】しか知らない。「【時空管理局特殊治安維持部隊】…………みんなぁ~?【戦場の】お掃除に出掛けるぞぉぉぉ!!」『ハイッ!!メイド長っ!!』 ナイフと懐中時計を持ったメイドさんが今の発言を聞いたら、一体どんな顔をするだろうか? やはり嫌な顔をされるのかねぇ? ボクとしては【あの】マイスター的なメイド長の仕事振りは、見習う点が多いのだが。 人。人。これまた人。 視界の中には人しか存在せず。また、視界の外も同様である。 三百六十度が人で覆い尽くされたこのフィールドは、まさしく戦場と呼ぶに相応しい場所だった。 問題ない。確かに問題ないかもしれない。 ボクたちは戦場に赴く覚悟はしてきたし、圧倒的な人数であっても怯んだりはしない。 ……普通に考えられる戦力差、ならねぇ……?「…………ルナパパ?キミは一体、どういう戦力計算をしたんだい……?」 この情報を集め、ミゼットお姉さまにプランを提出したのはルナパパだ。 彼のコンピュータを内蔵したような頭脳は、一体どのような計算を基に試算したのだろうか? 比較対象は?その対象と我々の戦力差は?……疑問は尽きることがなかった。「……ウム。何でも、左手にルーン文字を刻んだ【ギャルパーンギヴ】とかいう若造が、七万の兵隊と闘ったいうので…………我々ならその十倍は軽いと思ったのだが……?」 一人当たり七万の十倍で七十万。 それが五人で、三百五十万。 ……うん。どう考えてもムリがある。 というか、どうやってこれだけの人数をかき集めたのだろうか? その方が気になって仕方ない。 この次元世界は人口が多いのだろうか?「(……まぁ、今更何を言っても変わらない、か……?)」 前門の虎。後門の狼。 それどころで済まない大量の兵士たち。 ……仕方ない。どのみちココまで来て、何もしないで帰ることは不可能。ならば我々がやることは……?「みんな、いくぞぉぉぉぉっ!!」『了解!!』 答え。 突貫。 そして殲滅……じゃなくて、無力化だ。『ウォォォォッ!!』 散開。 そして各々の戦場を展開。 その結果聞こえてくるモノは……。『ヒ、ヒィィィィィィィィッ!!』 ……悲鳴だった。蜘蛛の子を散らすように、兵士たちが逃げる逃げる。 良く考えたらボクのフェイスを見た者は、普通は気絶するもの。 如何にココが戦場で通常よりも緊張しているとは言え、皆が逃げるのは当然のことなのだ。 これは思いがけない幸運。 このままいけば、本当に【戦わずの勝利】が待っているかもしれない。 良いぞ!もっと逃げろっ!!「逃げるなぁぁっ!!戦えぇぇぇぇっ!!」 とか心の中で最大限に応援していたら、敵さんの指揮官らしき声が響き渡った。 それと同時に、何やら禍々しい光が戦場を支配する。 ……どうやら、何かしらの魔法を使ったらしい。 その効果を見極めるべく、ボクたちは構えを取る。 一体。二体。そして三体と。 次々と兵士たちの身体から精気が失われていき…………同時に瞳に紅い色を宿していく。「……そうか。この魔法の効果は……!!」 以前ルナパパの娘に教わった歌と同じ、兵士を【狂戦士】に変えるモノ。 まるでバイオハザードのような光景。 ゾンビのように襲い掛かってくる兵士たち。「……まいったなぁ。これならルナちゃんの友だちに、【眠りの歌】っていうのを教わっておけば良かった……」 後悔とは後に悔いるから、そう言うのだ。 泣き言は後にしよう。 とりあえず今やることは…………戦場の【お掃除】だぁぁっ!! ルナパパのサングラスが、紅い火を噴く。 ウマ子が良い男を見つけると、それ以外を蹴散らす。 ゼストの槍が地味な動きながらも、確実に相手を無力化していく。「(……でも足りない)」 レジアスの逞しい二の腕が相手の頭に衝撃を与え、彼の蹴りがまた一人倒す。 レジアス目掛けて突っ込んできていた兵士たちは、先頭が後ろに倒れたことで、まるでドミノ倒しのようになっていった。 これで一割。 今レジアスが大量に倒した奴らを含めても、まだ九割の敵さんが残っているのだ。 ボクたちのスタミナは、確かに化け物レベルである。 だが。それでもこのままで行けば…………恐らく残り三割位を残すことになるだろう。「(……これはマズイ、かもねぇ……?)」 殺さずに狂戦士たちを無力化させるのは、通常のソレの何倍も労力がいる。 加えて言うのなら、ゼスト以外は皆が徒手空拳であり、ボクもその一人。 ……だがボクの本領は得物、ソレも小太刀を手にした時に発揮されるモノ。 こんな体格と力のせいで、普通の小太刀では力を発揮出来ない。 さらに言うとボクが小太刀を持った場合…………ソレは果物ナイフ位の大きさになってしまうのだ。 故に普通の剣が、ボクにとっては小太刀サイズ。 そして材料には、ボクの力に負けない素材が必要。 ソレを考慮した結果、そのスジでは有名な【伝説の名工】に、剣の作成依頼をすることにしたのである。 材料は苦労して入手した【オリハルコン】。 あとはボクが作成に立ち会えば、ソレは完成する…………ハズだった。 だが任務が一段落するのを待ってから行おうとした為、現在は影もカタチもない状態。 こんなことだったら、メイドの訓練を一週間くらい休むべきだったか……?「(……いや。ソレは出来ない……)」 メイドの路は一日にしてならず。 一日休めば、それを取り戻すのに三日は掛かる。 それは、何処かの某主人公が言っていたではないか。 だからこの事態は、仕方のないことなのだ。 起きるべくして起きた、不可避の運命。 しかしこのまま諦めるという選択肢は、ボクの中には存在しない。 運命は存在するかもしれない。 だが運命に抗うのもまた、人間の仕事なのだ。 みんなの命は、今ボクの掌にある。 それが部下の命を預かるということ。 重い。重すぎる。 でも逃げない。逃げられない。逃げるわけにはいかない!!「さぁ、みんなー!まだまだ【仕事】が残ってるんだぁぁ!!こんな【仕事】、サッサと片付けちゃうぞぉぉぉぉっ!!」 鼓舞し。そして自らにも気合を注入する。 最悪の場合、皆を強制退去させる。 ふとそんな考えが過ぎったが、直ぐに頭の中から打ち消す。 最悪はない。 起こらない。 起こさせはしないのだからっ!! パカラ、パカラ、パカラ、パカラ…………ッ!! 戦場に酷く似合わない音。 それは確かに馬の蹄の音だった。 しかしその音は通常の馬のソレよりも軽く…………まるで【マンガの中の馬の蹄の音】のようだった。 小高い丘から降りてくる、一つのシルエット。 それは馬の上に二人の人間が跨っているように見受けられ、敵の大将のお出ましかと身体を強張らせる。 …………おかしい。確かに二人の人間の【上半身】が馬に跨っているのは分かるが、下半身は一人分しかない。 パカラ、パカラ、パカラ、パカラ…………ッ!! 近付いてくる。どんどん近付いてくる。 そしてハッキリと見えるようになる、意味不明物体の正体。 ……それはまるで神話の中の生物のようだった。 人間の上半身と、馬の首から下が融合した生物。 所謂【ケンタウロス】と呼ばれるモノに、一人の男性が跨っていたのだ。 まるで伝説の聖獣を使役して現れた、勇者のような存在。 確かにソコだけ見れば、そのように見えなくもない。 だが違う。それは断じて有り得ない。 パッと見でソレが分かってしまう程、そのシルエットの正体は【おかしなモノ】だったのだ。 まずケンタウロスの方。 人間の上半身に、馬の首から下。 ここまでは通常のケンタウロスと同じだ。 違うのはココから。 人間で言えば【頭】に該当する部分。 そこに付いているのは、普通なら【人間の頭】だ。 でも違う。 ソコに付いていたのは。 そこに付いていたのは…………!!「……アレって、もしかして……………………【スライム】……!?」 そう。ソコに在ったのは、紛れもなく【スライム】と呼ばれるモノ。 何処を見ているの分からない両目が、その存在のおかしさを更に引き立てている。 ……何なんだ、この生物は……!?「クックック……その通り!!この生物の名は【ケンタウロスホイミ】……!!スライムの亜種だぁぁっ!!」 その【ケンタウロスホイミ】とやらの背に乗った大男。 筋骨隆々な体躯を、ボクらと同じデザインのメイド服が包み込んでいる。 一点だけ違いを挙げるのなら、彼のホワイトブリムは両目を隠すラインまであること位。「…………キミは、一体……?」 そう言えばコラード女史から、彼女の教練を終了した生徒を一人、ボクの方へ寄越すと言う報せがあったっけ? 本当ならもう少し先の話だったハズなんだけど…………? もしかしてアレか?コッチのピンチを察して、駆けつけてくれたのか……?「ピンチの時に駆けつける、【六人目】の戦士…………ソレがこのオレ、仮面の勇者【メイド害】!!」 新戦士参上。 そしてお約束の、窮地からの華麗な脱出。 その後に残っていたのは…………メイド(害)の優雅なティータイムだけだった。 あとがき >誤字訂正 E.さん、俊さん。ご指摘頂き、ありがとうございます!! >新戦士 実は六人目にメイドガイ―七人目に女華姫の組み合わせか、六人目に貂蝉―七人目に卑弥呼……とかやろうと思ったのですが……。 本筋と関係ない人々が活躍し過ぎ&目立ち過ぎになるので、それは止めました。 さすがにソレは……ヤバ過ぎですよねぇ……?(汗)。