前回のあらすじ:リンディ、覚醒を遂げる。 月日が経つのは早いもの。 一番多い時は六人も居た【冥土ノ土産】だが、今はボクとルナパパしか残っていない。 レジアスとゼストは地上へ。 ウマ子は兄を探しに。 メイド害は仕えるべき主を見つけに。 皆が皆、ココを離れていった。 ……ゴメン。約二名程強引に追い出した。 レジアスとゼストは、そろそろ地上本部で力を付けなきゃいけない時期。 だから叩き出した。 「捨てないで下さいぃぃぃぃっ!!」とか、「一万と二千年前から愛してましたぁぁぁぁっ!!」とか聞こえたけど気にしない。 一ミリ程も気にせずに、ミッド上空からノーロープバンジーを敢行。 ラグナロクから叩き落したとも言えるけど、ソコはソレ。 あとはミゼットばぁ……お姉さまに任せておけば、万事解決。 コレでアイツらは原作どおりのルートに入る……ハズ。 いや。良く考えたら、この時点で原作とは大きくかけ離れた展開になってる訳だし…………バタフライ効果とか出ないよな?「(……ま、気にしたら負けかな……?)」 そう言えばクライド少年とリンディ嬢との間に、とうとう【あの】クロノ少年が誕生した。 コッチも殲滅戦が忙しくて頻繁に会いには行けないが、確か……もう三歳位だったハズ。 会う度に泣かれるので、本当にあの二人の子か疑ったモノだ。 まぁ、リンディから生まれたのがクライドそっくりの子どもという時点で、疑いようがないんだがね? ……とにかく。クロノは現在、三歳位。 ということは……?「(……ぼちぼち【闇の書】事件が始まる頃か……?)」 ソレは災厄。 アレは災害。 凡そ人の手では解決出来ない、歪みを根源とする事件。 今回のマスターは確か、はやてのような人物ではなかったハズだ。 故に此度での解決は難しいだろう。 だから暴走したのだ。 無限書庫が稼動してないに等しい状況。 よって情報収集は不可能に近い。 だからこそ出来ると思われた封印処理。 さてどうする? ボクが出ていって無双ゴッコをするか? それとも……?「(……ふぅ。まぁ何にせよ、事態が発生してからでも遅くはないかぁ……?)」 この楽観的な考え方を後に悔いることになろうとは。この時点ではボクは夢にも思わなかった。 だから【あんな事態】を引き起こしたのは仕方がないこと。 そう。再び【終わり】を迎えることになったのは、ボク自身の責任だったのだ。「……何だ、コレは……?」 次元潜航中に、偶然訪れた場所。 そこに在ったのは、【最悪】を突き詰めたような空間だった。 ロストロギアに乗っ取られた艦船。 その姿には見覚えがあった。 次元航行艦【エスティア】。 クライド少年が艦長を務めている…………ハズの、【海】の艦船。 周りには別の艦船の姿。 認めたくはない。 認めたくはないが……。 コレが今回の【闇の書】事件のクライマックスだとすると、あの艦に乗っているのは【ギル・グレアム】ということになるのだろう。 両脇を双子の使い魔で固めた変態という名の紳士。 ……じゃなかった。紳士という名の変態。 未来の話でもはやての【足長オジサン】を気取り、光源氏作戦を実行していたエロジジイめ。 そんなんだから、娘たちはお転婆に育つんだよ……! とか思っていると、そのロリコン提督の乗っている艦船から、魔力によるバレルが展開し始めた。「(……マズイ。アレはアルカンシェルの準備に入ったってコトじゃないか……!)」 基本的に【海】のコトは海自身が。 【陸】のコトも陸自身が。 それがこの管理局の暗黙の了解であり、悪しき風習でもある。 故に伝わってこなかった、今回の闇の書事件。 恐らく此度の事件は、ミッド以外の管理世界や管理外世界を中心に行われたのだろう。 だからボクは知らなかった。 よって、この展開を防げなかった。 ……クソッ! こうなると分かっていたんだから、何とかする方法だって出来たハズなのに……!!「……行くよ、ルナパパ。要救助者が一名、まだ艦船に取り残されているんだ……」「…………了解した。ヒューマンよ……」 艦同士の接触は出来ない。 下手な動きをすれば、グレアムに気付かれるからだ。 転送魔法も不可。下手な魔力干渉は、暴走をはやめる可能性がある。 ならばどうする。 どうすれば、エスティアに乗り移れる……? 考えろ。考えるんだ……!! A:泳いでいく。 阿呆だと侮ることなかれ。 次元の海は泳げるんだよ? ただし、ボクたちのような屈強な人間じゃないと無理だけどね。 グレアム艦から死角になるポイントから乗り移り、エスティアの船体に進入する。 中は既に荒廃状態。 こりゃあ良い。暴れまくっても、責任を取らされずに済むからねぇ……?「ルナパパ!!蹴散らせぇぇっ!!」「……ムンッ!」 メイド服に身を包んだ屈強なモノが二体。 艦長席を目指して進撃する。 とにかく最短で。道がないなら、路を創る。 我らの前には道がなくても、我々の通った後には路が出来る。 文字通りソレを実践し、ドンドン壁や天井を破壊していく。 ちなみボクは伝説の名工が創ってくれた剣を振るい、かの【ゴエモン・ザ・サーティーン】先生のようにスパスパ斬っていく。 鳥の翼を思わせる鍔。中心部で輝く宝玉。 まさしくソレは、伝説の剣と言い換えても良い程の代物。 強いて言えば西洋剣であることが難点だが……。 どのみちこの体格では、繊細な動きは出来ないんだ。 なら大した違いはない……というコトになるだろう。 材料不足の結果一本しか出来なかったが、コレは一本でも十分な程の攻撃力。 その証拠に……見えてきた! 艦橋と思わしき場所。 メインスクリーンにはロリコン提督がアップで映っており、その前にはクライド少年の姿が。「(……チャ~~ンス!)」 向こうはまだ、誰もコチラには気付いていない。 剣……ちなみに名前は【シズカの剣】である。 ボクじゃないよ!?こんな名前を付けたのは、ボクじゃないんだからね!? ……コホン。 シズカの剣を逆手に持ち、槍のように投擲する。 クライド少年の前にあったコンソールがそれによって破壊され、メインスクリーンは死亡。 どうでも良いけど、ロンギヌスの槍ってカッコ良いよね? あの紅いところや、二又に分かれる生物学的なフォルム。 是非使って見たかったなぁ……?「…………ホクト執務官長……?」 やはり彼にとっては、ボクはいつまでも執務官長らしい。 まるで幽霊でも見たかのような顔。 額や全身から流れ出る血。「……やぁ。帰りが遅い旦那を捕まえに、リンディ嬢に代わって迎えに来たよ……?」「…………何で。何で来たんですか!?ココはもう、二分後にはアルカンシェルによって消滅するんですよ!?」 息も絶え絶え。 やはりグレアムとの通信の時は、無理してカッコ付けてたらしい。 今にも崩れ落ちそうな身体が、ソレを証明している。「バカモノ。キミは若い身空で、リンディ嬢を未亡人にするつもりかい……?そんな勝手、ボクが許さないよ……?」「な、何を言ってるんですか……!?リンディだって覚悟の上です!逆の事態だって想定してました!」「……でもさぁ?想定と【実際になる】のとでは、全然違うと思うけどねぇ……?」「…………」 それは分かっている。 でもそう言わずにはいられない。 ソレが彼の表情から伺いしれた。「……どうせ死ぬんだったら、少しでも長く生きた者の方が良い」「…………え?」 今この船に闇の書が留まり続けているのは、リンカーコアの反応があるからだ。 暴走し転生するまでの間、少しでも魔力を集めようとする習性。 だから彼は退艦しなかった。出来なかった。被害を最小限に食い止めるには、彼が残るのが一番だったから。「……ルナパパ。この不心得者に、子を持つ親としての心得を教えてあげて……?」「…………良いだろう。ヒューマン……」「ちょっと、何を…………グハッ!?」 ルナパパの一撃が炸裂し、昏倒するクライド少年。 どうでも良いけど、コレで死んだりしないよね? コレから次元の海を泳いで帰るというのに。「この状態だと、ラグナロクの最新式を使っても…………下手すると何年もかかるなぁ……?」 医療カプセルを使った肉体の修復。 今のクライド少年の状態を考えると、完璧に治るまでに数年はかかりそうだ。 だが仕方ない。その際には、リンディ嬢の手厚い看護で奇跡の復活とやらに期待しよう。「……じゃあ、頼んだね……?」「……分かった」 ズンッ、ズンッ!と凡そヒトの物とは思えない足音をさせ、ルナパパは艦橋から去っていく。 その腕にはお姫様抱っこのクライド少年。 ……つくづく彼は、巨体にお姫様抱っこされる運命にあるらしいなぁ……?「…………ルナパパ!」「……?」 去り往く巨体に、最期の声を掛ける。 やっぱコレを言わないとダメでしょう? ダメな気がするんだよねぇ……?「I’be back!!」「……フッ。ソレは私のセリフだ……」 僅かに口元を歪ませ、微笑を表すルナパパ。 再び遠ざかる背中を見ながら、ボクはコレまでの人生を想う。 懐かしい思い出。忘れてしまった、思い出せない記憶。 …… ………… …………………… …………………… ………… ……「……アレ?」 走馬灯が、何時の間にか消えている。まるでスクリーンが霧散するように。 そして代わりに浮かび上がってきたのは…………白衣ではなく、剣道着を来たドクター。 それと…………ブルマ姿の【ウーノ】。「やぁ、やぁ。また会ったね?ようこそ【ドクター道場】へっ!!」「…………いらっしゃいませ」 ノリノリ【ドクター】と、非常にイヤイヤ【一番】。 ココはドコ? 死後の世界?それとも……本当に【ドクター道場】だとでも言うのか!?「……おや。折角前回のお約束どおりにしたというのに…………何が足りなかったのかなぁ……?」「…………ドクターの常識、ではないでしょうか……?」「手厳しいね、ウーノ?」「……全てはドクターの教育のおかげです……」 皮肉を言う戦闘機人と、皮肉が通じない生みの親。 どっちがより人間に近いかなんて、敢えて論ずるまでもないだろう。 これではドチラが親か、分かったものではない。「まぁまぁ。とにかく今回の敗因は、常に情報をキャッチするアンテナを張り巡らせましょう、ってコトだね……?」「……です」 息が合ってるのか。 それとも、合わせたくないのに合ってしまうのか。 どちらにせよソレは、彼にとっての幸運であり、彼女にとっての不幸。 そういえば今の彼女って、何歳位何だろう? どう見ても小学生位な彼女は、まさしくロリブルマだ。 ……どういうコトだ?この時代では、成長促進は出来なかったのか?「今度は一度、【元の世界】に戻ってもらうよ?永いコトこちらの世界に居るせいで、もう記憶も曖昧だよねぇ?」 何の、とは聞かない。 当然【リリカルなのは】の記憶のことだ。 それ位言わずとも理解出来る。 そう。言わずとも理解【出来てしまう】のだ。 まるで考えるまでもないように。 極自然な思考の切り替えで。「……また、【転生】かい……?」「ウン。また、【転生】だよ……?」 何となく。 何となくだが、【ココ】へ来る度に【ナニカ】が蘇る。 まるで自分の生まれる前。自分が何者か。 ヒトが凡そ考えもしない筈のことを、ココに来ると考えてしまう。 もしかしたら……。 まさか……ってね?「それじゃあ、また【逢おう】ねぇ……?」「……ハァ。またココに来るの確定なのかよ……?」 再びの転生。 都合何度目かも忘れそうな転生。 その度に零れ落ちる記憶。 でも繋がないといけない。 ソレらの記憶を繋いだ先に、一体何が待っているのか。 その答えは…………転生の先にしかない。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!