前回のあらすじ:復活したのは、【ハラオウン・ハーマイ……じゃなくて、クライド・ハラオウン】。 【ラグナロク】の中からコンニチワ。 ……そう言えば、こういう挨拶って凄く久しぶりな気がする。 こういう、ユル~いテイストを忘れちゃダメだよね?「……で?クライド少年も、ちょっと前に目覚めたばかりってコト、なのかい……?」「ハイ。相当な深手だったからでしょう……。完治するまでに、これ程の年月を費やしてしまうとは……」 死に掛け。 ソレも五分の四程、【三途の川】に浸っていたクライド少年。 そうなれば、どう考えても完治には時間を要する。 ……というか、助かったコトが奇跡に近いのだ。 本来死ぬはずだった彼。 その生存が決定した今、今後の見通しは立たなくなった。「まぁまぁ。助かっただけ、良かったってコトに……」「……出来る訳ないじゃないですか!?ボクのせいで、執務官長を死なせてしまったのですよ!?」 そうだった。 ボク的にはもう昔の思い出の一つなのだが、彼にとっては先日の出来事。 それも、自分の代わりに嘗ての上司が身代わりとか……。ウン、確かに引き摺るなって方が無理だな?「……アレ?そう言えば執務官長……何で生きてるんです!?」「…………遅いよ。時間差ボケかい?」「だ、だっておかしいじゃないですか!?実は死んでなかったとかですか!?」 覇王少女なら、確かに生き残っても不思議は無い。 それ程異常なスペックと、物理法則とかを無視出来る存在だからだ。 でも残念。 覇王少女にも不可能はある。 ボクには【アニキ成分】が不足しているから、【不可能を可能にする】コトは出来ないのだ。 ……ほんっとぉ~に残念だけどね?「つまりぃ、カクカクシカジカ…………という訳で」「……何と。この世界には、不思議なコトがあるのですねぇ……」 こういう時、付き合いが長い人間はラクだ。 説明が一行で片付くからね? 流石はボクが鍛えただけある。意思疎通はバッチリだ。「と、いう訳で復活したボクらだけど……」「……今後どうするか、ですね……?」 理解がはやくて助かる。 実際ボクは苦労しない。 【フェル】としても【亡霊(ホクト)】としても活動出来る。 だが問題はクライド少年だ。 戸籍上は死んだコトになっている彼。 別に戸籍の復活は難しいコトではない。 しかしそうすると、別の所に歪が出来る。 下手をすると【闇の書】事件そのものが、おかしな方向に。 クライド復活→グレアムもしかしたら撤退(デュランダル創らないかも)→ヴォルケンズ、蒐集が上手く行かないかも。 結果。海鳴市をというより……【地球】を巻き込んでの大暴走。 …………どうしよう? ボクという存在が居る以上、【月村静香の最期】までは歴史に干渉は出来ない。 つまり闇の書事件は、解決するのだ。 ソレは確定事項。 つまりクライドの復活は、【歴史】にあったかもしれないが、表世界には出現しなかったということ。 よって【クライド・ハラオウン】の復活は、少なくとも【機動六課の休日】以後というコトになる。 でも戸籍がないと、生きていくには不便だ。 それに定職にだって就けやしない。 ……うん。 とりあえず地球での――海鳴での戸籍を用意しよう。 ボクが現在ソコを拠点としているから、その方が都合が良いしね?「と、いうワケでクライド少年?キミの(仮)の名前を決めようと思うのだけど……」 黒髪だし日本人名の方が良いかな? そうすると……【クライド・ハラオウン】→【ハラオウン・クライド】→【原尾倉井戸】。 ……井戸は無いか?【蔵人】にするか?「良し。今日からキミは、【原尾蔵人】だ♪」 こうしてクライド少年は、第二の名前を使って生きることとなった。 もっとも、この日の内に【コードネーム】という名の【第三の名前】を使うことになるとは……。 流石にこの時点では想像出来なかった。 名を決め、戸籍を用意し、そして居所をどうするか考え中に。 その事態は起きた。起きてしまった。 どうしてボクは、ラグナロクに乗っていると【事件】に遭遇してしまうのだろう? 前回は【シズカ・ホクト】の最期の時。 つまりクライド少年を助けた時。 どうにもボクとラグナロクは、luck値が低いらしい。「……ところでクライド少年や……?」「……何でしょう、執務官長?」「あすこに見えるのは……もしかしたら時空管理局の艦船じゃないかい……?」「…………本当だ」 現在ラグナロクが漂っている次元空間は、管理局に見つかりにくい空間である。 ところが先程から、その【見つかりにくい】空間に異物が二つ程現れた。 先に来たのは本局のような広大さを持った、まるで【島】のようなモノ。「ん?もしかしてアレって…………【時の庭園】か?」 無印のボスキャラ、【プレシア・テスタロッサ】の居城。 次元空間に浮かぶ広大なソレは、明らかにボスキャラの城だ。 そしてソレに対面するのは、【正義の味方】――【アースラ】というコトか。 既に庭園のアチコチから火花が出ているのを見るに、なのはやクロノが既に潜入済みなのだろう。 アースラの内部はどうなっているのかな? ちょちょっと、ハッキングして…………出た。 既にフェイトは立ち直り済みで、リンディも現地入りしたトコロ。 ……さて、どうするべきか? この件に【月村静香】は関わっていない。 つまり【ボク】が関わっても問題はないのだろう。 でも出来るなら、正体は隠した方が良いだろう。 むむむ……!どうする?知らん振りする?それとも……。「……リンディ。ちっとも変わらない……昔のままだ」 思考するボクの横では、クライド少年が奥方の活躍場面を、目尻に涙を溜めつつ見ている。 場面が切り替わり、今度はクロノを映す。 無論、コチラでも感動。 まだ五歳にも満たなかったクロノが、今は十四歳だ。 成長著しい……とは言えないが、それでも我が子の成長振りを見て、彼は感動している。 無理もない。今のクライド少年は浦島太郎状態なのだ。 ……っていうか。 今気付いたんだけど、リンディ嬢が【昔のまま】っていうのは……。 やめよう。女性には様々な神秘が隠されてるんだ。 例えばボクの【漢女力】とか。 ……え? ソレは違うって?「(リンディ嬢が【羽】を広げてるところを見ると、ソロソロ終了かな……?)」 リンディは現地入りはするものの、駆動炉やプレシアの所へは行かない。 彼女の役割は【次元震】を食い止めるコト。 だから、当然のコトと言えばそうなのだが……。 「(……ちょっと気になるのは、まだ駆動炉が停止していないことだな。このままだと、リンディ嬢のトコロにも敵の兵隊が現れることも……)」 在り得る。 そう言いたかったのだが、それが最後まで続くことはなかった。 巨大な鎧たちの群れが。彼女目掛けてやって来たからだ。「!?し、執務官長!!」「…………良いよ。どうせ止めてもムダでしょう?ならせめて、【この格好】をして行きなさいな……?」「……!あ、ありがとうございます!!」 手渡したのは、黒衣の正装。 タキシードなスーツに、シルクハット。 勿論マントと仮面はお忘れなく。「……ッ!?そ、そんな…………。まだ機械兵が動けるというの……!?」 それは予想外。 戦力の見積もりミスとも言える結果が、今リンディの目の前に迫ってきていた。 本来だったら駆動炉を止め。プレシアを押さえ。そして自分が次元震を抑える。 それで解決するハズだった事態。 ところが予想外に駆動炉に戦力を固めていたのか、なのははまだ駆動炉を止められずにいた。 エイミィからの通信で、フェイトがなのはの援護に回ったコトを聞く。 だからあと少し。 あと少しで、全てが終わる。 そうなるハズだったのに……!「(……次元震を抑えるのに殆どの魔力を費やしているから、簡単な障壁魔法位しか張れない……)」 かと言って、自身の防御に魔力を割けば、今度は次元震が起こり得る。 アチラを立てれば、コチラが立たず。 まさに二律背反。「(任務か。自分の命か……【あの人】だったら、どちらを選んだかしら……?)」 亡き夫と共に、沈み逝く艦船に残った【あの人】。 自分の尊敬するべき存在だったヒト。 いや。それは今でも変わらぬことだ。 あれから数年。 自分はどれ位、【あの人】に近づけただろうか。 きっと、まだまだだ。 【あの人】ならこんな事態、「どっちも護るに決まってるだろう?」とか言うに違いない。 あぁ、そうだ。 そうに決まっている。「(自分を犠牲にして皆を護るのは簡単。でも……!)」 それでは残された人間はどうなる? そのことは、自分と息子が一番良く知っている。 ……諦めない。だから絶対に、諦めるわけにはいかない……! ――ブゥゥゥゥンッ! 機械兵の巨大剣が迫る。 でも動かない。 ギリギリのギリギリまで。 最後の最後まで、知恵を振り絞るんだ。 ソレが今の自分に出来る、唯一のコト。 そうだ。今の自分には……! ――キィィィィン!「…………え?」 最後の瞬間は訪れなかった。 巨大剣はリンディには届かず、機械兵自身を護る為に使われていた。 それは突如現れた、【紅い薔薇】から身を護る為に。「……戦場に咲く一輪の華。ソレを摘み取ろうとする事は、この【タキシードマスク】が断じて許さん!!」 薔薇を投擲したのは、仮面の紳士。 黒いタキシードに身を包み、シルクハットとマントを纏い。 そして鋭い双眼を、白いマスクが覆い隠す。「タキシード、マスク……?」「その通り!!」「今度は誰!?…………って!?」 呆然とするリンディの疑問に答えたのは、逞しい体躯。 否。逞し【過ぎる】体躯。丸太のような四肢。 その屈強な身体を包むのはセーラー服で、鋭【過ぎる】双眼を隠すのは紅い仮面。「タキシードマスクに続いて、セーラーハーキュリーを助けるモノ。ボクの名前は【セーラーV(ヴィクトリャァァァァ)】!!」 リンディの窮地を救ったのは。 仮装パーティーのようなコスプレ……ではなく変装をした、【正体不明】の二人組。 その正体をリンディは、知る由も無かった。