前回のあらすじ:みんなが望んでいるのは、レジアス無双。「……さて。何でボクがココに居るのか……説明して貰えないかなぁ?」 現在ボクが居るのは、ミッドチルダ――管理局地上本部のトレーニングルーム。 右手にはベンチプレスをするレジアスがいて、左手にはルームランナーをしている白髪のオッサン。 ゴメン。正直呼び出された理由が全く読めない。ただ現状から察するに、商談でないことは確かなようだ。「フッ!ハァッ!…………良し。今日の分のノルマは終了だ。待たせて悪かったな……」 ベンチプレスを終了したレジアスが、汗を白いタオルで拭きながらそう言った。 爽やかだ。まるでスポーツ飲料のCMに出てきそうな程、今の彼は爽やかだった。 もう最初に会った時とは、別の生物と捉えた方が良いかもしれない。「フゥゥゥ……ッ!コッチも終わりだぁ……」 左手にいたオッサンも、ルームランナーを止めて降りてきた。 飛び散る汗。鍛えられた筋肉。 このままでは、【ウホッ!フィジカル戦記・中年オヤジィ】が始まってしまいそうだ。「……で?」「いや、済まない。まだ約束の時間まで時間があったからな。その間に筋トレをしていたんだ」「はやく来たことは謝る。ただ、何分異世界から来るワケだからね。はやめに出たんだよ」 待ち合わせで約束の時間の前に着いておくのは、至極当たり前のこと。 ましてや異世界まで来るのならば、相当余裕をもたせないといけない。 ……ってそんなことを言ってる場合じゃなかった。「オゥ、あんたがレジアスの言ってた【シズカ】か?ワザワザこんな所まで来てもらって、悪かったなぁ」 白髪頭のオッサンが、気さくな感じで謝ってきた。 もしかして、今回はこのオッサンがメインなのか? ソレをレジアスが仲介しただけなのか?「……月村静香です。はじめまして……」「こりゃどうも。オレは【ゲンヤ・ナカジマ】っていうんだ。よろしくな?」 ……え? ゲンヤ・ナカジマ? あの、【スバル】や【ギンガ】の父親の? ちょっと待て。とにかく待て。 何でゲンヤとレジアスが仲良いんだよ? しかも二人で、なに体脂肪を競い合ってるんだよ? コレはアレか? ツッコミ待ちってヤツのなのか? ……うん。取り合えず、二人の関係から聞いていくか。「あの……ゲンヤさんは、レジアス中将とはどういった関係で……?」「あぁ……筋トレしてる時に、声を掛けられてなぁ。話してみるとお互い陸仕官だし、話が盛り上がってよぉ」「今では、家族ぐるみで付きあわせてもらってるんだ……」 ゲンヤが説明し、レジアスが足りない部分を補足する。 何でだろう。もの凄い息があっているように見えるのは。 趣味か?趣味や仕事で共感しちゃったのか?「そういやぁ、レジアス。この前のハンバーグ。アレ、ウチのやつらが気に入っちまってよぉ?また頼むわ」「……フ。アレには自信があったからな……。良し、今度は倍の量を仕込んでおこう……」「お?そりゃあ、助かるぜ。なんせウチの連中は、異常な程に食いまくるからなぁ」 なんか筋トレルームの一角が、めっちゃ微笑ましいフィールドを形成してるんですけど。 コレ、どうしたら良いの? 入り口にいる受付の姉ちゃんが、ウットリした目で二人を見てる。彼女には、バラが舞っているようにでも見えるのか?「……盛り上がってるところで悪いんだけどさぁ……」「……スマン。実はお前に来てもらったのは他でもない。あるモノを作ってもらいたいからなんだ……」 話を振って、アチラの世界からの復帰を促す。 戻っきたレジアスから出たのは、意外にも武装の作成依頼だった。 C3システムのヴァージョンアップでもご所望なのかね?「あるモノ……?」「……ナカジマ。ここからはお前が自分で説明しろ」 やはり今回のメインは、ゲンヤの方だったか。 彼もC3システムを使いたいんかねぇ? いや。それだったら、隊に支給されてるヤツを使えば良いもんな。一体何が欲しいんだ?「いやぁ、そのよぉ?オレには妻と娘がいるんだけどよぉ……」 何か身内語りモードが入った。 こういう時は、何も言わずに先を促すのみ。 さぁ、さっさと話を進めるんだ。「昔……まだ若い時に結婚したからさ、その……指輪の交換と籍を入れただけなんだ……」 意外だ。 三佐にもなる位なんだから、結構派手な結婚式をしたのだとばかり思っていた。 良く考えたら魔導師じゃないんだし、出世スピードも遅かったんだよね。「それで……アイツには色々と苦労をかけてきちまったんだ。たから……今更なんだが結婚式をやろうと思うんだ」 ヤバイ。 何、このカッコ良い生物は。 最近のミッド地上のオヤジたちは、何でこんなに輝いているんだよ。「ソレはおめでとうございます……って、アレ?今の流れで、ボクの発明品が必要になる場面が想像出来ないんですけど……」 ウン。綺麗なまでにボクの出番はない。 何処を探しても存在しない。 何だろう。超大型ウエディングケーキでも、ご所望なのかな?「指輪はもう持ってるし、アイツはそういうのがあんまり好きじゃない。だったら、今アイツに一番必要なモノをやりたいんだ……」「必要なモノ……?ソレは、ボクが作れるようなモノなんですか?」 ネックレスを作れとか、ティアラを作れとか言われたどうしよう。 そういうカタチをした、デバイスを作ってしまいそうな自分が怖い。 円盤状になって、敵を殲滅してしまいそうなティアラとかね。「あぁ。オマエさんじゃないとダメなんだ。手甲型のデバイスっていう、新機軸のモノを作るには……」「……手甲型?アレは確か……もう出来てませんでしたっけ?」 リボルバーナックル。 ソレはゲンヤの妻――クイント・ナカジマが使用し、後に娘たちに引き継がれるデバイスの名前。 カートリッジシステムを内蔵しって、そうか。時系列的にはA's本編の今以降に、カートリッジシステムは普及するからな。「出来るなら【より安全】で、より【負担の掛からない】――最高のモノを使って欲しいんだ。もうアイツは、オレだけのモンじゃないからな……」「……奥さんのこと、大事にしてるんですね……?」 彼女の死後も、秘密裏に捜査を続けていただけのことはある。 本当に、彼女のことを愛しているのが伝わってきた。 引き受けよう。そして一刻もはやく、この甘々フィールドを解除しないと。「お引受けします。やるからには、最高のモノをご用意しましょう……」「おぁ!やってくれるか!!」 凄い嬉しそうな顔。 もの凄い勢いで握られ、上下に振られるボクの両手。 抜ける。抜けちゃうから。そんな鍛えられた力で引っ張られたら、腕が抜けるだろうが。「……では、詳細なデータの準備をお願いします。勿論秘密裏にやるんですよね?」 返ってきた答えは、【当然】というモノ。 男は好きな女の子の喜びそうなことを、秘密で用意するのが好きなんですよ。 ボクも昔はソレで……ゴメン。忘れて下さい。「じゃあレジアス。折角ココまで来たんだから、C3-Xの調整とかしていくよ」「……助かる。あと、相談したいことがあるんだが……」 こうしてボクのミッドでの一日はつぶれていくのだった。 中将日記EX 今日は非常に充実した一日だった。 シズカにC3-Xの調整をしてもらい、例の対空戦魔導師戦をどうしたら良いか聞いてみる。 すると返ってきた答えは、非常に悩むモノだった。 アイディア① 【CX-05】――所謂ガトリングガンと呼ばれるモノで、空にいるモノを薙ぎ払う案。 ただコレだと距離限界があるため、活動に制限がある。 取り合えずコレは保留とした。 アイディア② バイクから変形し、ホバークラフトになるモノを開発する。 しかしコレを使用する場合、C3システムでは運用が不可能だと言う。 何でも、現在開発中の【ガトックセクター】とかいう、新たなパワードスーツが必要らしい。 コレは大量に生産することが出来ない、ほぼ特別製になるだろうとのこと。 自分は特別な何かでミッドを護りたい訳ではない。 だが興味があるのもまた、事実なのである。返事は、ソレの完成を待ってからということにしてもらった。 コレらのアイディアとは別に、シズカは今別のプロジェクトを進行中らしい。 何でも【気合・根性・努力】を感知して、機体性能を上げる人工石を創っているのだとか。 名前は【Cストーン】。完成したらC3にも組み込む予定らしいので、密かに楽しみである さて……近所の商店街で、買い物をしてから帰るとするか。 補論:買い物中に、オーリスがおつまみばかりカゴに入れてきたので、二つまでにしなさいと言い聞かせた。 あとがき 怪盗たちは、彼女たち本人です。 現在の時系列はA'sの終盤、クリスマスイベントの前辺りのつもり。 特に書いていないところは、概ね原作どおりで進んでいると解釈して下さいませ。