前回のあらすじ:隣の市の変態の元締め(代理?)、変態紳士の参上。「……やぁ、コンニチワ。【女(装)王】さん?」「……これはこれは。奇遇だねぇ?【覇王少女】さん……?」 今宵の海鳴は、血に餓えている……訳ではなく。 まるでフェイトの儀式魔法の如き雷が、各地で鳴り響いていた。 比喩ではなく。現実のものとして。「いやぁ……ボクの【覇王少女】っていうのは、真実そのものだから良いんだけどさぁ~♪」「……っ」 言外に、『お前はそうでないのに、そういうあだ名を付けられたんだよね~♪』と言っている覇王少女。 そして相対する存在がそれに気付かない訳が無く。 キッと奥歯を噛み締めながら、どう反論したものかと考えを巡らす。「あ、ゴメンゴメン!気が付かなかったよぉ~~……本当は真実だったんだよねぇ?配慮が足りなくて悪いねぇ……?」「……いやぁぁ。気にしてないから、安心したまえぇ……」 凄い【笑顔】の覇王少女と、かなり顔が引き攣っている女(装)王。……もとい、八神あらし。 対称的な巨体と小柄な少女の対比は、表情を含めて異常なまでに対照的だった。 体型。ごつい漢顔と、可愛らしい容姿。女と男。 まるで鏡合わせのように、対称的な二人。 しかし鏡の本質は、己の真の姿を暴き立てる物。 つまり何処からどう見ても似ていない二人だが、実は本質が同じということに……。「……止めよう。何だか自分で自分を、貶めているような気がする……」「……同感だ。ここで我々が言い争っても、何の実りもないからねぇ……」 ……似ている。 元々、人をくったような話し方をする二人。 そして思考パターンも論理展開も、異常なまでに酷似している二人。「しかし……まさか、こんな所で出会うことになるとはねぇ……?」「同感だよ。ちょっと息抜きに、翠屋のシュークリームを食べに来ただけだというのに……」 現在地=喫茶翠屋の目の前。 目的=翠屋のシュークリームを食べることによって、リフレッシュするため。 つまり……覇王少女の目的は、目の前の少女……もとい。少年と、寸分違わず同じもの。『……はぁ』 前回の接触の折、御神あらしは『次会うときは……良くも悪くも【終わり】を告げる時だろうねぇ……?』と言っていた。 つまり、次の接触は最終決戦時。 そう想定していたのだろう。 無論これは、フェアリィとしても同意だ。 だからそのつもりで、準備をしてきた。 最終決戦の、どの場面で介入するか。 またその後、どう流れを持っていくかなど。 想定をし、それに基づく展開を予想し。そしてそれに対する対抗策を用意する。 ……という流れを実践中だったのだが……。「……人生とは、ままならない物なんだねぇ……?」「全くだ。流石の私も、これにはビックリだよ……?」 体格も性別も全く違う二人。 だがその二人が、今は同じ動作をしている。 肩を落とし、頭を垂れている状態。『…………はぁ』 そして再び。 今度は先程よりも、もっと溜めが長い嘆息。 まるでユニゾンしているかのようなその動作は、互いが互いに疲れさせる原因にもなっていた。 場所を移して、現在【翠屋】内部のボックス席。 ……にでも行こうかと思ったのだけど。 残念な事に、ここは【ラグナロク】の艦橋である。 あの後、翠屋のシュークリームを食べるべく店内に入ったのだが……待っていたのは、謂れのない誹謗中傷。 ……いや。この姿(覇王少女)を見れば、あれはある意味当然の反応だったのかもしれない。 保護者会などで面識がある高町父母を除けば、あの店の従業員でボクと面識がある者は居ない。 故にあれは必然。 しかし、そうと分かっていても悲しい。 そんな事態だったのだ。「いらっしゃいま……貴様!この店に何の用だ!?」 そう言って出迎えてくれたのは、稀代の朴念仁剣士【高町恭也】。 苦手である営業スマイルから一転して、普段以上に険しい顔に。 うん。そっちの方が【らしくて】、格好良いとは思うよ?でもさぁ……実際に相対したいとは思わないけどね?「何の用って……翠屋のシュークリームを……」「買占めに来たというのか!?……そうか。買い占めた挙句、高値で売り捌くつもりだな……!!」 言ってねーよ。 何その発想? とても頭コチコチな高町恭也君とは、思えない発言なんですけど?「お兄ちゃん、どうしたの!?声が奥まで聞こえたけど……」 そこへやって来たのは、我らが魔王。 ……失礼。 未来の魔王、【高町なのは】嬢でありました。「なのは!?こっちに来ては駄目だ!!」「え!?ど、どうしたの!?何があったの!?」「……化け物だ。翠屋を狙う……いや。我が家の人間を狙う、狩猟者(ハンター)だ!」「…………気のせいかな?私、お兄ちゃんの目の前にいるヒトを……よく知ってるような気がするんだけど……?」 知ってるも何も、担任ですから。 とは言っても、それをこの場で言って、何処まで説得力があるのやら。 とりあえず、成り行きに身を任せるしかないな。「何!?既になのはと接触済みだったとは……どこまでも用意周到な奴め!!」「……何でだろ?今のお兄ちゃんを見てると、【かわいそ、かわいそなのです】とか言いたくなるのは……?」 頭が、【可哀想】な人認定を受けた兄。 その内容が理解出来た時。その時こそが彼の人生の終着点かもしれない。 しかしそれは今じゃない。だから彼は暴走し続ける。「……グハッ!な、何て破壊力なんだ……!!待っていろよ、なのは。お前のことは、兄が必ず護ってみせるからな!!」 妹の仕草にときめき、そして勘違い街道まっしぐらな(駄目)兄貴。 鼻から人体を構成する上で大事な液体が、滝のように流れていく。 ……アレ?恭也がKYOUYAでもなく、【きょうや?】に見えてきたような……?「化け物め!貴様には御神の業を使うまでもない!!新たにこの身に宿った技で倒してやる!!」 ……うん。 とりあえず鼻血を止めろや? どう考えてもシスコンを越えたシス魂です。本当にあり(以下略)。「喰らえ!【癌魔砲】!!」 恭也の掌から怪光線……ではなく、衝撃を伴った気合砲のようなものが飛び出してくる。 あまりにも予想外で。そして想定外の出来事に。 ……ボクは反応出来なかった。つまりそれは、どういうことかと言うと……?「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!?」 当然翠屋から物理的に追い出されましたとさ。 まぁ、どのみち。 その一件で入り口の扉が壊れた翠屋は、本日の営業が終了したらしいけどね? ……で。現在ラグナロクのブリッジに、話は戻ってくる。 どさくさに紛れてシュークリームを買っていた、八神あらし。 彼のおかげで普段は無機質な艦橋が、ちょっとしたお茶会モードに。「……さて。そろそろ本題に移ろうか?」「同感だね。お茶会も楽しいんだけど、今はそれより重要な事があるしね?」 本来はラストバトル。つまり戦場で会う予定だった二人。 当然場が盛り上がった状態のハズ。 しかし今はそうじゃない。ならば一体、何をしようと言うのか?「……気付いているんだろう?我々がどういった存在なのかを?」「……多分ね。だから今から話すことは……」 騎士からの問い掛けに、覇王は頷く。 そして続ける。 己が。いや、自分【たち】が、何を話し合うべきなのかを。「……やっぱり、【二人で前転宙返りしながら、合体する】のが良いかな……?」「いやぁ、【変な振り付けをしながら、融合する】っていうのもアリだと思わないかい……?」 傍目には訳が分からない状態。 一体に何について討議し、そして模索しているのだろうか? その答えは、二人以外には分からないように思える。「それとも、互いに片耳ずつ変なイヤリングをするか?」「いいねぇ……って、良く考えたら我々には必要ないんじゃないかい……?」「そうだよ?でもさぁ、見せ場って必要だと思わない?」「成る程。しかし人知れずというのも、おつだと思わないかい……?」「……確かに。今回の場合、そっちの方が良いか」「うん。そうだと思うよ……?」 意味不明な会話。 しかし本人同士には通じる、魔法の会話。 結論は出た。ならばこれから先は……実践である。「私が帰らない場合、シャマルにはやての記憶操作を頼んである。そしてそれは、闇の書の管制人格にも同様だ。そうすれば、はやてはおろか、守護騎士たちからも【あらし】の存在を抹消出来る」 最悪の事態の備え。 ……いや。この場合、来るべき日に備えてのものというべきか。 八神あらしは既に準備を整えていた。「キミはどうなんだい?準備は整ってるのかい?」 ドクターは問う。 己の準備は十全かと。 その言葉にボクは――【フェアリィ・槙原】はこう答えた。「【北斗静香】は転勤させる。そして【フェアリィ・槙原】の方は……」 思い出すのは、さざなみの住人たち。 義母。その父母。義母とツートップな魔王。 巫女。猫又。狐。「……大丈夫さ。あすこの住人たちは、良い人ばかりだ。ちょっと異世界を救ってくると言えば、最終的には許してくれるよ……」 勿論最初に手紙を送って、向こうには承諾なしの事後承諾ですが。 帰ってきたら、一体どういう目に会うのか。 想像するだけで冷や汗が出てくる。「良いのかい?記憶を処理することも出来るのに……?」「…………良いんだよ。帰る場所があるのは、きっと良いことだと思うから……」 互いが互いに別の選択肢を選ぶ。 一方は消滅。もう一方は存続。 だがこれは、ある意味仕方のないこと。相反する者同士。陰と陽を分かたれた者たちなのだから。「……分かった。それと注意事項として、【その後】がどうなるかは……私も分かっていない」「ボクが残るか……」「キミが残るか……」『それとも両方消えるか……』 合わせようとした訳でもないのに、二つの声は重なる。 合わせた訳ではない。 合わせようとする必要すらないのだ。「まぁキミの清らかさと、私のステキさが同居することになるのだろうが……」「……ここまで不幸か。ボクの人生……」 嬉しそうに言うあらしに、いつの間にかフェアリィに戻ったボクが、嫌そうな声を上げる。 だがチャンスは今回しかない。偶然という機会を利用し、【神様】きどりな馬鹿野郎に鉄槌を下す。 その為の最重要チェックポイントは、恐らく【ここ】しかないのだ。「……まぁ良いさ。とにかくそうしなければ、どうしようもない」「……その通り」 ボクは右手。あらしは左手。 互いが鏡合わせのように立ち、掌を合わせる。 もう戻れはしない。永遠は、ここで終わりを告げるのだから。「……往くよ」「……あぁ」 光が満ちる。 艦船の艦橋という狭くはないフィールドに、光が溢れる。 長い、永い、発光。 黒い光と白い光。 それらは今、白でも黒でもない色に混ざり合っていく。 そしてそれは、物語の【続き】が――【混沌】を内包した物語の続きが、再び始まったということも意味していた。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!