前回のあらすじ:シズカ、リボルバーナックルの製作の依頼を受ける。 ミッドチルダを後にして、自室の転送ポートに戻ってくる。 端末を開いてメールチェックをすると、新着メッセージが三通。 開封し、一件一件内容を確認していく。 一件目。レジアスからの今日のお礼のメール。ホントにマメな人だこと。 二件目。ゲンヤからのお礼&クイントの詳細データ。おぉ、出来る漢は仕事がはやいなぁ。 三件目……何だ、コレは? 三つ目のメール。その中身はデバイスの作成依頼だった。 丁寧な言葉遣いとかはこの際どうでも良いとして、差出人は誰だ? 【ギルフォード・グレムリン】?誰だよ、この人? アドレスからして、ミッドチルダの人間であることは間違いない。 そしてボクへの連絡先を入手できるのは、管理局での高位な存在か――または格の高い犯罪者だけだ。 特製の【逆探知君ver.2】を起動し、相手の存在をハック。 ……逆探に成功。その端末の持ち主は……【ギル・グレアム】!? マテ。ということは何か?コレってもしかして、【デュランダル】の発注書なのか!? メールの文面を読み進める。 すると、ソコには涙無しには語れないエピソードが。 当初は管理局内で開発しようとするも、オーバースペック過ぎて頓挫。 次に依頼した民間業者は、前金だけ持って逃走。仕方なしにある次元犯罪者に頼ろうとするも、「私は今、【マスクドライダー アギt○】の研究で忙しいんだよ?済まないが、他を当たってくれないかい……?」 とか言われる始末。 この次元犯罪者に心当たりがあるような気がするものの、突っ込んではいけない気がする。 そんなワケで遅れに遅れた開発を、ボクに依頼してきたというワケだ。 ……何でだろう? 本来コレは犯罪への加担依頼なハズなのに、何で涙が止まらないんだろう? うん。グレアム氏も、きっと苦労してるんだよね? クリスマスイヴまで、およそ一週間。 スーパー修羅場モードを発動させないと、多分ムリ。 でも、やってやる。やってやろうじゃないか。 そうさ、コレは未来への先行投資。 クロノが未来の魔王さまを抑えられる位に強くなれば、きっとミッドの平和は約束されたようなモノだ。 良し。そうと決まれば、早速作成に入ろう。ソレはもう、超オーバースペックな出来にしてやろうじゃないか。 一日目。 先ずは設計図を引く。 そして管理世界まで材料の買出しに行った。 どうせ払いはグレアムなんだ。コレ以上ないって位に奮発して、彼の財布を破綻させてやろう。 二日目。 基礎フレーム完成。 剛性・丈夫さ・その他の部面において、コレ程のモノはそう存在しないだろう。 ちなみに材料には、【オリハルコン】を使ったとだけ言っておく。 三日目。 クロノの考え方には反するだろうが、敢えてカートリッジシステムを搭載。 ちなみにマガジン式で、装弾数は五十発。 コレだけあれば、エターナルコフィンなんて打ち放題だ。 四日目。 デュランダルはストレージデバイス。 故に簡単な受け答えはするものの、AIは積んでいない。 ソコは変えてはいけないだろうから、代わりに【某赤いホウキ星】の中の人の声を登録。コレで名実共にデュランダルとなった。 五日目。 完成、引渡し。 引き取りに来た女性(多分アリアの方)が、泣いて喜んでいた。 その様子に、隠しモードを幾つか仕込んだことを少し後悔する。でも気にしない。 場面は飛んでクリスマスイヴ。 クロノに説得されたグレアムが、クロノに懇願して戦場に立つ。 その手にはデュランダルを持ち、その身には前時代的なバリアジャケットを纏っていた。 リーゼたちとそれぞれ右手を重ねて、円陣を形成する。「正義に生まれ、正義に生きて、はや六十年……」「何時の間に曲がってしまった私たちの正義……」「そのわたしたちにコレまでの行いを正し、間違った行いを償えるかどうかが……」『今、試される!』 何か見えた。 背景に炎が飛び交ってるのが、ハッキリ見えてしまった。 今回の協力者は、ヴォルケンリッターの将【シグナム】さん。彼らの潔い行動に感動し、演出をしてあげたとか。「私たちの武器は勇気……」「正義……」「闘志……」 魔力が収束していく。 グレアム・アリア・ロッテ。 その三人の想いを乗せて、デュランダルが一つの魔法を完成させていく。『エターナル……コフィン!!』 その瞬間、海鳴市均衡の海が北極と化した。 後に衛星が捉えた映像で、その事実が発覚。 しかし気が付いた時には元に戻っており、地球崩壊の前触れかと噂が広がることになった。 中将日記エクセリオン シズカが地球に帰ってから二週間。今日は地上本部に珍しい客が来た。 本局で有名な、【クロノ・ハラオウン】執務官が訪れたのである。 一週間前に【闇の書事件】を解決した立役者の彼が、一体何の用で来たのだろうか。「突然の来訪をお許し下さい。ただ、グレアム提督から受け継いだデバイスの作者の作品を――C3システムを見せて頂きたいのです」 話を聞くと、どうやらシズカの作ったC3を見に来たということだった。 彼が今持っているデバイスも、シズカの作品。気になるのも分かる気がする。 それに、本局ではC3システムはまだ採用されていない。その下見も兼ねているのだろう。 快く許可すると、意外そうな顔をされた。 そんなに出し渋りするようにでも見えたのだろうか。 少しショックだった。「……では、C3-Xというモノを試させて貰いたいのですが……」 彼はいきなり上位機種の方を希望してきた。 しかし困ったことに、今すぐに使えるのは自分のC3-Xしかない。 コレにはAI制御チップを搭載していないので、少し待ってくれるように頼んだ。 通常、地上本部に配備されているC3-XにはAI制御チップが搭載されている。 この制御チップがないと、普通の人間はAIの意思とケンカをしてしまい、最悪暴走してしまうのだ。 幸いなことに自分と、試しに装着したゲンヤ・ゼストは相性が良かったようで、制御チップは不要であるのだが……。「いいえ、大丈夫です。お願いですから、やらせて下さい!」 そう言われてしまうと、ダメだとは言えない。 一応念を押し、オートフィット機能を作動させる。 二分後。その頃から彼の様子が変化し、彼の身体が悲鳴をあげ始めた。 すぐさま強制停止をかけ、待機させてあった救護班に引き渡す。 医者の診断では全身の筋断裂が起こっており、二週間の入院が必要だそうだ。 申し訳ない気持ちを抱えながら、彼の母親であり上司でもある、【リンディ・ハラオウン】に連絡を入れる。 すると返ってきた答えは意外なモノだった。 何でも、彼は重度のワーカーホリックで、有給が全然消化出来ていなかったとか。 逆に感謝すらされてしまう始末。 さすがに不憫に思ったので、彼のお見舞いの品は一番高級な果物の詰め合わせを持っていくことにした。 補論:帰宅すると、オーリスがソファーで酔いつぶれていた。 涙の跡があったので、何か悲しいことがあったのだろう。 左手の薬指にあった指輪が消えていた。 ……今日の夕食は、オーリスの好きなモノをたくさん作ることに決めた。