前回のあらすじ:熟年組の、熱き夜明け!! 地上本部及び、機動六課襲撃事件から幾日後。 襲撃されたはずの機動六課隊舎は、既に完璧に復元されていた。 しかしその館に明かりが灯ることはなく、現在稼動してるのは地下の施設と……その隊舎【そのもの】である。 忘れているかもしれないが、機動六課の隊舎は【ゴウダイノー】に変形する。そして【マグナダイノー】が戦線に加わったことで、隊舎の殆どのパーツが使用済みとなった。 それらが稼動中には予備のパーツが展開し、機動六課は普段と変わらぬ姿を保ち続ける。 つまり今の機動六課は、その予備パーツで構成されている状態。 では本体は何処にいる? 戦線?修理中?それとも……。 それは全て的外れな答え。その真なる答えは、青く澄み渡った大空の下に在った。「いやぁ~、まさか機動六課が変形するとは……って二人とも!?何や、その視線は!?」 変形後の機動六課は、基本的に元の内装のまま保管されている。 故に部隊長室なんてものも存在し、その部屋の主は自分の椅子に座りながら、そう漏らした。 だがそんな彼女に向けられたのは、冷たい視線。「いや、だってその……」「はやてって、機動六課では一番エロい……じゃなかった。エライ人なのに……」「「何で、こんな分かりやすいことも知らなかったの?」」「ぎゃふっ!?」 登場するのは実に久しぶりな彼女たち。 しかしそのチームワークには乱れが生じているようで。 なのは→フェイトの連撃は、親友であるはずの少女【八神はやて】に向けられていた。「し、仕方なかったんや!?地下の区画は普通には分からんように隠蔽されとったし、それに関わってたのが、将官たちだったし……」「「ふ~ん、それで?」」「だから、その…………ゴメンナサイ」 デスクの上に正座し、その勢いで土下座。 きちんとした形の正座であり、そこには非の付け所がない。 しかし【ココ】はデスクの上なのだ。つまりそれ以前の問題だとも言える。「……まぁ、本当ははやてちゃんだけの問題じゃあ、ないんだよね……?」「……うん。私たちも本当は、もっとはやくに気が付いてなきゃダメだったしね……?」 土下座モードに移行しているはやてを尻目に、なのはとフェイトはそう言った。 仕方ない。では済まない問題。 今回は相手が良かったものの、もしも敵対組織が同じようなことをやっていたらと思うと、背筋が寒くなる。「……でももう、終わってしまったことや」「あれ?もう土下座タイムは終わり?」「なのはちゃんが、ものっそドSな女王さまに!?」「なのは、これで良いんだよ……」「あぁ……フェイトちゃんが、いつも以上に天使に「はやてはこれから、床で土下座をやり直すんだって」見えん!?むしろ、悪魔やないか!?」 親友たちのフィルターのない言葉が、今は異常な程痛い。 あぁ、本当に世の中は【こんなはずじゃなかった】ばかりだ。 二人の(間違った方向への)成長は、部隊長から涙を流させるに値するものだった。「……さて、そろそろ本題に戻ろうか?」「そうだね。はやても反省したみたいだし……」「…………もう、それで良ぇわ……」 本来は皆で気が付かなければならないこと。 しかし魔王とその嫁は、その責をはやてに丸投げした。 ……あれ?親友って、こんなもんだったっけ?はやての胸中は疑問符で一杯である。「ともかく!これからの指針を発表します…………わたしたち【機動六課】は、ロストロギア【レリック】の捜索・回収任務を……」 広域指定犯罪者【ジェイル・スカリエッティ】。 彼と管理局の繋がりは深く、その為彼の逮捕は難しい。 故に【レリックの捜索・回収】という大義名分を立て、その先に【たまたま】居るスカリエッティを逮捕する。それがはやての考えなのだろうと、なのはとフェイトは思った。「……全て打ち切ります!!」「「……………エェェェェェェ!?」」「ナイスな反応や♪そうや……やっぱわたしは、【コッチ側】の人間でないと……!!」 ニヤリ(計画通り)! そんな擬音が聞こえてきそうな、はやての悪役笑い。 どう見ても新世界の神並に黒い笑顔です。本当に(略)。「ちょっと、それってどういうこと!?」「そうだよ!ちゃんと説明、してくれないと!!」「わーっとる、わーっとる。今からキチンと説明するから、まずは落ち着きや……?」 我が事成れり!! そんなはやてを余所に、暴走特級高町号と、突撃戦闘機テスタロッサが発進。 そして墜落。これが管理局のエースたちなのかと思うと、きっと一般人は涙で視界が曇ってしまうだろう。「いやな?もうそんな、大義名分を立てる必要が無くなったってことや」「……それって、つまり……」「普通にスカリエッティたちの逮捕が、可能になったってこと……!?」「そうや」 冷静に聞き入れるなのはと、驚愕を以って聞いてしまったフェイト。 無理もない。フェイトはずっと水面下でスカリエッティを追ってきたのだ。 それは公には捜査出来ない為。「…………なのは、はやて」「「……」」 その胸中は複雑なものだろう。 長年親友をやって来た二人は、フェイトの言葉に耳を傾けながらそう思った。 「……アレェ?どうして母さんがそこにいるの~?アリシアやリニスも、なんで川の前で手招きしてるのかな~?」「あかん!?フェイトちゃんが、あまりのショックに臨死体験を!?」「フェイトちゃん、戻ってきて!?それは渡っちゃ、ダメな川だよ!?」 三途の川を幻視するフェイト。 トランスしてしまった彼女を、必死に連れ戻そうとする狸と魔王。 ……平和である。非常事態の中の、一時の平穏。どうかこの瞬間を、一生忘れないで欲しいものである。「ちょっと、綺麗に纏めようとしないで!?まだ終わってないんだからね!?」「ど、どうしよう!なのはちゃん!?」「フッフッフ……ここはメルにお任せですぅ」 白い天使のようなユニゾンデバイスが、卵に戻り、そしてフェイトの胸の辺りに吸い込まれていく。 その後の様子は、敢えて語るまでも無い。フェイト・オン・ステージ。 ……良く考えれば『これって、融合事故じゃない?』と思えるような光景だったが、「フェイトちゃん、次は【エターナル・ブレ○ズ】ね!!」「いや。それよりコッチの曲の方が……!!」 繰り返す。 機動六課は、今日も平和である。 ……きっと平和なのである。 紅髪の少年は考える。 己に出来ることは何なのかと。 あの少女を救いたい。 だが言葉にするだけでは何も成せない。 だから徹す。 己の意思を、自身の突撃槍に込めて。 ――ドックン! 心臓のあった位置で、重く静かな拍動がする。 少年の新たな心臓。 それは確かに、彼の新たな命として活動していた。 桃色の召喚師は思う。 紅の少年のことを。 そして同時に考える。 あの紫の少女の存在について。 同じ召喚師。 次にぶつかり合うのは、恐らく自分だろう。 究極召喚。 ヴォルテールで負けるとは思えないが、油断は禁物。 龍の世界において神の如き強さを持つヴォルテールだが、その他の世界では如何なるものか。 相手にも究極召喚は存在するのだろう。 だから考える。 勝てる方法を。 リミットが解除されたケリュケイオン。 そのサードモードは、これまでとは形態を異にする代物。 腕にディスク状のものが付き、カードを搭載するスペースの姿。 鍵は龍騎でない。 キーとなるのは、龍魂なのだ。 彼女は一人特訓する少年を、木の影から見守っていた。 橙の少女は、二丁の愛銃を手に瞑目し続ける。 その目蓋に裏側に映っているのは、これまでの戦闘記録。 そしてこれから先には、未来のシミュレートが待っている。 皆がそれぞれに因縁の出来た相手と闘うだろう。 ならば自分は、それ以外を一手に引き受けることになる。 ほぼ自分と同程度のスペックの戦闘機人。それも複数。「……普通に考えれば、どう足掻いたって無理……」 しかしこの世の中に、【完璧】や【絶対】と言った言葉は意味を成さない。 エースオブエースだって、地に堕ちることもあれば、敗北することもある。 前回の公開意見陳述会でのなのはの敗北は、ティアナ・ランスターにはプラスに働いた。 確かに相手もまたエース・ストライカー級だっただろう。 だが闘いにおいて重要なことは、魔力量でも魔法の凄さでもないことを思い出させられた。 【根性】。彼――仮面の騎士は、【ソレ】で勝敗を決した。 ティアナ・ランスターは【根性】を拠り所とする人間ではない。 それは本人も分かっている。理解出来ている。 ならば彼女は、一体仮面の騎士に何を見たのか?「……根性じゃなくても良い。自分の自信の拠り所になって、それでいて【負けない力】になるモノなら……」 体力はスバルに劣る。 腕力だってそうだ。 スピードはエリオが勝る。 キャロのようなレアスキルはないし、当然のことながら隊長陣には遠く劣る。 では何が。 一体何なら、自分は人に【勝てる】のだろうか?「……何もないわ」 だが現実は無常である。 如何に努力しようとも。 またどれだけ血と汗を流そうとも。 一流になれる人間とそうでない人間との差は。 確かに。それでいて明確に存在するのだ。 だが闘いにおいて――特にスポーツなどのルール有りの勝負を除いたモノは、勝利するものが一流である必要は無い。「勝てなくたって良い。負けなければ……!」 視点の違いだ。 別段、いつもいつも勝たなくてはならない、ということではないのだ。 最後に立っていた者が勝者である。 卑怯。姑息。大いに結構。 別に正義の味方(と俗に言われている管理局員)が、それらを使ってはいけないという法律はない。 ただイメージの為。クリーンでエコなイメージを魔法に定着させる為に、使ってはいけないという【暗黙の了解】となっているだけの話。 これはただの切欠だ。 イメージ、というか先入観という壁を取り払うことで、人間は今まで見えなかったことが見えるようになる。 良く考えれば分かることなのに、常識などという厚い壁で見えなかった隣の芝生。「新装備……この子たちも、キッチリ使いこなしてみせるんだから……!」 【ビット】と呼ばれるそれは、己の分身にも成り得る存在。 高町なのはのリミットブレイク状態にも顕現する、【ブラスタービット】と定義を同じくするもの。 ただ違いを挙げるのなら、ティアナ・ランスターのものはリミットブレイク時に使用するものではなく、通常装備の延長上だが。「……負けない。【絶対】に、負けない……!!」 この【絶対】は、己の心を補強する魔法の言葉。 実際の効力は不明。 だけど効く。本人には、これ以上とない力になる。「お兄ちゃん……これが終わったら、またお見舞いに行くからね……?」 決意。 そして報告。 この日ティアナ・ランスターは、確かに自分に強大無比な【魔法】を、使用したのである。『……ティアナ。良くぞ、ここまで立派に……!!』 決意を新たにしたティアナの様子を、逐一記録映像に落とす影が一つ。 光学迷彩をも使用し、大質量を隠すその技術。 もしも迷彩が無ければ、そこにはフェラーリ型の覆面パトカーが一台、怪しさ爆発で見ることが出来たであろう。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度御指摘頂き、本当にありがとうございます!