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No.8085の一覧
[0] リリカル・とらいあんぐる転生日記  【完結しました】[satuki](2009/11/06 10:47)
[1] リリカル・とらいあんぐる転生日記 00[satuki](2009/06/19 17:02)
[2] リリカル・とらいあんぐる転生日記 01[satuki](2009/06/19 17:02)
[3] リリカル・とらいあんぐる転生日記 02[satuki](2009/06/19 17:02)
[4] リリカル・とらいあんぐる転生日記 03[satuki](2009/06/19 17:02)
[5] リリカル・とらいあんぐる転生日記 04[satuki](2009/06/19 17:02)
[6] リリカル・とらいあんぐる転生日記 05[satuki](2009/06/19 17:02)
[7] リリカル・とらいあんぐる転生日記 06[satuki](2009/06/19 17:03)
[8] リリカル・とらいあんぐる転生日記 07[satuki](2009/06/19 17:03)
[9] リリカル・とらいあんぐる転生日記 08[satuki](2009/06/19 17:03)
[10] リリカル・とらいあんぐる転生日記 09[satuki](2009/06/19 17:01)
[11] リリカル・とらいあんぐる転生日記 10[satuki](2009/06/19 17:01)
[12] リリカル・とらいあんぐる転生日記 11[satuki](2009/06/19 17:01)
[13] リリカル・とらいあんぐる転生日記 12[satuki](2009/06/19 17:01)
[14] リリカル・とらいあんぐる転生日記 13[satuki](2009/06/19 17:01)
[15] リリカル・とらいあんぐる転生日記 14[satuki](2009/06/19 17:00)
[16] 元ネタ帳(00~14)[satuki](2009/04/30 21:34)
[17] リリカル・とらいあんぐる転生日記 15【前編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[18] リリカル・とらいあんぐる転生日記 16【後編】[satuki](2009/06/19 00:04)
[19] リリカル・とらいあんぐる転生日記 17[satuki](2009/06/19 00:04)
[20] リリカル・とらいあんぐる転生日記 18[satuki](2009/06/19 00:03)
[21] リリカル・とらいあんぐる転生日記 19[satuki](2009/06/19 00:03)
[22] リリカル・とらいあんぐる転生日記 20[satuki](2009/06/19 00:03)
[23] リリカル・とらいあんぐる転生日記 21[satuki](2009/06/19 00:02)
[24] リリカル・とらいあんぐる転生日記 22[satuki](2009/06/19 00:02)
[25] リリカル・とらいあんぐる転生日記 23[satuki](2009/06/19 00:02)
[26] リリカル・とらいあんぐる転生日記 24[satuki](2009/06/19 00:01)
[27] リリカル・とらいあんぐる転生日記 25[satuki](2009/06/19 00:01)
[28] リリカル・とらいあんぐる転生日記 26[satuki](2009/06/19 00:01)
[29] リリカル・とらいあんぐる転生日記 27[satuki](2009/06/19 00:01)
[30] リリカル・とらいあんぐる転生日記 28[satuki](2009/06/19 00:00)
[31] リリカル・とらいあんぐる転生日記 29[satuki](2009/06/19 00:00)
[32] リリカル・とらいあんぐる転生日記 30[satuki](2009/06/19 00:00)
[33] リリカル・とらいあんぐる転生日記 31[satuki](2009/06/19 00:00)
[34] リリカル・とらいあんぐる転生日記 32【注:糖分過多】[satuki](2009/06/18 23:59)
[35] リリカル・とらいあんぐる転生日記 33[satuki](2009/06/18 23:59)
[36] リリカル・とらいあんぐる転生日記 34[satuki](2009/06/18 23:59)
[37] リリカル・とらいあんぐる転生日記 35[satuki](2009/06/18 23:59)
[38] リリカル・とらいあんぐる転生日記 36[satuki](2009/06/18 23:59)
[39] リリカル・とらいあんぐる転生日記 37[satuki](2009/06/18 23:58)
[40] リリカル・とらいあんぐる転生日記 38【少年編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[41] リリカル・とらいあんぐる転生日記 39【歯車戦士編】[satuki](2009/06/18 23:58)
[42] リリカル・とらいあんぐる転生日記 40【大将と愉快な仲間たち①】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[43] リリカル・とらいあんぐる転生日記 41【大将と愉快な仲間たち②】(分割しました)[satuki](2009/06/18 23:58)
[44] リリカル・とらいあんぐる転生日記 42【歪んだ物語・その修正方法】[satuki](2009/06/18 23:57)
[45] 【オヤジ】狩り[satuki](2009/06/05 17:07)
[46] 【オヤジ】狩り-01  【続いた。続いてしまった】[satuki](2009/05/18 23:29)
[47] 【オヤジ】狩り-02  【また続いてしまった】[satuki](2009/05/26 20:02)
[48] 【オヤジ】狩り-03  【またまた、続いてしまった……】[satuki](2009/06/02 01:26)
[49] 【オヤジ】狩り-04  【狩るべきオヤジは、まだまだ存在するのだ!!】[satuki](2009/06/07 19:31)
[50] 【オヤジ】狩り-05  【アンリミティッド・オヤジワークス……ソレは地獄絵図でしかないな……?】[satuki](2009/06/29 21:16)
[51] 【オヤジ】狩り-06  【覇王少女のファンには、彼女が女神に見えるらしい……視力検査したら?】[satuki](2009/06/09 18:10)
[52] 【オヤジ】狩り-07  【イロモノはイロモノを呼ぶ…………奇跡の開幕!?】[satuki](2009/06/11 20:03)
[53] 【オヤジ】狩り-08  【奇跡は続く!?遅れてきた漢……!!】[satuki](2009/06/18 23:39)
[54] 【オヤジ】狩り-09  【漢女と乙女……オトメ同士の決闘!】[satuki](2009/06/19 17:00)
[55] 【オヤジ】狩り-10  【死亡フラグをブチ折ったモノ……!】[satuki](2009/06/20 00:19)
[56] 妖精00 【良く考えたら、コレが全ての始まりなのかもしれないなぁ……?】[satuki](2009/06/05 16:52)
[57] 妖精01 【妖精爆弾……じゃなかった。爆誕!!】[satuki](2009/06/05 16:52)
[58] 妖精02 【やって来たのは運命にかぶれたロリジャイと、その家族】[satuki](2009/06/05 16:53)
[59] 妖精03 【蝶人になった日】[satuki](2009/06/07 19:32)
[60] 妖精04 【淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために】[satuki](2009/06/10 00:10)
[61] 妖精05 【遠足。それは至上最強の闘い!?】[satuki](2009/06/20 00:20)
[62] 妖精06 【掟破り!?……覇王の蘇る日!】[satuki](2009/06/27 20:12)
[63] 真・転生日記【オヤジ】風味 ――『妖精は覇王の夢を見る!』 01[satuki](2009/06/29 21:17)
[64] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 02  【復活したイレギュラー】[satuki](2009/06/29 21:25)
[65] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 03  【お約束は突然に】[satuki](2009/07/03 18:58)
[66] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 04  【突撃、となりの小学校!?】[satuki](2009/07/12 18:30)
[67] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 05  【誕生!?養護教諭プレシあ!?】[satuki](2009/07/14 20:13)
[68] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 06  【予定とは、乱される為にあるのだ!】[satuki](2009/07/16 21:43)
[69] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 07  【イレギュラー戦隊、参る!!】[satuki](2009/07/24 16:48)
[70] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 08  【仮面対仮面(オマケ付き)】[satuki](2009/07/27 16:53)
[71] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 09  【隣の市は危険がいっぱい!?】[satuki](2009/07/31 21:08)
[72] デザイア!?[satuki](2009/08/02 16:08)
[73] リリカル・とらいあんぐる転生日記 43【本筋は、忘れた頃にやって来る】[satuki](2009/08/04 23:55)
[74] デザイア!? 02[satuki](2009/09/04 19:03)
[75] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 10  【近付いてくる真相!?】[satuki](2009/09/04 19:04)
[76] デザイア!? 03 【女(装)王、誕生】[satuki](2009/09/07 02:14)
[77] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 11  【混沌の始まり】[satuki](2009/09/13 12:20)
[78] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 12  【長い伏線(その一)】[satuki](2009/09/18 00:37)
[79] リリカル・とらいあんぐる転生日記 44【長い伏線(そのニ)】[satuki](2009/09/19 19:34)
[80] リリカル・とらいあんぐる転生日記 45【アインヘリアル?何それ、美味しいの?】[satuki](2009/09/25 21:50)
[81] リリカル・とらいあんぐる転生日記 46【少しだけ本気を出した。後悔はしている】[satuki](2009/09/27 21:52)
[82] リリカル・とらいあんぐる転生日記 47【もう少し本気を出してみた。さらに後悔している】[satuki](2009/10/02 21:46)
[83] リリカル・とらいあんぐる転生日記 48【ついに登場、最高評議会!?】[satuki](2009/10/09 11:11)
[84] リリカル・とらいあんぐる転生日記 49【三人目は…・・・グハッ!?】[satuki](2009/10/11 22:41)
[85] リリカル・とらいあんぐる転生日記 50【歯車戦士、愛の決闘】[satuki](2009/10/16 18:38)
[86] リリカル・とらいあんぐる転生日記 51【人生は闘いだ!!】[satuki](2009/10/17 21:59)
[87] リリカル・とらいあんぐる転生日記 52【魔神の生まれちゃった日】[satuki](2009/10/22 22:08)
[88] リリカル・とらいあんぐる転生日記 53【アニキ+ナイスミドル=???】[satuki](2009/10/27 16:33)
[89] リリカル・とらいあんぐる転生日記 54【変形する揺り籠!?至上最悪の悪魔の登場!!】[satuki](2009/11/06 10:46)
[90] リリカル・とらいあんぐる転生日記 55【ラスト・ラストをキミに……】[satuki](2009/11/06 10:47)
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[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 50【歯車戦士、愛の決闘】
Name: satuki◆b147bc52 ID:9ffdbde4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/16 18:38



 前回のあらすじ:東方は紅く【萌え】ている。



 破壊神の決戦が行われた、廃高速道路付近。
 そこに近い高架下では、もう一つの闘いがあった。
 姉妹対決とは異なった意味での、望まれない闘い。

「……やっぱ強ぇなぁ、クイントはよぉ……?」
「……」

 答えは返ってこない。
 鉄仮面は沈黙を保ったまま。
 血を分けた者同士ではないが、ある意味それよりも濃い関係。

 生涯を共にし、死が二人を分かつまでという契約を交わした――夫婦という関係。
 元々他人同士が手を取って新たな関係を構築しただけに、その絆は【ある意味】兄弟姉妹よりも固いかもしれない。
 しかしその強固な絆は今、二人の間にある壁によって阻まれてしまっている。

「(……どうする?普通にやってちゃ敵わないのは、今までのやり取りで理解出来たが……)」

 元々自力に差があるのだ。
 魔法が使えず。ウイングロードを使用出来ない。
 故に力の差は歴然。

 ……分かっている。
 そんなこと、勝負の前から分かりきっていた。
 だから現実として認識しただけ。

 ただそれだけだ。
 それだけ――のハズ。
 だが……。

「(コレでも結構鍛えたハズなんだけどよぉ……。やっぱ現実ってヤツはキッツイなぁ……?)」

 本人は【結構】と表現しているが、現実はそんなものではなかった。
 部隊長としての業務時間以外は、その殆どを鍛錬に当ててきた。
 クイントが奪われてからの月日は長い。

 だから総じて鍛錬量は恐ろしい程であるし、その密度も凄まじいもの。
 しかし人間である以上――彼が成長期をとうに過ぎた人間である以上、残念なことに【老化】という現象は誰にでも近付いてくる。
 そこには(殆ど)例外はない。

 緑色の提督や、某喫茶店のパティシエなんて、例外中の例外である。
 あれは比較基準にしてはならない。
 何せアレらは、【人外】生命体なのであるから。



 閑話終了。



 だが目の前のクイントはどうであろうか?
 どう見ても昔と変わらぬ――全く衰えを見せない身体つきである。
 想像の域を出ないが、多分スカリエッティがそういった処理を施したのだろう。

 だから彼女は在りし日のクイント・ナカジマのままである。
 よって衰えのあるゲンヤとの差は開く一方。
 彼女は変わらない。本当に変わらない。変わったのは――変わってしまったのは夫の方。

「(だからってよぉ……だからってよぉぉぉぉ!)」

 そこで諦めることは簡単だ。
 自分の限界はココまでとし、あとは誰かに任せる。
 それが普通。それが賢い選択。

 でも。
 だからといって。
 全ての人類が賢い訳ではない。

 この【ゲンヤ・ナカジマ】という人物もその例に漏れず。
 決して賢いと言われる生き方をせず。というよりも、彼には出来なかったのだ。
 賢くなくて良い。この手で、愛する妻を救う事を諦めるのが賢いことなら、自分は喜んで馬鹿になる。

「(オレはぁ……最強の大馬鹿野郎だ!!)」

 右腕は空を切り。左足は軽くいなされ。
 左腕のエルボーは相手のタービンに阻まれ。
 そして渾身の力を籠めた右脚は、正面からの打ち合いの末、コチラが力負けした。

 普通に考えたら、もうコチラに打てる手はない。
 だがまだギブアップする訳にはいかない。
 少し離れた所では、下の娘が上の娘を必死に取り戻そうと頑張っている。

 だったらまだ自分は、降参する訳にはいかないのだ。
 子どもはいつか、親を超えていくものだ。
 それは分かっている。それは避けられない運命だとも理解出来ている。
 
 でもそれは今じゃない。
 まだ自分は、娘に負けてやれない。
 娘が自分を追い抜こうと迫ってくるのなら、自分は大きな壁となって、正面からそれを粉砕する。

 それは人生の先達として。
 まだまだ若い世代には、負けられない。
 負けてやれないんだと、己に言い聞かせて。

「出ろ、【ライオサークル】!!【ガトリングヴォア】!!」

 データコマンドーのダイヤルを回し、データ武装から白き獅子と翠の猪を呼び出す。
 それに呼応するように二体の電子の獣は現界し、ゲンヤの左右で待機状態に入る。
 本当はもう二体召喚出来るのだが、クイントの武装は二体のみだと思われる。

 数で勝負が決まるとは思わない。
 だがそうならないとも限らない。
 だからゲンヤは、自分の意思で二体までしか召喚しなかった。

 それは相手と対等な条件で闘う為。
 妻と同じ条件――同一のフィールドで闘わなければ意味がないから。
 それは矜持の問題を越えたトコロに有るモノだった。

「……」

 一方クイントの方はと言うと、ゲンヤの動きに合わせるように【ユニコーンドリィル】と【ヴァイヴァーウィップ】を召喚する。
 そしてそれらをゲンヤの二体の仲間に襲い掛からせると、自分はゲンヤとの距離を詰め始める。

「「……」」

 距離にすれば大体十メートル。
 普通に考えれば中距離に該当しそうな距離だが、ローラーを履いた二人には一瞬の距離。
 だから接近戦。これは二人にとっては、接近戦以外の何物でもないのだ。

 ギィン!ドドドド……!
 そんな戦闘音が聞こえる中、二人の動きは驚くほどなかった。
 まるでオブジェの如く。地面に根っこが生えてしまったかのように、その場を動くことはなかった。

「(……動けねぇ)」

 【ラストアタック】は、未だに一発しか撃つことが出来ない。
 だから相手もコチラも、迂闊にそれを出すことは出来ないのだ。
 だからこその相手との動きの読み合い。

 その場を動かなくても、僅かに動く肩や視線などで相手にフェイントを入れ、どうにかして相手を先に動かそうとする。
 フェイントVSフェイント。
 まるで冷戦下の某巨大国家たちのように、そこでは水面下の戦いが勃発していた。

「(考えろ。考えるんだ……!優先すべきことは何だ?自分の矜持か?目標を完遂することか?それとも……?)」

 自分が夢見たのは、かつての一家の光景。
 別に金持ちになりたい訳でも、特別な存在になりたい訳でもない。
 ただ家族が当たり前に生活している風景を、もう一度見たいだけ。

 あぁ、それだけだ。
 それだけなんだ。
 そしてそれを見られると言うなら、家長は――自分は全力を賭してそれを実現しなければならない。

「(条件を対等にした闘いなんて、クイントが帰ってくれば何時だって出来る――)」

 男という生物は不器用なくせに、やたらとプライドが高かったりする。
 だから出来もしないことに延々と時間を使い、そして無駄(実際にはそうではないかもしれないが)とも言える努力を続けていく。
 別に本人の人生だ。他人がとやかく言う必要はないし、言う権利もない。

「(……ったく!どうしてオレは、もっとはやくに気が付かなかったんだ……!!)」

 気付けば一瞬。
 しかし気付かなければ一生。
 人生に於ける価値観の変化など、そんなものだ。

 別に目的の為なら、何をやっても良いと言う訳ではない。
 しかし目的が手段になってはいけないのと同等に、手段が目的と化してもいけないのだ。
 ゲンヤは長きに渡る闘いのせいで、後者よりの考え方にシフトしてしまった。

 それは本人も気が付かないうちに。
 意地と根性が絡み合った結果、何時の間にかそうなってしまったのだ。

「(……フッ)」

 頭の中が、流麗な河川へと変わる。
 今まで地盤沈下をも起こしていた大地に――渇ききっていた地面に水分が注入され、元の肥沃な土地へと戻っていく。
 不思議な感覚だ。身体の至る所から湯気のようなモノが噴出し、火照りを抑えることが出来ない。



 ――プシュゥゥゥゥ!



 蒸気のように立ち上る【何か】。
 ゲンヤ本人には分からなかったが、それは相対していたクイントには理解出来た。
 まず変化は口元からだった。

 如何に鍛えていても、歳には勝てない。
 だからゲンヤ・ナカジマの顔やその他の部分の表面――肌には、既に消えることのない皺があった。
 それは決定事項。覆すことの出来ない、【現実】の証。

「……!」

 しかしどうだろう。
 クイント仮面の無言ながらの驚愕は、どう見てもそれらの現実が引っくり返されているのを、目の当たりにしているとしか思えない。
 勿論見間違いなどではない。ゲンヤの肌の皺は、【現実】になくなっているのだ。
 
 変化は続く。
 次の変化は、体型の変化。
 経年による若干の猫背は改善され、中年男性として避けては通れない腹回りの肉も、スッキリと落ちていく。

「オレは――何としてもお前を取り戻す……」

 同じだ。
 その昔、圧倒的な力の差が有りながらも、目の前の人物と交際したくて――クイントが欲しくて挑んだ、あの時と同じ。
 強くはなった。だが力の差は縮まっていない。

 コチラが成長すれば、向こうも成長する。
 そしてあちらさんには上限がないと来た。
 詐欺だろう。新手の次元犯罪の一種かもしれない。

 だが一つだけ変わったことがある。
 それはあの時とは、己の背景が違うということ。
 自分には娘が居る。そしてそれらの存在の為にも、母親は絶対取り戻さなければならない。

 重圧ではない。
 それは力だ。
 自分だけでは無理だが、娘の分の力が自分に力を貸してくれる。

 十に挑むのに自分は四。
 だが娘の存在は、四でしかない自分を手助けし、十にも百にもしてくれる。
 ……余談だが、妻の助けなら千は固いだろう。

「【ドラゴンフレイア】、【ブルフォーン】!!お前たちは、クイントの動きを一定範囲内に留めさせろ!!」

 それ即ち【牽制】。
 二体にはクイントを倒させる訳ではなく、その活動範囲を狭めるように指示するゲンヤ。
 データ武装ではクイントを倒すことは出来ない。それは向こうも同じ武装を持つ者なのだから、有る意味当然のこと。
 
「……【ユニコーンドリィル】」

 この状況下で二体しかない武装の内、一体を戻したクイント。
 そうなれば数の上では五対ニだ。
 その差は開く一方。

 だが代わりに強力無比な攻撃手段――それこそ一撃必殺砲のようなモノを手に入れた鉄仮面。
 量を捨てて、質を取ったクイント。
 しかしその質は、取るだけの価値があるもの。

 そして質を選んだクイントに対抗するには、ゲンヤもまた同じ手段を取らざるを得なかった。
 この【質】は、簡単に【量】など引っくり返してしまう程の代物。
 故に対抗手段は、同じ【質】を用意する他有り得ない。

「(さぁて……一体どいつを使うべきだろうなぁ……?)」

 新規加入の武装も居る。
 相手は御新規さんを使う模様。
 だから自分も……というのは早計過ぎる。

 別に新規加入の武装に不満が有る訳ではない。
 勿論火力不足ということもない。
 ならば何故使おうとしないのか?

 違う。
 事は新旧を問わず、如何に自分の目的に合ったヤツを選ぶのか。この一点に尽きる。
 白き獅子は丸鋸。翠の猪は胸部武装。そして橙の水牛はその角が強力な突撃槍に為りかねない。

 ならば。
 紅い西洋竜はどうだ?
 彼の者はラストアタック時に脚に装着され、その体躯は丸くなる。

 想定する。
 ラストアタックを放った――その後のことを。
 ……行ける。というか、手持ちの駒で適任なのは、コイツ以外には存在しない。

「ドラゴンフレイア、戻れぇぇ!!」

 竜を呼び戻し、左脚部に武装として顕現させ直す。
 黒いタービンに紅い武装が加わり、それは嘗ての結婚式を――カリムの前で誓った【セットアップ】を思い起こさせる。
 【紅】のタービンと【黒】のタービンが重なった【あの時】。それは今、あの時とは立場を入れ替えて行われている。

「ドラゴンフレイア……」
「……ユニコーンドリィル……」

 両腕・両脚のタービンが、ラストアタックに備えて回転し始める。
 まるで最大限発電量を上げようとしてる発電機のように。
 その回転数はどんどん上がっていき、巻き込まれる風や熱量も半端でなくなっていた。

《……》

 そして渦中の二人を囲むように、残りの四体のデータ武装が顕現している。
 まるで二人の決着を見守るように。
 それで居て、二人の決着を誰にも邪魔させないように。

「「……」」

 四体に囲まれた【闘技場】は、ウイングロードを展開出来る程の高さも無ければ、幅も無かった。
 故に逃走は許されず。クイントは自分の意思でそれを行ったように見える。
 つまり彼女は、ゲンヤを正面から叩き潰すつもりだ。



 ――ギュィィィィィィィィン!!



 タービンは回転し続ける。
 己の主が良いと言うまで。
 主は良いと言わない。だからその時は、まだ先なのだと理解しながら。

「ラストォォォォ……!」
「……アタック!!」

 大量のエネルギーを秘めた熱線。
 同じく膨大なエネルギーが籠もった渦。
 それらはぶつかり合いながらも、尚止まることない。



 ―――!!

 ――――――――!!



 元々上限スペックは、ほぼ同等に設定されたモノ同士。
 故に勝敗を分けるのはデータ武装の強さではない。
 その主たる闘士の力量。つまり二人の力の強さが、そのまま現れるのだ。

「ッグ!ッグ……ッグ……ッグ……!!」
「……、……、……!……!!」

 一進一退。
 だがその一進一退は、徐々に。だが確実にゲンヤよりの場所に移ってきた。
 つまりゲンヤの方が押されているのだ。

 S・Aの力量がそのままの形で吐き出されるのなら、どう考えてもゲンヤが不利なのは予想出来た。
 しかしそれでも挑んだのだ。
 ゲンヤには何か考えがあるのだろう。

「……の、ヤロウがぁぁぁぁ!!」
「……!!」

 徐々に。だがハッキリとゲンヤの攻撃は押されていく。
 もう彼の眼前に迫っているクイントのラスト・アタック。
 後ろには逃げられない。それは横も上も同じ。

「(なら……下に行くしか、ないだろうに!!)」

 旋風が迫り、それをあわやという瞬間に回避。
 いや。回避と言うよりは、全身の力を抜いて、脱力したと言った方が良いかもしれない。
 そうすることによって、自分の意思でしゃがむよりも速く、彼は――ゲンヤ・ナカジマは【下】に行った。

「……!?」

 予想外の行動。
 それはそうだ。
 こんな動き、シューティング・アーツには存在しない。

 強いてこの動きの元を辿るのなら、古武術――【柔術】に近い。
 S・Aで敵わないなら、それ以外も取り入れる。
 ましてやナカジマ家は、昔地球に――日本に居た一族だ。柔術との親和性は高い。

「コレでぇぇ……!」

 クイントの反応は付いてこない。
 予想外の動きに、ラスト・アタック後の硬直を狙われたからだ。
 動け。動け。そう脳は指令を送るが、残念なことにそれが実行されることはなかった。

「その【けったいな】仮面は――――コレで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」

 銀色の仮面に、紅いデータ武装が叩きつけられる。
 そう。ゲンヤがドラゴンフレイアを選んだのは、まさにこの瞬間の為だった。
 鋸では必要以上に傷付けてしまうし、胸からダイブすることは出来ない。

 さらに二又の槍と化した水牛では、仮面ごとクイントを破壊してしまう危険があった。
 その点ドラゴンフレイアなら、仮面全体に一気に体重を掛けられ、同時に必要以上に力が籠もることはない。
 目論見通り。まさにゲンヤの考え通りに事は進み、そして今――それが終わった。



 ――ピシッ!ピシィィッ!!



「クイントォォォォ!!」



 ――バリィィィィン!!



「……なた……あなたぁぁぁぁ!!」
「クイントォ、クイントォォォォ!!」

 仮面が割れる。
 そしてその中から出てきたのは、当然の如く無傷のクイント。
 覚醒。そして愛する人との抱擁。これ以外に、再会を祝う方法はないだろう。

「「……!?」」

 彼らの戦闘によってこの区画は地盤沈下を起こしていた。
 そして今、最後の一撃によって真上にある廃高速は倒壊。
 よって彼らは、上下左右が塞がれた状態となってしまった。

 だが関係ない。
 この二人の――【今の】この二人の行く手を阻むことなど、誰にも出来るハズが無い。

「行くぞ、クイント……?」
「えぇ。結婚式の再現ね?」

 二人はそう言い合うと、それぞれのデータ・コマンドーを取り出し、そして同時に叫ぶ。

「「【KIVAドライブ】、インストール!!」」

 ゲンヤのコマンドーからはライオサークルが。
 そしてクイントの方からはユニコーンドリィルが飛び出し、空中でその姿が重なり合う。
 二体のデータ武装が合わさり、そこに刃の翼を持った、新たな一角獣が誕生する。

 【KIVA】。
 それが新たなデータ武装であり、同時に二人が力を合わせた時のみ現れるモノでもある。
 本来はクイントが装着し、そして放つラストアタック。

 しかし今回は別だ。二つある装着口を一つずつ分け、そして空いた掌を重なり合わせる。
 変形が完了したデータ武装は、まるで巨大な剣だ。
 全てのエネルギーが解放され、二人と一体の武装は黄金色に光り輝く。
 
「「【KIVAブレイカー】…………」」

 まるでケーキの入刀のように。
 かつて行った、結婚式でのそれにように。
 二人の再会は、二人の門出を再現する光景から――――今、スタートする。

「「ラスト、アタァァァァック!!」」

 黄金色の剣閃が見えた後。
 そこには二体の巨大ロボットが待っていた。
 父が母を取り戻してくると信じた娘たち。

 その娘たちが、二人の帰還を祝福しに来たのだ。
 それを夫婦が理解した時。二人の頬を、一滴の水分が塗らしていた。
 涙。それも【嬉し涙】である。

 ゲンヤ・ナカジマは今日。
 人生で一・二を争う場面を、漸く乗り越えられたのだった。





















 舞台は再び最高評議会――あぁ、もう言い難い!
 この際【脳みそ部屋】にしよう。
 その方が分かりやすいしね?

「……という訳で、再び脳みそ部屋からですたい」
「誰に言ってるんですか、執務官長?」
「気にしない。気にしない♪」

 若干暴走というか、現実逃避モードに入っているボク。
 流石の覇王少女と言えども、唯一かそれに類する【癒し系】が、肉体言語で会話する女性だったことには……驚きを隠せない。
 逆に驚かずに済む人類に、心当たりなどない。

「ま、取りあえず話を戻そうか?」

 色々とあって忘れがちだが、この部屋に来たのには目的があった。
 次元世界の暗部である、最高評議会を滅すること。
 しかし蓋を開けてみれば、その面子は滅すべき相手では無さそうな感じ。

「確認するよ?もしクイーンが倒れたら、キミたちはどうするんだい?」
「恥ずかしながら、まだ決めていないんだよ?教皇をやっているマスターは良いが、私とアムロは職無しでね?暫くモラトリアムを楽しんでから、就職活動でもするんじゃないかな?」
「その通り。実は声優になってみようかとも思ってるんだけど……」

 キャスバルとアムロが声優に……。
 何という未来の見えっぷり!
 新しいタイプの人類じゃなくても、未来が見えるぞ!?

「つまり、最高評議会なる組織は解散すると。そういうコトで良いのかな……?」
「あぁ。そう取ってもらって構わない」

 これでハッキリした。
 元々ボクは理解していたが、それでも皆を納得させるには足りなかった。
 ジャックとエースが嘘を付いていないなら、これで終了。もし嘘を付いていたとしても……まぁ、何とかなるか?

「じゃあココには、もう用はないね?倒すべき相手が居ない以上、早急に次の目的地に移動するべきだ」

 次の目的地――それは最終目的地のこと。
 歴史を裏から操る【クイーン】の排除。
 故にクイーンの居るべき場所こそが、これから行くべき場所となる。

「待ちたまえ。今の君たちには、クイーンを倒すことは出来ない」
「……どういうことだい?」
「私たちの手の中にあるからね?クイーンを倒すのに必要な、最後のカードはね……?」

 黒の剣士は止める。そしてその手札を晒す。
 女王を倒すのに必要な手札を。
 最後の切り札とも言える、そのカードを。

 ヴィィィィン。
 剣士が床を――床に有るスイッチを踏むと、彼らの背後の壁が取り払われた。
 真っ暗な空間。そして新たなカードの披露となれば、次の展開は簡単に予想出来る。



 ――カッ!



 眩しい位のライトアップ。
 どうにもこのキャスバルという男、何度姿を変えようとも、この演出が気に入っているらしい。
 まぁそれは、どこぞの歌姫も同じかもしれないが。

「これは……」

 蒼い体躯。
 紅い頭部。
 そして黄色の角に、灰色の四肢。

「似ているだろう?他のダイノーロボに。やはり同じコンセプトの下に作ったから、似ているのはある意味当然何だがね?」
「……良い仕事だよ。素晴らしいの一言だねぇ……♪」
「名前は【グランダイノー】。君の作ったゴウダイノーやマグナダイノーと同じく、恐竜形態・人型に変形し、更には単独で戦闘機形態になれる優れものだよ」

 グッジョブ過ぎるぞ、この似非紳士め!!
 しかし名前に【南雲】が入ってることから鑑みるに……コイツは大したモンスターだ!!

「このマシンには、私とアムロが持てる知識を全て注ぎ込んだ。そしてそのナビシステムには、バイオコンピュータを搭載している」

 キター!
 どう聞いても、【私の愛馬は凶暴です】フラグが立ったー!?
 一体何処のどいつだ、不幸にも――じゃなかった。幸運にもこのマシンのパイロットになる人間は!?

「しかし、乗りこなせるはずだよ?レジアス・ゲイズと同等の力を持つ者なら――【クライド・ハラオウン】、君にならね……?」
「……僕、ですか……?」

 素晴らし過ぎる。
 マシンスペックやコンセプトと言い、パイロットの人選にすらボクと似た匂いを感じる。
 流石は企みごとが得意な御方。その恐るべき手腕が発揮され過ぎである。

「何と!貴様らはそんなプレゼントを用意していたのか!?ぬぅぅ!ならば儂も、カリムに最終奥義を伝授しようぞ!!」
「いやぁぁぁぁ!?またあの悪夢が!?もう私は、ただの細腕騎士で一生を過ごしたかったのに……!!」

 砕かれた幻想は、さらに分割されるようです。具体的には十七分割くらいに。
 本気を出した東方腐敗が、どれだけカリムを【人外魔境】にしてしまうのか……。
 考えただけで涙が止まらない。

「ねぇアムロさんや?」
「……何だい、覇王少女?」
「結局クイーンって、揺り籠に居るってことでFA?」

 ココに居ないのなら、もう選択肢はそれ位しかない。
 でもそうすると、ヴィヴィオやなのはが危ないのか?

「その通り。しかし君の心配は杞憂だろうね?クイーンは全ての事が終了してから、その姿を現すつもりだ」
「……相変わらず【イイ】性格してるみたいだねぇ、クイーンは……?」
「全くだ。希望の後に絶望を持ってきたがる性格。実に悪役向きだよ、本当……」

 つまり大ボスは最後になって、やっと登場する。
 その法則を地で行く奴なのだ。
 クイーンという存在は。

「さて、では簡単にこのマシンについて説明しようか?」
「お、お願いします!」

 グランダイノー組と。

「往くぞ、この馬鹿弟子がぁぁ!!」
「ま、待ってください!?師匠ぉぉ!?」

 流派東方腐敗コンビ。
 ボクを含むその他勢は、その様子を何とも言えない表情で見守るのみ。
 ……どれ。今のうちに、ゴウダイノーとマグナダイノー用の新プログラムを組んでおくとするか……?













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!



 >クラブ・オン・エース


 前回のお話を書く前は、satukiも【クラブ・オン・エース】だと思っていたのですが、調べたところ……

 【クラブ・エース】=シャッフル同盟(元ネタ、Gガンダム)

 【クラブ・オン・エース】=シャッフル騎士団(新SDガンダム外伝)

 のようです。なのでSS本文の記述は、そのままで行かせて頂きますです。






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