前回のあらすじ:CⅡモードは、やはり【ドS】。 スカリエッティのアジトは悪の美学を追求した結果、さも当然の如く地中に存在する。 従って無駄に広大なスペースや、その終端が彼の部屋――RPGで言うボスの部屋となっていた。「復讐者(リヴェンジャー)か――――凡そ正義の組織の、それも実質上のトップには似つかわしくない行動だねぇ……?」「……別に復讐のつもりはない。ただ現状を鑑みるに、オレがココへ来るのが一番だと判断したからだ。ただそれだけのこと……」 レジアスの言い分は正しい。 機動六課はおろか、提督ズすらも出払っている状態。 そして【海】の連中は、大挙して艦船に乗ってやって来る最中。だから他に適任が居ない。 実力:スカリエッティと闘えるクラス。 権限:ワンマンアーミーが出来る位には必要。 機動力:海の上を走りながら渡れる程。 幸運値:紅い糸で結ばれた、宿命のライバルに行き着く位(何という僥倖!)。 こんな化け物は、広い次元世界を探しても該当者は少ない。 もしも三提督がこの場にいれば状況は変化するが、それならそれで三提督(超の付く化けモノ)よりも階級が下の彼が行くだろう。 つまりどのような状況でも、彼がココに来ることは決まっていた。まるでそれが運命であるかのように。「ふぅむ?成る程、成る程……。随分と冷静なようだねぇ?」 まるで値踏みするかのように、レジアスをしげしげと眺めるスカリエッティ。 そこにお茶らけた色は見られない。 つまり真剣に研究者として――格闘者として、レジアスを監察しているのだ。「いや結構。前座があまりに歯応えが無かったものでねぇ……?」「何!!」 【前座】扱いされたフェイトは憤る。 しかし結果が伴わない反論は反論足り得ない。 つまり彼女の激昂は、子どもの癇癪と同レベル。「ハラオウン執務官……」「……ハイ」「貴官は外まで帰れるか?」「!?じ、自分は……!!」 まだやれる、そう言いたい。 事実その台詞が咽元まで出掛かった。 だが一管理局員として、そして一人の社会人としてそれは、外に出す訳にはいかない言葉だった。「……オレは【帰れるのか?】と聞いているんだ……。出来るのか……?」「…………出来ません。申し訳ありませんが、もうそれ位の力も残っていません……」 フェイトは確かに戦乙女の素質がある。 だがそれは今の彼女ではない。 対するレジアスは――彼女の主観からすれば戦神だ。故に逆らえる筈も無い。「そうか……。ならこれを着ていろ」「え……?」 レジアスの手に握られていたのは、一つの刻金。 現在纏っているモノとは違う、【アザータイプ】を展開する為のソレ。 レジアスはそれで六角形の粒で出来た糸を形成させ、その糸をフェイトの身体に纏わせていく。「レ、レジアス大将!これは……!!」「今オレが纏っているジャケットのアザータイプ。故に防御力には自信ありだ」「何で!?こんなことをしたら、大将は!!」「……心配要らん。オレには――【今の】オレには不要なモノだ。だからキミに預かって貰う。ただそれだけのこと……」 AMF力場で強制的にリミットブレイクしたフェイト。 それは強制ブーストと同義。よってすぐに無理が来るし、長時間は維持出来ない。 つまり行動不能。「……一応言っておくが、ヤツとオレの闘いに乱入しようとするなよ……?」「な、何言ってるんですか!!相手は犯罪者なんですよ!?逮捕するのに一対一に拘るなんて……!!」「違う。自分では気が付いていないのか……なら!!」 既にフェイトの絶対防御となっている【アザータイプ】。 今度はその上から、現在レジアスが纏っているジャケットが糸状となってフェイトに纏わり付く。 ただし、今度のは正規のタイプの裏返し――【リバース】と呼ばれる状態だった。「な!力が……入らない!?」「先程のものは【絶対防御】。そしてそれは【完全拘束】。つまり貴官はそこでただ待つことだけしか出来ない。というより――――させない!」「ど、どうして、ですか……?」 既にフェイトへの拘束は始まっている。 元々ナンバーズやスカリエッティとの闘いで消耗し切っていた彼女には、それに抵抗出来る力など残っていない。 だから簡単に【落ちる】。「自身のコンディションを把握しつつも、己の目的のみを遂行させようとした。つまりこの場での貴官の扱いは、【安全を確保した上での拘束】ということになる」「で、でも……。私が、このジャケットを、使ってしまったら……」 既にリバースジャケットは九割方フェイトに纏わり付いていた。 そして最後の一割が――最後まで彼女の双眼の視界を遮っていた糸が、彼女のアウターの一部となる。 同時にフェイトの視界からは障害物が排除され、クリアになった先に居たのは……。「心配は無用。どの道スカリエッティとの戦闘では、使う予定はなかった。だから……安心して眠れ」 畜生、格好良過ぎるぞ渋オヤジめ! そんな突っ込みが入りそうだった。 ……今の彼の服装を見なければ、だが。「な、なんで……メイド、服……?」「それは――――これがオレの、戦闘服だからだ……!!」 ジャケットを脱ぐとそこは雪国――何ぞではなく、メイド服姿のオヤジが一体。 フェイトの気絶前の最後の映像は、そんな怪奇極まるショッキング映像だった。「フンフンフンフンフン…………!!」「アダダダダダダ…………!!」 マンガの中でしか見たことのないような、そんな掛け声。 字に書き起こしてしまうと緊張感が薄れてしまうが、屈強な男が目の前でそれをやっているとなると、やはりトンでもない迫力である。 そしてお約束ごとだとばかりに、高速ラッシュ対決。まさに目にも止まらぬ早業で、投げる手裏剣ストライクな状態。「良かったのかい……!私を相手にするのに、あのジャケットを脱いでしまって……!!」「……フン!アレは確かに優れたモノだが……そのせいでオレは、大事なことを忘れていた!!」 レジアスは忘れていた。 シズカという師を失い、そして静香に出会うまでの間に。 権力闘争や、理想と現実の剥離。 そんなリアルを生き抜く内に、彼は大事なことを失ってしまった。 確かに新たな技術は、その身の活動限界を引き上げてきた。 そしてソレを御する為にも、身体を鍛えることを再び始めた。 だが違ったのだ。 スカリエッティに勝つには――素手・無手の達人に勝つ為には、それではダメだったのだ。 スーツや身体強化アイテムの使用を前提とした鍛え方ではなく、身体【そのもの】を武器とした鍛え方。それが必要だったのだ。「オレは思い出した……!!もう昔になってしまった【あの時】を!!嘗て所属していた、【冥土ノ土産】のことを!!」 その身一つで戦場を駆け抜け、様々な世界の【お掃除】をしていたあの頃。 尊敬する部隊長の下、共に汗と血を流しながら研鑽を続けた同士たち。 懐かしい。全てが忘れ去られ、【黒歴史】と成り果てそうだった時代。「だが違った!!黒歴史などではない!あの頃が――あの頃こそが、最も輝いていた時期だったんだ!!」「……」 しゃがんで脚払いする、レジアス。 それをジャンプでかわす、スカリエッティ。 宙を浮いたドクターに迫る、メイドの上段蹴り。 まるで詰碁のような戦略の読み合い。 高度な格闘者の闘いは、寧ろ戦略合戦だと言う。 その言葉を証明する光景が、今まさにココにあった。「オレはそれを忘れていた!しかし――――思い出したんだ!!」「……ホウ」 ラッシュ! ラッシュ!! ――ラッシュ!! 大将の蹴りが、宙を浮いたままのスカリエッティに吸い込まれていく。 百烈キックもかくやという勢いで、彼は蹴る蹴る蹴る。 空中コンボ――というか【ハメ技】チックではあるが、とにかく彼の猛攻は収まることを知らない。「昔には戻れない!だが――――だが!!」 昔日の志は思い出した。 そして現在(いま)の自分と融合した。 力が足りなかったが、心が強かった昔。 力は付いてきたが、心が弱くなっていた現在。 それが一つになる時。 そこには【弱い自分】を捨てた、一人の戦士が居た。「今の自分に活かすことは――――出来るんだ!!」 蹴りを止め、天を穿つように下からアッパーを繰り出すレジアス。 その渾身の一撃は、スカリエッティの身体に炸裂――しなかった。 レジアスの突き出した右手に纏わり付いていたのは、紅い触手のようなモノ。 見たことがある。 自分はコレを、嘗て見たことがある。 大将の脳内にアラートが響き渡る。 危険。 危険。 警戒レベルをマックスまで引き上げよ!!「くっ!このぉぉぉぉ!!」「…………遅いよ」 無理やり触手を引きちぎり、距離を取ろうとするレジアス。 だが一瞬判断が遅かった。 その一瞬の間に相手は――スカリエッティは、変化を遂げていた。「……素晴らしい。まさにソレだ。前に闘った時のキミに足りなかったのは、その心の強さだよ……」 もしもドクターがこの時素顔だったら、きっとそれはそれは愉快そうな表情をしていたことだろう。 しかし現実にソレが見られることはなかった。 何故なら今の彼の姿は……。「……イクスード・ギロス。漸く本気を出したと、そういうことか……?」 緑色の体躯と、三又に分かれた角。 全身から刃物が飛び出たような武装に、背中からは紅い触手が二本。 それはどう見ても【イクスード・ギロス】だった。「いやいや、本気だったよ?…………これからが【本気の本気】というヤツさ」 右手は触手に絡まれたまま。 そしてそれは相手の意のままに動く。 背中を冷や汗が伝う。 レジアスはその全身が、小刻みに震えていることに気付いた。 まるで自分が目の前の男に恐怖するように。 絶対的な強者を前にして、震えることしか出来ない、ただの獲物のように。「……っ」 咽が渇く。 カラカラになって、唾液すらも貴重な水分となっていく。 焦るな。飲み込まれるな。踏んばるんだ! 震えは治まらない。 寧ろより酷くなっている。 だが同時に。 その胸中を、自分でも制御不能な感情が満たしていった。 湧き上がる高揚感。 そこにあるのは、恐怖ではない。恐怖ではなかったのだ。「(そうか……。これは、これは――――!!)」 嬉しいのだ。 自分の全力を賭して、闘いを挑めることに。 そしてそれは、身体の振るえが【武者震い】だと証明していた。「ゥォォォォォォォォ!!」 これまで静かに事を運んでいたスカリエッティが、突如雄叫びを上げる。 すると紅い触手は彼に回収されるように引き寄せられ、それに巻き付いているレジアスも引き寄せられていく。 力が足りない。レジアスには、この剛力に対抗するだけの力は無かった。 力は足りない。 力が足りないのなら――――力で勝負しなければ良い!「ォォォォォォ!」 雄叫びが近付いていく。 それはスカリエッティとレジアスの距離が近くなっていく証拠。 五メートル。三メートル。一メートル……!!「(今だ!!)」「!?」 レジアスのやったことは、実にシンプルだ。 引き摺られる速度を利用しての、カウンターパンチ。 これならば力は要らない。 要るのはタイミングを見切る眼と感。 そしてそれを実行に移す勇気。「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 今度は雄叫びではない。 カウンターパンチを喰らったドクターが、頭部に受けたダメージのせいで悲鳴を上げたのだ。 傷を受けた場所を左手で押さえつつ、それでもレジアスから視線を放さないギロス。「……やって、くれたねぇ……」「何の。これでもまだまだだ……」 まだ足りない。 人の身では――現在のレジアスの力では、これが手一杯である。 どう望んでもこれ以上の威力はでないし、速度も上がることはない。 でもダメだ。 このままでは負ける。 負ける。負けることは、管理局の敗北に繋がる。 だから負けられない。 負けてやらない。 負ける訳には、いかないのだ……! ――パァァァァァァ!! 後光が差す。 というのとは違うだろうが、レジアスを天から眩い光が照らした。 室内であるのに起こった、不可思議な現象。 これには流石のスカリエッティも呆然としている。 そんな二人の間には、いつの間にか一人の少年が居た。 白い服を着た、見た目幼稚園位の少年。「これ、は――――」 見たことがある。 自分は――レジアス・ゲイズは、これに似た光景を見たことがある。 最高評議会に厳命された、【アギt○】の鑑賞。 その場面場面で出てくる、白い少年。 彼の出現は、新たな力の発露。 人が人を超える時、彼は出現する。「……選べと言うのか。人を捨てるか、否かを……」 目の前のスカリエッティは、人を捨てて自分の前に立ち塞がっている。 ならば自分も捨てなければダメなのか? だとしてもこれは、【特別】な存在になってしまうのではないか?「――――」 レジアスの嘗てからの命題が、自身を苦しめる。 自分は特別な何かで皆を護りたいのではない。 だから特別な存在になってはいけない。ずっとそう考えてきた。 「…………違うな。人を【超える】か否か――ヒトのまま【進化】するか否かを――」 レジアスには大切な娘が居る。 そして同じくらい大切な仲間が居る。 ミッドの地上を護る。 そこに嘘偽りは無い。 だがここに到って、彼は漸く気が付いた。大切な娘や仲間がいるからこそ、ミッドを護りたかったのだと。 自分にとって【特別】な存在たちの為に、自分はミッドを護りたかったのだ。「なのに……オレという奴は……!!」 覚悟が足りなかった。 元よりミッド全てを護ることなど出来ない。 ならば自分の手の届く範囲だけでも――大切な人たちだけでも護りたい。 だがそれだけでも。たったそれだけを護るだけでも、今の自分には不可能だった。 【特別な力】だとか、【皆と同じ】が良いなどは、自分に対する言い訳だ。逃げ道だった。 己の全てを賭けて。それでも足りないのなら、全てを捨ててでも――そういった覚悟が足りなかったのだ。「あぁ、そうだ……それだけだ。その為に何かを捨てなければならないと言うのなら……!」 白い少年がレジアスに近付いてくる。 一歩、二歩、三歩。「要らない……!!(人間としての)命さえ、要らない……!!」 少年の姿がレジアスと重なる。 完全にレジアスに吸収された少年は、消える前――確かに笑っていた。「……そうか。最終チェックポイントを、超えたか……」 小声で。 本当に呟くように言うギロス。 その声は、先程の雄叫びとは百八十度異なった、穏やかな声だった。「……ムン!」 光が収まる。 その中心に立っていたのは、筋骨粒々なメイドだった。 彼は両腕を腰の前でクロスさせる。すると腰の周囲の空気がブレて、幾何学的なベルトが一本が現れ、レジアスの腰に装着される。「…………変身」 変化が訪れる。そしてその変化を噛み締めるかのように、右手を顔の横、左手を腰の横まで引く。 先程のベルトが出現した時と同じように、今度は全身が変化する。 ギロスよりもさらに深みにあるグリーンの体躯に、紅い双眼と金色の角。 【ソレ】は紛れも無く、マスクドライダーだった。 ただ通常のそれらに比べると、異常な程【生物染みた】デザインの、源流に近いモノ。 その証として、風もないのにたなびく真紅のマフラー。「……【アザーアギt○】。まさか、本当になってしまうとはねぇ……?」 その姿は、紛れもなくアギt○の劇中に出てくる、渋いオッサンライダー【アザーアギt○】だった。 まさに漢の中の漢。 その異形性も従来のものと一線を画したデザインも、全てはナイスミドル専用だからである。「……フン!」「っ!」 ゆったりと。本当ゆったりと歩いてきて、パンチを一発。 一発。たったの一発。 しかしその重過ぎる一発は、スカリエッティの身体をくの字に折り曲げさせた。「……ぐっ。…………素晴らしい。まさにキミは、今!本物のヒーローとなったのだ……!!」 歓喜。 狂気。 今のドクターは、純粋にレジアスの進化を喜んでいた。「……そんなこと。今のオレには…………どうでも良い!!」 スウェーだけでスカリエッティのパンチをかわし、そして手刀を脳天に喰らわせる。 重い。 本当に重い、レジアスの一発。「フ、ハハハハハ……!!これだ、これが見たかった!!私には到達出来なかった――――私の夢見た、人類の行き着く先!!その答えの一つが……!!」 一方的にやられている筈のスカリエッティ。 しかし今の彼は、非常に楽しそう。 ……と言うよりは、愉悦に浸りきっている感じである。「……」 アザーアギt○の口元が―― 一枚の装甲で覆われていた口元のマスクが、今――その封を解かれた。 まるで生物の歯のような口元が露わになり、彼の足下には緑色のアギt○の紋章が浮かび上がる。 両手を一度上に上げ、そして腰の高さまでゆっくりと下ろす。 己の中の力を溜め込み、そしてそれを両足に集中させる。 同時に右手は顔の横、左手は腰にくっ付けて、構えを取る。 渾身の一撃。それをドクターに喰らわす準備は、これで全て整った。「……良いだろう。ならば私も、【全力で】それに応えなければ……!!」 殊更【全力で】という部分を強調し、スカリエッティも必殺の構えを取ろうとする。 元々のギロスの必殺技は、踵にエッジのようなものが付いた状態でのジャンピング踵落とし。 そしてソレを高める方法として、彼は――ドクターは触手を最大に伸ばした。「ォォォォォォォォ!!」 雄叫びを上げ、触手を伸ばしていく。 地面に向かって伸ばしたそれは、彼を天高く舞い上げる。 高く、高く舞い上げ――そしてその高さからドクターは、最強の踵落としを放った。「ムゥゥン!!ハァ……!!」 それにつられるように、レジアスが力の溜め込まれた両足で地を蹴り、踵落としの体勢に入っているドクターと交錯する。 蹴り対踵落とし。 本体なら在り得ない対決が、今――超常の力を手に入れた二人の【ヒト】によって行われた。「ヌォォォォォォォォ!!」「ハァァァァァァァァ!!」 文字通り火花がバチバチと飛び交い、そしてぶつかり合う二者。 ほぼ同等の力。大体同じ位の鍛錬量。 ならば勝敗を分ける境目は、一体何処に存在するのだろうか?「ヌ、ヌ、ヌ、ヌ、ヌゥ……!!」「ク、ク、ク、ク、クゥ……!!」 拮抗する力。 力と力が互角ならば、あとは心構え――心の強さが勝敗を分ける。 レジアスは放つ。己の言霊を。「貴様に足りないモノはぁぁぁぁ――それは、【情熱】【思想】【理念】【頭脳】【気品】【優雅さ】【勤勉さ】――そして何よりもぉぉぉぉ!!」 押される。 押されていく。 拮抗していた力のぶつかり合いは、レジアスに軍配が上がる。「【根性】が足りなぁぁぁぁぁぁい!!」「ァァァァァァ…………!!」 吹っ飛んだのはギロス。 つまり吹っ飛ばしたのはアザーアギt○。 さしもの【天災】ドクターと言えども、【アニキ】と【ナイスミドル】の集合体には勝てなかったらしい。「……どうだ。オレの全てを籠めた一発は…………重かっただろう……?」「あぁ……。ズシンと来たねぇ……?」 地に叩き付けられたスカリエッティ。 その【敗者】に向かってレジアスは、自身の一撃の重さを確認する。「……だが、まだだ!まだ終われんよ!!」「何!?」 地に伏していたスカリエッティ。 その姿は既に元の白衣姿に戻っている。 そんな彼が口にしたのは、敗北宣言ではなく【続行宣言】だった。 背後の壁がメキメキと音を立てて崩壊し、そこからオレンジ色の機体が現れる。 それはあらしが召喚しようとした、【ジークフロート】だった。「済まないね?確かにこの勝負は、キミの勝ちだ。しかしこの【戦争】は――――私の勝ちでなければならないんだよ!!」 ダメージの残る身体のハズなのに、それでも軽やかに跳躍してジークフロートに乗り込むドクター。 神経接続をし、そしてその天衣無縫とも言える動きをする機体を動かす。 ――筈だった。「スカリエッティ、覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 しかしそこに飛び込んできたのは、眼前のレジアス――ではなく、洗脳の解けたばかりのゼスト・グランガイツだった。 既に巨大刃も破壊され、その攻撃手段は失われた筈の騎士。 だから彼がその手にしたモノは、剣でも槍でもなかった。「ドリルブーストォォォォ、ナッコォォォォォォォォ!!」 ギュィィィィン!! そんな削岩機の如き激しい擬音は、ゼストの騎士甲冑の両肩に装備されていたモノからだった。 それを彼は今、剣を手にしていない両の手に一つずつ填めている。 ドリル少女スパイラルなm――ではなく、ドリル中年【スパイラァァァァゼストォォ!!】。 そんな熱い中年オヤジが一体、目標に向かって突貫する。 その目標とは言わずもがな。ジークフロート以外には存在しないだろう。「レジアスの仇ぃぃぃぃ!!」 【死んでない】。 そうツッコミを入れたかったが、真剣な場面に水を差すのは憚られる。 レジアス・ゲイズ大将は、空気の読める漢なのである。「ウォォォォ……!!」 如何に超起動大将軍なジークフロートだろうと、起動前ならそれはただのデカイ的である。 故にその装甲は一枚、一枚と削られていき、そして最後の大穴が開く。 それは鮮血を伴った大穴。【ジェイル・スカリエッティ】という、大きな存在に空いた穴であった。「……ゴフッ。だから……ドリルはイヤだと、言ったのにぃぃぃぃ!!」 天晴れかな。 最後まで悪役に殉じた漢、その名はジェイル・スカリエッティ。 僕たちは忘れない。君という素晴らしい悪役が居たことを。「やぁ、【また】会ったねぇ?」「あぁ。今度はボクの方がホストだけとねぇ?」 以前に何度も来たことがある、アンリミティッド・デザイアの精神世界。 今その部屋の主は自分ではなく、かつて何度も招待したお客様だった。「これで私も、ようやく退場出来るよ」「……良いねぇ?ボクも、さっさと退場したいものだよ……?」 これより先、ジェイル・スカリエッティは消滅する。 残ったのは【静香】という存在。 その存在の中で生き続けることになるのだ。「まぁ、あらしが融合している時点で、もうそんなに変化はないんだけどねぇ……?」「あと判っていないのは……クイーンの正体、だったっけ?」「そう。そしてその正体は――あぁ、止めておこう、楽しみは先に取っておくものだしねぇ?」「……なんて意地の悪い。流石はもう一人のボク。清々しいまでの根性悪だ」 鏡を見ながら会話しているようなモノだ。 その性格など、読むことすらしない。 する必要がない。「まぁ、一つだけアドバイスするのなら……」「……なんだい?」「物事には偶然に見えることでも、必ず理由が存在する。と言ったことかな……?」「うげー。どうとでも取れる、とっても有り難くないアドバイスを有難うございますぅ……」 つまり当たって砕けるしかない。 現実を見てから判断するしかないのだ。「さて……。それではお別れ、というか【再会】かな……?」「んだね?」「ではベースとなるキミが、私に触れるんだ」 右手を伸ばし、掌をドクターの水月の辺りに添える【静香】。「……って、またDBネタかい!」「やはり我々は、最後までこうでないとねぇ?」「サッサとやれ!!」「ハイハイ……では!!」 真面目な表情に切り替わったドクターが、発光すると同時に【静香】の身体に吸い込まれていく。「さよならドクター、死なないで……」「ってウォイ!!居たのか、ウーノ!?」 ドクター道場のアシスタントである、戦闘機人No.1【ウーノ】。 今回もブルマ姿で、彼の主人のお見送りに来ていた。「……二度ネタになるけど、やんなきゃダメ……?」「ハイ……。ドクターの遺言ですから」 何て傍迷惑な遺言だ。「……もうドクターじゃない。本当の名前も忘れてしまった…………ただの【三次元人】さ……」 こうして物語は、終章に突入したのであった。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!