前回のあらすじ:ゲンヤとクイントは、体育会系なお付き合いから始まった間柄。 雲一つない晴天。 若干寒さが有るものの、冬としては有り得ない位、爽やかな天気。 まるでゲンヤとクイントを祝福しているように、もの凄いセッティングが行き届いた一日の始まりだった。 ……というワケで、今日は二人の結婚式。 昨日の夜から会場入りしているボクとレジアスは、未だにケーキを作ってます。 あとは最後の仕上げを残すのみ。 自分たちで作っておいて何だけど、良くもまぁこんな非常識なモノを作ったモノだ。 教会の中庭で披露宴をやる為、その中心部に設置したウェディングケーキ。 大聖堂とほぼ同じ高さで、ビルの五階分の高さを誇る。 ギンガやスバルだけならまだしも、クイント自身が頼んできた設計。 ……本当にこんなに食えるのか? 普通なら絶ぇっ対に無理だと思うのだが……『私(たち)の胃袋は、宇宙よ!!』 とまで言われたら、作るしかない。 決して、滅茶苦茶期待された瞳の力に負けたからではない。 あの期待に満ちた、三対の瞳の力に屈したワケでは……ないと思わせて下さい。お願いですから。 式の開始まで、後三時間。 さて……あのデバイスの最終調整をするとするか。 ボクの視線の先には、【二つの】クリスタルが置かれていた。 いよいよ結婚式の一時間前です。 オーリスさんが受付をやっているので、御祝儀とかの管理は心配ないだろう。 あの人に任せておけば問題ないしね……私生活では説得力皆無だけど。 式場の準備はカリムや、彼女の侍従であるシスターシャッハがやってくれている。 そして既に来場している女性陣を、カリムの義弟のヴェロッサが口説きまくっている。 あ、今シスターシャッハにしょっ引かれた。ご愁傷様です。 そうだ。カリムに誓いの言葉の、若干の変更を頼むのを忘れてた。 事前に確認は取ったものの、本番で忘れられていたら困るしね。 こういうのは、綿密な打ち合わせが必要なのだよ。「おはよう、カリム……じゃなかった。おはようございます、騎士カリム」「おはようございます、シズカさん。別に言い直さなくても良いと思うのですが……」 いつもの若干軽装な格好とは違い、見た目的にも荘厳で重装備なカリム。 司祭役をやってもらうので、当然といえばそうなのだが。 今日の式は、聖王教会の関係者や地上本部の関係者が多数いる。あまり彼女にフランクに接するのは不味い。「いえ。こういうのは一応、公私の区別が必要ですからね」「フフ、そういうことにしておきましょう。それで……何か御用ですか?」「話がはやくて助かります。事前にお願いした、あの誓いの言葉の変更ですが……」 今回は指輪の交換はない。 その代わりに、あるモノの交換を入れた。 故に、誓いの言葉も変更する必要があるのだ。「えぇ、教皇さまのお許しも得られました。あとは実物をご用意して頂くだけです」「ありがとうございます。実物の方はさっき調整が済んだので、問題ありませんよ」 その後少しだけ彼女と話していたが、お互い忙しい身なのでその場を後にした。 仕込みは上々。 最後の仕上げは、ゲンヤに少しだけネタバレするのみ。「お~い、ゲンヤぁ!入るよー!!」 新郎控え室の扉をノックし、中に入る。 ソコにいたのは、白いタキシードを着たゲンヤ。 ……アレ?思ったよりも違和感がない。というか、オッサンに新郎用のタキシードが似合うってどうよ?「お、おぉぉ!よ、よ、良く来たなぁぁあ!」 ヤバイ。 この人、メッチャ緊張してるよ。 肩なんかガッチガチに強張ってるし、何か震えが止まらないみたいだ。「……緊張しすぎ。それよかさ、ちょっと変更があったから伝えにきたんだけど……」「な、何ぃぃぃぃ!?ちょっとマテ!今のオレは、既にいっぱいいっぱいなんだぞー!?」 そんなことは知らん。 と突き放すのは簡単だが、ここまで準備に時間を掛けたモノが、水の泡になるのは我慢ならない。 仕方無いので、ちょっとだけ背中を押してやるか。「ゲンヤさんよ?アンタ、今までで一番高揚したのって何時だ?」「……クイントに、付き合うのを認めてもらった時だな……」「そんでソコで勝ったから、今のアンタがあるんだろう?」「……そういうことに、なるだろうな……」 過去最高潮に盛り上がった瞬間を想起し、幸せそうに微笑むゲンヤ。 ソコには既に焦りはなく、ただ落ち着いた雰囲気を醸し出していた。 もう大丈夫だ。このオッサンはすっかりいつも通りだ。「……もう、大丈夫だよな?」「……悪ぃな。みっともないところを見せて……」「なんの、なんの♪それよかさ、さっき言ってた変更なんだけどさ……」「おぅ。何処が変わったんだ?」 さて、ココからは悪巧みタイムだ。 ゲンヤに全てを教えずに、企みを成功させる。 ソレが今のボクに与えられた使命なのだ。「うん。実は、ゲンヤに頼まれてたデバイスが完成してね。コレがその待機状態」 そう言って差し出したのは、紅い宝石。 六角形のカタチをしたソレは、後に誕生するマッハキャリバーやブリッツキャリバーの待機状態……の色違い。 ちゃんと首紐も付けてある、こだわりの逸品だ。「おぉ、出来たのか!ありがとよ、何て礼を言って良いのやら……!」「ストップ。まだ続きがあるんだから、最後まで聞きなって」 感動するオッサンを余所に、もう一つ宝石を取り出す。 コチラは水色のモノ。 ソレを見たゲンヤが怪訝な顔をする。「そんでコッチは、宝石としてのイミテーション。二人にはコイツらを、互いに交換してもらいたいんだ」「おまえ、ソレは……指輪交換の代わりか……?」「そ。指輪はイヤだって言うから、別のモノを用意させてもらった。拒否は受け付けないからね」「…………」 逡巡。 そして口元を吊り上げながら、ソレを受け取るゲンヤ。 言葉は要らない。もう感謝の言葉は貰っているのだから。「そんじゃ、後はカリムの指示に従ってね?」 おぅ、と小さく聞こえる声。 こういう時は、黙って去るのがマナーなのだ。 だからボクはオッサンに背を向け、控え室の扉を開けて退出した。 現在、聖堂で椅子に座って待機中。 まもなくゲンヤとクイントが入場してくるハズ。 若干間が空いてるので、今のうちに言い忘れたことを話しておこう。 なのはが魔法バレをした日に、ユーノ・スクライア君が入院しました。 原因は御神の剣士無双の被害にあった為。 彼の正体が判明した途端に鋼糸が舞い、ソコから先は生かさず殺さずのリンチタイム。 士郎や恭也に渡した電力式デバイスの魔法で回復させられ、回復したら再び無双のお時間。 何という生き地獄。死ぬことすら許されないというのは、本当に恐ろしいのだ。 我が子孫ながら、中々良い遣い手に育った模様。感激でお腹一杯だよ、本当に。 ……っと、どうやらゲンヤたちが入ってきそうな雰囲気だ。 入り口の重厚な両扉が開かれ、腕を組んだ御両人が登場する。 クイントのドレスの裾を持ってあげているのは、二人の娘たちであるギンガとスバル。 子どもなりに精一杯のおめかしをした二人が、自分たちの両親の祝福をする。 何とも心温まる光景だ。 そういったことに縁があるかは別として、ボクもあやかりたいものだ……と、思ってみたりする。「汝、病める時も……」 司祭役のカリムが、お決まりの文句を次々と言っていく。 この辺は異世界であってもそう大差はない。 せいぜい、神様の部分が聖王さまに置き換わっているだけだ。 「続いて指輪の交換に代え、ネックレスの交換を……」 クイントは聞かされていなかったのか。 ゲンヤの顔を見て驚き……そして泣き出しそうになっていた。 参列者たちが見守る中、二人はネックレスの交換をする。うん、良い光景だ。「ここに交換は成りました……それでは互いに、誓いの【セットアップ】を……」 ――ブゥゥゥッ!! 聖堂の至る所で噴出す音が聞こえた。 ゲンヤが一瞬フリーズし、カリムを見る。 微笑むカリム。言い間違いではないことを確認すると、今度はボクの方を見るゲンヤ。「(ガンバレ!!漢を魅せろっ!!)」 アイコンタクトでゲンヤに、己の意思を伝える。 恨めしそうな目をされても、ちっとも痛くはない。 コレぐらいのサプライズは必要だと思うよ、ボクは?「…………セット、アップっ!!」 出来るか出来ないかは関係ない。 司祭がやれと言ったら、やるしかないのだ。 最悪、何も起こらなくても笑い話で済むだけだ。そう思い、ゲンヤはヤケクソ気味に叫ぶ。「……!?コ、コレは……!?」 一瞬の眩い光と共に、ゲンヤの格好に変化が生じる。 光が治まった後に居たのは、両手両足にタービンの付いたデバイスが。 タービンの色は黒。言うまでもなく、ソレはクイント用のデバイスの色違いだった。 断っておくが、二つのデバイスは全く同一のモノではない。 クイントのはカートリッジシステム内蔵のデバイス。 そしてゲンヤのは、魔法が使えない代わりに電力で稼動するようにした、【電動式】デバイスである。「……良しっ、私も!!【セットアップ】!!」 ゲンヤの変化を見たクイントが、嬉しそうにそう叫ぶ。 訪れた変化は、ゲンヤと同等のモノ。 ソコにはタービンの紅いデバイスを纏った、クイントの姿があった。 ――ガキィィィン!! 二人は無言で、拳と拳を突き合わせる ここに誓約は成った。 そしてその瞬間、立ち直った参列客たちからも、惜しみない拍手が巻き起こった。 中将日記スーパー in 聖王教会 シズカのヤツがとんでもないネタを仕込んでいたが、式は概ねつつがなく行われた。 というよりも、アレのおかげで盛り上がったと言った方が良いかもしれない。 本来の聖王教会式の結婚式にはなく、そしてお堅い管理局のイメージを壊す、前代未聞の試み。 本当なら叱責モノだが、アイツはどちらの所属でもない上に、我々の常識を良い意味でぶち壊してくれたのだ。 軽く文句を言う程度は出来ても、正式な抗議をする程のモノではない。 その証拠に、司祭である騎士カリムも教皇が了承していたから、容認したのだろう。 さて、次は披露宴だ。 昨日から徹夜で作った、ウェディングケーキのお披露目。 自分が主役でもないのに、少し武者震いがする。 シズカがこのケーキカットの為に用意した、超特大のケーキナイフ。 名前は確か、【アカヅキノオオダチ】とか言ったか。 ゼストがアレを、先程から凝視している。欲しいのだろうか?並々ならぬ気配を放っているが。 ……後で、シズカに相談してみよう。 補論:その日のオーリスは、総勢二十体の目覚まし時計のオーケストラを聴くも、半覚醒までしか漕ぎ着けられなかった。 再び布団のお世話になりそうになった時、彼女の携帯電話が唸りを上げる。 発信者はレジアス。事態を予見した彼女の父親が、モーニングコールを仕掛けたのだ。 その後の彼女はいつも通り。 外でのキャラを作り、バリバリのキャリアウーマンになりきった。 ソレが彼女の日常。その証拠に、この日も見事に結婚式の受付をこなしていた。 あとがき >誤字訂正 俊さん。ご指摘いただき、ありがとうございました。