前回のあらすじ:静香、出番なし。 嫌な予感がする。 そうオーリスに相談されたボクは、念のために地上本部に来ていた。 ゼスト隊や、レジアスが大挙して行かなければならない任務。 どう考えても、怪しさこの上ない。 あんまりハックしたくはないんだけど、非常事態ということでレジアスの端末を開ける。 暗証番号なんて、ちょちょいのちょい。アレ……?コレってもしかして、もう死語なのか?「(…………有った!戦闘機人プラントの強制調査……って、ゼスト隊が全滅するアレか……!?)」 原作ではこの事件でクイント・メガーヌ・ゼストが死亡し、クイント以外の死体は行方不明になる。 その実、スカリエッティのラボでレリックウェポンにされたゼストと、水槽の中で生かされ続けるメガーヌ。 最悪だ。このままでは、レジアスも帰らぬ人になるかもしれない。「(……急ごう。急いで【ガトックセクター】の最終調整を済ませないと……)」 そう思い、レジアスの部屋を後にする。 既に何度もお邪魔しているので、自由に行動出来てしまうデバイス研究室。 その一画を借りて、ガトックの調整を始めた。 既にハード面は完成し、ソフト面が完成度八割という状態。 完成していないのは、AIの性格設定。 このままでは、原作と同じように暴走する切れキャラになってしまうのだ。「さてと……後はこの配列を直して……って、何だ?この地響きは!?」 ズン、ズン、と地面をたわませながら迫ってくる気配が一つ。 この感じだと、結構鍛え上げた身体の持ち主だなぁ。 ……現実逃避はココまでにしよう。この気配は、どう考えても中将様のモノじゃないか。「シズカァァァァッ!!」 入り口の扉を、壊れんばかりの力で開けるレジアス。 走ってきたのだろうか? その額からは、汗が吹き出ている。 「……レジアス。とりあえずお帰り。あと落ち着けって……」 【とりあえず】という言葉に反応するレジアス。 その場でフリーズがかかり、手に持っていたC3-Xのヘルメットを落としてしまう。 ボディアーマーの具合や、取り落としたマスク部と言い、もう満身創痍としか言いようがない状態だ。「……ゼストたちが現在進行形で、非常に危険な目に在っている……」 話を聞くと、【黄金悪者スカドラン】という人型ロボットが敵プラントで大暴れ。 既に皆余力が殆ど残っていない状況で、救援要請を出させるという名目でレジアスを強制転送。 確かにその面子の中では、レジアスの救援要請が一番聞いてもらえる確率が高い。 でも多分。 その要請ですら聞き入れられる可能性は、ないに等しい。 スカリエッティは、最高評議会と黒い関係で結ばれている。 最近、ネジが外れたような発言が多かったらしいが、それでも最高評議会は最高評議会なのだ。 現にレジアスの顔色は悪い。 明らかに要請が却下されたのが、見て取れる程に。「聞いたよ。だからボクは、コイツの最終調整を……」「……あと、どれ位の時間が必要なんだ……?」「既にハード面は完成済み。ソフト面が完成度八割って状態だから、あと二時間ってところだ……ってオイ!何やってるんだ!?」 完成しているベルトを拾い上げ、レジアスはガトックセクターの隔離されている部屋に入っていった。 マテ。 だからソレは、まだ未完成なんだちゅーに!!「……ココまで出来ていれば、もう完成したようなモノだ……」 いや、確かにそう思うかもしれないけどね? まだソイツの性格は、私の愛馬は凶暴モードのままなんだって。 開けられた扉。そしてすぐに閉じられてしまった、その扉。 オイ。何でレジアスの認証で開閉するんだよ? ガッツか? 根性で、何でもなるというのか? ――カシャン。 ベルトを後ろ手で固定し、閉鎖空間の中央に位置するセクターに目を向けるレジアス。 止めろ。ソレは死亡フラグだ。如何にお前が頑丈で、勇者顔負けのガッツを持っていたとしても。 今の状態でソイツに挑めば、待っているのは死だけだぞ? 「……オレの帰りを待っているヤツら居るんだ……!その為にも力を貸してくれ……ガトックセクター!」 次の瞬間。 トンでもない轟音と共に、部屋中の壁がへこみ始めた。 開け放たれる扉。中から倒れ出てくるレジアス。 やっぱ、根性だけでどうにかならないことも有るんだな。 どうもオヤジーズを見ていると、フラグをボキっと折ってくれるような気がしてならないんだが……。 駆け寄って、レジアスの容態を診る。 ……アレ? 何か……心臓が停止してるような気が……って、違う!! 本当に停止してるんだよ!? すぐさま心臓マッサージを開始し、ショックを与え続ける。 不味い。はやく医療班を手配しないといけないんだけど、そうしている時間すら勿体無い。 何とか、電気ショックと同じ作用を引き起こせれば……。 手を動かしかしながらも、頭は高速回転。 部屋をグルッと見渡し、カウンターショックに使えそうなモノを探しだす。 ……あった。コレを使えば、電気ショックと似たようなことが出来る。 そう考えて手にしたのは、先ほどレジアスが腰に巻いていたセクターのベルト。 コイツの中にある電力を一時開放してやれば……上手くいくかもしれない。 失敗を恐れるな。今のオレの手の中には、過去の人生と違い、救える手段があるんだ。 まだ医療技術や医療魔法が発展途上だった頃の、医者としての記憶。 救えなかった命で一山築けてしまう程だった、あの頃の自分。 補助魔法を併用し、カウンターショックの準備を整える。「……いけぇぇぇぇっ!!」 雷光一閃。 プラズマ的なモノを発生させながら、強大な電力がレジアスに吸い込まれていく。 ……威力が大きすぎると思うなかれ。このオヤジはコレ位しないと、目を覚まさないのだ。「…………?」 徐々に。本当にゆっくりと目蓋が上がっていき、その下に填め込まれている瞳が、コチラを捉えた。 ……成功だ。今度こそ医療班を手配し、ボクは作業に戻る。 そう。ガトックセクターの、最終調整の続きをしなければならないのだから。 中将日記Revolution 病室で目が覚めた時。 そこには怒り心頭なゲンヤと、呆れ顔のシズカが居た。 何故自分はココにいるのだと記憶を手繰り、そして事態の深刻さを思い出す。 一体どれくらいの時間、自分は寝ていたのだ? 焦る気持ちを隠せずに聞くと、アレから丁度二時間だと言う。 こうしては居られない。 急ぎ身体を起こすと痛みが全身に走るが、そんなことは知ったことではない。 今ココで無理をしなければ、一体いつ無理を通せると言うのだろうか。 病人用のガウンを剥ぎ取り、掛けてあった制服に着替える。「オイ待てよ。テメェだけが、良い格好するつもりかよ……!!」 ゲンヤの瞳には、覚悟の色が籠められていた。 アイツも己の妻を助けるために、自らの立場を捨てる覚悟の様子。 ソコまで覚悟を決めているのだったら、止めるのは憚られる。「……医者としては絶対安静。でも無理する患者が居たら、医者も無茶しないとダメなんだよ……」 シズカも覚悟完了済みのようだ。 そして差し出されたモノは、先程のセクターのベルト。 一瞬だけアノ瞬間を思い出すも、すぐに脳裏から掻き消す。「……めっちゃガンバったから、もう調整は終了済み。オーナーの登録も済んでるから、コレは……お前のモノだ」 先程は混乱気味だった為に忘れていたが、コレは【特別】なモノだ。 自分の理想と反するモノであり、まだ気持ちは固まっていない。 こんな中途半端な気持ちでは、C3-Xに対してもガトックセクターに対しても失礼だ。「……アンタがこういう【特別】なモノを苦手とするのは分かる。だけど、ちょっとだけ待って欲しい……」「…………?」「今は確かに特別かもしれないけど、あと数年のウチにコレは特別じゃなくなる。いや、特別じゃなくならせてみせる……!」 ソレは意思表明だった。 特別なモノを良しとしない自分に、シズカが合わせてがんばってくれるという。 ……良いだろう。その言葉、しっかり記憶したからな……。 そうして自分たちは、シズカの転送魔法で病室を後にする。 行き先は、スカリエッティの戦闘機人プラント。 多数の増援は無理だったが、心強い二人の仲間を手に入れた。 待っていろよ、ゼストたち! ゲイズさんちのオーリスちゃん【参】 嫌な予感がする。 ソレは酷く直感的なモノだったが、オーリスはシズカに救援を求めた。 結果的には、ソレが正しかったことが証明される。 黒猫が道を塞ぎ、カラスが上空から威嚇。 この前下ろしたばかりの靴紐が突然断裂し、休憩時にはティーカップが割れた。 起きてから半日もしない内に、不吉を呼ぶオンパレード。 ……ちなみに、割れたティーカップの後片付けで、指を切ったオーリスだった。