戦闘機人ラボの強制捜査から、もう八年の月日が経った。 未だにゼストとクイントは戻らない。公的には死亡扱いとされた。 勿論、ボクたちは彼らの生存を知っている。 だが生きているとバレると、厄介なこともある。 だから死者として戸籍が葬られた。 同じように、ずっと意識不明なティーダ。彼も公的には死亡扱い。 地上本部の医療棟に搬送された時、既に彼は半分死者だった。 スカリエッティの施した治療が良かったようで、辛うじて命を繋いでる状態。 それ以来一度だけしか意識が戻らず、今も眠り続ける毎日。 ただその一度の目覚めで、彼の意思を確認出来た。 完成したCストーン一号機を利用した、意思を持ったロボット。 そのスーパーAIの人格データに、彼の人格を移植すること。ソレを願い出てきたのだ。 ブレイブロボ一号。 フェラーリをモチーフにした、覆面パトカー。 ソレから変形する、隠密機動隊所属の【勇者】。 ――【ヴォルヴォッグ】。 ソレが彼の生まれ変わりの名前だ。 以来【彼】は、スカリエッティの動きを追う為、日夜働き続けている。 ……とは言っても、いつ目覚めるともしれない状態であることには変わらないので、オーリスやティアナが良く見舞いに行っている。 ちなみにティアナやオーリスは、彼の人格が移植された【彼】を知らない。 普通に考えれば、会う機会がないのは当然のこと。 故に彼女たちが【彼】の存在を知るのは、まだ先のことであった。「……機動六課ぁ?」 ココは地上本部のボクのオフィス。 【壊す・治す(直す)・生み出す】の三つが出来るボクは、異例の出世を遂げて現在【准将】。 ……と言っても、コレは正規の方法で偉くなったワケではない。 一旦教会の上級騎士となってから、管理局入りをする。 そうすると、カリムのようにかなり高位の役職になれるのだ。 つまりは裏技。 一生懸命真面目に頑張ってる人々には悪いんだけど、コッチにも都合があるんだ。 その辺は勘弁して欲しい。 ソレにボク以上に出世したヤツが、ヴォルケンリッターには存在する。 ボクと同じような手順で管理局入りし、現在は少将。 ただ主より高い位に就くのを良しとせず、普段はその位を隠している。 ソレはボクも同じで、普段の自分は一介の……何でも屋だ。 八年。 言葉にすると一言だが、その内容は一言では語れない。 レジアスは大将に出世し、あまり現場に出てこられなくなった。 だがゼストたちのことは極秘裏に調べているらしく、時々大将自ら違法建築物に調査に行っている姿を見かける。 ちなみに帰った時には、ガトックセクターのアーマーが中破していることも少なくなく、相変わらず武者仮面なゼストと闘い合っているようだ。 ……色々と突っ込みたいが、先に進もう。 ゲンヤはニ佐に昇進。 陸士一○八部隊の部隊長として、忙しい毎日を過ごす。 だがコチラもレジアスと同じで、極秘裏にクイントの行方を捜査。 これまた時々、違法プラントとかの強制捜査に赴き、帰ったらボロボロ。 明らかにタービンの攻撃痕が残る腕を、非常に嬉しそうに見ていたりする。 ……コレも突っ込みを入れたい。 あとは、カリムくらいか。 古代ベルカ式の使い手であり、夜天の王となったはやて。 彼女の後見人を務めるようになるが……実質上は気の良いお姉さん。 はやての新型ユニゾンデバイス、【リインフォースⅡ】。 その開発援助をしたのは彼女……と、公式の記録ではそうなっている。 しかし違う。本当に技術援助をしたのはボクであり、はやてが自らのリンカーコアをコピーしたこと以外は、全てボクの作業だ。 ……何でボクは、いつのまにか【キワモノ】デバイスマスターになってるんかね? 確かに、創るのは楽しいだけどね? 今回のユニゾンデバイスは、その度を越していた。 スーパーAIの人格を育てて、その実体化プログラムを組んだ方がはやいような……圧倒的なデバック。 ボク自身、ユニゾンデバイスを組むことが初めてな上、確たる理論もなし。 つまり、本当に一からのスタートなワケで……。 あげく、向こうさんは待っていれば勝手に出来るモノだと決めつけ、完成までデバイス研究所に来ない始末。 ザフィーラとカリムの励まし&差し入れがなかったら、とっくに投げていましたとも。 あんまりにもムカついたので、リインフォースの根底プログラムに二つの機能を追加。 【ボクとのユニゾン】と【CⅡモードへの変化】を可能にし、全ての作業が終了。 あとの引渡しは、ザフィーラ立会いの下でやって貰う。 つまりボクは、最初から最後まで八神家の連中とは会わないのだ。 クックック……! 可愛いマスコット的な少女が、気が付いたらドSのババァ口調に変化するようになる。勿論好物はピザ。 ソレこそがCⅡモードである。……あ~、良い仕事をしたなぁ? ……さて、そろそろ現実逃避は終わりにしよう。 話は冒頭に戻り、どうやら機動六課を成立させようという時期に来た模様。 そこでボクに、機動六課への転属命令が下った。 辞令を出したのはレジアス。 大将直々のご命令なので、拒否権なんて上等なモノは存在しない。 ……コレだからお偉いさんってヤツは。 自分のことを棚にあげて、心中で悪態つく。 コレくらいのことを思っても、罰は当たらない……と信じたい。 レジアスからスッと差し出されたのは、何処かの見取り図。 と言うよりも、コレはまだまっさらな土地だ。 コレから何かの建物を建てるようだが……まさか、ココに機動六課の隊舎を建てるのか? 視線を見取り図から上げて、レジアスの方へと向き直る。「そうだ。ソレは、機動六課の隊舎を建てるために確保した土地だ……」「……で?ボクにソレを見せて、どうしようってんだよ?」「…………極秘裏、という程のモノではないが、我々も出向となる……」 レジアスはボクの質問には答えずに、別のことを口にする。 【我々】……? レジアスが行くだけでも問題だが、この他に誰を用意するって言うんだ?「オレの他には、シズカ・騎士カリム・ザフィーラ……以上だ」「…………ハ?なに、アンタ機動六課に戦争でも仕掛けに行くのか……?」「……無論心配は無用だ。我々の目的は一年間の内定調査。故に普段の役職とは別の……つまりは変装していく」 ……もうダメ。 頭がフリーズどころが、強制シャットダウンになっちゃったよ。 このオッサンが遠い。確かにいつも何考えてるんだか分からないところがあったけど、コレはないだろう!?「……ザフィーラは、いつものように狼形態で。騎士カリムは寮母に化けて……」 今更だが、管理局や教会の要職がそんなに集まって、何やってるんだと突っ込みを入れたい。 でもまだだ。 多分ボクの予想が正しいのなら、コレから先にも突っ込みポイントが待っているハズだ。「シズカは食堂のチーフとして。そしてオレは……事務員だ」「オォォォォォォイッ!?何処の世界に、こんだけマッチョなオッサン事務員がいるんだよぉぉぉぉっ!?」「……問題ない。コレでもミッドチルダ文字検定や、簿記検定は共に一級だ。すぐにでも仕事が出来るぞ……?」 違う。 何かが決定的に違う。 でも……ツッコミどころが多すぎて、どこから言ったら良いのかわからない。「…………もしかしてさぁ~、ボクにその隊舎の設計をしろ……って言うんじゃないよね……?」「?ソレ以外に、何があるって言うんだ……?」 ……流石のボクも、建物の建築はしたことがない。 先ずは専門業者の力を借りて……って、ちょっと待った。 普通の隊舎を作るんだったら、何もボクじゃなくても良い。むしろ専門の業者の方が、良い仕事をするハズだ。 なのにレジアスは、【ワザワザ】ボクに依頼をしてきた。 コレには何か特別な理由がある。 ソレこそ、通常の隊舎じゃ不味い理由が。「……ねぇ。隊舎が変形しても、怒らない……?」「……構わん。むしろ、もっとやれ……!」 ……了解。 そういうのをお望みなのね? だったらボクは、渾身の作品を創るとしましょうか……? ソレから一年後。 機動六課は発足した。 何が起こるか分からない、追加メンバーと新たな隊舎を得て。 中将日記……改め、大将日記 騎士カリムから出された予言。 ソレは管理局全体を揺るがす、とんでもないモノだった。 だがソレは、確実に起こるとも言えない代物。正規の管理局部署は使えない。 故に我々は特別対策課を設置し、自らもソコに詰めることにした。 ゲンヤだけが唯一別の仕事があった為に参加出来なかったが、他は概ね予定通り。 ちなみに、ゲンヤの悔しそうな顔は忘れることが出来ない。 ……伊達眼鏡を用意し、オールバックにしていた髪を下ろす。 髪を下ろして外を歩くのは、妻がまだ生きていた頃以来だ。 懐かしく思うと共に、一般陸士用の制服に袖を通す。 これまた懐かしいモノで、昔ゼストと共に誓った理想を思い出す。 ……ゼストよ。 お前は今、何処にいるんだ……。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【五】 今日は久しぶりに、ティアナと会った。 彼女が陸士学校に入ってからは殆ど会えず、本当に久しぶりの再会。 場所は地上本部医療棟。ティーダの見舞いで、バッタリ遭遇したのだ。 一向に目を覚まさない彼。 だが、いつ目を覚ましてもおかしくない状態。 だからオーリスは、可能な限り見舞いに来る。あまり来れなくなった、ティアナの分まで。 その帰り、二人はゲイズ家に。 レジアスが作った料理を食べると、泣き出してしまったティアナ。 その日ティアナは、少しだけ昔の自分に戻れた。