最近は転生前の経験とかも含めて、【チート】と呼ぶことが多い。 だがそんなもの、ボクに言わせればチートでも何でもない。 ただ人よりも人生が長くて、その長い人生での経験をフルに活用しているだけだ。 本当のチートというのは、所謂天才系。 何でもそつ無くこなしたり、常人が一生涯努力しても辿り着けないような領域に、アッという間に行ってしまう人間のことだとボクは思っている。 RPGに例えるのなら、最初からレベル六十とかそんな感じ。 さて。この度の転生は、月村さんの家にお邪魔しております。 【月村】。 そう、【アノ】月村家です。 家族構成は姉とメイド……と影が薄い両親。 明らかに可笑しなモノが混じっている……が、気にしてはいけない。 気にしたらソコで試合終了なんですよね? そして当然の如く、【夜の一族】でした。 困る。非常に困る。 夜の一族って言ったらアレですよ?【発情期】何てモノがあるんですよ? 転生・剣士・魔法使い兼医者とかを経験すると、もう吸血種でも驚いたりはしない。 ふ~ん、と一言喋ったらお仕舞いなのだ。 だがしかし、発情期となると話は別になってくる。 人生五十年。と言っていたのは、もう遠い昔のこと。 三回目までの人生を累計すると、少なく見積もっても百五十年は生きていることになる。 まぁ実際には何度も死んでいるので、累計に深い意味はない。 ところが、ある一言を頭に付け加えるだけで、この数字は意味を持ったモノへと変化する。 そう――ボクは童貞さんなのだよ。 百五十年という歳月を経た、生え抜きの童貞さんなんだよ。 三十歳までDTだと、魔法使いなれるという俗説がある。 その計算だと、ボクはプレシア・テスタロッサをも凌ぐ、大大大魔導師ということになる。 もうSSSランクとかも目じゃない位な、ソレこそチートに分類されるかもしれない。 取り合えずこの俗説を検証出来た身の上として、結果をお伝えしよう。 累計百年を超えた辺りで、魔法使い(魔導師)になり、現在は恐らく――Aランク位。 まだ幼稚園生の身の上としては十分過ぎる位。 だけど残念なことながら、俗説は証明されなかった。 ちょっと期待していただけに、凄く残念な気持ちに駆られた。 軌道を修正しよう。 とにかくそんなスーパーDT人には、発情期がある夜の一族の体質は酷過ぎる。 事情を知っているとはいえ、姉やメイドに手伝って貰うのは……嫌過ぎる。 まるで自分の買った十八歳未満視聴禁止なビデオを、女家族と一緒に見なければならないような拷問だ。 ちゃんと対策を考えなければ。 コレは本当に、生死を分かつ死活問題なのだから。 四歳の時に妹が出来た。名前は【すずか】。 そして確信した。 ココが、【リリカルなのは】の世界だということを。 月日が経つのははやいモノで、現在小学一年生。 何時の間にか居なくなっていた両親の存在を不思議に思うことなく、月村の家は今日も回っている。 コレでイレギュラーはボクのみとなり、何時お迎えが来るんじゃないかとビクビクする、今日のこの頃。 死ぬのは怖くなくなった筈。 なのに死への恐怖が蘇ったのは、家族を喪うことからの本能的な感情なのだろうか。 ……取り合えず不測の事態に備えて、剣術の鍛錬と魔法の練習をやっておこうと思った。 小太刀は井関で手に入れた。 だが、デバイスはソコらでは売っていない。 当たり前な話だが、デバイスの材料すら売っていないのだ。 まず、天才兼天災なお姉さまに相談してみた。 ソコで得た結論。 ボクは――――MADを舐めていた。 五歳年上である姉、月村忍は天才だ。 ソレは小学生の時分で、自動人形であるノエルを復元した時点で証明されている。 無いのなら創れば良い。そんな何処ぞの主人公的な発言をした姉は、とても輝いていた。 そしてこの上なく怪しかった。 何故か前髪が両目を覆い、その前髪から覗けた瞳が光っている。 敢えて擬音を付けるのなら、【キュピーン!】。怪しさがこの上ない。 「あ、ココはレアメタルで代用出来そう。う~ん、アレはノエルのフレームを流用して……」 MADはセレブでもあった。 故に彼女に出来ないことは殆どなかった。 頼もしい。非常に頼もしい。我が姉ながら、これ程頼もしい存在はいないだろう。 ……でも同時に。 怪しい。この上なく怪しい。 このMADが――自宅警備用の過剰防衛ロボットを作るようなMADが――何も問題を起こさないなんて、有り得ないだろう。「え~と、自爆装置の解除コードは……」 ホレ見ろ。 言った側からコレだ。 ホント、コレさえなければ……何て思ってはいけないのだろうか。 デバイスが完成した。 記念すべき第一号は、小太刀型ストレージデバイス。 カートリッジシステムも付いてなければ、AIすら付いていない。 本当に余分なモノを全て省き、可能な限り純粋な小太刀に近付けたシロモノ。 名前はまだ無い。 おねーさまは、「二本あるんだから、一本はシロでもう一本はクロね!!」とかのたまっていた。 うん。知識としては知っていたが、月村忍はネーミングセンスの無さに定評があるようです。 しかし折角姉が銘々してくれたので、取り合えずその名前を使うことにしました。 ……とは言っても、ストレージデバイスなら名前を呼ぶことは、殆ど無いんだけどね。 学校から帰れば剣術と魔法の鍛錬が有るものの、学校自体は至って平和なモノ。 小学校は聖祥に通い、今年から海鳴中央に通い始めたところ。 成績は上の中くらいを維持しつつ、特に目立つようなこともなし。 そんな絵に描いたような平和な学園生活。 そう、学園生活は平和そのモノだった。 平和ではないのは、家でも学校でもない。ある【限定的な場所】においてのみ、ボクの日常は戦争へと変化するのだ。 アレは五歳の時の話だ。 この頃になると、ようやく一人歩きが可能になり、公言通り翠屋に行った。 そしてすぐさまシュークリームを注文。そのあまりの美味さに、我を忘れてこう叫んでしまった。「(このシュークリームが)好きだーっ!!(お菓子作りの師匠として)お前が欲しい~~~~っ!!」 目の前にいるのは、翠屋自慢のパティシエール。 そして後ろにいるのは、パティシエール自慢の旦那様。 旦那様の名前は【高町士郎】。永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術の――御神流の師範さま。 結論:後ろから飛針が飛んできた。 補論:長年の鍛錬の結果、条件反射が作動。猿落としが発動し、我に還ったら高町士郎が延びていた。ご先祖様を舐めたらあかんぜよ。 補論の補論:よって、御神流であることがバレた。