前回のあらすじ:レジー、地球行きが決定する。 大将日記ZZ スペシャル拡大版 管理外世界への出動。 いや、実質上は休暇に近い。 シズカに説得された三提督が、自分にも出向くように言い出した。 確かに休暇は必要だが、六課を空っぽにしてどうするつもりなのか? 実際は完全に留守にする訳ではないが、ソレでも前線メンバーが総出というのは不味い。 そう考えていたら、【海】の【クロノ・ハラオウン提督】と【ギル・グレアム提督】がやって来た。 彼らは六課の後見人を務めているので、ある意味妥当な人事だが……。 そんなことを考えていると、私の正体を三老人から聞いてきたグレアム提督が、彼の使い魔を交えての模擬戦を申し込んできた。 コチラは自分とクロノ提督。 ここ数年の内に、何回もバージョンアップしたガトック。 同じように、幾度も改良されてきたクロノ提督のデュランダル。 ソレを知っているハズのグレアム提督は、一体どんな手で来るのだろうか……?「見るが良い!シズカ君の改良を経て蘇った――いや、パワーアップした【メルドラ・ソフル】を……!!」 グレアム提督が若き日に使っていたとされる、【メルドラⅤ】。 まだインテリジェントデバイスの開発が模索段階だった頃。 単一機能に特化したデバイスを複数使用し、あらゆる状況に備えていた昔の話。 そんな中、普段は五つのデバイスを使用し、窮地になったらソレらを合体させて闘っていたモノが居た。 その漢の名前は【ギル・グレアム】。 つまり、グレアム提督の若き日の話だ。 もっとも、時代が進むにつれて旧世代デバイスと化した【メルドラⅤ】。 彼が魔導師の現役を退いた時、そのデバイスも役目を終えた。 以来、その姿を見たモノは居ない。「(……その時代遅れとも言える往年のデバイスが、シズカの手によって改良されていたとは……!)」 使い魔との繋がりが強くなればなる程、彼らのデバイスはその輝きを増す。 今ソレは最高潮に達し、デバイス共々黄金に光り輝く彼ら。 あの輝きこそが、彼らを伝説に昇華させたのだ。「(……相手にとって、不足はない……!)」 クロノ提督にエターナルコフィンを準備してもらい、其方への警戒を強めさせる。 その間に自分はバイクに跨り、相手の後方へ出る。タイミングを合わせての、クロノ提督との同時攻撃。 ソレ以外の小細工は無用。……というよりも、ソレ以外の攻撃は……あの老獪なグレアム提督に効くとは思えない。「エターナル・コフィンッ!!」 クロノ提督の攻撃が始まった。 アレが老提督たちに到達する瞬間に合わせて攻撃するため、コチラもバイクをホバーへと変形。そして上昇させていく。 同時にガトックの装甲はパージされ、素早い動きが可能になる。『…………アン・ドゥ・トロワァ!』 ガトックセクターのスイッチを三連打し、パワーを解放する。 開放されたソレは、スーツに沿って片脚に集結。 そして準備が整った。「ウォォォォォォッ!!バイカーキィィィィック!!」 ガトックのパワーを最大限に利用した、ジャンプ最高点での回し蹴り。 蒼い稲妻のような軌跡を残すそのキックが、グレアム提督に吸い込まれて…………何!? 重さに直すと何トンにもなるという、【バイカーキック】。ソレを……素手で弾いただと!?「……若いな、レジアス提督……!」 光り輝くその身体。 その腕から放たれる、金色の一撃。 ソレはエターナルコフィンすらも打ち砕き、一瞬にして我々の鳩尾に吸い込まれていった。「……ゴハッ!コ、コレが…………【勇者グレアム】の力なのか……!!」 青年提督は今の一撃でダウン。 残るは自分のみ。 ……負けられない。相手が例え歴戦の勇士であろうとも、負けるワケにはいかないのだ……!!「……良い気迫だ。君になら、【勇者】の称号を継いで貰えるかもしれないな……!」「その言葉は…………貴方に勝った後に、もう一度聞かせてもらいますよぉぉぉぉっ!!」 空間が爆ぜる。 光が二人の間に収縮していく。 銀河の誕生と共に起こる、ビックバン。 まさにその情景を模ったような、今の光景。 グレアムと彼の両肩にいる猫リーゼの複層バリアが展開し、一歩、また一歩と後ろへ押し戻される自分。 届かない。届かない。踏み出せば届きそうなこの距離が、今の自分には果てしなく遠く感じる。 またなのか? ゼストをいつも取り逃がしてしまう自分。 力が足りない。どうしてもあと一歩が足りないのだ。 何が足りない? どうしたら、この一歩が埋まるというのだ!? 暴風が吹き荒れ、目を開けていられなくなる。 思わず瞑ってしまったその瞳は、何も映し出していなかった。 真っ暗な、ただ暗くて黒い景色。 見えない。見えるハズがない。だが何か聞こえる。何かが聞こえる。この声は……。『父さん……花の活け方を教えて欲しいんですが……』 オーリスの声だ。 いつまでも手の掛かる、最愛の娘。 ティーダに最初に花を貰った時の、懐かしい思い出。『あの、父さん。あの飴玉の作り方を……教えて欲しいんですが……』 つい、ティーダとティアナに嘘を言ってしまった時の話。 頑張ったが結局ばれてしまい、落ち込んでいた娘。 だが娘の頑張りを見ていると、自分も何か心に去来するモノがあった。 何だ……? 一体、何を感じたというんだ……? ただ暗い景色を進み、ソコに一筋の光を見つけた。『……あなた。オーリスを、頼むわね…………?』 !? そうか。 そうだったのか……。 分かったぞ。 何故グレアム提督が、これ程までに凄いのか。 彼は魔法が上手いのでも、速度が速いのでもない。「(彼は…………【強い】のだ。彼を支える使い魔や、彼自身が歩んできた路が……彼を【強く】しているのだ!!)」 ならば自分が負けるハズがない。 彼を支える使い魔がいるように、自分には亡き妻とオーリスがいる。 シズカが作ってくれたガトックもある。相手と条件は同じなのだ。 …………!! ソレに気付いた瞬間、世界から徐々に色が抜け落ちてきた。 フルカラーから四色刷りの世界に変わり、周りの動きが遅く感じるようになる。 ソコにはグレアム提督がいた。コレが彼の居た空間。コレで条件が本当に五分になったのだ。『ついにココまで来たのだね……?』『……ココは一体……?何故貴方と話が出来るのですか……?』 現在は模擬戦という名の、【血戦】の真っ最中。 だが【ココ】では非常に緩やかに時が流れ、感覚が非常に研ぎ澄まされる。 まるで時間も空間も超越したような、そんな感覚だ。『私は便宜上、【ゼロ・テリトリー】と呼んでいる……』『ゼロ、テリトリー……』 鷹揚に頷く老提督。 その目には様々なモノが映し出されているようで、彼は何処か昔を懐かしむ様子でもあった。 やがてグレアム提督はコチラに向き直ると、覚悟の籠もった瞳を自分に向けてきた。『ココは私の領域だ。だからココでは私に、負けはない……』『…………』『だがそれでも……それでも私に勝ちたいと言うのなら…………ココを、【ゼロ】を超えて挑んで来たまえっ!!』『…………!!』 レースに例えるのなら、最終コーナー直前。 お互いが死力を出し尽くして回る、最後の曲がり角。 力と力というよりは、根性同士のぶつかり合い。ココではソレが求められるのだ。「私は両手で攻撃出来るが、君は脚での攻撃……つまりは一撃のみ!コレで…………私の勝ちだぁぁぁぁっ!!」「(…………クッ!?)」 グレアムの指摘通り。 ジャンピング回し蹴りであるレジアスの攻撃は、連続して撃つことが出来ない。 それにバイカーキックは、片脚のみにパワーを集中させるモノ。仮にもう一撃放てる体勢になっても、パワーが……。『…………アン・ドゥ・トロワァ!!』 !? ガトックセクターが、独りでに動き出した。 もう残っていないハズのパワー。ソレがもう一度集結し、自分の脚に満ちていく。 ……お前は最高だ。 最高の相棒だ。 この目の前の【最強】を倒せと、援護してくれるのだからな!!「バァァイカァァァァァァ……………キィィィィィィィィックゥッ!!」 迫る拳。 ソレを装甲一枚でかわし、コチラの一撃を叩き込む。 装甲一枚。たったソレだけの差であり、その差が勝敗を分けたのだ。「…………見事だ。人の執念、見せて貰った……」「……ありがとうございます……」「……おめでとう。今日からは、君も【勇者】の仲間入りだ……!」 【勇者】は特別な存在ではない。 【勇気】がある、全てのモノがそう呼ばれるのだ。 だから胸を張って頂こう。その【勇者】という称号を。「……ありがとう、ございます……!!」 彼らになら、六課の留守を任せられる。 自分たちと同じ志を持つ彼らなら……。 そう考えて、ふと周りを見回すと…………クロノ提督のステーキ(ウェルダン)が、ソコにはあった。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【九】 最近ティーダの病室で、おかしなことが立て続けに起こっている。 突然ティアナの写真が現れたり、いきなりティアナの様子を収めた映像が流れ出したり。 念のため病室を変えてもらうも、また同様の出来事が起こり出す。 それと関連して、その時にティーダの唸る様子が確認された。 普段は反応一つ見せない彼。 だがその不思議現象が確認された時のみ、ウンウンと唸りを上げる。 医者も不思議がるが、意識が戻る可能性が高くなっていることも、また事実だと言っている。 結局考えても解決しないので、放置することにした。 それよりも、自分にはやらなければならないモノがある。 ソレは……花を活けること。 この山は、いつも自分の行く手を遮るのだ。 今日こそは乗り越えてみせる! ……と意気込んだのだが、バラの棘が刺さるという大失態。 バラの棘は花屋で処理して貰える。 ソレをオーリスが知ったのは……六課が解散した後のことだった。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!