前回のあらすじ:ヤンデレは怖いですね。 アレから一時間半。 思ったよりも時間を稼げている。 正直、もっとはやく追いつかれると思ったのだが……何かあったのだろうか? 現状を確認しよう。 ココは月村家のボクの部屋。 先程まで左腕の治療をしていたので、疲労困憊気味だ。 まず外科的手術で表面を繋げて、次にカリムに血を分けて貰った。 そんで治癒魔法を強引に掛けて……完治!!夜の一族をなめんなっ!!とか、そんな感じ。 とは言ってもソレは身体的なモノで、魔力はそう残っていない。それに体力とかも、ゴッソリ持って行かれたしね。 しかしこの程度で済んだのだ。文句は言うまい。 ソレより問題なのは、さっきカリムに血を分けてもらったこと。 一応本人には目を閉じててもらっていたけど……。 首筋に二箇所の痛み。 通常では考えられない程の速度で進む輸血。 そして……傷痕が残らない。「(……どう考えてもおかしいよな。おかしいと思わない方が、変な位だからなぁ……)」 気は進まないし、向こうも黙っていてくれるのだ。ならこのまま流しても……と思いつつ、ボクはあることを思い出した。 【誓約】。別に【誓い】と言い換えても良い。 ボクたち夜の一族は、その正体をバラした時には【ある行い】をしないといけないのだ。 【バラした相手の記憶を消して、関わりを消す】。 【バラした相手の記憶を消さずに、秘密を共有してもらう】。 秘密の共有を選んだ場合は、その相手との関係も決めること。 かつて姉である忍と、後にそのパートナーとなる恭也が通った路。 彼女らの選択は【恋人】。 ……というか、生涯を共にするモノ。 普通の高校生が出来るような選択肢ではない。 でもアノ二人はソレをした。 まるでソレが運命であるように。それでいて、二人の闇の部分が互いを惹きつけたかのように。 考えていても仕方がないな。 コレばっかりは、ボクが選べるようなモノでもないし。 とりあえず、カリムに説明しておきましょうや。「……カリム。さっきはありがとね……?その……血を分けてくれて……」「そんな!?元はと言えば、私がすずかさんを怒らせてしまったから……!」「……あのねぇ?ソレも含めて、ボクのせいでしょうに?ウチの妹とボクが、カリムに迷惑を掛けた。だから助けた。当たり前のことなのさ……」 マッチポンプじゃないかって疑いたくなるような事件だ。 いや事件とも言えない兄妹ゲンカ。 今回はたまたまソレに変な要素が加わっただけで、内容にそう大差はない。「……ですが…………!」「それよりさ、少し真面目な話をしようか……?」 自分で言うのも何だけど、いつものボクは真面目とは言い難い。 そんなボクが見せる、殆ど見せない真面目な態度。 その意味はカリムにも分かったらしく、彼女は姿勢を正した。「カリムさ。さっき血を分けてもらった時、おかしなことがなかった……?」「…………首筋の【二箇所】の痛み。通常では考えられない程の速度で進む輸血。あと……傷痕が残らないこと、ですか…………?」「……ウン。あとさ、ボクの腕おかしくない?幾ら治療魔法をバンバン使ったからって、こんなにはやく完治するワケないよね……?」「…………えぇ」 疑問点を洗い出し、ボクが如何におかしな存在かを浮き彫りにする。 そして告げる、ボクの正体。 【夜の一族】。そういった名前を冠した、化け物のことを。「……そうだったのですか……」「……うん。だからさ、選んで欲しいんだ。コレからどうするかを……」 選択基準等を話し、ソレを終えると黙り込むボク。 瞑目する。 ボクには初めての経験。たぶん予想だけど、カリムは記憶の消去を望まない。 彼女の優しい性格のことだ。 たぶん記憶消去は選ばないだろう。 だけどソコからが分からない。 友だち……何か違う気がする。 恋人……ないない。 あとは…………何か、あったっけ……?「私は…………」 おっと。 流石に相手が言うのを聞く時は、ちゃんと目を開けてしっかり聞こう。 そうでないと、相手に対して失礼に当たるしね。「私は…………【婚約者】を選びます……!」「……………………ハッ!?」「ですから……」「いやマテ。聞こえたから!聞こえたから、もう一度言うなんてしなくて良いから!?」 【婚約者】。 そんなの聞いたことがない。 夫婦でも恋人でもなく、ましてや友だちでもない…………予想外過ぎる、その【答え】。「…………どういうつもりだ?何だってそんなモンを……」「……【婚約者】。便利な関係だと思いませんか……?【夫婦】になることも出来れば、【恋人】になることも出来る。さらには【他人】にもなれる、その立場……」 ……呆れた。 このお嬢さん、ボクとの関係がどう変わろうとも、決して記憶を消さない選択肢を選ぶつもりなのだ。 【婚約者】はあくまで【肩書き】だ。実質的な関係との齟齬があることも有り得る。 コレは言い換えれば【契約者】とも言い換えられるし、【共犯】とも言える。 ただ嬉しいのは、彼女は決してボクを忘れないと言ってくれてるのだ。 ……ちくしょう。泣かせるのは反則だよぉ……。「……ありがと。お礼に、せめて君の【虫除け】にでもなるとするよ……」 正面を見られない。 何か思春期少年のような気恥ずかしさを感じつつ、ボクは視線を右斜め前にやる。 ソコには古ぼけた引き出しがあった。 昔、まだこの家に居た時に使っていた、小型発明品の保管庫。 今程技術はなかったが、熱いモノを詰め込んでいたアノ頃。 懐かしい思い出だ。その引き出しに手を掛け、中から一つのモノを取り出す。 ――ドォォォォォォォォンッ!! 敵さん……いや。我が妹のお帰りだ。 ココは兄らしく、ちゃんと出迎えてやらないとね? そういえばファリンは、一体何処に行ったのだろうか……?「オニィィィィチャァァァンッ!!」「……ハーイ、ココに居るよぉ……!!」 極めて自然体で。 というかあまり力の入らない身体なので、今はコレが精一杯。 某大泥棒の三代目のようにおどけながら、ボクは妹の前に歩いていく。「すずか、遅かったじゃないか……?お兄ちゃん、待ちくたびれちゃったぞぉ……?」「……ゴメンなさイ。とちゅうでファリンがじゃまするモンだから……」「……彼女をどうしたんだ……?」「…………ウフフ。ダイジョウブヨ?アノコなら、コワレテもナオセルシネ……?」 ファリンはノエルと同様、【自動人形】である。 故にヒトとは異なった存在であり、ヒトより頑丈で【修理】することも出来る。 ……ということは、彼女の容態は深刻ではあるが直せる範囲……だということか。……安心したぁ。「…………」 ボクのクリア条件は、すずかを倒してジュエルシードを引き剥がすこと。 単純な魔力ダメージで倒せそうにないのは、既に予想済み。 想いの力が強ければ強いほど増幅される、その力。……絶対に元のすずかに戻してやる!!「サァ、オニイチャン。ソコヲどいテ?ジャナいト、あノオンナヲシマツでキナイヨォォ!!」「……させないよ」 さっき引き出しから取り出した【ソレ】。 ナックルダスターとスタンガンの中間のようなデザインに、所々に稲妻のように走った金色のパーツ。 全体は黒色で、高圧スタンガンとしても使えるソレ。「……オニィィィィチャァァァァンッ!!」「……あんな天然入った娘でもさ、今はボクの【婚約者】なんだ。だから……!」 ソレを右手で握りつつ、顔の前に持ってくる。 なにぶん、昔作ったモノだ。 性能は低いし、身体への負担もデカイ。だけど今の状態のボクが素で闘うよりかは、よっぽどマシで…………すずかを救えるかもしれない唯一の手段。「【ボクの】カリムには手出しはさせない……!!」 先程繋いだばかりの左手。 その掌にナックル【のようなモノ】を押し付け、ソコからボクの情報を読み取らせる。 すると途切れ途切れの合成音が聞こえ、ソレが使えるようになったことを教えてくれる。『レ・ジ・イ…………!』「変身……」 叫ぶでもなく、小さく呟くようにそう言った。 すると、いつの間にやらボクの腰に出現していた、漆黒のベルト。 中心部に紅い宝玉を付けた大きなバックルがあり、ソコにナックル【のようなモノ】を填め込む。『ミ・ス・ド・オ・ン…………!』 今ココに居るのは月村静香ではない。 白と黒のスーツに、銀色の胸当て。三叉に分かれた金色の角は、マスクも兼ねた優れモノ。 マスクドライダー【エグザ】。ソレが、今ココに居るモノの名前である。 暴走すずか。 左手の鉈で攻撃してきたので、まずをソレを叩き落す。 続いて右手の包丁で突貫。突っ込んできたところを逆手で止めて、すずかの動きを止めた。「すずか……ボクとお前は兄妹だ。決して結ばれることもないし、ボクもそんな目で見たことはない……!」「ウヲォォォォォォォォ!!オニイチャァァァァンッ!!」 はやく決着を付けないと、理性を完全に持って行かれる。 ソレだけは、絶対に避けないといけない。 ……仕方ない。なのはじゃないけど、少し痛いの我慢出来る?……って感じで行くかぁぁっ!!「……でも!それでもお前は、オレにとって最高の……世界でたった一人しかない【大事な】妹には変わりない……!!」「!!」 動きが止まった。チャンスだ!! USBメモリースティックのようなモノを取り出し、ベルト前面のリーダーに差し込む。 ソコから情報を読み取ったベルトはナックル……で良いや。ソレにパワーを流し込む。 ――パシュゥゥッ!! 小さな白煙を上げて、ナックルが再びベルトから開放される。 放電。 そして炎化。『エ・グ・ザ・ナッ・ク・ル・プ・ラ・イ・ス・アッ・プ…………!』「だから今!ソコから…………解放してやる!!」 轟炎になったソレを、すずかに叩きつける。 元々のソレに、ボクの魔力を足し合わせたモノ。 コレでダメなら、もう後がない!!「…………」 倒れたすずか。 即座に脈と呼吸を確認する。 ……大丈夫。ちゃんと生きてる。「ふぅぅ……っ!やった、やったぞ!!」 喜びの声を上げながらも、思考はまだ動き続ける。 すずかの暴走の原因。 【ジュエルシード】を探す、そのために。「……ない。ないっ!!どうして!?一体ドコに行っ…………!?」 窓の外。虚空に浮かぶ、菱形の宝石。ソレはまるでホラー映画のようだった。 すずかの身体からは分離したものの、未だ封印には至らず。 ……やっかいなこと、この上ないな……。『…………!!』 変化は一瞬。 本当にその一瞬の間に、ジュエルシードは猛スピードで何処かへ行ってしまった。 あのスピードだ。今のボクには捕まえられない。 もしかしたら、機動六課の探しているロストロギアって、アレのことだったのか……? だったら丁度良い。 あとはアイツらに任せて、ボクとカリムはすずかを連れて【あの場所】に行こう。 すずかの治療。ボクにもソレは必要だし、それ以前に今は内偵任務の真っ最中だ。 ならば全てがココより設備の整った場所の方が、良いに決まっている。 途中でカリム・ファリンを回収すると、ボクたちはレジアスたちが待つ【あの場所】へ飛んだ。 EXTRA EPISODE 場所はスーパー銭湯。 ソコでは月村家の騒動もウソのように、ただ皆が日頃の疲れを癒していた。 それには部隊長も例外ではなく、その任にある【八神はやて】もまた同様であった。「いやぁ~~♪えぇぇモン見せてもらった上に、触り放題!!日頃のストレスがふっ飛ぶみたいや~!!」 エロオヤジモードまっしぐらな彼女。 だがソレも無理はない。それだけ彼女の周りには、【特定部位】がとても魅力的な女性が多いのだから。 ……手に残る感触を楽しみつつ、はやてはふと鏡の中の自分を見た。「…………ハァ~。あの行動は、自分にないモノの裏返し……認めたくないモンやなぁ……」 機動六課女性陣の中では、【控えめ】な彼女。 別に世間一般から見ればそうでもないのに、如何せん彼女の周りは【ある意味】人外魔境が多すぎる。 故にコンプレックスが刺激される結果になり、彼女に影を落とす。「あ~…………どっかに願いを叶えるロストロギアでもないんかなぁ……?そしたら、【デカくして下さい!!】って言ったるのに……!!」 神は居ない。 その代わりに、ロストロギアは存在する。 だから彼女は予想出来たハズだ。自分の願いを叶えるロストロギアが、居ないとも限らないことを。 ――キィィィィィィィィンッ!! 何処からか音がする。 それも余り大きな音ではなく、小さな何かが近付いてくるような音。 辺りを見回す。 前良し。 左右良し。 後ろ良し。「…………別に何もないなぁ……?一体何だったんや…………ってギャパッ!!?」 彼女の確認し忘れた上方。 ソコから飛来した物体が、彼女の額にクリーンヒットした。 ソレは彼女の願いを叶えるモノ。そう…………彼女はこの後、自分の願い通りに【大きくなった】のだ。 大将日記X シズカが漸く合流した。 だがアイツは既にボロボロで、妹さんも同じく傷だらけ。 即座に医療棟に運んで行き、治療を受けさせる。 妹さんを医療カプセルに入れ、シズカは自身に輸血を開始する。 その後騎士カリムに事情を聴き、ソコでやっとコトの全容が掴めた。 ロストロギアの暴走事故。 コレは管理局としては看過出来ない事態であり、恐らく機動六課のターゲットと考えて良いだろう。 それに関してはシズカも同じようで、とりあえずこのまま通常任務を続ければ、彼女たちが確保するだろうとのこと。 もし彼女たちが素通りしてしまったら、その時に我々が乗り出しても遅くはないらしい。 というのも、そのロストロギアは既に弱っていて、余程強い願いでないと反応しないのだとか。 それ位の願いを持つモノは極めて稀のようなので、まずは一安心といったところだ。 ……そう思っていた。 ところがその目論見が一日以内に瓦解してしまうことになるとは……この時は誰にも予想が出来なかった。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨参】 現在泥酔中。再起動の予定は、AM六時。 ……現在五時五十五分。 ちなみに髪はそのまま、金髪風味。 ……キミ(オーリス)は、生き残ることが出来るか!? あとがき >誤字訂正 俊さん、hibikiさん。「士郎にはああは言ったものの~」のトコロでお世話になり。誠にありがとうございます! satukiの見落とし&勘違いで、皆様には大変ご迷惑をお掛け致しました。 本当に申し訳ありません! 俊さん。前回の誤字報告も、重ねてありがとうございました!