前回のあらすじ:士郎に御神流を使えることがバレた。「……済みません。とっさに手が出てしまって……」 取り合えず謝る。 で、謝っている内に現状の打開策を考える。 浮かんでは消え、消えては浮かんで。どれも説得力に欠けるようなモノばかりだった。「……いや。先に手を出したのはコチラなんだ。そのことに関しては、俺の方が謝らなければならない」 額にアイスノンを当てながら、若干ムッとした表情で答える士郎。 彼が不服そうなのは、自分がのされたことが原因なのか。 それとも、妻に愛の告白(モドキ)をした野郎(とはいっても、見た目は五歳位)を快く思っていないからか。「それよりさっきのあの技は……」 訂正。 やはり師範としては、自らの流派の技を見ず知らずの少年が使う理由を知るのが優先らしい。 優秀な人材だ。頬に出来た傷を、現在進行形で妻に治療して貰って鼻の下が伸びていても、やはり彼は優秀だった。「(……隠し事っていうのは、バレた時には百倍になって返ってくることもあるし……)」 長い、本当に長い人生を歩んでいると、そんな経験はゴロゴロあった。 別に腹芸をしても良いのだが、嘘というのは自分以外の要因でバレることもある。 本当っぽい嘘と、嘘っぽい本当。 信じて貰えるかは別として、話すとしたら本当の方が良い。 退魔師やHGSまでいるような世の中だ。 良く考えれば、御神流そのものが非常識の体現者のようなモノ。上手くいけば、信じて貰えるかもしれない……自信はないが。「……嘘っぽいし、そんなの有り得ないって思うかもしれません。ソレでも良いなら、お話ししますが……」 一応、断りを入れる。 同時に、士郎のみにピンポイントで殺気を向ける。 反応アリ。でも怯まず。仕方がないので本当のことを話す。「……良し。今から病院に行こうか?」 予想通りの反応が返ってきた。 仕方がないので、信じてもらえるまで御神の家のモノにしか分からないことを、延々と話し続ける。 途中、話が逸れて鍛錬の方法に話題が飛び、漸く信じて貰えた模様。 嘘っぽい本当を信じてもらうのには、相当な労力が必要だということが分かりました。 あと、失伝したモノがあったようなので教えてあげたら、何か凄い嬉しそうに懐かれた。 五歳位の男の子に、土下座せんばかりに従う中年。傍から見たら、さぞかしシュールだっただろうな。 それ以後、翠屋はボクにとって戦場と成り果てる。 理由は簡単。士郎が、隙あらば襲い掛かってくるからだ。 精神年齢的には稽古を付けても問題ない。だが見た目は小さな男の子に襲い掛かる、ダメな大人の姿。 小さななのはに注意され、正座で反省させられる士郎。 士郎がフリーズ中のみボクは開放され、桃子さんの所に教えを請いに行く。 その時間比、およそ二対一くらい。 もっとお菓子作りの修行に時間を割きたいのなら、士郎を瞬殺しなければならない。 しかし、回復魔法で完治した士郎は手強い。 魔法の実験台とばかりに掛けた過去の自分を、呪ってやりたい今日のこの頃。 おかげで現役最強の存在という、モンスターになってしまった士郎。 恭也は背中が遠くなったと、喜んでいるのやら悲しんでいるのやら複雑そう。 美由希からは、危うく【おじいちゃん】とか呼ばれそうになる始末。 繰り返し言うようだが、ボクはチートな存在なんかじゃない。 五歳児が大の大人をあしらえるのは、身体強化の魔法と過去の鍛錬の賜物なのだ。 全てが努力の結晶なんだ。 人間、相応の時間を努力に費やせば、出来ないことは殆どない。 だからヒトは努力し続ける訳だし、ソレをやめないのだ。 でも。それでも出来ないことだって、残念ながら存在する。 具体的には美由希の料理とか。美由希の料理とか。 頭の中でそんなエコーが掛かるのを感じながら、ボクの意識はソコで暗闇に閉ざされた。 そう。美由希の料理を食べさせられながら。 話を再び現在、中学一年の時に戻そう。 両親が遺した莫大な財産が有るとはいえ、蓄えは多いに越したことはない。 取り合えずMADねーさまに色々と仕込んでもらった結果、有る程度のモノなら自分でも作れるようになった。 最初に着手したのは、自分の夢の一つ。マスクドライダーなモノを創ること。 最初からベルト型を創ることは、世界の法則に反する。 だから一番目は、装着スーツ型に決めた。 名前はC3。このパチモノくささがたまらない。 完成したC3の正式採用の為に、地道なイメージアップ政策に着手。 この世界ではアギt(略)はやっていなかったので、まず番組を作成させてお子様と奥様と大きなお友達のハートをキャッチ。 握手会に始まり、必要とあらばドブさらいまでやった。 結果。 警視庁さまで正式採用が決定。 制式型として、C3-MILDを量産し、全国に配備された。 おかげで、青く輝く菱形の宝石のみを対象とした、金髪のスクール水着の少女怪盗との闘い日々が始まったらしい。 一着のみ存在するC3-Xで怪事件を解決し、現場で発見された蒼い宝石。 少女が何故ソレを狙って現れるのかは不明だが、一つだけ言えることがある。 【本日○時、警視庁に保管されている蒼い宝石を頂きに参上する。 怪盗 金色夜叉】 金色夜叉って命名、一体誰がしたんだろうか。 怪盗金色夜叉が出始めてから、はや一週間。 警察では日夜、HGSまで導入した対策を講じていた。 しかしそんな警察の努力を嘲笑うかのように、第二の怪盗が出現した。 【本日○時、警視庁に保管されている蒼い宝石を頂きに参上するなの♪ 怪盗 ホワイトエンジェル】 桃色の怪光線で警察の包囲網を突破し、得体の知れない環で人々と捕らえていくその姿。 本人はホワイト【エンジェル】と自称しているが、ニュースや新聞……果ては警察内での呼称もソレとは別のモノになっていた。 怪盗【ホワイトデビル】。ソレが世間一般での彼女の通り名である。 何度も何度も襲撃され、その度にこ○亀のように立ち直る警視庁の庁舎。 幾度も襲撃されたことで、警察は学んだことがあった。 ソレは有る意味、至極当たり前のことだった。「あの宝石を、警視庁の外に置いておけば良いんじゃない?」 結果。なるべく更地に近い所に宝石を置いてみたところ――――翌日にはクレーターが出来ていた。 何処から聞き付けたかは知らないが、C3システムを採用したいというオッサンが現れた。 彼の名前はレジアス・ゲイズ。 そう。ミッドチルダ地上本部の中将さまがいらっしゃったのだ。「あのC3とかいうシステムは、ワシの理想そのものなんだ!頼む、アレを使わせてくれ!!」 そう言われたら、断る理由なんか存在しません。 すぐさま質量兵器にならないよう、武装を絞ったC3を数体導入。 布教……もとい、広報活動は日本でやったモノを採用し、何とか各隊に二体ずつの導入と相成った。 ただ一つ、ココで予想外の自体が勃発。 何とレジアス自身が、C3を装着したい申し出てきたのだ。 彼も己の力で平和を護りたかったのと、子どもの頃からの夢が捨て切れない大人だったらしい。 熱くなる目頭を押さえつつ、彼の体系に合わせたスーツを開発しようと思った。 ……が、ソレに待ったを掛けたのは彼自身。 理由を聞いてみると、「ワシ……いや、オレは特別な何かで平和を作りたいんじゃない。みんなと同じモノで平和を護りたいんだ」 そう言い残すとレジアス中将は、次の日からリンゴダイエットやフルマラソンをし始めた。 僅か一週間で、スーツに体型を合わせた彼が誕生。 もうソコには、肥満体型の嫌われ者なレジアス・ゲイズはいなかった。