前回のあらすじ:みんなが待ってた王様、満を持して光臨。 やぁやぁ諸兄、お元気かい? ボクは今……比喩表現ではなく、本当に死にそうな状態。 何かでっかいワンコが非常に懐いてきてるんだけど、【この】ワンコはノーセンキューです。 白い鉢巻。 その腕にあるのはリボルバーナックル。 そのワンコは、どう見ても【スバル・ナカジマ】という生物だった。 コレがザッフィーとかなら話が変わるんだけど、生憎コヤツは人間。 人語をけたたましく喋り、コチラの話を聞かない【突撃型爆裂御嬢】。 正直相手をするのが、とぉっても大変です。 昔以上にパワフル&大音量になったソレは、どう見ても空気読めない子でした。 ボクもそれなりに空気を無視するけど、この娘はソレ以上。 これじゃあ、相方のティアナがキレるのもムリはないなぁ……と納得する。「あぁ……ホントにシズカだぁぁっ!!懐かしいなぁ……!!」 ことの発端は、司令席で承認かましたオッサンが原因だ。 はやてタヌキ(仮称)を倒して、ノーヒットベースに帰ってきたスバル。 その前でレジアスが、ボクを【シズカ】と呼んでしまったことに起因する。 【シズカ】。 ⇒どっかで聞いたような……? ⇒レジアスおじさんの知り合いっぽい ⇒レジアスおじさんと言えば料理とお菓子。 ⇒お菓子と言えばケーキ! ⇒ケーキと言えば……!! 以上が、彼女の中での連想ゲーム。 正直呆れる程の思考回路だが、それでも思い出せたのは大したモノだ。 ……忘れてくれた方が、コチラは楽だったんだけどなぁ……。「ねぇねぇ、覚えてる……?昔ギンねぇと一緒に、シズカに【プロポーズ】した時のコト……!!」 ――ピシッ!! あ。今、空気の割れる音が聞こえた。 司令席を見る。どっかのオッサンが、準備運動を始めたようです。 オペレートシートを見る。するとソコでは、麗しの姫騎士が笑っています。……ただし、何かバックに黒いモノが漂っているけど。 参謀席のワンコと安全装置集積デスクの奥様が、手を添えながらヒソヒソ声で喋ってる。 ……どう見ても、下世話な奥様会議だ。 ココにボクの味方は、最初から存在しないらしい。「……あ~、スバル……?悪いんだけど、オイちゃんの記憶では…………そんなコトはなかった思うんだけど……?」 つーか、全く記憶にない。 当時スバルが大体八歳前後で、ボクは十五歳くらい。 となると、小さな頃の記憶として捏造されてる可能性が、非常に高い。……ていうか、そうであってくれ。「ホントだって!!昔、シズカに言ったもん!!『一生私たちのご飯を作って?』…………って」「……マテ、マテ!ソレには、大事な部分が抜けてるだろうが!」 ……思い出した。 当時ボクとレジアスは、超巨大ウェディングケーキをはじめとして、様々なモノを作らされた。 【バケツプリン】や【風呂釜サイズの釜飯】とか……思い出すだけで胸焼けがする。 んで食欲に釣られたナカジマ家の娘二人は、どうすれば一生この食事とかを食べられるか計算。 その結果が、まず【レジアスおじさん】のお嫁さんになること。 だが、当然レジアスは却下(非常に嬉しそうに目尻を下げていたが……)。 ならばと次善の策で白羽の矢が立ったのが、ボク……だったと言うワケさ。 何てことはない、小さな頃のおふざけ程度のモノ。 ……断っておくが、ボクはちゃんと断ったぞ……?『……お前らの食事を毎日作られされたら、給料がいくら有っても足りないだろ?……悪いが、他の高給取りを探してくれ……』 ……ってね?「…………アレ?そんな話だったっけ……?」「……お前さんの頭の中ではどうなってるか知らないけど、コレが事実だ。……っていうか、そんな昔のことなんて、どう考えても時効だろうに……?」 小さな頃の【結婚の約束】なんて、お話の中でもない限り風化するモノだ。 ましてや断ったモノ。 どう考えてもソレは約束足りえない。「……第一、ボクは言ったよね?オマエさんたちの食う量が、当時の半分以下にでもなったら、【考えてやる】……ってね?」 そんなの、この色気より食い気の姉妹にはムリだ。それに、あくまで【考える】だけ。 確かにナカジマ姉妹は可愛いが、【クイント・ゲンヤ・レジアス】。 その三人を相手にしてまで、ボクはこの姉妹をお嫁さんにしたいとは思わん。 迫り来るタービン。 二人の共同作業・アカヅキノオオダチ。 空から飛来するバイカーキック。 …………うん。この二人の嫁の貰い手はいないな。 っていうか、誰が来ても無理な気がする。 ソレこそ、レジアス位しか居ないんじゃないの……?「……で?今は当然、あの頃よりも食うんだろ……?」「……………………ア、アハハ……ッ!!」 沈黙は肯定。 しかし渇いた笑いもまた、肯定の意を表す。 ソレがはからずとも証明された。まさにそんな瞬間である。「……それにさぁ、動機からして不純なんだよ?何だよ、『美味しいご飯が一生食べたいから』って言うのはさぁ……!?」 そんなの女の子に対して、『美人だから付き合って!!』って言ってるのと同レベルだ。 つーか、失礼極まりない。 そんなの相手にするは、ゴメンでござる。「……ま、この話はコレで終わりだ。だから…………ソコで準備運動してるオヤジは、すぐに整理体操に入れ……!!」 いつでも人誅可能な態勢を取っていた、地上本部の大将様。 あとブラックカリムさんも、そろそろ元に戻って下さいな。 ……アレ?カリムが怒る理由って…………そう言えば、知らんな?「…………シズカ。オレはオマエを信じていたぞ……?」「……だったら何で、ガトックセクター握り締めてるんだよ……?」 完全に武装準備完了なオッサン。 こりゃぁ、オーリスの時も同じだったのかなぁ……? そういえばティーダって、どうしたんだろ?ヴォルヴォッグなら知ってそうだけど……まぁ、いっか?「スバル。ココでオマエが体験したことには、全て守秘義務が発生する。分かってるとは思うけど……」「守秘義務、ってコトは…………なのはさんたちにも内緒にしなきゃ、ダメってこと……?」「当然。……って言っても、オマエさんは口が軽いからなぁ……?」 本人の意図せず、この娘は口が軽い。 特に【なのはさん】が絡んだり、ヒートアップすると余計にそうなる。 ……でも、極力その傾向を押さえ込む手段は……ないこともない。「……スバル。もし六課の解散までこの守秘義務を護れれば…………【お菓子の城】を作ってあげよう……!!」「了解しました!!スバル・ナカジマ二等陸士、全力を以って御期待に応えてみせます!!」 ……扱いやすくて、大変結構。 このワンコ娘は、とりあえずコレで大丈夫。 あとは…………ニャレオンとかか。 はやてタヌキ(仮称)戦を終えて帰還した、【ギャオギャイガー】。 流石に試作品だったこともあってか、至るところに破損やダメージがあって、とてもじゃないが持って帰れそうになかった。 パーツそのものの耐久値や、合体による自己ダメージが大きい模様。 自己修復機能を働かせて、それでも完全回復までには相当かかる状態。 ……仕方ない。ニャレオンたちは、ココで眠りについてもらおう。 ノーヒットベースを完全封鎖した上で、光学迷彩を掛ける。 セキュリティも万全を期したので、地球のテクノロジーではまず発見すら出来ない。 ……って油断してたのがいけなかったのだろうね? 地球外の技術、特にインヒューレント・スキルには【潜行系】のモノがあるということを……ボクはすっかり忘れてたのだ。 機動六課の食堂。 ソコは二日ぶりだというのに、随分と久しぶりに感じる場所だった。 食堂のおばちゃんに留守を預けていったので心配はなかったが……何だが状況が少し変わっていた。 アレだけカマボコを残していた、【桃太郎に似た名前のヒト】と同じ声をした職員。 その彼が涙を流しながら、ソレを食べていたのだ。 もちろん嬉し涙ではない。だがソレでも、おばちゃんの力が絶大であることを知った。 そして理解した。 ココはもう、ボクの戦場ではないと。 ソレから先は、非常に迅速だった。 その日の内に食堂という名のボクの【戦場だった】場所を去り、地下での作業に没頭するつもり……だったのだよ? でも気が付いたら、六課の一画で小さな小さな喫茶店を開かされていた。 名前は【茜屋】。 翠屋の名前にあやからせてもらったので、半端なモノは出せない。 幸い店舗の小ささから一定以上は忙しくならないので、妥協をしない菓子作りが可能になった。 ついでに言うと、【メイドリンディ】もコッチに転属。 今回の件の発案者は、レジアス・カリム・リンディ・ザフィーラ。 店内には、ザフィーラ専用の隔離区画……という名の犬小屋の姿があり、今の彼の家はソコである。 ……アレ?そういえばザフィーラって、今までは何処で寝泊りしてたんだ……?「店長さぁぁん、私に出番を!!もっと活躍出来る道具、出して下さいよぉぉぉぉっ!!」 茜屋開店数日後。そのカウンターには一人の白衣の女医……っぽい存在がおりました。 名前は【シャマル】。ザッフィーやニート騎士と同じく、【ヴォルケンリッター】の一人である。 ちなみにボクは蒼いタヌキ……じゃなかった。蒼い猫じゃないんだけどね……?「……出番はともかく、何でアンタが道具とか知ってるんだよ……?」 一応【正体バレ】はまだなのです。 なのに、なんでこのヒトは知っているのでしょう? ……イヤな予感しかしないな……?「いえね?六課に配属以来、全然お仕事がないものですから……あちこちを【観る】のが趣味になっちゃいまして……♪」「…………【シャマル】、評価表に×を四つ。オメデトウ……現在はキミがトップだよ……?」 アチコチ覗くのは犯罪です。 ソレを思えば、×四つは軽い方。 ……そういえばこの前のはやての失態、まだ×付けてなかったなぁ……丁度良いので、一つ付けておこう。「イヤァァァァッ!!…………でも!それでも私は、活躍したい……!!」「……めげないヒトだなぁ。でもさ、アンタが活躍する場面っていうのは、どう考えても怪我人だらけの状況だよ?ムリじゃね……?」 医療班のシャマルの活躍する場面。 ソレは【怪我人治療】という名の戦場だ。 他に活躍出来る場面があれば、もう少し話は変わるのだが……。「ハイ、ハイ!それなら、攻撃手段を下さい!!」「……足りないトコロを補う……まぁ、その発想は正しいんだけど……」 根本の発想の方が、既に正しくないのだ。 出番のために攻撃手段を手にするという発想。 どう考えても間違っています。……良ぉし。そういうことなら、コッチも本気でやる必要はないな……?「……分かった。なら、【コレ】をキミにあげよう……」 つい先日生成した、Cストーンとは別個の存在。 持ち主の闘争本能を武器に変える、六角形のカタチをした金属。 【刻金】。ソレがこの物体の名前である。「アンタ用は、【XLIV】つまり四十四番。そんで……」 一通りの使い方と、最悪の場合を想定して【蘇生】方法も伝授しておく。 もしも心臓が止まる、または傷付けられた時。 その時その患者にコレを投与すれば、コレは新たな心臓として機能することを。「……とまぁ、そんな感じだよ?」「あ、ありがとうごじゃいますぅぅぅぅっ!!コレで、コレで出番がぁぁぁぁっ!!」「……泣くなよ。そんじゃ悪いんだけど、ちょっと留守番を頼む。そろそろ業者さんが、果物とか届けてくれる時間なんでね……?」「わ、わがりまじだぁぁ!!」 大の大人が鼻水と涙まみれなのは勘弁だ。 ボクはシャマルに後を任せると、逃げるようにその場を去っていく。 そういえばアイツ、今日の仕事は…………ヤメ。気にしたら負けだ。「……そういえば留守番って…………一体何をすれば……?」 遠慮気味にカウンターの中に入り、中を見渡すシャマル。 ふと目に止まったのは、先程【刻金】が出てきた金庫。 悪戯心が鎌をもたげ、クラールヴィントを用いて錠開けをする女医。……コレが見つかれば、×だけでは済まないだろう。「コレは……さっきのと同じ【刻金】……?」 先程とは違い、【LXX】――七十番と刻印されたモノ。 ソレ以外は四十四番との違いは見当たらない。 全く同じに見える……少なくとも素人目には。「……二つあれば、出番は倍増……!!」 右見て。 左見て。 カメラを騙して……ゲット!!「貴方もこんな所で眠っているよりは、日の当たる場所に行きたいわよねぇ……♪」 この時彼女は思いもしなかった。 後に自らの行いによって引き起こされる、とんでもない事態。 その引き金を、この瞬間に引いてしまったということを。 天罰その一。 後日性能テストをしたシャマル。 だが刻金を武器化した時に、太腿に数本の【アーム付きの鎌】が展開し、結果ロングスカートがズタボロに。 ついでに、これまた【たまたま】その事態を見てしまったヴァイス陸曹。その彼の尊い犠牲を以って、この性能テストは終了となった。 その時の彼のコメントは、『何という僥倖!!』だったらしい。 大将日記SEED 今日も今日とて、型紙起こし。 理由は簡単。 何処かの女医が、『今度のオークションの警備任務用に、隊長陣はドレスを用意したいのですけど……』と言ってきたのが原因だ。 その見積もりに目を通すと、ソコには信じられない程の金額が。 当然の如く却下するが、敵もさるもの。 『ホール内に管理局員の姿があったら、お客様の気分を害するのでは……?』と、のたまう始末。 確かに一理あるが、それでもこのような資金運用は認められない。 事務員として。そして大将としても認めることが出来ないのだ。 ならばと妥協案を出し、現在に至る。 それぞれに似合うカラーをセレクトし、デザインも個々に合わせたモノを作成。 正装を作るのはオーリスのドレス以来だが……大丈夫。腕は鈍っていないようだ。 後は明日にでも街に繰り出し、材料を揃えるのみ。 ……逝くぞ、浪費女医。後悔の貯蔵は十分か……? ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨五】 オーリスの朝は【とても】弱い。 そして炊事・洗濯は言うに及ばす、掃除すらダメな始末。 この事態を重く見たレジアスは、思い切って【ある場所】に連絡する。 その場所は、かつてレジアスも世話になったことがある場所。 今の自分が居るのは、その場所のお陰だと言っても過言ではない。 連絡を取ると、すぐ下の後輩が来てくれることになった。 翌朝。オーリスは不思議な感覚と共に目を覚ます。 まるで、誰かに揺すられているかのような錯覚。 その振動で目を覚ますと、ソコには……大量の鳥が居た。 くちばしで自分の衣服を剥ぎ取り、大型鳥によってシャワー室に引き摺られて行く。 シャワーの熱で漸く現実だと悟り、慌てて風呂場から出た。 すると脱衣所には、綺麗に畳まれた衣服の姿が。 もしかして父親が帰ってきたのかと思い、リビングに行くと…………「クックック……おはよう、ご主人。今日から貴様の世話をすることになった、メイド害の【コマラシ】だ……!!宜しく頼むぞっ!!」 メイドの姿をした大男が、ソコには存在していた。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!! >細部指摘 くろがねさん。ご指摘頂きありがとうございます。 分かり難かったみたいなので、少し書き方を変えました。 コレで、少し分かりやすく……なったのかな? イカゲルさん。ニャレオンとギャレノンは、別個の機体なのです。 前者が【試作】四号で、後者が四号。 ちょいと区別をしないといけない理由があるので、このままで行く予定です。どうぞご勘弁を……。