前回のあらすじ:なのは、【正統派魔法少女】にやられる。 今更だが、ヴォルケンリッターは優秀な騎士である。 そもそも優秀な存在でない限り【騎士】という呼称は名乗れず、その中でも群を抜いた存在。ソレが彼女らだ。 しかし現在、その才能を無駄に発揮しているモノが居る。 湖の騎士【シャマル】。 コレがそのモノの名前であり、同時にトンでもないことをやってしまった…………咎人でもある。 彼女の仕出かしたことは二つ。 一つ、窃盗。ヒトのモノを勝手に持ち出し、着服したこと。 二つ。その持ち出したモノを貸与されたモノと同等のモノと勘違いし、その危険性を認知しなかったこと。 そして最後に…………【ソレ】を他人に【与えてしまった】こと。 ……前置きが長くなってしまった上に、滅茶苦茶暗い出だし。 重い話題は嫌いなので、今回もサクっといきまっしょい。 というワケで、キャロ先生にありがたいお言葉を頂きました~。 『だいじょうぶだよ!絶対、だいじょうぶだよ!!』 ……うん。 何だか元気が出てくるよね? コレなら、明日からも頑張れそうだ……!! ホテル・アグスタ。 ソレはミッドチルダにある大型ホテルの名称であり、今回の六課の任務先でもある。 隊長陣の服装は、レジアス謹製の特別ドレス。 修正を施したソレは、既に彼女たち専用の戦闘衣装。 上流階級のモノがひしめく、この会場。 その会場という名の戦場に、彼女たちはそれぞれに誂えられた戦闘衣装を纏って立つ。 振り返る賓客たち。 お近づきになりたいと思うモノども多数。 だがしかし、如何せんソレらは眩し過ぎた。 太陽と月。それに蒼い地球を思わせる彼女たち。 どう考えても近付き難いオーラが出ています。 これじゃあ、誰もアタックを仕掛けてこないのは明白。 でも本人たちは気付いていない様子。 だから、【何で灰色の青春を……】てなことになるのだ。 狂想倍率……もとい、競争倍率が限りなくゼロに近い状態。 今ならお買い得ですよぉ~? ……ただし、【最狂の高町家】や【最兄の黒乃提督】。 それに【最凶の守護騎士】たちに勝てるのなら……だけどね? エリオが焦っていた。 原作を知るモノからすると、【有り得ない】と断じられそうなコト。 だが実際に彼は焦っていたのだ。そう……【強くなりたい】という想いに、その身を焦がしながら。 良く考えれば、ソレはすぐに分かるハズのことだった。 自分以外の新人たちが、新たな力を得てパワーアップしていくその姿。 フォワード陣の中で唯一の【男性】なのに、他の【女性】たちの方が圧倒的に強いという事実。 腕力的なモノは仕方ない。 身体能力的なモノだってしょうがない。 彼はまだ成長期前の身体なのだ。今は同年代の少女のソレと比べても大差はない。 つまり、現在の彼が女性陣の中に埋没してしまうのは……仕方のないこと。 分かっている。理解しているのだ。 ……でも。それでも……。 だけど……!! 男という生き物は悲しいことに、ソレでは納得出来ないようになっている。 オトコというモノは、生まれた時よりその役割が決まっている。 【オンナを護る】。ソレがDNAに刻み込まれた本能であり、生きる理由でもある。 彼が【ある程度】世の中を知った存在なら問題ない。 割り切りというモノを知り、己が限界を見極められるからだ。 確かに少年は、【世の中の裏】を知っている。 ソレは彼の出自から始まり、フェイトに会うまでの間に嫌という程知ったのだろう。 だがソレとは別のベクトルで。 彼はやはり、【まだ少年】なのだ。「(……もっと強く、もっと速く。もっと、もっと…………!!)」 彼の強みは速さだ。 だが、その速さでもフェイトには及ばない。 自分は彼女の半分くらいしか生きていない。故にソレは当然のこと。 だけど諦めたくない。 皆を護りたい。 その為なら何でも出来る。少年の心は、そう考えてしまうまでになっていた。 焦り。 苛立ち。 満たされない心。 そんな状態の彼の眼前に。 【護れそう】なヒトが居た時。 彼は一体どうするだろうか……? 答えは一つ。 その存在を護るために、無茶をする。 ソレがその答えだった。 その日の彼は他の前線メンバーと同じく、オークションの会場警備の任にあった。 そして訪れる【ガジェット】たち。 すぐに迎撃戦になり、愛槍と甲冑を装備してソレらに立ち向かう。 圧倒的な力を見せ付ける、両副隊長。 フォワード組もまた、それに負けじと奮戦する。 空を【駆ける】ウイングロード。 精密な射撃と共に、複数の敵を打ち落とすスナイパー。 相棒との掛け合いをしながらも、【いかにも】な魔法でガジェットを追い払う少女。 少年も敵機を墜としてはいるものの、彼女らのようにはいかない。 何かが足りない。 どうしてもその境界から抜け出せない。 何故だ。どうしてボクは…………!!「キャァァァァッ!!」 思考の底から引き上げたのは、女性の悲鳴だった。 即座にその悲鳴が聞こえてきた方向を見る。 するとソコに居たのは金髪の女性。 機動六課では女医として知られる彼女。 悲鳴の主は……守護騎士のシャマル。 四方をガジェットで囲まれたその状態は、百戦錬磨の猛者でも苦戦どころでは済まない。 ましてや彼女は後方支援型。 どう考えても危険な状態だ。 ソニックムーブ。雷のような速度を目指すソレは、一瞬の内にシャマルとガジェットの間に割って入る…………ハズだった。「え…………?」 貫かれたのは己の心臓。 貫いたのはガジェットの触手。 普段なら予測出来たソレは、焦りを抱えた彼には分からなかった。「……ガッ、ハッ…………!!」 口から出るのは紅い液体。 心臓から抜け落ちるのもまた、ソレと同じモノ。 人間の身体を構成する上で、とても大事なモノが、二箇所から抜け落ちていく。 ソレは致命傷だった。 バリアジャケットすら抜いて訪れる一撃。 本来そんなことは有り得ない。 だが彼は高速移動中だった。 そしてガジェットは、偶然彼の槍を回避して、その攻撃が入れた。 つまりはカウンター。少年は高速移動で、自ら的に成りに行ったようなモノだったのだ。 こうなってしまえば、ジャケットの強度も落ちるというもの。 偶然が重なった結果。だが結果は動かしがたい事実。 エリオ少年の命の灯火は、まさに消えかけていた。 「エ、エリオ君!?し、しっかりして下さい……!!」 目の前で起こった出来事に、驚きを隠せないシャマル。 彼女の予定では、ワザと悲鳴を上げて囲まれた後に、刻金を使って殲滅。 その予定だったのだ。 しかし実際は、ソレが成功することはなかった。 一人の少年がソレを本当の窮地だと勘違いし、救援に来てしまったから。 流れ出る血液。ソレは目の前の少年が、致命傷であることを教えてくれた。「そ、そんな……!!心臓が修復困難な状態……コレじゃあ…………!!」 すぐさまガジェットを一閃し、少年の診察をする女医。 状況は最悪。 どう見てもそうとしか言いようがない状況で、シャマルはあることを思い出した。「…………そうだわ。コレを……【刻金】を使えば…………!!」 茜屋の店主から貰った刻金。 その使い方の説明中に聞いた、ヒトの命を救う【使い方】。 ……迷っている時間はない。この一瞬の間にも、命はどんどん削られているのだから。「……じゃあ、いきます……!」 密かに入手した、【LXX】の刻金。 ソレをエリオの胸に当てて、その身の内に吸い込ませていく。 やがてソレは一体化し、完全に少年のモノとなる。 安定する少年の身体。拍動も安定域で固定され、息遣いも安らかなモノになる。 ここにクローンとして生まれた少年は死んだ。 今居るのは……一人の【ヒト】として生まれ変わった、【エリオ・モンディアル】という名の少年である。「…………じゃあ次は、ライトニングね…………」 最近なのはの様子がおかしい。 スターズの訓練の時には問題ないのだが、ライトニングとの訓練の時のみ、その調子が崩れるのだ。 消える笑顔。容赦のない攻撃。特にキャロを狙ったソレは、明らかに私怨が入っていた。『コラァァッ!キャロに、何てことしてくれるやぁ!?このオバハンがっ!!』 吹き替えリンディ。 どう見ても楽しんでやってるソレは、ソレによってキャロたちを窮地に立たせていた。 今回のターゲットは、ソレのせいでキャロとフリード。エリオは放置されている。「……キャロ、フリード…………少し、頭冷やそうか…………?」 絶対零度の表情。 集まっていく、【少しではない】魔力。 ソレはティアナの得意技のクロスファイヤーだが、ソコには【大魔王と魔導師の初期炎熱魔法程の差】が存在していた。「…………シュート」 轟炎が迫って来る。 【風】の壁をカードで作り、ガードに入るキャロ。 だが甘い。今のは余のメ……じゃなかった。なのはのクロスファイヤーだ。「…………そっか。なら、手加減はいらないよね……?」 集まる魔力。 その異常なほどの猛りは、明らかに必殺の構え。 ご覧。アレがブラスタービットだよ……?「全力全壊…………エクセリオォォォォォォォォンバスタァァァァァァァァッ!!」 明らかに背後に般若を背負った一撃。 表情がとっても漢らしいです。 明らかに生まれる性別を間違えてますねぇ……?「…………!!ダメ、防げない……!?」 風の壁を突破して突き刺さる一撃。 命の危機すら覚悟し、キャロはその目蓋をギュッと瞑る。 だが、思った一撃は来なかった。頼りになるチームメイト。彼が助けに来てくれたから。「うぉぉぉぉぉぉっ!!貫け、ボクの無双錬金…………!!」 ソレは長槍だった。 突撃槍と言った方が正しいかもしれない。 ストラーダよりも打突部の面積が増し、大きな飾り布が特徴的である。「…………!?そ、そんな!?どうして、どうしてキャロは…………!?」 絶体絶命のピンチに助けに来てくれる相手。 そんな夢みたいな存在は、自分には居なかった。 羨ましい。妬ましい。そんななのはの心が、思いもしないモノを引き付けてしまった。 ――キィィィィィィンッ!! 蒼い軌跡が、なのはの防御壁に吸い込まれていく。 ソレは高速で飛来したジュエルシード。願いが強ければ強い程、ソレに引き寄せられる宝石。 かつてフェイトと競い合って封印してきたソレが、今度は自分をターゲットに選んできた。 「…………そ、そんな!?何で、どうして【ジュエルシード】が…………!?」 信じられないモノを見た。 地球ではやてに降り掛かった災い。 ソレと同種のモノが、現在進行形で自分に襲い掛かって来ている。 普通なら防げる。 もしくはカンタンに封印してしまうであろう、その宝石。 だが今の彼女には無理だった。 全力技を撃った直後の、隙だらけの状況。 一定時間経たないと回復しない、その魔力。 ソレに比例して、紙っぺら同然の防御壁。 一瞬。 本当に一瞬だった。 なのはが蒼の宝石に寄生され、その身に変化が訪れたのは。 徐々に小さくなる、その身体。 髪も段々と短くなり、衣服はバリアジャケットの元になったソレに変化していく。 レイジングハートはその無骨な外見から、非常に愛らしいハートをあしらった短杖に【戻っていく】。 過去からの刺客。 ソレが今度の六課の敵であり、同時になのは自身の敵でもあった。 ……どうなるのよ、コレ……? 大将日記00 エリオ・モンディアルが死んだ。 ソレはシャマルと、【内偵軍団】のみが知っていることだ。 無くなった刻金。蘇生したエリオ。 どう考えてもシャマルの仕業なのは、明白なことだった。 即座に査問し、シャマルには厳罰。 詳しい内容は省くが、かなりの精神的なダメージを与えることに成功。 しかし問題は別にあった。 彼女がエリオに与えてしまった刻金。 失敗作を偽装したソレは、どう考えても危険なモノ。 故にその扱い方を、同じく刻金を持たされたレジアスが務めることに。 彼の正体を隠す意味でも有効だった刻金は、レジアスの場合は防護服だった。 頭部まで覆われる、ジャケット型の無双錬金。 【ズィルパージャケット】。 ソレを纏ったレジアスは、地上本部の大将でもなければ、六課の事務員でもなかった。 【キャプテンベラボー】。ソレが少年を特訓する時の、彼の名前である。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾漆】 先日、シャマルと仲良くなったオーリス。 今日は女医のたっての希望により、飲み会をゲイズ邸でやることに。 反対した。ソレはもう、反対した。 だがシャマルは【是非とも】と聞かず、今日に至る次第である。 あの変態メイド男が、何か粗相をしないだろうか? ……いや。しない方がおかしかった。 しかしもう後には引けない。そう思って帰宅すると、あのメイド害の姿がない。 気になって家中探すが、本当に何処にも居なかった。 あったのは一枚の書置き。『ご主人。今日貴様が連れてくるオンナは、オレに想いを寄せるモノだ。ソレでは仕事にならんので、暫しの間消えているとしよう……クックックック……』 そんなバカな。そんな天変地異、有るワケがないだろう。 そう思いながらも、オーリスは冗談半分でシャマルに問いかける。 すると返ってきた答えは……。「……あら、RIKIちゃんたら…………こんな所に居たなんて……♪」 ……どうやらこの【シャマル】という女性も、只者ではないようだ。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!