前回のあらすじ:高町なのは、昔に【戻る】。 ソレはトンでもない事態だった。 前回の【はやてタヌキ化】も問題だったが、コレはある意味もっと厄介だった。 パッと見は聖祥時代のなのは【さん】だが、その手にしていたのは【初代】レイジングハート。 現在は気絶中のため、医務室でお休み中。 しかしある意味においての爆弾は、ココでも落とされた。 寝言で『……クロノ、くん……』とか言っていたのだ。 ……いや、ねぇ……? そんなことには、ならないよねぇ……? ……と言いたくなるけど、多分予想通りのことが起きるだろうなぁ。 仕方が無い。 一応準備しておこう。 それぞれに合わせた道具と【台本】。 ボクの場合は……ハァ。 恐らく【アレ】だけで足りるだろうなぁ……。 【偽胸】。そう呼ばれるモノさえあれば、ボクは大丈夫なんだろうなぁ……憂鬱だ。 なのはが目を覚ました。 その報せは瞬く間に六課を駆け巡り、皆が医務室に殺到する。 一番乗りは、なのはさん大好き人間のスバル。自慢の機動力を以って、最速で到着した。「なのはさん……!!」 バンッ!という音をさせて入室するスバル。 ……病室ではお静かにねぇ……? そんな天からの声は華麗にスルーし、ズカズカと進んでいくワンコ娘。「……あの…………晶ちゃん、どうしたの……?」 空気が凍りついた。 同時にスバルも凍りついた。 無理もない。尊敬する【なのはさん】に忘れられ…………ついでに、人違いをされたのだから。「……しょうがない。ボクが行くしかないみたいだなぁ……」 盛大な溜息。 それと同時にちょっとした決意を固め、ボクはボクの闘いをする。 自己暗示だ。今のボクは月村静香じゃない。今の【わたし】は…………。「ハイハイ。【晶ちゃん】は、ちょぉっと外へ行きましょうねぇ……?」 我、月村。 この身は月村のモノ。 故に今の【わたし】は……!!「忍さん!?」「は~い、忍ちゃんで~す♪なのはちゃん、ちょっと待っててね?すぐに戻るから~!」 現在の【わたし】は【月村忍】。 とらハシリーズで唯一公式カップルに認定された、恭也の内縁の妻……!! ……ハァ。ソレが今のボクが演じる役割だ。 悲しいかな、現在でもすずかと双子に間違われるくらいだ。 偽胸を入れて髪をストレートにすれば、【月村忍】の一丁あがり。 生まれてからずっと見てきた存在だ。マネをするのは楽勝…………なんだけど、心はズタボロさぁ……笑えよぉ。「…………というワケで、キミたちには特殊任務に当たってもらう……!!」 外見は月村姉なボク。 説明先は六課の面々。 面識……?そんなモンないヤツも居るけど、勢いで何とかなるんだよ……!!「最初、スバル!オマエさんは、【コレ】で胸を潰して、台本読み!!」「…………この、【晶】っていうヒトを演じれば良いの……?」「ん。そんではやて……!!」 晶に胸はありません。 正確にはちゃんとあるんだけど、スバルのソレは大きすぎる。 故に【さらし】で、フラット気味にしてもらいまっしょい。お次ははやてだ。「オタクは、髪の毛を【緑色】に染めて、髪留め外せ。そんで中華風衣装を着ること……!!」「なんや、ソレは!?」「反論は認めません。次、フェイト……!」 本音を言えば、拳法の達人じゃないと不味いんだが、贅沢は言えない。 とりあえず外見を取り繕う。 まずはソレからだ。「フェイトはこの【青玉】を舐めて、巫女服。そんで狐耳と尻尾を着用!!」「え?えぇぇ!?ちょ、ちょっと待って下さい!!何でそんな……!!」「……この命令は、地上本部の将官連名のモノです。異議は通りません……!」「そ、そんなぁ……」 コレで子狐も確保。 あとは誰が居たっけ……? ……そうだ。【妖精】さんも、一応用意しておくか。「最後にリンディ。アンタは常に【羽】出したまま、身体を妖精サイズにして!」「…………取り戻せるのね?こんなハズじゃなかった【過去】を……!!」 息子の名台詞を台無しにするなよ……? まぁ分からんでもないし、本人がノリノリの方がやりやすい。 コレで迎撃準備はOK。あとは試すしかないなぁ……。「なのはちゃん、ゴメンね~?ちょっと晶が、変なモノ食べちゃってねぇ……?」「変なモノ……もしかして、おねーちゃんの…………」「……じゃあないんだけど、ソレみたいなモノかなぁ~……?」 スバル悪い。 今のオマエは変なモノを食べて錯乱した、可哀想な娘だ。 ……アレ?普段と大差なくね?「晶ちゃん、大丈夫なんですか……?」「うん、もう大丈夫だから♪あとで会ったら、普通どおりに接してあげなよ……?」「…………ハイッ!」 良い娘だぁ……。 騙してるのが悪いくらいに良い娘だぁ……。 でもコレでほぼ確定だ。この娘は、【なのちゃん】なのだ。『なのちゃん!!』 バンッ!!と勢い良く扉が開け放たれて、入ってきたのは【レン】と【晶】。 ……のパチモンである、はやてとスバル。 どう見てもソックリさんなので、あとは中身次第だ。「なのちゃん、無事やったんやな!?良かった~、ホンマに良かったぁ……(何か疲れる喋り方やなぁ……)」 はやては京風関西弁がベースだけど、レンはコテコテ風関西弁。 若干?の差異を修正すれば、あとはタヌキから亀へと変化する。 元々タヌキは騙すのが商売みたいなモンだ。コレくらい朝飯前だろう。「なのちゃん、ケガとかしてないよな!?ドコも痛いトコとかないよな!?(なのはさん!無事ですよねぇ!?)」 スバルも中々の演技を見せてくれます。 元々アホ的な要素を抜けば、頭の良い彼女。 それも【なのはさん】のためなら、芝居に熱も入るでしょうなぁ……。「やめんか、このおサル!!なのちゃんがビックリしてるやないか!!」「んだと~?このカメ!!」 熱が入りすぎて、【レン】に止められる始末。 まぁ予定通りと言えば、そうなんだけどね? この【二人】らしいやり取りを見せるという点では、結構重要な場面だし……?「ふたりともー!!ケンカはダメって、言ってるでしょう!?」「でもなのちゃん!(!?なのはさんに、いつもと違うオーラが!?)」「このおサルが!(ホンマにこの子、なのはちゃんなんか!?何かいつもと違うような……!?)」「ふたりとも、ソコにすわってください!!」 強制的に、と言ってもソレは武力的なモノではない。 言葉の力と【なのちゃんオーラ】で二人を押さえ込む。 ……ヤバイ。感動で視界が歪んで見える……。「なのはちゃん、ちょっと良いかなぁ……?」 このままでも良いんだけど、話が進まないんだよね? 仕方ないので、二人に助け舟を出す。 ……というかこの二人って、立場が違うとこうなるモンだったのか……意外。「なんでしょう?忍さん……?」「あのね?ココって、【ミッドチルダ】っていうトコロなんだけど…………知ってる?」「えぇ~~!?ミッドチルダって……………………リンディさんと、クロノくんの…………」 OK。 【リリカルなトイボックス】までの記憶は、存在している……と。 じゃあ次は、【リンディ】さんに登場願いましょうか?「失礼します…………なのはさん、お久しぶりですね……?」「……リ、リンディさん……?」「ハイ♪」 スモール&羽展開リンディ、通称【妖精さんリンディ】のご登場です。 ココはミッドチルダなので、本来はこの姿である必要はない。 だけど【リンディさん】だと信用してもらうには、コレが一番なのである。「あ、あの!ここが【ミッドチルダ】だっていうのは……」「……本当です。イデアシードとは別のモノによって、皆さんは偶然コチラの世界に来てしまったのです……」 ウソ設定その一。 とりあえずココに居る理由を作る。 コレで第一関門は突破。「そんな!それじゃあ、わたしたち…………帰れるんですか……?」 心底心配です。 そんな表情とオーラを出す、【なのちゃん】。 ……もはや別種の生物だと言われても信じられるな、コレは……?「……少し手続きとかに時間が掛かりますが…………大丈夫です。何と言っても、わたしもソレで地球に行きましたから♪」「…………そういえば、そうでした……」 良し。次弾装填。 逝くぞ、金色の獣娘よ。 覚悟の貯蔵は十分か……?「なのはちゃん、実はね?わたしたち以外にも、【コッチ】に来てる子が居るんだぁ~~♪」「え?そうなんですか……?」「うん。それじゃあ、【久遠】!!入ってきてぇっ!!」 ガタン! ゴトンッ!! どうにも不安な効果音を響かせながら、ソレはやって来た。「…………なのは………………」 身長が縮み、狐の耳と尻尾を装備。 そしてその身に巫女服(風)を纏って立ったのは…………【久遠】。 もちろん、アレもパチモノ。中身はフェイトだ。「!!く、くーちゃん!?」「くぅん♪(あぁ……なのは可愛いなぁ……。まるで出会った頃に戻ったみたいだ……)」 寝かせられたベッドから飛び起きて、なのはは【久遠】に飛びついた。 無理もない。【原典】の時系列で言えば、久遠となのはは大の仲良し。 むしろ、こうならない方がおかしい。 それから質問攻めに遭う【久遠】だが、中身はポンコツ風味であっても執務官。 きちんと台本どおりにこなし、つっかえつっかえの【久遠語】を話せていた。 ……段々となのはに抱きつかれてるのが、嬉しそうに見えてきた。……まさかね?「……あの、リンディさん……?」「?何でしょう、なのはさん?」「……クロノくんって、今どこにいるんですか……?」 ――ピシリッ!! 空気の割れる音が聞こえた。 そういえば、あやつを【用意】するの忘れてたっけ……? どうしよう?中身は殆ど今のフェイトなんだけど、やっぱ男装させるのはムリがあるよなぁ……?「エーと、クロノは…………そう!!今日はお仕事なんですよ!!」「……そう、なんですか……」 明らかに落ち込みムードだな。 コレで精神状態が不安定になって、ジュエルシードが暴走でもしたら……。 堪ったモンじゃないな。……良ぉし。ココはミッドのために【クロノ】も用意するか……!!「大丈夫だって!!クロノくんだって、明日には来てくれるから♪そうですよね、リンディさん……?」「え、えぇ……!そういうわけですから、明日には会えますよ?クロノったら、なのはさんに会えるのを、とても楽しみにしてましたからね~♪」「……そ、そんなぁ……♪」 危機は脱した。 しかし新たなるピンチの到来。 さーて……クラウディアに連絡を取らなきゃねぇ……? 大将日記00 second season エリオ・モンディアルは、実に見所のある少年だ。 その出自に関しても、逃げることなく受け止める心。 一時危ぶまれた精神状態も、現在は回復している。 自らの強さに溺れることなく、ソレでいて強さを求めることを忘れない。 焦りを抱えていた彼は、文字通り【死んだ】。 だからこそ、今の彼は強いのだ。精神的にも……技量的にも。「よぉしっ!!次は、刺突の型を二百回だ!!」「ハイッ!!…………ところで、キャプテンベラボー……」「……ん?どうした、何か質問か……?」 実に感心。 コレ程熱心な生徒は、そうは居ない。 そういう意味では、少年は最高の弟子になりそうだ。「どうしていつも、そのジャケットを纏っているんですか……?」 成る程。そちらが気になるか。 だがココで、己の正体を明かすわけにはいかない。 ならば、こう答えるより他ないだろう!!「……答えは秘密。その方が、【カッコイイ】からだ……っ!! バックで雷が落ちた。 今回の音響効果は、エリオ本人によるモノ。 ソレくらい、今の彼は感銘を受けたようだ。 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾八】 シャマルが家に来ると、メイド害は現れない。 そしてその女医は、メイド害を探して家に来たがっている。 そのコトに気が付いたオーリスは、それからシャマルを連日家に招いた。 二人で酒盛りし、酔いつぶれる毎日。 そして二人が潰れている間に、メイド害が掃除をする。 まるで、小人さんや妖精さんのような働き。普段の彼からはとても想像出来ない。 逆を返せば、それだけ変態メイド男は、あの女医を恐れているということ。 そしてソレこそが解決の糸口と気付いたオーリスは、シャマルと一芝居打った。 酔っ払って寝たフリをして、メイド害をおびき寄せる。 普通なら騙されないだろうが、シャマルに認識阻害の魔法を掛けてもらい、コトに及んだ。 結果、引っかかった。 そして現れたのだ、あの男が。「フッフッフッフ…………ついに捕まえましたよぉ……?」「フン!このメイド害を欺くとは、良い腕だな…………?」 バインドで固められた変態メイド男。 ソレを恍惚の表情で悦る女医。 ココに勝敗は決した…………と思われた。「だが、このコマラシ!!これしきのことで、止められるモノか……!!」 長い黒髪。 ソレが針金のように変化し、女医のバインドを破り裂く。 化け物め。その時オーリスは、改めてそう思った。「……流石はRIKIちゃん。なら、【コレ】はどうですか……!!」 いつの間に付けたのやら、左耳に付けたピアス。 その中心部には絢爛な宝玉が填め込まれており、ただのピアスでないことを証明している。 空を見上げるシャマル。 その視線の先には月があり、ソレは一瞬にして黒く染まる。 ソコに二本の紅いラインが走り、中心部には丸い点。 月が紅く光り輝いた時、ピアスの宝玉が紫色の光を帯びる。「【マデリアライス】…………!!」 アンダースーツは白。 外套は少しくすんだ緑。 首・両手首・腰に銀色の金属パーツが走り、その中央線に金色の輝き。「……ホウ。ソレが伝説の【マスターロープ】か……。良いだろう……相手にとって、不足はないようだな……?」 メイド害VS女医……改め、【マスター乙女】。 その闘いの火蓋。 ソレが今、切って落とされようとしている……。 あとがき >誤字訂正 俊さん、円冠さん。ご指摘いただき、ありがとうございます!