前回のあらすじ:狼が【番犬】に変身しました。 トンネルを抜けると、ソコは…………ワンちゃん無双でした。 ゴメン。正しく言うと、デカマイスターになったザフィーラが、ガジェット相手に無双ゴッコをしているトコロ。 必死こいてゲンヤを引き摺って出た先がこの惨状。 ……一瞬、出る所を間違えたかと思ったよ。 ソレぐらい、今のザフィーラは輝いていた。 そう。薄くなりつつあるその存在感を、圧倒的な濃さで塗りつぶすかのように。「……ま。この分なら、大量のガジェット軍団は大丈夫ッポイな。そんで、肝心のレジアスは…………」 ガジェットⅠ型軍団が爆散する中で、唯一と言って良いほど荒れていない場所。 ソコに彼らは居た。 狂気の天才科学者と、ミッド地上の大将さま。 ちょっと見ただけで現在の状況が、最悪なモノだと理解出来てしまった。 退くことも往くことも出来ない状況。 レジアスはまだ強くなれる。 そしてその強さは、スカリエッティを倒せる位になるコトも可能だ。 だが現状のままでは、ソレは不可能。 仮にこの場でレジアスが自分の殻を破っても、【ソレ】はまだ【第二段階】には到達出来ない。「(……しょうがない。ガジェットはザフィーラに任せて、ボクは撤退のキッカケを作るとしますか……)」 レジアスとスカリエッティが闘っているのは、丁度【あるポイント】の真上だ。 ボクの横には、都合の良いことに【パイロット】まで存在する。 コレはチャンスだ。大量のガジェットを殲滅し、レジアスの窮地を救うことが出来るプラン。「…………オイ、ゲンヤ。悪いんだけどこのポイントに行って…………【コレ】を起こしてきて欲しいんだけど……」「…………クイントォ……」 まだ現実に帰ってきてないな、このオッサン。 だが今は、そうさせてやれない状況なのだ。 壊れたオッサンに、斜め四十五度から手刀を喰らわす。 ソレが【月村流・壊れたモノの直し方】。 ……良い子は決してマネをしてはいけません。 お兄さんとの約束だよ……? 「起きろォォォォ!!」「んがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?……………………オイ、シズカ!!テメェ、一体何しやがんだっ!?」 あ。漸く再起動した。 やっぱりゲンヤはコレくらい元気がないと、らしくない。 大人しいゲンヤなんて、アンコの入ってないアンパンみたいなモノだもの。「やかましい。今の状況は理解出来ているな?レジアスがピンチ。下手をすると、ミッドがヤバい状況。…………んで?こんなピンチに、キミは一体何をやってるかなぁ……?」「…………済まねぇな」「弁解は良いから。サッサと自分のすべき行動をする。ホレ、ハリー、ハリー!!」「……………………オウ!」 駆けて行く戦士。 その先に待つのは、新たなる【力】。 はやくしてくれよ?ソレが間に合うかどうかで、レジアスの…………いや。ミッドの運命が決まるんだから……?「どうしたんだい……?掛かってこないのかな…………?」「…………クッ」 膠着状態の二者。 スカリエッティの余裕とレジアスの焦り。 その対極的な感情は、まだぶつからずに済んでいる。 ガジェットはザフィーラが何とかしてくれる。 だがこの男は――――ジェイル・スカリエッティはどうしようもない。 玉砕覚悟の攻撃も通じないだろう。 ソレが分かっているから、迂闊に動くワケにもいかないのだ。 この状況は、ドクターが作り出しているモノ。 故の彼の気分一つで、すぐにでも崩壊する代物。「(……どうすれば…………一体どうすれば…………!?)」 焦りは頂点に達し、もはやまともな思考は出来なくなる。 そう。ソレがスカリエッティの望んだモノであり、そうなればレジアスは…………突っ込むしかなくなる。 ソコに生まれるのが希望か。それとも絶望なのか。ソレは誰にも分からないコトだった。「……来ないのかい?なら…………コチラから行くよ……!!」「…………!?」 激突。 もはやその未来しか、レジアスには見えなかった。 構える。そして力を乗せる。今の自分には、ソレしか出来るコトがないのだと分かっているから。 ――ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ…………!! 衝突は回避された。 突如隆起した地面が、ドクターとレジアスの間に割り込んだから。 ソレは山のようなカタチ。 噴火前の火山を思わせるソレは、大きく振動したまま、その身に罅を入れていく。 一つ。また一つと。 どんどんその罅割れの数は多くなり、その中から差し込む光がソレに比例して大きくなる。 ――バリィ、バリィ、バリィィィィンッ!! 割れた。 完全に粉々になったソレは、まるで外装の取れたビルのよう。 ただ異なっているのは、その中身がビルではなく…………一体の恐竜だったコトだ。 ――ゥガァァァァァァァッ!! ブラックとグリーンの体躯。 頭部と四肢。そして尻尾は白く、胸には紅が色を添える。 二足歩行するその存在は、【ティラノサウルス】を象ったモノ。「……ホゥ。中々面白いモノを出してきたね……?」 ドクターの興味が、ソレに惹きつけられた。 だがソレも長くは続かないだろう。 だから今がチャンス。レジアスを撤退させて、場を立て直すための好機は…………今しかない。 ――ドックン! 神速。 本来戦闘の中で使われるソレを、ボクは味方を逃がすために用いた。 ボク自身がドクターと対峙しても良い。だが既にアイツの相手は、レジアスに決まってしまった。 ならばキチンとリベンジするまでは、レジアスがスカリエッティへの挑戦者である。 今回は敵わなかった。 だが次はそうはならない。そうならない為にも、ボクはレジアスを逃がさないといけないのだ。 レジアスを小脇に抱え、ボクはその場を離脱する。 モノクロの世界なのに、スカリエッティは微笑んでいた。 ソレはまるで、最初からコチラの動きを読んでいたかのように。 ちくしょう。 悔しい。 だが本当に悔しいのは、ボクではない。ボクではいけないのだ。 神速の世界から戻ってきたボクに、レジアスは何も言わなかった。 だからボクも何も言わない。 何か言うのは、ルール違反だと思うから。「(…………まだまだ、だな……?)」 反省をしつつ、ボクとレジアスは戦線を離脱する。ソレはすぐに起きるであろう、次のステージの準備の為。 転送魔法を駆使して着いた先は、【機動六課】。 転送するや否や作戦司令室に赴き、大型モニターで現地の映像を見る。 ザフィーラがコレまでに倒したガジェットの数は、全部で百二十体。 相手が残り八十体に対し、コチラはザフィーラと…………先程の【ティラノサウルス】。 勝てる。多分六課の面子は、皆がそう思っているのだろう。 だが甘い。 色々な意味で【狂気】の科学者が、この程度で終わるハズがないのだ。 その証拠にその八十体のガジェットが…………奇妙な音と共に、集結しだしたではないか。 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン…………………!! 重なるように。 八十体のソレらは、段と行を構成しつつ…………一つの巨大な物体に生まれ変わった。 外見は巨大なガジェット。だがその頭頂部には、金色の王冠が出現している。『ハッハッハッハ……!!どうだね?コレが私の自慢の作品、【キングガジェットⅠ】だよ……!!』 通信越しで伝わってくる、ドクターの喜びの声。 どう考えてもギャグで作ったとしか思えん。 ……いや。ソレを言ったら、今までのヤツもそうか。「ザフィーラ!その場は一旦ゲンヤに任せて、コッチに戻って来い!…………【ダイノーズ】の出番みたいだからね……?」『……この【恐竜】に乗っているのは、ゲンヤだったのか……。分かった、すぐに戻る……』 ティラノサウルス型ロボット。 正式名称【マグナダイノー】。 ダイノーズの二号ロボットであり…………ゲンヤがパイロットを務める、新たな【仲間】である。 コレでコチラの体勢は立て直せた。 だがコレで終わるとは思えない。 【あの】ドクターが、この程度の策しか用意していないと、到底思えないからだ。「(……絶対まだ何か、【ネタ兵器】を仕込んであるんだろうなぁ……?)」 自分のコトは盛大に棚に上げつつ、ボクはそう思った。 現に今だって向こうとコチラは、ネタ合戦のようになっているではないか。 相手はボクと似た存在。ならばまだまだ、ネタの貯蔵があるに決まっている。「(……って、あんまり自慢出来るコトじゃないよな……?)」 ……でも構わない。仮に向こうさんが新兵器を出してきても、コチラには頼もしい味方【たち】が居るのだ。 確かに何人かの心は折れかけているが、今度は【みんな】で闘う番。 折れた心は、皆で支えれば良い。 かの有名な武将も言っていたじゃないか。 一冊のエロ本ではすぐに飽きるけど、三冊ならローテーションが組めると。 ……何という素晴らしい格言なんだ。「(……アレ?何か違ったような気が……?)」 まぁ良い。【仲間】というのは、そうし合える存在だというコトには変わりない。 そんなコトを考えつつ、ボクはザフィーラの到着を待つばかりだった。 …………アレ?今回もボク、戦闘シーンなし……? あとがき >誤字訂正 俊さん、円冠さん。ご指摘頂き、本当にありがとうございました!!