前回のあらすじ:第二の恐竜ロボ、登場。 ダイノーズ発進。ソレは前回同様、非常にスムーズに行われた。 六課の最高責任者であるはやては、現在お空のヒトとなっている。 故に対した突っ込みも無しに、ボクらは飛び立つことが出来ました、と……。「(……しかし、なぁ…………?)」 暗い。ダイノーズの面子の顔には、どう見ても余裕がなかった。 レジアスは勿論のこと、ゲンヤを置いてきてしまったザフィーラの顔色も険しい。 いつもは笑顔を絶やさないほのぼの組も、妹分や娘が戦場で闘っているせいか。 その顔には珍しく(と言ったら失礼か……?)真剣な色が浮かんでいる。 こんな時は、小粋なジョークで場を和ませなければ……!! とか思ってみたものの、流石に今ソレをやると、【空気が読めていない】判定を喰らいそうだ。 だから仕方なしに、無言を貫くしかない。 とは言うものの、現場に到着するまでには今暫しの時間を要す。 だからボクは、ジェットの操縦をしつつも、コンソールを弄って空間ディスプレイを立ち上げる。 現場の状況はどうか。 ゲンヤは苦戦していないか。 敵さんの新戦力は、投入されていないよな…………とか。「(……ふ~ん?やっぱり、柔軟な素材を利用しているのか……)」 ただのガジェットⅠ型ならまだしも、相手は【キング】ガジェットⅠ型だ。 その身体は柔軟で、ダメージを受け流しやすいようになっている。 何ともお約束どおりだが、【メタル・キングガジェットⅠ型】でないだけありがたい。 もしメタルな奴だったら、相当梃子摺ることになるからなぁ……? ゲンヤ……の乗ったマシンを見ると、【口からファイヤー】や【尻尾アタック】で応戦している模様。 あんまり余裕はなさそうなのに、何で変形して闘わないんだろう……?そうした方が、明らかに攻撃方法が増えるのに……?「おぉ~い、ゲンヤァ~~?何で変形しないのぉ……?」『バカ野郎……!!そんなの、知るワケないだろうが……!!』 通信を繋げてみると、返ってきた答えは怒鳴り声。 確かに戦闘中に呼びかけたボクも悪いが、ソコまで怒らなくても……? とか考えていると、ふとあるコトが頭を過ぎる。…………まさか。まさかねぇ……?「……あ~、ゲンヤ……?キミって、そのロボが置いてあった格納庫で、説明書を見たよねぇ……?」『説明書ぉ……?あ~、アレか……!!何かソレらしいのは在ったが、時間が無かったから読んでねぇ……!!』 ……予感的中。 変形出来ることを知らなかったのは、取説を読んでないからだった。 …………この場合、逆に今まで闘えていたことを褒めるべきなのか……?「……コンソールの光ってるボタンを押すと、【ダイノーチェンジャー】が出るから、ソレ使って変形……」『ん~ん?お、コレだな……!!』 コンソールから勢い良く飛び出す、【ダイノーチェンジャー】。 ゴウダイノーで【合体・必殺技発動】の為にある端末と、外見を同じくするモノ。 ただ中身――つまり登録されているプログラムは別物で、それぞれの機体用のモノが入っている。『【根性進化】!!マグナダイノー!!』 決め台詞と共に、変形の為のトリガーヴォイスを入力するゲンヤ。 巨大な尻尾は、肩に巨大な砲を備えた腕に。恐竜の折れ曲がった脚は、人型の真っ直ぐな脚に。 前後が入れ変わった身体に、ヒトの形をした腕と脚が吸い付いていく。 最後にクワガタを象ったような角飾り。 ソレを額に付けた頭が現れ、ココに変形は完成する。 全体的に黒・紅・緑を使用し、ソレらの繋ぎ目を白が彩る。 砲撃特化型機体、【マグナダイノー】。 ソレがその機体の名前であり、ゲンヤの新たな相棒の名前でもある。 ……どうでも良い話だけど、最初は【進化】って言ってたのに、後になってから【変形】に直したのは…………一体何でだろうか……? 現場まであと一分。 たかが一分。されど一分。 この一分という時間は、長いようで短い。そして、短いようで長い。『……コレならどうだぁぁぁぁっ!!』 現場からの声。 この場合はゲンヤのソレが、彼の現状を物語っている。 鋸のような剣で斬りかかるも、伸びる相手を斬るには至らず。 ならばと両肩の巨大砲を連射するも、柳に風。 最後の手だとばかりに今繰り出したのは、紅いキューブのようなモノを投擲する。 爆発の後にあったのは、表面が多少焦げ付いただけのキングなガジェットさん。『……オイ、オイ、オイ…………?あんだけやって、無傷だって言うのかよ……?』 冷や汗タラリ。 そうとしか表現しようがない状況のゲンヤ。 だがソレはボクだって同じだ。 コチラの最新鋭機のお披露目回だというのに、その新型の攻撃が一切通じない。 お約束破りも良いところ。 ……まさか逆に、相手の新型の【お披露目回】ってコトはないよなぁ……? その理屈でいくと、コチラが敗れ去るコトになるのだが……。 ……不味い。流石にソレは想定外だ。 ゲンヤのクイント取り逃がしに始まり、レジアスの戦意喪失。 思えば最初のルーテシアの【蝶人】化からして、ボクの想像の範疇外だった。 一つ。また一つ。さらに一つと。 積み重なった歪は、さらに大きな歪を呼ぶ。 今まではソレが良い方に回っていただけ。 つまり、運がコチラに向いていただけなのだ。 そして今運命の女神さまは、どう見てもアチラの味方をなさっている模様。「(……にしたって、変な話だな……?スカリエッティはお約束を遵守するヤツだ。そんなアイツがソレをしないというコトは…………?)」 ①コチラが勝利条件を満たしていない。 ②何処かのフラグ立てを怠った。 ③一週目では倒せない、負け確定バトル。「(…………まさか、なぁ……?いや、でも…………?)」 お約束を護るドクター。 ソレはあらゆる様式美を絶対に遵守する漢。 ……間違っても、【絶対遵守】破りの【瞳】とかは持ってないハズ。 ハッキリそうだと断言出来ない自分が恨めしい。 だが、そんなコトを言ってる場合ではない。 そんなコトを考えている暇があるのなら、現状を打開する策でも考えるんだ……!「(……敵は軟体。ソレを潰すには、超大火力で焼き払えば可能……)」 それなら、マグナダイノーの必殺技で何とかなる。 問題点があるとすれば、ソレはゴウダイノーとの連携技だということ。 故にコチラの到着が不可欠であり、ソレまで持ち堪えられるかがキーポイントになる。「(……あと三十秒……!)」 もうすぐだ。 本当にあと少しで、現状打開の一手が打てる。 焦る気持ち。逸る心。 ……だが本当にコレで良いのか……? ココに来て、何もかもが敵さんの思うとおりに運んでるような気がする。 いや。多分そうなのだろう。 敵の掌の上でしか踊れない。ソレは非常に屈辱的なことだった。 何とか脱却したい。でもその先には敵の次なる一手が待っている。 まるで蟻地獄のような、一度嵌まったら抜け出せない罠。 「…………見えたっ!!」 肉眼で視認が可能な距離に到達し、マグナダイノーの無事をこの目に収める。 エネルギーを消耗してはいるが、機体そのものには大したダメージがない。 ……イケる。これなら、合体攻撃は可能だ。 即座に分離フォーメーションに移り、ゴウダイノーは人型に合体し直す。 手抜きではない。物語後半は、合体シーンが省かれるコトは良くあるコト。 だからボクたちもソレに従ったまで。……もう一度言うけど、決して手抜きなんかじゃあ、ないよ……?「ゲンヤ!!今からソイツに、合体攻撃を仕掛けるぞ!!」『合体攻撃ぃ……?ソイツは一体、どうやるっていうんだぁ……?』 敵に攻撃しながらも、説明は続く。 そして行われる合体。 超大型双筒砲。 ソレに変化したマグナダイノーがゴウダイノーの背中に現れて、キングガジェットⅠ型の足元が隆起する。 ターゲットロック。 あとはゲンヤが引き金を引くのみ。 ――ザワッ!! 悪寒が走る。 咽が渇く。 ソレは悪い予感を察知した証拠。「(……何だ……?一体何を、見落としてるって言うんだ……!?)」 敵は軟体。 巨体で軟体……? 柔らかいと…………撥ね返す……!?「…………しまったぁぁっ!!」 以前ジュエルシードに取り込まれたはやて。 その変化した姿である【大タヌキ】は、その柔らかい腹で何をした? ……そう。【撥ね返した】のだ。なのはたちの攻撃すら、いともカンタンに…………!!『ダイノー、ラージバスタァァァァッ!!』「ゲンヤ、ストップ……!?」 一瞬遅い静止。 文字通りその一瞬が明暗を分ける。 放たれてしまった大砲。 ソレは唸りを上げて一直線に敵さんに吸い込まれていく。 ……【吸い込まれていく】のだ。 その後に【撥ね返す】、その為に……!「ザフィーラ、緊急回避……!!」「……む?しかし既に決着は付いて…………何ィッ!?」 土煙が晴れると同時に、ソコにはコチラの攻撃を吸収中のキングガジェットの姿が。 明らかに吸収だけではないその様子。 ……もしかして、【増幅】も含まれていたっていうのか……!?「な、何だ!アレは……!?」「良いから回避準備!!アレを喰らったら、コチラは大破だよっ!!」「!?わ、分かった……。すぐに回避を…………」『……残念だったねぇ……?もう、手遅れだよ……?』 突如として入る通信。 ソレがドコからのモノで、誰から来たモノなんて、考えるまでもない。 今、相対している機動兵器の開発者。つまり…………ジェイル・スカリエッティ以外には、考えられないだろうに……!?『……さようなら。ダイノーズの諸君……?』 倍返し。 必殺技の後には最大の隙。 ソレを実践するかの如く、奴さんはコチラの砲撃を増幅して撃ち出してきた。 倍加したコチラの砲撃は、どう考えてもコチラの――――ゴウダイノーの破壊以外の光景が浮かばない。 そう。ソレ以外の光景は思い描くことが出来ないのだ。 幾ら考えても。どこをどうやっても……!「(……結局、【ボク】っていうイレギュラーのせいなのかぁ……?)」 思考は既に諦めモード。 その沈み往く考えとは別に、ボク以外の搭乗者を強制転送させる。 もしもの時用に仕掛けておいた、転送魔法が役に立った。 非難は聞こえない。 悲鳴も聞き取れない。 そんな声を聞く前に、皆を転送してしまったから。『……【キミ】は逃げないのかい……?』「……何でだろうな?何でか分からないけど、残っていれば【アンタ】と【逢えそう】な気がしたんだよ……?」 何故かは分からない。 自分も脱出し、反撃の機会を待てば良いハズ。 だがこの時にボクには、そうは思えなかった。 今の時点で、【何か】が足りない。 このまま【足りない】状態で進んでも、きっとすぐに行き詰ってしまう。 ソレは直感だった。でも大切な感覚でもあった。『…………覚えているのかい……?いや、【魂】が記憶しているのかもしれないねぇ……?』 何やらドクターは、ボク自身すらも知らないような情報をお持ちのようだ。 しかしボクには、その意味するトコロが分からない。 故に聞き役に徹するしかないのだ。『……今回の【キミ】の敗因は、【駒】が足りなかったコト。そして…………手を出すべき場所ではないトコロまで、手を出してしまったトコロだよ……?』「……ずいぶん親切に教えてくれるんだねぇ……?ココはアレかい……?バッドエンド後の【ドクター道場】なのかい……?」 某有名ゲームに出てくる、バッドエンド後の救済措置。 ソコではバッドエンド回避の為のヒントを、本編のキャラクター(もどき)が解説するのだ。 今の状況は、まさにソレに等しい。『……良いねぇ?今度はウーノあたりでも連れて来て、掛け合いでも出来るようにしようか……?』「…………またココに来るコトが前提かい。もう来ないかもしないんだぞ……?」 ボクの転生は、時を遡るコトがない。 なら今までの経験から予測すると、今度はJ・S事件以後に転生するコトになるのだが……。 ……いや、待てよ?【今まで】がそうだったからといって、【今度】もそうだとは限らないのか……?『……心配は無用さ。キミはいつか【必ず】ココへ到達するからねぇ……?』 ソレは確信だった。奴さんは確かな自信をもって、ボクの未来を予測する。 未来……果たしてそうなのか? ボクにとっては【未来】でも、この世界の人間にとっては【過去】なんじゃあ……?『……さてと、ソロソロお別れの時間だ。【キミ】が好きな【カード】で、遠い世界に送ってあげよう……♪』 そう言ってドクターが取り出したのは、一枚のカード。 中央に時計の文字盤が描かれたソレのタイトルには、【TIME VENToo】の文字。 ……知っている。ソレは刻を遡るカードだ。『……時代は三提督が現役の頃。ソコで【キミ】は、新たな【オヤジーズ】を見つけるだろう……』「……オイオイ。コレ以上、オッサンが増えるって言うのかい……?」 どうやらボクは、平行世界に転生するのではなく…………【直接の】過去の世界に転生するらしい。 しかもソレは、相手が決めた先の話。 どう考えても、あまり良い感じはしないなぁ……?「……まぁ、良いか?…………じゃあな、【アンリミティッド・デザイア】……」 奴は何も言わずに、黄金に輝く羽付きの杖にカードをインサートする。 差し込まれたカードは、人智を超えた力を振るい、ボクを過去へと飛ばす。 ソコに苦痛はない。しかし、快楽もない。『……また逢おう。対極の位置に在りながら、最も近しい存在の【キミ】……』 【月村静香】という存在が消えた後で、ドクターは静かに……だがハッキリとそう言った。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!! 今回は四話分というコトで大変な量になってしまい、誠に申し訳ありませんでした!!