今までの人生は、恵まれてたと思う。 その時その時はそう感じられなかったけど、今ならハッキリとソレが分かる。 だって今回の人生は、前回とは真逆。 【前】は、月村すずかとソックリの容姿。 人間関係にも恵まれ、裕福な家庭に生まれる。 今まで一番激動で、ソレだけに沢山のコトがあった。 でも……それでも【今】よりは良かった。 現在、ボクが居るのはミッドのスラム街。 その端に位置する、孤児院を兼ねた古い教会。 今回のボクは、所謂【捨て子】というヤツだ。 生まれてすぐに捨てられた、可哀想なボク。 ……っていうのは冗談だ。 ボクが親の立場だったら、まず間違いなく捨てたくなるだろう。 いや。そうしない自信が、コレっぽちも存在しない。 そう断言出来るだけのモノが、今のボクにはあったのだ。 身長二メートル。体重百三十キロ。 鋼のような筋肉が全身を包み、顔は【漢】前。 眉毛は当然の如く極太で、アゴだって普通に割れている。 ちなみに、現在十四歳。 ……年齢さえ除けば、今のボクは某【世紀末な覇王】さまのような感じなのだ。 道を歩けば誰もが道を開け、犬や猫に会うとすぐさま逃げられる。 小さな子どもたちは、見ただけで泣き出しそうになるし、○ヤのヒトも見ない振りをする恐ろしさ。 ……うん。我ながらコレは、怖すぎる思う。 でも【ある意味】男の夢を体現しているのだ。普通なら喜ぶヤツも居るだろう。「(…………ハァ。そう思えたら、どんなに良いことか……)」 しかし残念なことに、今のボクではそう思えない事情があった。 前回は【美少女風男子】だったので、ある意味コレも予想出来たハズなのだが……。 今のボクの性染色体は、【XX】。 ちなみに、前回は【XY】。 つまり何だ。 ボクは覇王風な……………………【オンナノコ】なんだよ? ココ【スラム街】は、ミッドでも指折りの治安の悪い所であった。 というのも、今回の転生先は時を遡っているのだ。 着いた先は、無印開始の二十年位前。 だから【この】ミッドチルダは、まだまだ治安体勢が整い切っていないのだ。 故に盗みや殺人。捨て子や売春。 その他のあらゆる犯罪が、このスラム街には在った。 そう【在った】のだ。 ボクがココに流れ着いたのは五歳の頃。 何とか生き繋いで、流れに流れて着いた先が、此の世の終点みたいな所。 新たに入ってきた新入りは、五歳とは思えない覇王風味。 そんな異分子が来たら、誰だって排除しようとするだろう。 ボクも生きることに必死だったので、とりあえず不穏分子を排除していった。 結果。血で血を洗うような闘いの末、ボクは確かに平和を手に入れた。 でも同時に、この街からは犯罪者が消えた。 犯罪者狩りで食い繋いでいたボクは、コレで究極無敵のビンボーになってしまったのだ。 ボクが拠点としたこの教会には、十人近くの子どもたちが居る。 十年間。犯罪者狩りで得た金塊とかを崩して生活してきたけど、もう切り詰められないし、そもそも元がない。 ……仕方ない。ボクが高給取りになって、子どもたちを養うしかないようだ。 そう考えた後のボクの行動は、異常な程はやかった。 何とか管理局の士官学校に合格し(前回の人生からすれば出来ないこともなかった)、テストの成績で常にトップを取ることを条件に、自宅からの通学を許可してもらった。 最初は非常に渋っていたお偉方も、ボクの懇切丁寧な【お願い】の前に、あっさりと陥落した。 ……多分、美少女や美女がやる【お願い】とは百八十度くらい別の意味なのだろうが、この際気にしないことにした。 同じ結果が出せれば、問題ないのだ。 ともかくコレで、ボクも執務官。 この時点で結構な所得を獲得したボクは、子どもたちを連れてミッドの都心へ移住。 3LDKに十人住まいという、子どもだから出来る方法を取ることに。 その結果としてボクの財布に大ダメージだが、残業をやりまくって頑張った。 そのおかげで、ボクは結構な速度で出世中であります。 現在の階級は一佐。 今日から執務官長なんつー役職を拝命し、部下が与えられるのであります。 いやね?確かに今までも部下は居たんだけどね……? ボクが【覇王少女】なもんだから、みんな一週間と経たずに辞めていくのだ。 だから、いつしかボクには部下が居ないのが当然になった。 だが季節は巡り、新たに士官学校を出たモノたちが、配属される季節となった。 当然、ボクの所にも新人が配属される。 ちなみに、ボクの下で何日持つかというのは、半公式の賭け行事となっている。 ――ピンポーン! ボクの執務室に、心地良い音が響き渡る。 ソレは新たなる生贄の来訪を知らせる鐘の音。 さぁ今回のエモノは、一体どんなヤツやら…………。「どうぞぉ~」「し、失礼します!!本日よりシズカ・ホクト一佐の下に配属になりました…………ヒィッ!?」 あ~あ。初っ端からコレかい。 こりゃあ、半日も持たないかもしれないなぁ……? そんなことを思いつつ、その執務官殿の顔を覗き込む。 蒼みがかった、ミッドでは珍しい黒髪(ちなみに、ボクは茶色がかった黒髪だ)。 まだまだ幼さを残す中性的な顔立ちは、ボクの知ってる【誰か】を連想させた。 執務官。黒髪。少年。 …………そうだ。 この子はアイツに似てるんだ。 あの生意気執務官、【クロノ・ハラオウン】に。「アンタってさぁ…………もしかして【クライド・ハラオウン】?」「な!?何でボクのことを……!?」 時系列的に考えて、そして容姿的に考えた末の結論。 その結果はどうやらビンゴだったらしく、目に見えて少年はうろたえ出した。 別に取って喰うつもりはないんだけど、多分信用してもらえないだろうなぁ……?「……まぁ良い。ハラオウン執務官、今日からヨロシク頼むよ……?」「…………!!ハ、ハイ……!!宜しくお願いしま……………………きゅぅぅぅぅ」 あ、倒れた。 ソレほどまでにインパクトがあるボクの顔。 多分オンナだと知れば、また倒れるだろうなぁ……。 こんな細面の少年が、後の提督様とはとても思えん。 ……よぉし。いっちょ、揉んでやろうかね……? そうすれば、【闇の書事件】で死なないかもしれないしね……? 新米執務官【クライド・ハラオウン】の業務日誌 某月某日。 今日は待ちに待った執務官の叙任式だ。 憧れの制服に身を包み、高鳴る心臓の鼓動を押さえ切れない自分。 式が終わり、興奮が冷めぬ内に言い渡される、自身の配属先。 最初の上司は、一体どんな人物なのだろうか。 興奮は最高潮に達し、上司になるヒトの部屋のインターフォンを押す手に、異常な程の力が籠もる。『どうぞぉ~』 中から聞こえてきたのは、とてもフランクなモノだった。 どうやら自分は、当たりを引いたのかもしれない。 そう思いながら入室すると…………ソコには【化け物】が居た。 自分の胴回り程もある、相手の二の腕。 制服の上からでも分かる、異常に発達した全身の筋肉。 凡そ執務官とは思えない、まるでレスラーのような体躯と顔。「アンタってさぁ…………もしかして【クライド・ハラオウン】?」 !? 何故だ……。 どうして目の前の人物は、ボクのことを知っている!? 新人の配属届けは、新人の手によって行われる。 事前に察知することは叶わず、だからこそ引き抜きや贔屓が出来ないのだ。 なのにこの【ヒト】は知っていた。 あり得ない。 だが現実は、認めなければならない。 一体どういった経緯で知ったのかを確かめるためにも、まずはキチンと挨拶をしなければ。「……まぁ良い。ハラオウン執務官、今日からヨロシク頼むよ……?」 深呼吸をし、息を整え…………たいが無理だった。 凡そ美女を前にしたのとは別の意味での緊張。 ソレが自身を支配しているからだ。「…………!!ハ、ハイ……!!宜しくお願いしま……………………きゅぅぅぅぅ」 それでも力を振り絞り、何とか挨拶をしようとしたが……。 ココでボクの意識は閉ざされることとなる。 情けないことに、どうやら気絶してしまったらしい。 後で知ったことだが、この執務官長の部下は、いずれも一週間と持たずに辞めているそうだ。 無理もない。 あの迫力と顔の前では、ソレも当然と言えよう。 だが世の中には、アレ以上に恐ろしい犯罪者もいる…………かもしれない。 そういった意味では、まさに最高の練習台とも言い換えられる。 ……もう少し。出来る限り、がんばろう。 そうすれば、きっと後々の為にもなるのだから。 コレがボクにとって人生を左右する、特別な【女性】との出会いだった。 あとがき >誤字訂正 円冠さん、俊さん。ご指摘頂き、ありがとうございます!! 今回のは特に多かったようで、本当にお手数をお掛けしました!!