前回のあらすじ:のちのオヤジーズも、今はただの熱きヤングである。 ミッドの地上からこんにちは。 ……アレ?以前にもこんな挨拶をしたような気が……きっと気のせいだよね? そうに決まってる。……ということで、今回もサクッといきまっしょい!「どうしたぁぁ!!それが貴様らの本気かぁぁぁぁっ!!だったら、生まれてきたことを後悔させてやる!!」 ボク対訓練生の模擬戦。 数はボクが一に対して、向こうは四人。 本当はもっと多くても良いんだけど、一人の人間に襲いかかれる数は、四人が限度。 だからその法則に従って、ボク対訓練生四人。 この方式で始めた模擬戦も、今日で二ヶ月が経った。 毎日全員を相手に出来る訳じゃないけど、開始当初から比べると、それこそ【月とスッポン】状態。 人間。死ぬ気でやれば、出来ないことは殆どない。 その言葉を、彼らは身を以って証明してくれたのである。 ……素晴らしすぎるね?「……次の組、入れぇぇぇぇっ!!」 考え事をしつつも、ボクの手足が止まることはない。 相手にしていた四人組の内、最後の一人を倒すと次の組を中に入れる。 しかし中に入ってきたのは一人だけ。「……ゼスト。お前さんはボクの話を、全然聞いてなかったのかい……?次の【組】って言ったろ?他はどうしたんだ……?」「…………他の奴らには辞退して貰いました。……と言うより、他の奴らも貴女との一対一を所望しています……」 熱血少年と青年の間に位置する、のちのオヤジーズの一人。 ゼスト・グランガイツ空曹はそう言うと、自らの得物である槍型デバイスを構えた。 ……オイ。まだ一対一で闘うとは、言ってないだろうに……?「……良いだろう。そんなにはやく地獄に行きたいと言うのなら、止めはせん。…………さぁ、掛かってこい!!」「…………参る!!」 ゼストの槍が迫る。 今のボクの身体は、身体強化をすることもなく【鋼の肉体】。 それを敢えて強化することにより、相手に威圧感と恐怖を与える。 弾く。 弾く。 そして、かわす。 スジは良い。 鍛錬も良くされている。 だが。だが…………それだけでは、まだまだ【足りない】!! ――ブゥンッ! ボクの右拳がゼストに襲い掛かる。 そして奴は、当然の如く避ける。 その隙に急所狙いの右足が、下方向から突貫。 避ける。当たり前だが、ゼストはそれを必死で避ける。 ……だがまだ甘い。 それは次の本命を隠す為の、フェイントに過ぎないのだから……! ――グァシッ!! 左腕による、抱き込み。 丸太のようなボクの腕でそれをやると、それは通常のラリアットを遥かに超えたモノになる。 ゼストの頭に当たった腕は、そのまま奴さんの胴体に纏わりつき……所謂【鯖折】状態になっていく。「……グッ!グァァァァッ!!」 まるで雑巾を絞るかのように。 そんな感じで絞められていくゼストからは、苦痛の声しか聞こえない。 奴には既に反撃の目はない。あとは絶望タイムのお時間でござる。「ハッハッハ……ッ!!どうだぁぁ?ボクの【愛】の籠もった抱擁はぁぁぁぁ?」「……グッ!コ、コレが愛、だと……!?何て、何て……………………スバラシイんだ……」「…………ハッ?」 何か最後の部分が聞き取れなかったけど、ゼストが堕ちた。 首がガクッとなり、意識が途絶したことを確認。 さぁて、担架の出番だ…………と思いながら、奴さんの顔を見ると……。「…………何でコイツ、【恍惚】の表情を浮かべてるんだ……?」 世の中とは、理解出来ないことばかりである。「フゥ……。最近の訓練生たちは、一体どうしたっていうんだ……?」 先のゼストに続き、レジアスが。 そして幾人かの訓練生が、それに続くようになっていた。 現状で四人。何とそこには女子も含まれており、ボクとしては喜ばしい限りだった。 【レジアス・ゲイズ】陸曹。 【ゼスト・グランガイツ】空曹。 この二人はある意味予想どおり。 三人目――【本名不明】一等陸士。便宜上彼の娘の名から拝借し、【ルナパパ・エドマエ】と呼んでいる。 金髪の白人系で、体型は異常な程ガッシリしており、【鋼の身体】の異名を持つ。 常にサングラスをし、そこからたまに【紅い光点】が見える時がある。 元々は何処かの会社の社長だったらしいのだが、娘が誘拐事件に遭い、それを助けたボクに付いて来てしまった。 何故か彼の現れる時には、何処からともなく効果音が聞こえてくる。 【ダダッダッダダ…………ダダッダッダダ…………!!】。それはまるで、某未来からのターミネート戦士のバックミュージックにも聞こえる。 ちなみに娘を救助した際に出血多量になっていたボクは、彼女から輸血して貰ったというオチがある。 それからその娘は、程なくして歌手となり、数年もすればミッドのアイドルとなっていた。 彼女から教えて貰った歌を唄うと、何故か訓練生たちが【狂戦士】となり、ソコに戦場が発生するのだが……。まぁボクには都合が良いので、逆に感謝である。 四人目――【ウマ子・ハラダ】二等陸士。 黒髪で前に垂らした髪は三つ網。 子どもの頃は身体が弱かったのだが、行方不明の兄が助けに来てくれると妄想した結果、何故か自らの身体を鍛えるに至る。 丁度その頃、たまたま縁があったボクが手ほどきをしたので、見事な【マッスルバディ】に。 実は現役女子高生なのだが、管理局と掛け持ちで頑張る良い娘。 彼女はボクと並び称される【漢女】であり、ボクの後継者とも言われている。 この四人がボクに一対一を挑んでくる、未来の猛者たち。 ……弱った。これは非常に由々しき事態だ。 元々全体的な底上げが済んでから、彼らのようなピーキー戦士を育成しようと思っていたのだが……。 これでは彼ら以外の訓練生との差が、現時点において開きすぎてしまう。 どうしよう。どうすれば良いんだ。 悩み・考えた挙句、ボクは地上に来てからの知り合い【ファラン・コラード】女史に、四人以外の訓練生を任すことに。 彼女はのちに、なのは・フェイト。そしてスバルやティアナの通った、訓練校の校長になる人物だ。 その才能は現時点で既に現れており、彼女の指導っぷりは評判が高かった。 尚、歳を経て温厚になった彼女だが…………今はボクに負けない苛烈さだ、とだけ言っておく。「良いかっ!貴様らは本日を以って、蛆虫を卒業する!!」 四人組だけ、皆より一足早い卒業式。 鬼軍曹で始まったモノは、鬼軍曹で締めなければならない。 つまり何だ。様式美ってヤツさ……?「そして一人前の兵士(ソルジャー)になった貴様らの赴任先は…………コレだぁぁぁぁっ!!」 バンッ!!という効果音と共に、天井から垂れ幕が落ちてくる。 【時空管理局特殊治安維持部隊】。 それがその垂れ幕に書かれた文字だった。「……教官殿!!この部隊は一体……?」「基本的には陸の所属だけど、有事には海ですら活動出来る…………【実験型】特殊部隊のことだよ♪」『【海】にも……!?』「そ。普段は新型実験航行艦である、【ラグナロク】を拠点として。何処へでも行ける、どんな犯罪にも手が出せる、超スペシャルな部隊さ?」「…………凄い。これなら縄張りなどを意識せず、犯罪者を取り締まることが出来るぞ……!!」 興奮気味なレジアス。 無言だが高揚した表情で同意するゼスト。 そんな二人を見ながらも、ボクは説明を続ける。「なおこの部隊の資金提供には、エドマエグループが全面協力してくれた!!みんな、ルナパパには感謝するように!!」「……フン。当然のことをしたまでだ……。故に感謝される謂れはないぞ、ヒューマン……?」 サングラスの奥の紅い光点が、いつもより短い間隔で明滅する。 ……もしかして照れてるのだろうか? 意外に可愛いトコロもあるんだなぁ……?「そ、それで!ワッシらの制服はぁぁ……!?」「ウマ子、落ち着けや?大丈夫、ボクとキミのデザインどおりだから♪」 実は事前に、ウマ子だけには部隊設立のことを伝えてある。 その上で制服のデザインに、協力してもらった……という訳だ。 フリフリの白いエプロンドレス。そして頭部を彩るのは、レース付きのカチューシャである【ホワイトブリム】。「ホクト教官、待って下さい!!我々にはそんな服は…………!?」「そうです!再考して下さいっ!!」「馬鹿者ぉぉぉぉっ!!メイドを笑う者は、メイドに泣くんだぞぉぉぉぉっ!!」 案の定、レジアスとゼストは反対する。 まぁ当たり前か。 大の男としては、反対しない方がおかしいよね……?「し、しかし……!!」「良ぉし……。そこまで言うのなら、多数決にしよう。メイド服に賛成の者は、お手上げ……!!」 ボク。 ウマ子。 そして…………ルナパパ。『そ、そんなぁぁぁぁっ!?』 レジアスとゼストの悲鳴が響き渡る中。 ココでは確かに、【ソレ】が成立した。 【時空管理局特殊治安維持部隊】――通称【冥土ノ土産】。 その新部隊は、二人の絶叫がその産声を代行することで、誕生したのである。 あとがき >誤字訂正 俊さん。ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!