淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために 前回のあらすじ:蝶が羽化しました。「…………五十回だ」「そうだねぇ……?」 現在ボクは、ママ上様と二人で優雅にティータイム中である。 場所はさざなみ寮――つまり自宅のリビング。 そして給仕するのはイケメンのホスト……などではなく、我が親愛なる祖父――もとい、耕介。「一年間で五十回……つまり一週間に一回ってことになるね……?」「……まぁ、一週間に二回【遭った】時もあるし、無事に一週間過ごせた時も、あったにはあったけどね……」 何やら不穏な雰囲気が漂う会話。何が一年に五十回なのか。 一週間に一回とは、一体何のことを指しているのだろうか。 ソレは自分でも信じられない結果の数だった。「フェルの誘拐未遂の件数…………そこまで伸びたのか?」「……うん。途中から恒例行事みたいになっちゃったからあんまり気にしなかったけど、結構スゴイ数になっちゃたみたい……」 ホスト……ではなく耕介が会話に混じってきた。 誘拐未遂の数――何か物凄い物騒な単語が聞こえてきたが、別にコレは聞き間違いではない。 その証拠に、耕介の問いにボクは、キチンと返事をしている。「そうだったなぁ。最初の頃はスゴイ気を張ってたんだけど…………中盤辺りからは、日常の一コマになってたからなぁ……?」「……まぁボクとしては、そのおかげで能力の制御の実験台になった方々には、感謝しても良いと思っているけど……」 自分の義娘が誘拐未遂にあった。 最初にソレが起きた時のリスティの反応は鬼気迫るモノがあった。 普段の彼女の飄々とした態度からは想像出来ない位に焦り、そして全力で駆けつけて来てくれた。「(……あの時は、正直ジーンとしたよね。本当に心配してくれたんだなーって感動したし……)」 感動した。確かに感動した。普段は見られない母上様の姿が見られたことに。 そして自分のことを本気で心配してくれたことにも。 だから感激もした。だが……。「(……でもみんな来てくれた時には、もうカタが付いてたんだよなぁ……?)」 あの時はさざなみ寮の持ち得る戦力総出で、出撃して来たのだ。 耕介は御架月装備プラス式服で。那美は雪月プラス式服with久遠(アダルトヴァージョン)。 真雪鉄芯入りの木刀を片手に、そして美緒はバイクでシャッターを突き破ってきた。「(だけど……ボクが先に全部倒しちゃったんだよねぇ――――能力が暴走しちゃって)」 さざなみ寮御一行様が到着した時、既に状況は終了していた。 ボクは誘拐されたことで気が動転し、能力が暴走した結果を目の当たりすることになったのである。 その光景はハッキリ言って、嵐が過ぎた後のようになっていたらしい。 そしてその中心部で気絶しているボク。 かなり意味不明な光景だ。 そしてソコで得た結論は、ボクは誘拐されるだけの容姿だということ。 元々リスティのクローンなので美少女には違いない。 だが自分がソレになってみると、そういう認識が綺麗サッパリ無くなっていた。 だから自分のことを美少女だとか思ったことは、今まで一度も無かった。 それにこの世界に来る前は誘拐されるような容姿をしてなかったせいか、まさか誘拐されるとは思わなかった……というのも大きいだろう。 全くの予想外の事件。 そしてそれ以後、一週間に一度のペースで起こり出した誘拐未遂。「(色んな組織があったよねぇ……?【全日本ロリコン同盟】とか、【全国美少女を愛でる会】とか……)」 犯人が捕まる度にその尋問が行われ、バックの組織などが明らかになっていった。 半数は個人による単独犯(衝動的なモノらしい)だったが、残り半分は組織ぐるみの犯行だったらしい。 別段、HGSの能力のことが洩れたとかではなかったので、純粋に(こういう言い方は甚だ不本意だが)ボクの容姿目当てだったようだ。 そして捜査の目は、あまりにも頻繁に事件が起こるので、内通者が手引きしているのではないかと考えられた時もあったそうだ。 「(……その筆頭として、ダントツで耕介がトップだったっていうのは、何て言ったら良いやら……)」 永遠のロリジャイ。 一時期警察では、耕介をブラックリストに入れるか考慮したことがあったらしい。 結局愛娘(この場合リスティのことだが)の説得でソレは免れたようだが。「……ボクはお手柄が山のように積まれていくから、そのお蔭でまた異例の昇進やボーナスが出た」「そんでボクとしては、能力の制御が出来るようになるまで、彼らが実験台――じゃなくて、貢献してくれたから結果オーライ」 母は昇進&ボーナスを手に入れ、娘は能力の制御が出来るようになった。 ココだけ聞けば、良い点しか浮かんでこない。 だがちょっと待って欲しい。 それで済ませて良い問題ではないだろう。 何故ボクがそんなに誘拐されるのか? それはきっと、容姿の問題だけではない。その考えは、この時に漸く考え至った結論である。 そして矢沢医師の研究の下で分かったことは、ボクにとってはとてもありがたく【ない】結論だった。 それはある種の能力。 テレパシーと同じように相手の精神に進入し、そしてその方向性を変えてしまうモノ。 【チャーム】――所謂【魅了】または【操心】という奴だったのだ。 もしもボクの精神が【オンナ】だったら。仮にボク以外の女性がその能力の持ち主だったら、ソレは武器になったかもしれない。 だが待ってくれ。見掛けは美少女(自分で言うと鳥肌が立つが)だが、中身は違うのだ。 何が悲しくて男に追い回されたり、挙句誘拐までされなければならないんだ!! しかし嘆いても悲しんでも、現実とは変わらぬもの。 だからボクに残された路は、一つしか無かった。 研究と特訓のローテーション。その繰り返し。 コレが出来るようになるまでは、外出すらままならないのだ。 病院とさざなみ寮の往復にはテレポートを使い、本当に軟禁に近い状態。 ……欝だ。 憂鬱だ。 はやくこの状況を脱したい。 ただソレだけだった。 ソレだけがボクの希望だったのだ。 だから頑張った。「……久しぶりの外界は、見るもの全てが懐かしかった……」 HGSの能力制御は一日してならず。 どこかの偉い人が言っていそうな言葉だが、生憎コレを考えたのはそんな人たちではない。 その能力制御を散々苦労しながら、それこそ血反吐を吐きそうになりながら習得した、ボクの心からの言葉だ。「(……生き残れた。ソレだけでも凄いことだと思えてしまうな……)」 元々能力が開花した姉妹たちを死なせてしまう程の【チカラ】。 ソレを制御するなんて、普通に考えたら無理なことだった。 だから特訓を受けた――――特訓という名の【地獄】を体験した。 具体的な特訓内容を挙げるのは、ボクの精神衛生上宜しくないので割愛させて頂く。 だが抽象的な例で言うのなら、瞬間移動魔法を習得するのに際し、大きな岩を括り付けられて湖に放り込まれる。 ソレと同じぐらいには頑張ったつもりだ。「(あぁ……。生きているってスバラシイ……)」 良い感じに壊れてきた思考。 それはこの世界に馴染んできた証拠だろうか。 それともコレが、ボクの本当の姿だとでも言うのだろうか。「(……まぁおかげで、【チャーム】の暴走はなくなったしねぇ……?)」 現在自分の制御下にある能力は、テレパシー・サイコキネシス・物質転送・読心・操心。あとは…………サイコバリア。 これらはあくまで【制御下】にあるだけで、能力を完全に引き出せている訳ではない。 さらに言えば、【LC-20】――つまりリスティの得意とする【サンダー】も使用不可能。 きちんと使えるのはバリアと物質転送(テレポート及びアポーツ)だけ。 あとは制御……という名を冠した、リミッターが抑えている状態。 ようは逃げることと味方を呼ぶこと。それと防御しか出来ないのだ。 ……うん。完全なサポート要員である。 これらだけでも、普通は大した物なハズ。 だがココは海鳴。 人外魔境なのだ。 今のボクは、その中では路傍の石に等しき存在。 そんなヤツは、目立たずにひっそりと暮らすのが良い。 ……そう。その方が圧倒的に良いハズ、なんだが……。 ⅰ.【とらいあんぐるハートシリーズ】登場人物の、微妙にズレた事柄。 ――アリサ・【バニングス】の生存と、ファミリーネームの違い。 ⅱ.いないハズの存在の確認。 ――高町士郎。 ――月村すずか。そしてその従者であるファリン・エーアリヒカイト。 ⅲ.いる筈の人間の未確認。いや、いたとしても本来居るべき場所にいないという決定的なズレ。 ――城島晶。フィアッセ・クリステラ。 ――そして鳳 蓮飛。「……フゥ」 予想出来たハズだ。この世界に来て、原作の登場人物が何処まで存在するのかを確かめた時から。 分かっていたはずだ。いつか、この日が来るかもしれないということが。 理解していた筈だった。愛ママが苦労して開いた彼女の城が、原因不明の破壊活動に遭うことは。「……にしたって……」 今日でなくても良いだろう。そう思ってしまうのは、イケないことなのだろうか。 何で自分なのだろう。第一発見者は別に自分である必要はないというのに。 どうして自分はココにいるのだろう。愛ママが忘れ物をしなければ。ソレの回収役が自分に回ってこなければ。「……ハァ」 後悔はある。腐る程に存在する。 だが今は、ソレに浸ることは出来ない。 だって今すべきことは、別にあるのだから。 山狩り……という表現は正しくないな。 ならばコレは魔法使い狩り。将来白い魔王と呼ばれる少女の修正と、ソレを誕生させた少年の粛清。 目標は決まった。対象も決定した。ならば後やることは、とりあえず意志表明か。「あんのぉ、淫獣めぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 声を大にして、殲滅対象に恨みをぶつける。 その一瞬後に、罅割れていた病院の窓ガラスが粉々に砕け散ったが……ボクのせいじゃない。 たぶん。きっと。そう思わせて下さい、後生だから。 唐突だがボクは、【なのはちゃん】があんまりスキではない。 と言っても、【なのちゃん】は大スキだ。 何訳分らんことを言ってんだって?いや、だってこの二人は別人ですよ? 知ってる人もいるとは思うが、【高町なのは】という存在は、二通り――または皆の心の数だけ存在する。 【なのはちゃん】と呼ばれるのは、【魔法少女リリカルなのは(TV版以降)】の方。 【なのちゃん】と呼ばれるのは、【とらいあんぐるハート3】に登場する方だ。 基本的にボクは、チャラチャラしたヤツや、空気の読めないヤツ以外は好き嫌いがない。 だから外から見ている分には、どちらの【高町なのは】も好きなキャラクターだったりする。 だがしかし、事実は小説よりも奇なりとは良く言ったモノだ。 現実の世界で、かなり深いトコロまで容赦なく踏み込んでくる少女を、ボクはあまりスキになれそうにない。 【あの】アリサだって、現実には空気をある程度は読んでくれる。 踏み込んではいけないと判断したら、その場で引いてくれる。 だがソレを、【なのはちゃん】は読んでくれない。 まだ小学生だから仕方がない……というレベルの話ではない。 なんというか、彼女の中ではソレが極当たり前の行動。 というか、自分の言動からブレているヤツが悪だ。みたいな思考をしてるっぽい。 それはある意味、仕方ないことだとは思う。 この世界の高町なのはには、父親である士郎が生存している。 ということは連鎖的に、孤独な年月を過ごしてきたということになる。 情報という大事なファクターの収集先はTVやインターネットのみ。 一般知識に疎く、自らが主人公であるという認識。 そんな状態が何年も続けば、【なのちゃん】が【なのはちゃん】に変化しても不思議ではない。 というよりも、変化しない方が奇跡だ。 ……で、そんな状態の【なのはちゃん】は、ある日運命の出会いを迎える。 生涯の(?)親友とも言うべき存在。 月村すずかとアリサ・バニングスとの邂逅。 ソレ以降は、二人の親友と付き合うようになったおかげか。後はTV版を御覧下さい、みたいな状態となる。 別に熱血でも良い。頑固でもOK。 漢らしくても……まぁ良しとする。 今のままの生活を送っていくのなら、ただの美少女ってことで終わるだろう。 だったら何の問題もないさ。 また、彼女が関わるのが【PC版】の【リリカルなのは】なら、むしろ良い影響を与えるだろうさ。 ……だが。「(……恐らく【この】高町なのはが関わるのは、【TV版】の方……だよなぁ……?)」 状況から察するに、その確率は九十パーセントを超えるだろう。 となれば、行き着く先は【魔王】だ。 【魔王】という存在は、彼女自身だけではなく、周囲の環境にも影響を及ぼす。 もっと言えば、管理局の存在が認知される次元社会全てに、その影響が及ぼされる。 そうすると、彼女の持つ【信念=力、力=正義】のような考え方が、常識とされてしまうようになる。 ソレは本来、余り良くないことなのだ。彼女という英雄の誕生は、逆影響として今よりも強い影を作り出してしまう。 より魔法という力が重要視され、ソレ以外のモノが零れ落ちていく世界。 幾らクリーンなエネルギーだからと言っても、その先に待っているのは……核戦争と変わらない世界だろう。 ただその手段が魔導師ないし、次元航行艦に置き換わっただけのモノ。 ……別に構わない。 本来別世界のことだ。自ら首を突っ込む趣味はないし、そんな余裕もない。 他の世界が滅ぼうが知ったことではないし、よそ様の家庭に口を出すのもどうかと思う。 ……でもさぁ? たぶんコレって、もう関わっちゃってるよねぇ? 恐らく。およそ八割くらいの可能性で。 それよりもさぁ。 家族の経営する店を破壊されて、そのまま引き下がるなんてさぁ……出来る訳――――――――ないよねぇ? 自分の身体を構成するDNAが言っている。淫獣の所業を許すなと。ヤツにとびっきりの雷を御見舞いしてやれと。 ――バチ、バチッ! 火花が見える。 ソレは、雷の具現化の前触れ。 今後出現するであろう、【金色の夜叉】とは能力の源を別にする、それでも同じ現象を引き出すモノ。 今までまったく発現する気配すらなかった、【サンダー】という攻撃手段。 ソレは怒りからの発露か。 それともこの場で発現するのが運命だったのか……? ……どちらでも構わない。 この手で愛ママの城を破壊した下手人に、鉄槌を喰らわせられるのなら。 あの【淫獣】を、丸焼きに出来るのなら……!「……ま、なのはのことは、逐次修正していく方針で……」 清く健やかな少女にする為に。 本人からしたら、要らぬお節介だと言われること極まりない、介入の開始。 多分サンダーが使えるようになっても、ボクの強さはまだまだだ。「(……万魔殿とは、良く言ったもんだ……)」 パンデモニウム。ソレはさざなみ女子寮の別名。 退魔師。HGS。妖狐。喋る刀。武闘派な少女漫画家。殺人料理の作り手である、本来は命を救うモノである獣医師。 退魔から掃除洗濯、調理まで完璧なロリコン巨人。「(……正直ボクの強さなんて…………ハァァァァ……)」 上には上がいる。 ソレは世の中の常識。 だけど、上限ってモノがない場所が存在するなんて……神様って残酷なことをするよね? ……神は死んだ。 というか、あんまり信じてもいないんだけど。 とりあえず、居たのなら拝み倒して運命を変えて貰うか、出会い際にサンダー落とすか。そのどちらかだろう。「でもまぁ、そんなこと言ってたら、物語は進まないんだよねぇ……?」 さぁ始めよう。 ある少女の光源氏計画を……違った。 異物の入り込んだ、物語への介入を。 あとがき >誤字訂正 sgさん。ご指摘いただき、ありがとうございます! 【ソレ】とか【コレ】とかは、強調の意味とかで使っていたのですが……う~ん、読み難いですか……(汗)。 いきなり全部はムリですが、今回からなるべく減らしていくようにしますので、どうかそれでご勘弁を……(マテ)。 >【サー】と【マム】 powerLさん。ご報告頂き、ありがとうございます! う~ん。どちらもあるというコトは、ドチラにすべきか……悩みますねぇ?(オイ)。 ギャップを楽しむという意味で、とりあえずは【マム】のままで逝きますが(誤字にあらず)、違和感を感じたら修正することにします。