前回のあらすじ:謎仮面二人組、参上!!「タキシードマスクに…………セーラーV(ヴィクトリャァァァァ)……?」 リンディの窮地を救ったのは、謎に包まれた二人組だった。 片やタキシードにマント。シルクハットに仮面。 どう考えても来る場所を間違えている。お前が行くのは結婚式場か、もしくは仮面舞踏会だろうに? そしてもう一人は…………ソレ以上の曲者だ。 曲者というより、【怪しい者】と言った方が正しい気がする。 または不審者。変態。変質者。怪物。 呼び方は様々。でも本質は一つ。 素晴らしいマッスルバディを、パッツンパッツンになったセーラー服が無理やり隠し。 そしてその正体を隠すための、紅い仮面。 前者は百歩譲れば、正義の味方と出来なくもない。 しかし後者は。どう考え。様々な角度から見ても。 ……【アレ】は正義の味方には見えない。見えるハズがない。「タキシードマスク!キミは、セーラーハーキュリーを頼む!!」「分かりました!それで、執務……失礼。セーラーVはどちらに……?」 呆然とするリンディを余所に、仮面の二人は話を進めていく。 どうやら残るのは、常識的な方らしい。 ……助かった。流石にあの【異次元物体X】を見続けるのは、無理だったから。「……最深部にいる【オバハン】を見に行ってくる」 タキーシードな男性の問いに、仮面の漢女――つまりボクはそう答える。 一瞬後にはダッシュ……というには速度が出過ぎの俊足。 もはやソレは、【神速】の域だろう。 スカートの裾は翻さないように。 ……そういえばミニスカートなのに、【元ネタの人たち】はどうしてソレが出来たのだろうか? 絶対守護領域か。はたまたお約束か。 どちらでも良い。 ボクにそのお約束が適用されれば良いだけだ。 覇王少女のパンチラは…………それこそ【視覚破壊】のアルティメット・ウェポンだからね?『みんな、大変!もうその空間は崩壊するの!!だから、はやく逃げて……!!』 アースラからの通信。 後にクロノ・ハラオウンの妻になる、【エイミィ・リミエッタ】の声。 ソレは悲鳴に近い。だが自らの職務を放棄せず、きちんと報告された声でもあった。「フェイト!もうムリだよ!?」「でも……!母さんが……!?」 虚数空間に落ちるプレシア。 崩壊する時の庭園の中では、あらゆる床は罅割れていき、そして無に帰ろうとしている。 つまりこの崩壊空間と虚数空間が入り乱れる中では、動ける者は居ない。 故にフェイトはプレシアを助けたくても、助けることが出来なかった。 一度虚数空間に巻き込まれれば、二度と戻って来れなくなるという。 ソレを彼女の使い魔であるアルフは恐れた。 だから絶対に、ご主人様を止めようとした。 行かせてたまるか。 逝かせてたまるか……と。 この虚と実が入り混じった場所では、少年少女たちに為す術はない。 つまり誰もプレシアを助けられない。 まぁ本人の意思というモノもあるが、あんな狂った最期は人として悲し過ぎる。 母として。 ヒトとして。 あんな悲しくて。寂し過ぎる最期は…………認められない! ――ギィィンッ!! その空間に二つ一対の、金色の光が出現した。 ソレは眼光。 鋭過ぎるその眼光は、高速というスピードによって、金色の軌跡を見せる。 ソレはヒトのカタチをしているか不明。 だが中身は確実にヒト。 そんな【化け物】。 だがこんなビックリ空間を移動出来るモノが、普通の人間であるハズはない。 だからソレは、普通の人間ではない。 嘗て…………【覇王少女】と呼ばれた生物なのだ。「フィ~~~~ッシュ!!」 渋い声が木霊し、その巨体が既に意識が無いプレシアを小脇に抱える。 その大木のような寸胴ボディ。それに巻きつけられているのは、【超】特性鋼糸。 番目で言えばそう……【五十番】位になるだろう(実際にそんなモノがあれば、の話だが)。 まるで蜘蛛の糸のように垂れ下がったソレの伸びる先は…………紅い龍を模った航行艦。 勿論そのボディは、光学迷彩によって隠されている。 つまりラグナロクは、外からでは見えない状態なのだ。 よって……本当に【何もない】所から、糸一本で釣られている【蜘蛛】のよう。 このぶら下がっている人物が普通の女性だったら、補正効果で女神や天使に見えるだろう。 だが生憎、この生物は普通ではないのだ。 想像してみよう。何も無い所から、糸一本で浮かぶ…………覇王少女。 ソレは何だ?コレはホラーだ。 ただの怪奇現象にしか、見えないじゃないか? しかしこのトラウマ確定モノの光景を、目撃した者は居ない。 既にフェイト以下数名はアースラに転送済みであり、この場には本当にボクとプレシア。 そして【あと一人】しかいないのだ。「……何とかプレシアはGET出来たけど…………アリシアのポッドは何処だ……?」 まるで魔女のような扮装をしたプレシアは抱えながら、右見て、左見て。 ……あった。 もうかなり下の方に流されてるけど、アリシアin生体ポッドを発見。 どうしよう。 かなり下にいるから、普通にやったら間に合わない。 考えろ。考えるんだ。どうすれば一気に距離を詰められる……? 上は通常空間。 下は虚数空間。 そしてこの腕に抱えるのはオバサン一丁。 下に行くには、何かを上に上げれば良い。 そうすればバランスを保とうとする働きが出て、ボクは下に行くことが出来る。 …………チーン!「プレシア……悪いんだけど、娘の為に【ちょっと】【たかいたかい】しようかぁぁぁぁっ!!」 ココでマメ知識を一つ。 リリカルなのはの世界では、【ちょっと=いっぱい・たくさん・思いっきり】という意味があります。 つまりボクが何をしたかと言うと……。 A:プレシアママンを、【思いっきり】上に放り投げた。 こうすれば、ボク自身は一気に下に行くことが出来る。 ね?カンタンでしょう? プレシアが既に気絶してくれているのも、この作戦の勝率を上げる要因の一つ。 起きていれば無駄な力や抵抗が入るが、気絶していればソレはない。 だから軌道計算もラクチンなのですよ? こうすればプレシアもアリシアも救える。まさに一石二鳥のアイディアだ! ――ガシィィッ! 力強くホールド。 まさにその画は、【フ○イトォォォォ!イッパァァァァツ!!】な状態。 こうして二人ともゲットしたボクは、ラグナロクに帰還するのでした。 ……今思うと、コレって【人間クレーンゲーム】だよね? 覇王少女がクレーンゲームを堪能中に。 崩壊する庭園では、もう一つの闘いがあった。 次元震を食い止めているリンディに襲い掛かる、機械兵の数々。 そしてソレを迎撃するのは、正体不明の仮面の紳士【タキシードマスク】。 ステッキで相手の攻撃を弾き(良く考えれば変だが)、真紅の薔薇で機械兵を撃ち抜く(コッチは考えないでも変だ)。 その見たこともない戦法と、知略張り巡らせた闘い方。 しかし流麗。 そして華麗。 その動きの一つ一つに、リンディは妙に惹きつけられた。 何故かは分からない。 どうしてかは分からない。 でも。でも……。「(……何て。何て、【懐かしい】感覚なの……?)」 高揚する。 感情のセーブが外れそうになる。 理由が分からない。 疑問符を幾つ重ねても、その答えは出ない。 どうして? 何で……?「……!そろそろ、この空間も崩壊するようだ。アースラの魔導師も次々と撤退している。キミもはやく逃げるんだ……!」「……エ!?でも貴方は……?」「ボ……私には、行くべき場所がある。だからキミたちと一緒には行けない……」 正体がバレないようにか。 それとも役に成りきっているからか。 クライド・ハラオウンは、久方ぶりの奥方との会話を、まるで【ロミオとジュリエット】のように仕立てていた。「さらばだ、また会おう…………トゥッ!」 ハッハッハッハッハ…………!! そんな高笑いと共に、闇に消えていく仮面の男。 何処からそんな闇を出したのか? どうして重力を無視して跳躍出来るのか? そんな疑問を無視しつつも、彼は明日の為に跳んでいく。 残されたリンディは、両手を胸の前で組みながら、お決まりのセリフを口にする。「…………タキシード、マスクさま……」 ソレは夫の片鱗を見たからか。 それとも新たな恋の始まりと思ったからか。 本人のみしか与り知らぬこの光景の録画映像を、息子は頭を抱えながら悩んだそうだ。 数週間後。 聖祥の初等部には、【ある変化】が訪れていた。 その変化の名前は【人事異動】。 図画工作と体育担当に新しく入ったのは、【原尾蔵人】というイケメン男性教師。 次いで養護教諭も変更になり、代わりに入ったのは【鉄砂譜麗亜】という妙齢の黒髪女性。 その保健室に同時に現れたのは、保健室児童の【フェアリィ・槙原】。 転入した次の日から教室には寄り付かず、そのまま保健室での学習になった変り種。 そして……。 その一週間後。最後にして最大の変化が訪れた。 ――ズン!ズゥゥン!! 廊下を歩く音は、人に非ず。 まるで巨大生物を思わせるその音は、好奇心旺盛な小学生と言えども、まるで破滅の迫る音に聞こえたそうだ。 あと二歩。一歩……! ――ドォォォォォォォォン!! 明らかにいつもよりも迫力のある効果音を背負い。 その存在はやって来た。 まるで、恐怖の大王がやって来たかのような破滅度。 身長二メートル以上。下手な樹木など、このモノの前には苗木同然。 それ程の胴回り。それ程の腕周り。 その者は……。そのモノは…………!!「え~。今日からこのクラスの担任になった、【北斗静香】です。皆さん、ヨロシクお願いします♪」 眼鏡を掛けた三人の教師と、妖精のような少女。 その者たちがもたらすのは……破滅以外の何物でもない。 少なくとも。この学校の誰もが、この時はそう思わずにはいられなかった。 余談だが。 フェアリィ・槙原が保健室児童になったのは、最初の挨拶で失敗したせいとの噂もある。 それはどんなモノだったのか……。こんな感じだったらしい。「ボクの名前はフェアリィ・槙原。推定年齢九歳の、蟹座のB型さっ!!」「び、美形だ……っ!!」 このやり取りのせいで、男子からは優遇されたが、女子からはハブられた。 故に保健室へ。というのが噂である。 しかしあくまで噂は噂。 一説には最初からやる気がなくて、敢えてそういう行動をしたという説も……。 中身を知っているモノが誰も居ない状況では、どれも証明しようが無い仮説。 だから今日も、妖精は悠々と保健室に行くのだった。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!