前回のあらすじ:【妖精生徒フェアり!?】・【覇王先生シズか!?】……始まります。 夢を……夢を見ていました。 夢の中の私は魔法という不思議な存在に出会い、請われるままに魔法少女になってしまいました。 まるでモノクロ。良くてもセピア色だった私の世界は、その日を境に劇的に変わっていきます。 魔法という、家族や友だちをとおしても【私にしかない】力。 私にしか解決出来ない事件。 だから……その事件の解決には、少しくらいの被害はしょうがないと思ってしまった。 自分は正義の味方。 ジュエルシードに取り付かれたモノは、悪の手先。 同じようにフェイトも悪の幹部で、プレシアがボス。 それはゲーム。 ゲームやアニメ、マンガの中の話。 現実じゃない。 悪いのは向こう。 正しいのはコチラ。 正しいから何をやっても良い。 普通だったら犯罪になることも、マンガやアニメでは捕まらない。 モノを壊しても。警察を襲っても。正義のためなら仕方ない。 地球にはない概念の事件。 だから理解を求めてはいけない。 自分が悪に見えても仕方ない。 でもきっと。きっと魔法側の人間なら。 絶対に私を理解してくれる。 正しいことをしていると。 間違っていないと。「なのは!ジュエルシードの反応は、中層階にあるみたいなんだ!だから……」「うん!わかった!!」 警視庁にジュエルシードを回収しに行った時。 すごい警備で固められたソコは、普通に考えたら突破出来そうになかった。 でも私には魔法の力がある。「ディバイィィン、バスター!!」 引き金を引く。 そしてその一瞬後に、一本の道が出来上がる。 その道の途中には、鎧を着たおまわりさんがいっぱい寝ていた。 寝ていたのではない。 強制的に気絶させられたのだ。 他ならぬ私の魔法で。 ゴメンなさい。 ゴメンなさいっ!! 心の中でたくさん謝りつつも、その脚が止まることはない。 もうすぐだ。 あと少しガンバれば、この気持ち悪い状態も治まる。 ジュエルシードを手に入れれば。もう誰も傷付かずに済むようになるから……!!「そのジュエルシード…………渡して貰います!」「……違うだろ?奪いに来た――――【盗み】に来ました……だろ?」「……!!」 覚悟を決めて。 心が泣き叫んでいるのを知っていて。 それでもガンバって言ったセリフは……銀髪の女性によって、すぐに打ち消された。「……そうです。だから…………ソレを渡して下さい!!そうすれば……!」「……そうすれば?何だい?ソチラの要求を呑めばボクたちを傷付けない、とでも言うつもりなのかい……?」「…………はい」 振り絞る。 それでも何とか勇気を振り絞る。 そうしないと日本が――地球が危ないと聞いているから……。「……………………ハッ!」 一蹴。 まさにそうとしか、言いようのない事実。 勇気を以って紡いだ言葉は、呆気なく破られてしまった。「良いかい?悪いコトをしたら、謝罪して罪を償う。ソレは何処の世界でも一緒なんだよ!例えソレが【魔法】だとか、【管理外世界】だとか、訳の分からん世界の話でもねぇ!!」『……!?』 ……!? 何で……どうして……? どうして魔法とかのコトを知ってるの……?「オイ。ソコのフェレット!キミの方が詳しい情報を持ってるみたいだなぁ……?」「心を……読めるっていうのか!?」 心を……読める? ……イヤだ。 見ないで。私の心の中を、のぞかないで!? 認めたくない。向き合いたくなんてない。 ずっと考えないようにしてきた、【本当の自分】。 そんなモノを……私に見せないで!?「……もう、立たないで下さい。すぐにいなくなりますから。お願いですから、その間だけ見逃してください……!」 ソレは心からの願い。 気が付くと砲撃を滅多打ちしていた少女は、正気に戻ると同時にそう言った。 実際は何とか取り繕うとした。ただそれだけだったが。 コレで終わる。 ようやく終わる。 そうだ。コレが終わったら、いっぱい寝よう。 たくさん寝て、次に起きたら忘れてしまおう。 そうしたい。 ココでの出来事は、全て無かったことにしよう……! ――シャァァァァァァァァ!「…………エ?」 スプリンクラーが作動し。 煙と混じって霧が出来た。 見えない。視界が塞がれて、何も見えない。 ――メキ。メキメキ……! ――バキィ。ボキボキボキ……!! 聞こえてくるのは不気味な音。 まるで何かが変形しているような、そんな気味の悪い音。 ……大丈夫。でも大丈夫。コッチは【正しい】のだ。例え何が来ようとも、決して負けるはずがない……!「……あなたは…………誰、ですか……?」 霧が晴れると、ソコに居たのは別の生物。 いくら魔法があるとは言え、それでは説明出来そうにない程の変わり様。 アレは何?どう見てもアッチが悪で、コッチが正義だよね……?「……覚悟するんだね?この姿になったら、前ほど優しくはないからねぇ……?」 二メートルはあるであろう、その身長。 凄まじい筋肉で固められた身体は、どう考えても鎧にしか見えない。 ……優しくないだけで済めば良いが。そう思うだけで精一杯だった。「……元【時空管理局特殊治安維持部隊】部隊長――――【シズカ・ホクト】。ボクがキミたちを【お掃除】しよう!!」 この先は思い出せない。 いや、思い出させないでほしい。 この時の記憶は盛大に封印して、その後も闘い続けた。 おかげでフェイトちゃんと仲良くなった。 友だちになれた。 そうだ。そうだよ。 やっぱり私は、間違ってなかった。 だからハッピーエンドになったんだ。 【あの時】だけ、つまづいてしまったけど。 それを乗り越えたから事件は解決した。 リンディさんたちとも知り合えた。 まだ魔法少女で居られる。 だから私は、やっぱり正しかったんだ……!!『残念ながら、ボクの存在は夢じゃないよぉぉぉぉ!』「にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 盛大に迫ってくる【覇王】の顔。 それから逃げるように、ガバっと跳ね起きる。 ……アレ?ココはどこ?何で私、教室に布団を敷いて寝てたの……?「……ん?あぁ、高町嬢…………起きたのかい?」「…………エ?」 その声は聞いたことがあった。 確か今日の朝、ホームルームで聞いたハズの声だった。 自身の記憶が確かなら、その声は……【新しい担任】と名乗っていたハズである。「まったく……皆してコレだ。ココは保育園じゃないんだぞ?寝るのは夜の仕事だというのに……?」 近頃の親は、自分の夜更かしに子どもを付き合わせるから、昼間起きていられない子どもたちになってしまうんだ……。 などと、その【新しい担任】は愚痴を零す。 ソレは正論。正し過ぎるまでに的を射ている。「そうは思わないかい?高町なのは嬢……?」 正しい。 でも。如何に正しいことを言っても、その存在の【異様さ】が打ち消されることはなかった。 逆に正しいことを言っているからこそ、さらにその異様さに拍車が掛かっているとも言える。 まるで丸太のような胴体と手足。 女性用のスーツが弾けんばかりの身体を隠し。 そしてインテリ調の逆三角形メガネが、鋭い目付きを隠し……切れていない。「え、えーと……」 すぐに答えを返せない。 というか、直視することもままならない。 でも見ないと。先生とお話しする時は、目を逸らしてはいけないのです。「あ、そっか。まだボクの名前を覚え切れてないんだね?」 違います。 確かに記憶から消去したい程のインパクトですが。 それ故に簡単に忘れられるハズがありません。「じゃあもう一度言うよ?今日からこのクラスの担任になった、【北斗静香】だよ?ヨロシクね♪」 直視した先に居たのは、やはり先程気絶する前に見た存在そのものでした。 目を擦っても変わらないし、頬を抓っても……痛い。 であれば、あと出来ることはコレしかないだろう……?「…………きゅぅ」 パタ。 そんな音が聞こえてくる中、少女の意識は再び闇に閉ざされた。 コレがのちに【魔王少女】または【冥王少女】と呼ばれる存在と、【覇王少女】のサードコンタクトだった。 聖祥初等部からコンニチワ。 覇王少女から【覇王先生】にジョブチェンジした、中身【フェアリィ・槙原】です。 初日の挨拶から、みんなスーパー気絶タイム。 仕方がないとは言え、一人くらい骨の有るヤツが居ても良いと思う。 まぁ、小学三年生にソレを求めるっていうのは酷というモノか。 なので教室に布団を敷きまくって、皆でお昼寝タイム。 まるで保育園のような光景。 だがコレも良いか。 子どもらしく。ソレが今の子どもは出来なくなりつつある。 だからコレはコレで良い。 寝ている時は、誰もが歳相応になる。 例えソレが社長令嬢、夜の一族。そして……魔法少女であろうとも。 さて。皆がお休み中に、コレまでの経過を説明しておいた方が良いかな? プレシア女史を助けた後。 ボクは彼女に治療を施した。 クライド少年と同じように医療ポッドに入れて、待つこと一週間。 そこには、以前とは比べ物にならない位血色の良くなった女史が居た。 黒髪と肌にも艶が戻り、そこに居たのは【本来の】プレシア・テスタロッサだった。「…………ココは……ココがアルハザードなの……?」「違うよ。確かにアルハザードは存在するけど、ココはそんな場所じゃないねぇ……?」「誰……!?」 医療ポッドから上半身を起こした先に居たのは……異次元物体X。 黒髪の妙齢女性は頬を抓り、目を擦る。 ウン。気持ちは痛い程理解出来る。 だが諦めてくれ。 コレは現実。 そして現実からは逃れられないのだ。「コンニチワ、そしてはじめまして。ボクの名前はシズカ・ホクト。何処にでも居るような、ただのメイドさ♪」「……何処にでも居るとは思えないし、そんな筋骨隆々なメイドは見たことが無いわ……」「ありゃ、手厳しいね?……ってか、もしかして初めての【突っ込み要員】?」 今までボクが会ってきた人間たちは、どちらかというと【ボケ】に偏っている。 もしくは、ツッコミをしないだけだったのか。 とにもかくにも、プレシア・テスタロッサとんは貴重な【突っ込み要員】ですた、と。「ともかくボクは自己紹介した。だから今度は、アンタの番だよ……?」「……プレシア。プレシア・テスタロッサよ……」 良し。 とりあえず第一関門は突破。 ボクの顔を初見で気絶しなかったのは、リンディ嬢とコラード女史、それとミゼットば……お姉さまのみ。 あとは全員が全員ダメだった。 しかしコレらの結果は、ある種のデータを弾き出していると言っても過言ではなかった。 三者に共通するポイント。それは……。 【美人】 【精神力が高い】 【漢女力が高い】 一つ目の共通点を除けば、ソレは【シズカ・ホクト】と中身は変わらない。 つまり彼女たちとボクは、見た目以外変わらないのだ。 ……まぁ、その【外見】が大事なのは、世の中を生きていれば分かることだが。「……で、プレシアさんよ?身体の調子はどうだい?一応、治せる限り治したんだけど……」「問題ないわ。……というよりも、良くもまぁココまで治したものね?相当ボロボロだったと思うんだけど……?」「ラグナロクの医療設備を舐めんでほしいなぁ?瀕死の者まで完璧に治せるんだよ?ソレ位、お茶の子サイサイさね」「……【ラグナロク】?それってもしかして…………【在リ得ズのラグナロク】!?」 何だか【中学二年生辺り】が好きそうな二つ名。 でもまぁ、ある意味この船を的確に表現しているとも言える。 様々な次元の(作成当時の)テクノロジーを結集。 エドマエグループの莫大な財力を惜しみなく注ぎ込んだソレは、完成してみると……ロストロギアに似た存在になっていた。 それはロストロギア未満、という意味ではない。 ロストロギア【以上】という意味で、【似た存在】なのだ。 勿論ロストロギアにだって等級はある。 故に本当に役立たずのモノもあれば、ジュエルシードやレリックみたいなモノもあるのだ。 そしてラグナロクは、【ゆりかご】と同クラスだ。 実質はロストロギアと殆ど同じ。 しかし【ロスト】したモノではないので、古代遺失物ではない。 両者の違いを分けるとしたら、ソレだけ。「まぁ、そうとも言われてるけど…………娘さんは生き返らないよ」「……!どうしてよ!?肉体は完璧に修復されてるのよ!?」 下手な希望は抱かせない方が良い。 それに今のプレシアの場合、肉体が健康状態になったおかげで、精神もそれにつられて【ある程度】回復している。 つまりヤンな状態は脱している。キチンと説明すれば、理解してもらうことも可能……かもしれない。「肉体はただの器だよ。魂が既に失われている以上……いや。失われつつある以上、回復は見込めないさ……」 肉体はただの器。 ボク以上にそれを知っているモノは居ないだろう。 そしてアリシアの魂は、非常に信じられないことだが、失われ【つつある】のだ。 本来ならとっくに転生ルートにのっているハズ。 しかし信じがたい現実として、まだ完全に失われてはいなかった。 だがそれは、既に転生してしまったコトよりも……ある意味では諦めのつかない事態だった。 基本的に物事は、足りないのならソレを補えば良いという。 ソレを今回のケースに適用した場合、アリシアの魂の欠損部分を別の何かで補えば良いということになる。 でも待って欲しい。それはダメだ。ダメなのだ。「魂を補うこと自体は可能だ。だけどソレをやった場合…………【キミの】アリシアは消える」 それは既に別人だ。 如何に記憶を与えようとも。記憶転写は完璧でない上に、フェイトと似たり寄ったりの結果しか出ない。 プレシアが欲しいのは、【プレシアとの思い出がある、性格も再現できたアリシア】なのだ。 それを創るのは簡単。 アリシアの姿をしたモノが、アリシアのふりをすれば良いのだ。 簡単だ。あぁ、カンタンだとも。 でもそうじゃないのだ。 そのアリシアは、【本当の意味での】アリシアではない。 ソレを彼女は分かっている。 分かっているからこそ、アリシア【自身】を蘇らせたかったのだ。 自分でも気付いていた。 しかし認めたくなかった。一度それを認めてしまえば……今までの自分を否定することになるから。「アンタはもう、自分で気付いてるハズだ」「…………イヤよ」「じゃあ、どうする?キミが嫌だと言っても、現実は変わらない。変えることが出来ないんだ」「それでも、イヤァァァァッ!!」 無理もない。 だが現実は覆らない。 覆せないのだ。「どうして?どうして私を助けたのよ!?アリシアが助からないなら、何であのまま逝かせてくれなかったのよ!?」 ……そういえば、ボクは何でプレシアを助けたんだろう? 特に理由はなかったハズなのに。 …………アカン。本当に理由がないではないか?「……何となく?」「…………もう一度聞くわ。どうして私を助けたの……?」「だから何となくだってば。目の前で死にそうなヤツを見たんだ。放っておける程、人間捨ててないさ」「…………」 とっくに捨ててるだろうに。 そんな冷ややかな視線を感じつつも、ボクは平然とプレシアを見る。 どうしようもないのだ。 例え過去に戻れても。 仮にアリシアの魂が完全なモノになっても。 ソレは全てifの物語。今の現実が覆るワケではない。「……ま、憤るのは無理ないけどさ。でもアンタには……アンタには死ぬ前に、やらなければならないコトがあるんだよ?」「…………何かしら?まさか、今更フェイトと親子ごっこをしろとでも……?」「いんにゃ。そんなコトを言っても、アンタはしないだろう?それより、もっと大事なコトさ……」 アリシアの魂はココに、プレシアに囚われてしまっている。 ソレでは何時まで経っても転生することが出来ない。 しかも彼女の魂は、既に完全なモノではなく、自力での転生は不可能。「問うよ?もしもアンタのせいで、アリシアが永遠に転生出来なかったとしたら……アンタはどうする?」「…………」 もしもこの答えとして【永遠にこのまま】とか抜かしたら……。 たぶんボクは、プレシアを許すことは出来ないだろう。 自らの盲執で娘を不幸にするものは……流石に許すコトが出来ないから。「さぁ、教えてくれ。キミの答えってヤツを……!」「……………………どうすれば良いの。アリシアを解放するには、どうしたら良いの……」 力は籠もっていない。 当たり前だ。 自らの手で娘に引導を渡すようなモノなのだ。 揺るがない方がおかしい。 でも確かに言った。 娘を助けて欲しいと。アリシアを解放して欲しいと。 今のプレシアは、ヤンデた時とは違う。 だから考えられたのだろう。 今までの自分の行いを。そして、ソレらを冷静な目で見ることが出来たのだ。「今のアリシアは、自分の力だけでは転生出来ない状態だ。なら、誰かの手を借りるっていうのが一番はやい手段だね?」 自力では不可能。 だから人の手を借りる。 ではその方法は?「アリシアに近い存在に一体化し、その人生が終わると同時に、彼女の転生も始まる」 ソレは誰かを宿主にすると言っても良い。 しかし手段はそれしかない。 寄生と言うよりは【融合】。それこそ先程、【足りない部分を補う】と言った時に出した例と相似なモノ。「それは…………フェイトに融合させると、そういうこと……?」 普通はそう思う。 【近い】というのは、そう取られても仕方ない。 だが違う。真の意味でアリシアに一番近い存在。ソレは……。「違うよ。アリシアに一番近い存在。ソレは…………彼女を産み、そして育てた人物のコトさ……?」「……!?そ、それって…………私のこと……?」「ココでまさか、『リニスの子でした』なんて、衝撃の事実が出ない限りはね……?」 文字通り【血肉を分けた】。 その身体に流れる【遺伝子】すら分け与えた存在。 そういう意味でアリシアに一番近い存在は……プレシアなのだ。「……そう。それでアリシアと一体となったら、すぐに死ねと……」「……説明しなかったボクも悪いけど、悪い方向に解釈するのは止めて欲しいなぁ?」「…………違うの?」「違う。言っとくけど、自殺なんかしたら意味ないんだよ。きちんと人生を終えて、娘と二人で幸せに転生する。そうじゃないと、アリシアの転生はムリだよ……?」 元々自然な転生がムリだからやってみよう、という話なんだ。 これ以上【自然なカタチ】から外れたコトをすれば、アリシアの魂は永遠に転生不可能だ。 ……エ?なんでそんな知識を知ってるって? いや、さざなみ寮には居るじゃないか? 神咲に名を連ねる人や、こういう時には役に立つグランド・ファーザーさま。 その方々に聞けば、これ位は教えてくれるのだ。「つまりアリシアと共に精一杯生きて、自殺しなければ良いんだよ?」「……私にはもう、生きる資格なんて……」 ――ズビシッ! チョップを一発。 覇王チョップは、手加減をしていても脳震盪を起こさせます。 使用には十分気を付けましょう。「……っ!?……………………な、何するのよ!?」「愛の籠もったお仕置きだ。有りがたく受け取っときなさいな♪」 下らんことを考えるな。 後ろばかり見るな。 キチンと前を見据えて、自分の足で立て。 どれも言いたい。 ぶん殴った後に、天高く説教したい。 でもダメだ。 そもそも説教とは、その世界・その人物に近しい存在がすることによって、その効果を発揮する物だ。 いきなり出てきた怪物がして良いものではない。 ……もっとも、ココまでで多少その要素を抵触してしまった感はあるが。 元々ボクが得意なのは、背中で語ること。 言いたいことはソコに全て籠めてある!!……という考え方だ。 まぁそのうち、背中に【天】とか【嫁】とかを、浮かび上がるようにしたくはあるが……。「そんじゃ、サクッといきまっしょい♪」 チョップによって再び横になった(したとも言う)プレシア。 彼女の入っている医療ポッドの蓋を閉めて、強制的にオヤスミ状態に。 あとはアリシアの入ったポッドとラインを繋げて、待つこと数分。 紅。 白。 黄。 目まぐるしく変わる、ポッド内の光。 今あの中では、プレシアをベースにした、アリシアとのフュージョンが行われている訳で。 コレは超常現象……に近い、行き過ぎた科学の力。 元々あらゆる科学力を結集した艦船だ。 特に、あの【ルナパパ】がその総指揮を執った建造である。 だから驚いてはいけない。 仮に【未来】のテクノロジーだと言われても、ボクは決して驚くことはないだろう。 だって、【あの】ルナパパなんだよ? 不可能を可能どころか、タイムトラベルすら可能な気がするし。 ――チーン! まるで電子レンジのような音を立てて。 ココに全ての工程は終了した。 白い煙(まるでドライアイスのようだ)が中から発生し、中の人が上半身を起こす。 こげ茶色に近く、ややウェーブの掛かった黒髪。 皺など一つも存在せず、ハリのある艶々お肌。 ゆっくりと開かれた瞳はクリムゾンで、その双眼が収められた顔は……。「…………アリシア?」 そうだ。 髪の色とウェーブ。 その二点を除けば、今の彼女は【大人版フェイト】なのだ。 そしてフェイトはアリシアのクローンである。 つまりアレは、大人版【アリシア】。 ……強いて言うのなら、髪の色が違うので【アナザーバージョン】と言ったところか。「……いきなり人をカプセルに押し込んで。その挙句に【アリシア】ですって……?」「……良かった。中身はプレシアのままだ。ちょっと待ってな?今、鏡を出すから……」 外見大人フェイト。中身プレシア。 ソレって、何てアンバランスな。 ともかく、本人に現状を見せねばね?「……………………ゥッ、ゥゥッ!」 何かいきなり泣き出した。 それは、アリシアの外見になってしまった自分を見てか。 それとも、そこからアリシアとの思い出が蘇ってしまったからか。「お帰りなさい!!昔の私……!!」「…………ハァ?」 ゴメン。 プレシアさんは、あまりの事態に錯乱しているようです。 昔の自分って。そりゃあ、ないでしょうに? 手元の端末を弄り、プレシアに関するデータを洗い出す。 確かアリシアと暮らしてた時は、既に黒髪魔女だったから……探すとしたらその前か? その一年前。二年前……!?「…………嘘だ」 刻が見える。 恐らくアリシアを身体に宿す前の写真だろう。 確かにそこには、今のプレシアとほぼ同じ外見の少女がおった。「あぁ!アリシアが生まれる前の私……!!本当に懐かしいわぁ……!」「…………結果オーライってコトに、なるのかなぁ……?」 もうコレで良いや。 あとは小学校の先生でもさせれば、優しかった(と言われている)昔のプレシアに戻るかもしれない。 別に小さな子どもと接することで、癒しになれば……とか思ったワケじゃ、ないからね!? 数日後。 聖祥付属小学校の保健室で、【何故か】白衣を纏い、丸い眼鏡を掛けた【若プレシア】が居た。 怪我や病気で来室する小学生たちに優しく接し、時折生徒の見えないトコロで涙や鼻血を流す怪しい存在。 ソレが今の彼女。 【鉄砂譜麗亜】なのである。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!