前回のあらすじ:oldプレシア→youngプレシア 聖祥の初等部に来てから一ヶ月。 子どもたちというのは、予想以上に柔軟な思考の持ち主だったようで。 今ではクラスの誰もが、ボクの顔を見ても気絶しなくなりましたとさ。 それは柔軟性か。 はたまた生存本能による進化だったのか。 その真なる意味は不明。 だが結果がある。 今はそれだけで良い。 その結果こそが、一番重要なのだから。「……というワケで、今日はゲームをしましょう♪」 ボクの言葉を聞いて、途端に目の色が変わり始める生徒たち。 本来は授業中というコトもあってか、その盛り上がり度は更に上昇する。 しかしちょっと待ってくれ。仮にも授業の変わりに入れるモノが――【覇王先生】が提案するゲームが、楽しいだけのゲームなワケがないだろうに。「ちょっと待ちなさいよ!?授業はどうするのよ!?」「バニングス嬢や。今ボクは、ゲームをすると言ったんだ。当然授業は中止さね……?」「ハァ……?だって、まだテスト範囲すら終わってないのよ!?」 どうせキミたちは塾で勉強してるんだから、別に良いでしょう? そう言ってやりたくなるのをグッと堪え、ボクは別の言葉を模索する。 辛い勉強は塾にお任せ。なら学校でやることは?「良いかい?キミたちはあと数年もすれば、イヤでも社会の歯車になるでしょう。勉強なんて、やる気になった時が一番ガンバれる時なんです」「……例えソレが事実でも、先生が言っちゃあダメでしょうに……?」 金髪御嬢は、頭を抱えている。 しかしそんな常識は、普通の先生にしか適用されないのだ。 ボクは普通……とは何億光年も掛け離れた存在。故にそんなモノは知らん。「でも、遊ぶのは後回しに出来ません。子どもの頃にしか出来なくて、子どもだから許される遊びは特に、ね……?」 確かに普通の遊びは後でも出来る。 しかし子どもの時にしか許されなくて、それ以後は出来なくなってしまう遊びもある。 しかもこういった【悪巧み】系の遊びをしなかった為に、大人になってからイキナリ犯罪に手を染めてしまう人々が居るのだ。「よぉし、まずは【校長のズラを剥ぐ】ゲームの為の、作戦会議をしようではないか……!!」『は~~~~い!!』 皆普段は良いとこのお坊ちゃんや御嬢ちゃんだから、こういうのはやりたくてもやれなかったのだろう。 だから良い刺激になるのだ。 やっぱ人間、チョイ悪な遊びも必要なんだよね♪「……不安だわ。果てしなく不安だわ……」「……ま。まぁまぁ、アリサちゃん……きっと先生には、深い考えがあるんだよ……?」「…………覇王、怖い……ハオウ、コワイ……」 金髪御嬢に、紫御嬢。 そして若干トラウマが抜けきっていないのが、魔砲使いの一般人。 このクラスで覇王の授業に疑問を持っているのは、この三人のみ。他は既に覇王のペースに巻き込まれている。「ではまず、どんな場面なら校長は皆の前に姿を現すかな……?」「ハイ!校長室の前で『火事だぁー!』ってさけべば、きっと出てくるとおもいます!」「え~~?それだったら、全校朝礼の時の方が、警戒が薄いんじゃない……?」「だったら、こんなのは?」「イヤ、それだったら……」 切欠は確かにボクだが、あとは子どもたちが勝手に発展させていく。 子どもの発想は、柔軟で多岐に富む。 凡そ凝り固まった大人では考えも付かないような、魅力的な考え。「じゃあ、実行はこの日にしようよ!」「賛成!」「じゃあ、道具を作らないと!」 子どもたちは、本当に無邪気で可愛いモノです。 故に校長先生。今回は運が無かったと思って下さい。 子どもたちの笑顔の為の、生贄になったと思って下さいな? 数日後。 全校朝礼という、全校生徒と教師陣が揃った中で、校長のヘアーは空を舞った。 最初はもの凄い落ち込んだ校長だったが、すぐに他の先生たちもターゲットになった為に、落ち込んでいる暇はなくなったそうだ。「北斗先生!!子どもたちを悪い道へと誘導するなんて、どういうコトですか!?」 どの学校に一人は居そうな、感じの悪い先生。 今回はそれが教頭だったのが良くなかった。 理由を言っても認められず(当たり前と言えばそうかもしれないが)。 そしてPTAまで焚きつけてボクを辞めさせようとする始末。 ある意味当然。しかし教頭の背後には、業者との癒着や権力的な絡みもあったコトが分かった。 ならボクが、そんな教頭に負けてやる理由はない。 その日の内に理事会の面々に、ちょぉっと【お願い】をして、ボクは理事長になりましたとさ。 あとは放置。 教頭が良くならないなら切るし、良くなるならソレに越したことは無い。 こうして聖祥初等部は、今日も平和に営業中。 だからボクは、安心して授業に専念する。 そして今回の授業内容は……コレだぁ!!「え~。今から皆さんには、殺し合いをしてもらいます♪」 昨今、キレやすい若者が多発。 常識では考えられない動機で、殺人事件を起こす。 二十年くらい前までは、考えられなかった事態だ。 電子機器。特にゲームやインターネットの発達。 核家族化が進み、更には少子高齢化社会。 その全てが人間を幸福にさせると同時に、その心を壊していった。「皆さんに今回やってもらうのは、ヴァーチャル空間でのバトルロワイヤルです♪」 ヴァーチャルダイブ装置。 ソレを人数分用意し、今回の為に特別に誂えた特殊教室。 今ココでは、皆がその装置を接続し。そしてヴァーチャル空間にダイブする為の準備をしている。「設定日数は一週間。その間に皆さんは、自分の手持ちのエネルギーを好きに割り振って、闘い合って下さい」 エネルギー総量の中では、どんなことをしてもOK。 そしてエネルギーは使えば消耗するのは当然のこと、休めばある程度回復もする。 そのエネルギーを使い、文字通り殺し合いをしても良い。 また仮想空間とは言え、睡眠や食事は擬似的に必要とする。 なので畑を耕しても良いし、株で儲けても良い。 仮想空間と言うよりは、仮想社会。 つまり大企業の社長になって、社会的に殺しに来ることも可能。 まさに現実と変わらない。 ソレを子どもたちにやらせる。いや……子ども【だからこそ】やらせる。「それじゃあ、レッツ・ヴァーチャルダイブ!」 まさに【ポチッとな】。 そんな擬音を口にしながら、ボクは紅いボタンを押す。 その瞬間に生徒たちの目の前の景色は変わり、それぞれのスタートラインに。「はやく戦争になぁ~れ!…………じゃなかった。はやく争いが起きてくれると、分かりやすいんだけど……」 それこそが、この【授業】の真骨頂。 人は【自分と他人】が居る限り、争いが止むことは無い。 そしてそのエスカレートが、他人の追い落としやイジメ。さらに行くと【殺人】などになってしまうのだ。 真の意味でのぶつかり合いを恐れ。 仮想空間に籠もりきり。 そしてその空間での考え方を、現実に持ち込んでしまう、現代の人々。 つまりこの【授業】の真なる狙いは、先送りや表面化しない心の闇を早期に顕現させ、本人に意識させること。 大概大人や準大人になってから【ソレ】が現れるから、人は暴走してしまうのだ。 なら子どものウチからソレと向き合えれば。攻略法だって見つかるし、大人になって突然の事態に困惑するコトもなくなる。「……フゥ。やっぱり予想通りになったか……」 仮想生活三日目。 元々大企業のお坊ちゃんや御嬢ちゃんが多いので、それぞれの才能を生かした会社が乱立した。 そして得た利益で装備を拡充。まさにリアルと同じ状態になった。 四日目。 とうとう殺し合いが勃発。 (本人視点で)努力してもエネルギーを溜められないなら、他人から奪えば……という思考に行き着いた模様。 五日目。 ゲーム慣れした連中が、裏技を使い出す。 簡単に言うと、【自分さえ良ければ……】的な最低技。コレによって、大半の人間が脱落。 六日目。 裏技にも潰されなかった、月村・バニングスなど数名が、逆に潰し返す。 この時点で、残ったのは月村・バニングス・高町。あと男子が一名。 七日目。 決着を着けるべく、それぞれが闘い合うことに。 高町が【闘いなんて……】とお決まりのセリフを吐いたので、【最後の一人】が決定しないと皆が帰れないと教える。 仕方無しに、高町も闘うことを決意。 月村VSバニングスは爽やかに各種ゲームや、経営シミュレーションで決着。 勝者はバニングス。まぁ、月村は得意分野ではなかったので、ある意味当然かもしれないが。 高町VS男子生徒。 男子生徒が特撮が好きだったせいか、本当の意味での【闘い】に。 何故か顕現するレイジングハート。男子生徒にはマスクドライダーなベルト。 本気を【出せた】高町。 しかし接近戦で圧倒的に敗北する。 フェイトの時は何とかなったが、今回は言葉でも力でも【自分】を通せなかった。 痛いと言っても止めてくれず。 止めてと言っても続く暴力。 結果…………高町がキレた。 覚醒した【力】を以って、それまで自分がされたように相手を蹂躙し。 そして気が付くと、止めに入っていた親友二人をも倒していた。 冷たくなる背筋。血の気が引く音すら聞こえてきそうな状況。「オメデトウ。キミが最後の勝者だ。喜ぶが良い……!」「イヤァァァァァ!!」 勝者の悲しき咆哮が響き渡る。 子どもたちは学んだ。 何故犯罪はいけないのか?どうして他人を殺してはいけないのか? 自分がやられて嫌なことは、絶対にしてはいけない。 そしてやられたらやり返される。 正義などない。在ったとしても、ソレは自分だけのモノではないと。 こうして様々な問題を浮き彫りにした仮想生活は……苦い思い出を残して終了した。 なお、今回の件で精神的なケアを求めて保健室に行く生徒が増えた。 ソレをプレシアは、貧血になりながら喜んで相談に応じたらしい。「う~ん。GTHへの路は遠いなぁ……?」 グレートなティーチャーになるには、まだまだ修行が必要なようです。 仮想空間での【授業】から帰って来た生徒たちは、一週間くらい落ち込んでいた。 でも復帰もはやいモノで。その一週間後には大体元通りになっていた。 回復ははやい方が良い。 しかし、忘れないようにしなくてはいけない。 その匙加減が微妙……って言うか。この話は、何時の間に教育路線に乗り上げたんだ?「わっぷ……!」「……ん?」 何かがボクの腹の辺りにぶつかった。 下を見る。 ソコに居たのは、こげ茶色の髪の毛を肩辺りまでで切り揃えた生徒だった。 黄色い二本の髪留め。 そしてバッテン状にされた、紅い髪留め。 何処かで見たことがあるような……ハテ?一体何だったっけ?「ス、スミマセン!!ちょうよそ見してたら、ぶつかってしもて……」「…………キミはまさか……」 独特のイントネーションを伴った言葉。 特徴的な髪留め。 そして髪の色もピッタリと一致している。「あ、北斗先生はあたしのコト、知っとるん?いやぁ~~、有名人になったもんやなぁ……♪」「…………【八神はやて】……?」 居るはずがない。 しかし現実にはココに居る。 本来もっと後で登場するはずだった【はやて】の登場は……一体何を示しているのだろうか……? あとがき >誤字訂正 俊さん、円冠さん。ご指摘いただき、本当にありがとうございます! 特に今回は誤字が多かったので、ご迷惑をお掛けしました! 本当に申し訳ありません!!